第77話 ここを、キャンプ地とする(中庭)
レンベルクまであと数キロメートルというところで突然開けた場所に出る。そこには多くのテントが立ち並び、美味しそうな匂いと煙が立っている。そしてそこにいるのは王国軍の兵士たち。これにはアリーシャとラルフがポカーンとしていると、その陣地から鎧を纏った一人の男性がこちらに気付いて飛び出してきた。
「おおっ、我が孫よ! それにアリーシャ殿下!! お会いできて光栄でございます!!」
そして、綺麗に距離を取って片膝をつく男性。年齢的には六十代なのだが、益々活力に満ち溢れているこの御仁……シュトレオンの祖父であり、バルトフェルドの父であるアルジェント家先代当主イシュタレア・フォン・マイル・アルジェントその人である。
シュトレオンの由来は曾祖父と祖父の名から取ったものだと聞いていたので、どのような人かと思えば完全な武人であった。ガタイの良さを引き継がなかったことをある意味幸運に思ったことはない。流石にこの人の前でそれを言うつもりはないが。
「あの、なんで祖父上がここにいるのですか?」
「天気が良くて山登りをしておってな。そうしたら迷ってしまって、ここに陣地があったからお邪魔したのだ。幸い指揮官は知己だったから、陣借りの客将としてになるな」
鎧と剣は不測の事態に備えて魔法の袋に入れていたらしい。というか、これには三人揃って冷や汗を流した。今頃祖父の不在を心配してアルジェント家は騒ぎになっていると思う。なので、一旦離れて通信のアーティファクトで父にそのことを伝えたところ、盛大な溜息が漏れてきた。
『これだからうちの馬鹿親父は……仕方あるまい、参陣させてやってくれ。あれでも理知的だし何かには使えよう。セラミーエには私から伝える……あー、頭が痛くなりそうだ』
孫娘を溺愛する爺馬鹿ではあるが、これでも王国軍に所属していた時は先代のネルガイヤー将軍伯の好敵手とまで言われた御仁らしい。指揮官適性も極めて優秀で、複数師団を纏めれるだけの手腕を持っているとのこと。非常時には頼りになると父は何かを諦めたように呟いた。普段あまりそういう愚痴を聞くことはなかったので、これはこれで新鮮だと感じた。
今回招集したのは王国軍2500人と陣借りとして参加した貴族や平民500人の計3000人。これはシュトレオンがバルトフェルドに掛け合って参陣させ、移動方法は箱みたいなもので囲んで演習地ごと転移させた。転移魔法は何かしら間接的に触れていれば転移可能である。尤も、この移動だけで数億の魔力が必要になるが……
帰りは全員徒歩で王都まで帰る手筈だ。そのついでに森で狩りでもして素材を採って稼ぐ予定らしい。王国軍自体貴族の次男以下の子弟や平民出身が多いので、生きていくということには殊更敏感なのだろう。
「あ、おかえりっす。レオン様」
「ただいま。っと、シューベルトさんもお久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。しかし、こんな兄が貴族に仕えているだなんて、正直目を疑ってしまいます」
「弟にまで言われると流石に傷つくっす……」
陣地に戻ってくると、イシュタレアの横にシューベルトが立っていた。ラルフと見比べると確かに兄弟らしい片鱗がある。その弟にも辛辣なことを言われ、ショックを受けているラルフを見て苦笑した。
さて、今回の王国軍招集はラルフが総大将であり、シューベルトはその副官という体裁である。この軍の正当性をアリーシャが保障する。ではシュトレオンの役割というと……その軍の雇い主という形だ。なので、王国軍ではなくリクセンベール諸侯軍ということになる。その為に王国軍の装備は一切使わず、リクセンベール家の紋章が入った鎧やら剣を準備した……元々騎士団のことを考えて準備していたものだが、軍の兵士からはかなり評判がいい。後で払い下げしてくれとか飛んできそうだ。
「皆さんには教会と領主邸に強制捜査という形で突入してもらいます。代官と司祭は拘束し、領主邸の中庭に連行してください」
「使用人や教会の騎士、冒険者が妨害してきた場合は?」
「できるだけ殺さないように……欠損させてしまったら、その時は策を講じます。場合によっては軍への不干渉というお触れを出すべきかなと……リーシャ、お願いできるかな?」
