16話遺恨
朝の光が射し込み、侍女が目を覚ます。
姫に目を向けると、まだ眠っていて、音を立てない様にそっと小屋を出る・・・
外に出ると、カレー鍋の前にオルファが立っていた。
「お早うございます。オルファ様!」
「おう!カレーは、オレがバッチリ見張っていたからよぉーっ!安心しな!」
侍女は急に不安になった・・・
・・・もしかして・・まさか!・・・恐る恐る鍋のフタを開け、中を見てホッとする・・
「ご苦労様です。オルファ様!今温めますからね」
火をおこし始めた・・・
カレーが温まると、匂いに誘われたのかザンキと姫が目を覚まし、レオンも起きて来た。
レオンの顔を見て眉をしかめるオルファ。
「ちよっと、早いんじゃねぇのか!まだ、寝ててもいいんだぜ!」
「すみません・・・カレーが食べたくて・・」
レオンが申し訳なさそうに謝るとオルファは俯き、ガッカリ息を付いた・・・
カレーを食べ、出発の準備が整うとザンキが
「あと少しじゃ!今日でドランゴンに着くぞ!」
と言って歩き始め、姫も歩き出そうと一歩踏み出した時!何かに躓いたのか目眩がしたのか、よろけて地面に手を付いた!
「姫様!」
侍女が駆け寄る!
「姫様!大丈夫ですか!お怪我はありませんか?」
レオンとオルファも心配して近寄って来た。
「大丈夫です・・・少しつまずいただけです・・」
姫は、立ち上がろうとしたが
「痛っ!」
と言って座り込んだ・・・
「姫様~~っ!」
侍女がオロオロし出す・・・
「どれ!ワシが見てみよう」
ザンキが姫の足の具合を見て
「少し捻っただけじゃな・・・しばらくすれば良くなるじゃろう・・・」
と言ったが、姫の顔を見て
「顔色が、あまり良くないのぅ・・・」
「姫様、昨夜はあまり眠れなかった様で・・・」
侍女がそう言うと、ザンキが
「・・・疲れも出たんじゃろう・・今日一日ここで休む事にしよう」
「ザンキ様!私は平気です」
姫が立ち上がった!侍女は
「姫様・・・どうか無理しないで下さい・・・」
と言い、レオンも
「そうです!今日は休みましょう!」
するとオルファが
「よぉーーし!姫はオレが、おぶってやろうじゃないか!」
と言い出す。
姫は自分の足で歩けると言い、レオンは無理せず休もうと言う、オルファは姫をおぶる気満々で、腕をグルングルン回していた。
『もう、食材は使い切ってしまったし・・・』
侍女はどうすればいいか考え込む・・・オルファの顔を見て・・
「姫様!オルファ様に、おぶってもらいましょう!そうするのが一番です!」
と言うとオルファに向かって
「オルファ様!姫様をよろしくお願いします」
オルファは大喜びで引き受けた。
「オルファ様、すみません・・・失礼いたします」
姫がオルファにおぶさると
「なぁーーに、気にすんなって!姫の1人や2人、軽いもんさっ!」
姫を背負って嬉しくなったのか、オルファが辺りを飛び跳ね、走り回ると侍女は慌てて後を追い掛ける。
「オルファ様!ふざけるのは止めて下さい!姫様は怪我をしてるんですよーーっ!」
『姫様は怪我をしてるんですよ~ですよ~・・』
侍女の声がこだましていた・・・
その頃、1000人の兵士が待機している検問所では
「大臣!」 「ペドロ大臣!」
ペドロ大臣のテントにカマロ将軍とメルギアの軍人が慌てて入って来た!
「どうしたんですか?朝早くから、いったい・・」
大臣は2人に落ち着く様に言い、お茶を差し出し椅子に座る様に勧めた。
「で、何があったんです?」
大臣が尋ねると、メルギアの軍人は
「先程。使いの者が来て、フンガリ族のドロックがガムガダンの騎士ザンキに首をはねられたとの報告を受けました!」
「なるほど・・ふむ・・そうですか・・・」
大臣は、落ち着いた様子でお茶を一口飲むと
「姫が山を越えて行く場合に備え、潜伏させていたのですが・・・殺られてしまいましたか・・・で、ドロックの首をはねたそのザンキとは、いったい何者ですか?」
大臣が尋ねると、カマロ将軍が
「ドランゴンの元将軍です!恐らく姫の護衛に手配されたんでしょう・・・年を取り、老いぼれたと思っていたが、ドロックを倒すとはあなどれん!」
「どうしましょう・・我々も山へ向かいますか?」
メルギアの軍人が尋ねると、大臣は
「もう、間に合わないでしょう・・・な・・」
するとカマロ将軍が、悔しさのあまり立ち上がり
「ナルルの姫をドランゴンに行かせてしまうとは!我々は、何のために兵を率いて来たんだ!」
ガッカリする様に座った・・大臣は
「姫を捕らえ損ねた事は残念ですが、大事なのは、我々が団結する事です。お2人が1000人の兵士を率いて駆け付けて来た事に、私は感謝していますよ。3人の心が1つになれば恐れる者などいない!我々の思いは、必ず成就すると信じています!」
そう言うと、3人は立ち上がって固い握手を交わす!カマロ将軍は
「大臣!兵が必要なら、いつでも私におっしゃって下さい!この倍、いや10倍でも用意しますぞ!」
と言い、メルギアの軍人も
「私もです!」
ペドロ大臣は、いずれ2人の力が必要になる時が必ず来ると言い、今回は解散する事にした。
2人がテントから出て行くと、大臣はゆっくりと椅子に腰掛け、カップを手にする・・・
『・・・ドロックには、まだまだ働いてもらわねばならなかったのに、残念な事になった・・』
落ち着いた様子の大臣だったが、徐々に、カップを強く握りしめ・・カップを睨み付けると・・・
『ザンキ・ワン・カップめぇ~~!目障りで、いまいましい奴!』
抑え切れぬ怒りをあらわに、カップを投げつけた!
それはまるで、以前からザンキの事を知っている様であった・・・