14話沈黙
谷の間に通る道に1台の馬車が、ゆっくりと走っている。
執事のメルボさんだ!
パンをかじりソーダを飲み、歌いながら手綱を握っていた。
この道は、かつて峡谷で水が流れ、両側に高い岩壁があり大きく曲がりくねっている。
先の見通せない大きく曲がった道を進んで行くと、兵士が立っているのが見えた・・・
『何かあるぞ・・・』
馬車を進めて行くと、検問所が造られている・・・簡易的だが、岩壁と岩壁の間が高い板塀で繋がれ、ゲートを通らなければ通過できない。
ゲートの前に馬車を止めると、兵士が1人近付いて来た。
「中に何人乗ってる」
兵士が尋ねるとメルボさんは
「誰も乗っとらん、荷物だけじゃ!」
「見せてもらうぞ!」
兵士は馬車の扉を開け、中を覗き込む・・・
「何かあったんですかい?」
メルボさんが尋ねたが、兵士は何も応えず、中を探っていた・・・
「人を探しているんですかい?どんなヤローです?ここに来るまでに見掛けたかも」
メルボさんが聞くと兵士は
「若い女だ!」
「へぇ~っ女ですかい!で、そいつは何をやらかしたんで?殺人ですかい・・それとも盗人?」
と聞いたが、兵士は扉を閉め
「もう、行っていいぞ!」
ゲートが開き馬車を出す・・・
ゲートを越えるとメルボさんは驚いた!そこには、1000人位の兵士が武装し整列していて、その前を通って行く・・・
『戦争でも始める気か!』
メルボさんは息を飲み込み、横目でチラチラ見ながら険しい顔で進んで行くと、見覚えのある顔があった・・・
『あ・・あやつは、マクロイ王国のペドロ大臣ではないか!その隣に居るのはオルギスのカマロ将軍、メルギアの者までおる!ナルルの隣国ばかりじゃぞ・・・』
兵士の前を通り過ぎ、一息付くと
『ここに姫がおったら、どうなっていた事か・・」
メルボさんは、ゾッとしてからホッとして、進んで行った・・・
その頃、姫達は見晴らしの良い、なだらかな下りの道を通っていた。
そこは、標高が高く背の高い木が育たず、草花だけの高原が広がっていて、姫も侍女も広い高原から見下ろす美しい景色に感動しながら歩いていた。
オルファは、残った荷物をフロ敷に詰めて背負い、手には縛り上げた男を紐で引っ張っている。
「おい!いい加減にしろ!てめぇには口がないのか!」
男は、一言も口を開く事がなかった・・・
「言葉がわからねぇのか?それともバカなのか!」
男はオルファの顔を見もせず、無視し続けている。
やがて、雪解け水のサラサラ流れる川の畔で、休憩する事になり、侍女がお茶を入れみんなに配ると、男の前にもカップが置かれた。
「こんなヤツに飲ます事ねぇ!」
オルファが言うと侍女は
「姫様が、お出しする様に言われましたので・・」
「姫がいいって言っても、オレが飲まさねぇ!」
と、オルファは男を睨み付け、お茶を一口。
「かぁーっ!うまい!いいか、こいつはナルル国王の最高級のお茶だぞ!高ぇんだぞ!てめぇ何かが飲みたかったら、オレの聞いた事に答えるんだ!」
と言うと侍女が・・・
「オルファ様、それは普通のお茶です。高級な物は崖の下に落ちてしまいましたので・・・」
オルファは、もう一口お茶を飲み込む・・・
「ゴクリ・・だぁーーっ!ちがう!全然ちがう!」
と大声を出し
「てめぇのせいで、高級な茶が飲めなくなったじゃねぇか!いいか!しゃべらねぇんなら絶対、飲まさねぇからな!」
と怒り出す!
「無駄じゃ!その男は何もしゃべりゃあせん!」
ザンキが口を開いた。
「その男の手の甲に入れ墨が入っておるじゃろう」
男の手の甲に、コブラの入れ墨が入っていた・・
「その入れ墨は、フンガリ族の証じゃ!フンガリ族は生まれた時から戦士となるべく育てられ、戦士と認められれば高値で売られる。活躍すればその名は故郷に轟くが、しくじれば汚名を着せられ、残された家族が恥をかく・・口を割るくらいなら死を選ぶじゃろう・・・」
ザンキがそう言うと、レオンが
「ザンキ殿は、フンガリ族の人をご存知なのですか?」
「昔、何度か戦った事があるからのう・・・」
と答え、それを耳にした男はザンキと言う名に・・
「ザンキ・・ザンキ・ワン・カップか!ガムガダンの騎士の!」
初めて口を開いた!
「そうじゃ!」
ザンキが答えると男は
「ザンキ・ワン・カップ・・・我が部族で語り継がれる伝説の男・・かつて「ちよっとまったぁ!」」
男の話をオルファが遮る!
「てめぇ!しゃべれんじゃねぇか!じじいの話なんかどうでもいい!オレの聞いた事に答えろ!てめぇは、誰に雇われて姫の命を狙ったんだ!」
オルファが聞いたが、何も答えなかった・・・
「チェッ!また黙りかよ!」
オルファは、男の前にあったカップを取り、一気に飲み干すと
「休憩は終わりだ!」
と言って立ち上がった!
ザンキは、男の話を聞きたそうな顔をしていたが、一行は再び歩き始める・・・