13話連撃!
オルファは苛立っていた。
日々、剣術の稽古を積み重ね、剣の腕にはかなりの自信がある。なのに、防戦一方で攻撃の手が出せない・・・
「ちっきしょおーっ!近付けねぇ・・」
侍女は、落ちたぬいぐるみの方を見て、座り込み、涙目で
「くまちゃん・・」
姫は侍女の隣に寄り添い、慰める様に抱き寄せた。
レオンは、オルファと侍女を心配してキョロキョロし、ザンキは魔剣の男をじっと見つめる・・
魔剣の男は、自分の持つ剣の力を改めて実感して、魔剣を見つめると、その視線の先に居るオルファに視線を移した。
オルファが片膝を付き、睨み付けている!
男はオルファを仕留めようと、何度も魔剣を振り下ろす!
オルファは素早く左右に動き交わす!
地べたを這いずり回転し、砂や小石を巻き上げ交わし続け、少しずつだが間合いを詰めて行った!
オルファには、剣が届く距離にさえ近付ければ、負けない自信があったし、そこに勝機があると信じて間合いを詰める!
魔剣の男はオルファが近付くに連れ、より激しさを増し剣を振り回す!
幾重もの風の刃が、オルファ目掛け襲い掛かった!
風の刃をギリギリでかわす目の前に、風の刃が迫って来る!
『かわしきれない・・・』
ここで受け止めれば、また押し戻される!そう感じたオルファは、襲って来た風の刃に向かって切り掛かった!
「ガァシャーーン!」
オルファの踏み込みの効いた一撃が、風の刃とぶつかって打ち消す!
魔剣の男は、風の刃が打ち消され一瞬動揺した!
その隙をオルファは見逃さない!
一気に間合いを詰め、男に迫り、自分の剣を魔剣に当てる!
「カツン!」
刃と刃が交わった・・・
それは力強くぶつかった訳でなく、軽く触れる程度であったが、オルファはニヤリと笑い
「とらえたぜ!」
ザンキはそれを見て、思わず「ほぉーっ」と唸った。
魔剣の男は剣を動かし、オルファの剣を振り払おうとするがピッタリくっ付いて離れない!
オルファは、男の動きに合わせて魔剣を自由に振れない様に封じ込めていた。
オルファは得意気に微笑み
「今度は、こっちの番だ!覚悟しな!」
魔剣の男に攻撃の隙を与えぬ様、連撃攻撃を繰り出す!
3連撃からの5連撃!
「ガシャ!シャ!シャ!シャッ!ガァシャーン!」
魔剣の男は、オルファの速くて重い攻撃を受け止めた!
「へっ! やるじゃねぇか!」
オルファは男の剣さばきを認めたが
「だが、これからが本番だぜ!」
と言って、再び連撃攻撃を繰り出す!
今までのうっぷんを晴らすかの様に、男の周りを素早く動き、切りつける!
そのスピードは、どんどん速くなり、力も強くなる!
剣と剣が激しくぶつかる音が鳴り響き、70連撃を超えた頃。男の動きが鈍くなってきた・・
「どうしたぁ!手が痺れたかぁ!」
オルファは攻撃の手を緩めず、更に攻め続ける!
男は必死で堪えるが耐え切れず。遂に、魔剣は弾き飛ばされてしまった!
魔剣が空高く飛び上がり、地面に突き刺さると男は負けを認めたのか、崩れる様に膝を付いた・・・
ザンキが刺さった魔剣を抜き、男に近付いて行く。
「こんな物!何処から引っ張り出して来た。魔剣を真に使いこなすには魔物にならなければ無理じゃ!このまま使い続ければ、魔物に取り込まれるだけじゃぞ!こいつは、ワシが処分しておく!」
と言って鞘を取り上げ、魔剣を納めて持って行き、オルファは男を縛り上げ、意気揚々とみんなの元へと戻って行く・・・
当然、オルファは自分の勝利を喜んでもらえると思っていたが、暗く悲しんでいる雰囲気を感じ取り。
「何だ?まさか、オレに負けて欲しかったのか!」
すると姫が悲しみの中・・・
「違うんです・・・メアリーのくまちゃんが・・」
「くまちゃん?」
オルファはレオンの顔を見た。
「メアリーの大切にしていた熊のぬいぐるみらしいです・・・崖の下に落ちてしまったらしく、悲しんでいるんです」
「はぁ?ぬいぐるみなんか、どうでもいいだろ!」
とオルファが言うと、侍女の目から涙があふれ出た。
姫は侍女を易しく抱き寄せ
「メアリーにとっては、掛け換えのないぬいぐるみなんです・・・」
と言うと、更に話を続ける。
「メアリーは、まだ5歳の時に両親を亡くし城に働きに入ったんです。その時、唯一持って来たのが熊のぬいぐるみでした。幼い子供が何も分からず不安の中で頑張って来れたのは、くまちゃんが居てくれたからなんです。メアリーにとっては母の形見でもあり、家族も同然なんです・・・」
姫の話にオルファは
「ぬいぐるみが家族って言われてもなぁ・・・」
頭を掻きながら崖の方に歩いて行き、下を除き込む・・・
「・・・ちよっと待ってな!」
そう言うと、オルファは崖を飛び降りた!
高さ300mほどある崖を足場を見つけながらポンポン降りて行く・・・
崖の下には、つぶれた鍋やバラバラに砕けた野菜、荷物の残骸が散らばっていて、木の根元に熊のぬいぐるみが、座る様に寄り掛かっていた。
「お前が、くまちゃんだな!」
ぬいぐるみを拾い上げ腰に引っ掛けると、勢い良く崖をよじ登って行き、上まで登ると飛び上がって地面に降り立った!
侍女の目の前にぬいぐるみを出し、腹話術を真似て
「メアリー!僕、オルファに助けてもらったよっ!オルファは凄いよ!強いしカッコよくて天才だ!」
と話し掛け、侍女の手に渡した。
侍女は、涙目のまま笑顔を見せ
「くまちゃん・・無事だったのねっ・・」
くまちゃんを抱きしめると、オルファに向かって
「あなたは命の恩人です!オルファ様・・本当に!ありがとうございました!」
何度も頭を下げた・・・
オルファは少し照れくさそうにしていたが、侍女が元気になって良かったと言い、姫もレオンも喜んでいた・・・
侍女はこの時から、オルファに"様"を付けて呼ぶ様になり
「あのーっ!オルファ様!」
侍女がオルファに声を掛けた!
「くまちゃん何ですが・・・くまちゃんは、女の子なんですよ!」
「あっそ。」