表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

04 聖獣ゲット

 わたしが仔ヤギとモフモフいちゃいちゃしていると、



「ハアァ!? バカじゃねぇのっ!?」



 いつものフレーズとともに、リンちゃんが割り込んできた。



「なんなんなんだよテメェっ! 俺様がくれてやった毒の魔法を使わないだなんて……なんなんなんでなんだよっ!?」



 鼻先でツバが飛ぶほどに怒鳴りつけられて、わたしはのけぞってしまう。



「だ、だって……お菓子は毒を入れるもんじゃないし……。レモンとかバニラエッセンスとかだったら、喜んで入れてたけど……」



 すると、リンちゃんは震えながら俯いてしまった。

 どうやら、わたしの答えが良くなかったらしい。



「あ、あの……リンちゃん?」



 なだめるように声をかけると、リンちゃんはバッ! といきなり顔をあげた。

 そしてドラゴンが炎を吐くときみたいに、カッ! と大口を開けて、



「バッ……!! カじゃねぇのぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!」



 最大級のフレーズを、わたしに向けた。

 わたしはおもわず髪の毛が逆立つほどにビックリしてしまう。



「『グランドデビル』をけしかけてやりゃ、どんなに脳内お花畑のテメーでも、本性を現すと思ってたのによぉ! テメェ、わかってんのか!? 『グランドデビル』はマジでテメーを喰い殺そうとしてたんだぞ!? それなのにアメをやるだなんて、バカじゃねぇのっ!?」



「なんだ、やっぱりこの子、お腹が空いてたんだ、もっとアメちゃん食べる?」



 仔ヤギに尋ねると、「メェ~」と鳴いたので、わたしは懐からもうひとつアメちゃんを取り出す。

 棒を持って口元にもっていってあげると、ペチャペチャとおいしそうに舐めはじめた。



「ところでリンちゃん、この子、なんていう動物なの?」



 リンちゃんはまだプリプリ怒ってたけど、律儀に答えてくれた。



「動物じゃねぇよ! ソイツは『聖獣』だ! まったく、聖獣が出てくるなんて、この『忘れ谷』でも初めてのことだぜ!」



 「せーじゅー?」とわたしはオウム返しにする。

 我ながら間抜けな声だな、なんて思いながら。



「クソ忌々しいヤツってことだよ! ソイツは『ユニゴーン』って言って、『ユニコーン』の超絶劣化版みてぇなヤツだ!」



「『ユニコーン』なら知ってる! それでこんなキレイな角が生えてるんだね!」



 『ユニゴーン』と呼ばれた仔ヤギの角は、二本ではなくユニコーンみたいに一本。

 短くて丸っこくて、額に宝石のカタマリが埋め込まれているみたいに輝いていた。


 そこを撫でてあげると、『ユニゴーン』は目を細めて気持ち良さそうにしている。


 わたしはすぐに、アダ名を思いついた。



「じゃあ、あなたは今日からユニちゃんね! よろしく、ユニちゃん!」



 わたしの言葉がわかったのか、ユニちゃんは「メェ~」と鳴き返してくれた。

 でもリンちゃんは、相変わらず面白くなさそうだった。



「なにがユニちゃんだ! バカじゃねぇの!?」



「でもこれで、試練は終わりなんでしょう? わたしは『お菓子魔女』になれたの?」



「って、まだその段階だったのかよっ!? テメーの格好を見たら、一発でわかるだろうがっ! なんなんなんだよテメェは!?」



 そう言われて、わたしは自分の格好を眺めまわしてみた。


 いつの間にかわたしは、魔法使いのマントと、お姫様のドレス、そしてコック服を合わせて3で割ったような服を着ていた。


 純白がベースになっていて、赤いラインが入っている。

 襟元が赤いリボンで蝶結びになっているのが可愛い。


 帽子を取ってみると、大きくて紫だったはずのそれは、頭の上にちょこんと乗るくらいの、白い三角帽に変わっていた。


 変わったのは服装だけじゃない。

 左手に持っていた杖は、お菓子を作るときにかき混ぜるのに使う、ホイッパーになっている。

 右手の本は、王都のフルーツパーラーとかにありそうな、カラフルなメニューブックみたいになっていた。


 ユニちゃんのかわいさに夢中になっていたせいで、ぜんぜん気付かなかったけど……。

 これが、『お菓子魔女』……?


