夢のままで終わらせたりするものか
私が欲しいもの。
お金、権力、名声…。
って、そんなものいるかぁー!
欲しくない!全く欲しくない!
私が欲しいもの。
それは…のんびり田舎暮らしだ。
王都の豪邸暮らしなんて嫌。
社交界に出て仲良くもない人と笑顔でお喋りするのも嫌。
重いドレスにきつく締め上げられたコルセットも嫌。
私に気に入られようと周りにくっついてくる奴らも嫌。
なりなくないもののために勉強しなくちゃいけないのも嫌。
朝から晩まで聖女のような演技をするのは嫌なのよ。
「…全部嫌だわ。田舎で暮らしたい…。」
「何か言ったかい?田舎暮らしは無理だけど、広い庭園を作ることなら出来るよ。」
「ちゃんと聞こえてるではありませんか…。いいえ、無理ではありませんよ。殿下が私との婚約を破棄してくだされば良いのです。それだけで私の願いは叶うのです。」
「それだけは無理だよ。私の婚約者は君だけだ、リリアーナ。」
あぁ、なんということか。異世界に転生しても私の夢は叶わないのいうのか。
私が前世を思い出したのは4歳の時。なんとなくこの世界の事が分かり始めた時に感じた違和感。
車が走ってないとか、味噌汁飲みたいとかそういったものだった。
両親や使用人達は私が何を言っているのか分からない様子で、その時にああ、私異世界転生したんだなって理解したの。
そしてこの世界で私が置かれている状況もね。
私が住んでいるのはフェーリ王国。この世界は3つの大きな大陸と数多くの小さな島国で成り立っている。前世と似たような感じね。そしてこのフェーリ王国は3つの大陸の一つにあって、かなり大きな国なのよ。そしてそして私はフェーリ王国の公爵家の娘として生まれたの。そう、とても厄介なことにね。
前世の私は20歳だった。外より家。人より本。そして甘いお菓子が大好物。根っからの引きこもり気質よ。小さい頃から家の中で遊ぶのが好きで、縁側から庭を眺めるのは楽しかった。庭中咲いたポピーは綺麗だったし、芝桜の絨毯も素敵だった。名前は分からないけれど、淡いピンクの鈴のような形の花も好きだったわ。将来はお金を貯めて素敵な田舎で古民家暮らしをするのが夢だった。在宅ワークしながらね。でも夢は叶わないまま死んだのよ。原因は覚えていないけれど…。短い人生だったけれどそれなりに楽しかった。でもね、田舎暮らしはしたかった!だから、今世では田舎暮らしをするって決めたの!なのに、なぜ、どうして公爵家の娘なんかに生まれてしまったのよ私っ‼︎そのせいでこの国の王太子の婚約者に選ばれちゃうし。婚約破棄して欲しくてもしてくれないし。分かってるよ、この婚約は王家と公爵家のものだからね、簡単に破棄できないってことくらい。でもどうにかならないの⁉︎ほら、よく前世で読んだ異世界転生小説みたいに乙女ゲームのヒロイン的な女の子来ないの⁉︎ヒロインにメロメロな王子が悪役令嬢に向かってお前との婚約は破棄する!みたいなやつ下さい‼︎そのためなら悪役令嬢になれる自信あるわよ!
「ねぇ、リリアーナ。どうしてそんなに田舎で暮らしたいの?田舎で暮らしても何も無いよ?」
「何も無くていいんです。むしろそれが魅力です。小さな家で野菜を作りながら、庭の手入れをしたり、料理をしたり、お菓子を焼いてみたり…素晴らしいではありませんか!」
「うん、そうだね。」
「晴れた日には庭で紅茶を飲みながら本を読み、雨の日には家の中で雨音を聞きながらお菓子を食べる…あぁ、素敵です!」
「うん、素敵だね。」
「殿下もそう思われますか!では私と婚約破棄を…」
「それは無理だね。」
「…分かっております。」
ある昼下がり。
数少ない親友と呼べる人達とのお茶会での事。
「リリアーナ様、その、言いづらいのですが…。」
「何でしょう?言ってみてくださいな。なにも怒ったりしませんよ。」
「実は、最近殿下の周りが騒がしくなっていると噂を聞いたのですが…。」
侯爵家の令嬢であるサーシャ様が真剣な表情で聞いてこられました。
「あぁ、その事ですか。えぇ、私も聞いておりますよ。ここ数年で力を伸ばした子爵家の令嬢が殿下の周りをうろちょろしていると。全く不愉快ですわね。」
そう不機嫌に頷かれたのは公爵家の令嬢オリビア様です。
「まぁまぁ。殿下もお若いですし、それくらいいいではないですか。」
「リリー、あなた何を言っているの⁉︎それでは公爵家が侮られてしまうでしょ!」
「リビィの言う通りよ。今のままだとあまり良くないわ。まぁでも、リリーの事だからこのままいって婚約破棄してくれないかなって考えてるんでしょう?」
「…2人とも口調が崩れてるわ。」
「「いいじゃない。どうせ3人しか居ないんだし。」」
私たちは小さい頃から仲良しで、何でも話せる親友。母親同士が友人で、小さい頃から一緒に遊んでいたの。社交界や正式な場ではちゃんとするけど、こうした個人的な3人のお茶会では愛称で呼び合うし、砕けた話し方になってしまうのよね。
そして今回の話題はフェーリ王国の第一王子であり、王太子でもあり、さらに私の婚約者、エドワード様である。
「私も聞いてるわ。名前は確か、ミリア様だったかしら?」
「そうよ。父親の付き添いとかで頻繁に王城に来ているのよ。子爵家は他国との貿易でいろいろなものを輸入してるでしょう?子爵は王家と取引き出来れば箔も付くし、最近よく王城に来ているそうよ。」
「自分の娘を使ってまで王家に取り入ろうとするなんて…馬鹿なのかしら。王家と子爵家では釣り合わないでしょうに。」
「まぁそうよね。でも身分の違う恋って盛り上がるんじゃない?そして婚約者のことが邪魔になりついに婚約破棄にまで…」
「「ないわね。」」
「どうしてよ!分からないじゃない。」
「ないわよ、絶対に。だってあの殿下よ?リリーを捨てるなんてあり得ないわ!」
「ええ、そうよ。私達にだって牽制してくるのよ?あり得ないわ。リリーは田舎暮らしが夢みたいだけど、夢は夢よ。早く諦めなさい。」
「ひどいわ、2人とも。私は諦めたくないのに…。」
2人には絶対に無いと言われたけれど、絶対なんてありはしないのよ。
何故なら最近殿下は私に冷たいもの!
いつもなら週3回は私の家に通い、王妃教育の後は必ず2人でお茶会、殿下の休日には街へお忍びデートまで。
それなのにここ最近は家に来ることも、デートに誘われることも無くなったのよ。
お茶会はたまにあるけど、以前と比べたら減ったわ。
やっぱりミリア様の影響だと思うのよ!
ほらほら、ついに来たんじゃない?ヒロインvs悪役令嬢!
さぁ、ここからが本番よ。
私は絶対に田舎暮らしをするの!
見てなさい。絶対に婚約破棄してもらうわよ!