 けっこうビックリな変わりっぷりだったけど、わたしはあんまり驚かなかった。

 だって、朝からずっとビックリしっぱなしだったから、このくらいのことではもう何とも思わない。


 ひととおり確認しおえたのでリンちゃんに視線を戻すと、今度は疲れているようだった。



「ハァ……。最後のチャンスもフイにして……。コイツマジで『お菓子魔女』なんてモンになりやがった……」



「そういえばリンちゃんって、『お菓子魔女』をずっとけなしてたね。ひょっとして、『お菓子魔女』ってよくないの?」



「ハアァ!? テメェ、これだけの目に遭っておきながら、まだそんな段階なのかよっ!? お菓子でどうやって殺し合いをするつもりだよっ!?」



「こ、殺し合い……!?」



「そうだよっ! 試練を乗り越えた魔女は、この『忘れ谷』で、他の魔女と殺し合う……。『魔女大戦』に参加するんだよっ!!」



 わたしは、もうちょっとやそっとのことではビックリしなくなっていたけど、さすがにこれにはビックリした。



「ええっ!? 魔女ってわたしの他にもいるの!? それに『魔女大戦』って……!?」



 そのあとリンちゃんが教えてくれたのは、こういうことだった。


 この『忘れ谷』には魔女が大勢いて、それぞれ絶大な力と、領土を持っている。

 他の魔女と争って、領土を奪いあっているそうだ。


 それが『魔女大戦』……!



「なんで……なんでそんなことをしなくちゃいけないの?」



「それは、いずれわかるさ! とにかく他の魔女の領地をぜんぶ奪って、『忘れ谷』を統一した魔女だけが、勝ち……! 生き延びることができるってワケだ……! その途中で『しんせつ』しちまったら、負け……!」



「え……えーっと……それって、絶対に参加しなくちゃダメなの?」



「ハアァ!? バカじゃねぇの!? 当たり前じゃねぇか! テメェがいくら嫌がっても、向こうのほうから殺しに来るんだからな!」



「そ、そんなぁ! そんなのがあるんだったら、先に教えといてくれればよかったのにぃ!」



「ヒヒッ! いまさら後悔しても遅ぇよ! 今のうちにせいぜい、アメでもしゃぶっておくんだな! 新入り魔女が『魔女大戦』に参加した場合、しばらくは結界に守られて、交戦できないルールだからな!」



「しばらくって、どのくらい?」



「ハアァ!? バカじゃねのっ!? そこまで俺様が教えると思ってんのかよっ!」



「そんな……って、うわあっ!?」



 話の途中、わたしはユニちゃんに「メェ~」と押し倒されて、顔をベロベロ舐められてしまった。



「うわっぷ!? いきなりどうしたの、ユニちゃんっ!? あ、アメちゃんが欲しいの!? あげるからやめてっ! くすぐったいってば! あはっ! あははははははっ!!」



 わたしはたまらず新しいアメちゃんを取り出したんだけど、ユニちゃんはぜんぜん舐めるのをやめてくれなかった。

 どうやらお腹が空いていたわけじゃなくて、元気をなくしたわたしを励まそうとしてくれたみたい。


 わたしは顔をべとべとにされて、腹がよじれるまで笑って、心配事なんてぜんぶ吹き飛んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] やはり完璧に魔女っ娘ですね!(ニヤリ)  さて お菓子魔女誕生おめでとう!(祝) なんと聖獣をゲットしましたか! これが本当になりやいことやった結果なんですから  リンも現実を受け入れない…
[良い点] パティ、『お菓子魔女見習い』から『お菓子魔女』にジョブチェンジ! 今後の活躍に、期待してまーす。 [気になる点] 仔ヤギ改めユニちゃんは、『聖獣』という事ですが、どんな能力を持っているんで…
2020/01/22 17:39 桂木 瑠奈
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