「そこは命令しても構いませんけれど?」
「王族と貴族の建前崩しちゃ拙いでしょうに……というわけで、お願いできますか?」
「ええ、レオン様の為というなら喜んで」
ある意味惚気のような会話に周りの方々は暖かな目を向けている。これに釘を刺す意味でワザとらしく咳ばらいをした。
「コホン。冒険者ギルドのギルドマスターには予め王都本部からの手紙を渡していますので、恐らく問題ないでしょう。では、ラルフもといナスタニア準男爵殿。以後の差配は任せます」
「それは解りましたけど、レオン様はどうなさるんすか?」
「僕はこの顛末を任せるに相応しい人物を連れてきますので、頼みましたよ? 祖父上、アリーシャ殿下のことを宜しくお願いいたします」
「承った。なあに、其方の曾孫を見るまでは死ぬつもりもないから安心せい!!」
安心どころか不安だらけだと言いたくなったが、フラグになりそうだったので控えることとした。
諸侯軍は迅速な動きで、代官と司祭を拘束した。こちらが罪状を伝えても『濡れ衣だ!』『冤罪だ!!』などと喚く始末。一部の逆らう冒険者については辛うじて命の危機に瀕するような怪我人は出なかった。
教会の騎士たちは逆らう姿勢を見せなかった。どうやら司祭の横暴ぶりには辟易していたようで、司祭の拘束に協力的であったと話す。この辺はしっかり記録して配慮することにしようと思う。
アリーシャは事情があって陣地にイシュタリアと残っていた。下手に王族を巻き込むことを由としないためでもあるのだが……すると、シュトレオンがその場に姿を見せた。
「さて、代官殿に司祭殿。恐らく罪状について伝えられていると思いますが、これは其方達の罪ではないというような声が聞こえましてね……貴方方もそう仰るのでしょうか?」
「当然である! 我が街の領民を何の理由もなく処罰したなどと……事実無根である!」
「その通りだ! 大体、貴様は何様のつもりなのだ小僧! 私は司教様とも繋がりがある! 謂れ無き罪で拘束などとは教会に喧嘩を売るつもりか!?」
この時点でシュトレオンは自分の身を明かしていなかった。これは態となのだろうが、それを追求した司祭に対して申し訳なさそうにしつつも、ハッキリと申し上げた。
「ああ、それは大変失礼いたしました。僕はリクセンベール子爵家当主シュトレオン・フォン・リクセンベールと申します。僭越ながら従三位外務卿でもありますが」
「なっ……!?」
「嘘は申しおりません。これが陛下より頂いた証明書です。これに異議を申し立てるのならば、貴方方の首が飛ぶことになります。それはさておいて……実は闇ギルドがグランディア帝国からの依頼を受けてとある一家を殺害しようとした件が発覚しまして。調べたところ、貴方方との契約書まで出てきました。これがその原本ですね」
その契約書には周囲の人間が驚きを隠せない。縛られている代官と司祭は何も言い返せずにいる。ここで横槍など入らぬように対策はしているので、あえて中庭でこんな騒ぎを起こしている。彼らと協力的であった闇ギルドは、この街周辺からすべて排除されているのだから。
「それだけならここまで騒ぎを大きくするつもりはありませんでしたが、実はあの時僕もその一家のご厚意で宿泊していましてね。襲ってきた連中はとある討伐依頼を受けていました。『街に潜む魔物討伐』……依頼主は貴方方でした」
「っ!?」
「それだけじゃありません。王都から派遣されてきた代官に補助金横領という無実の罪を着せ、挙句の果てに奴隷契約まで結ばせた。その事実は奴隷商人からの証言も取れました。この事実だけでも重いのですが、後は財政の責任者にお願いすると致しましょう」
「―――呼ばれたと思ったら、そういうことだった訳ですか。成程、納得がいきました」
財政の責任者……その言葉を待っていたかのように姿を見せたのは、ヴァイスと同じ緑髪の男性。代官はその姿に震えあがっている。司祭は彼から滲み出る殺気に震えが止まらない。
国の財政規律を守り、規律を破るものには容赦なく鉄槌を下す。それが例え血の繋がった親や兄弟であっても、一切の躊躇いなく断罪する。王国西部の雄にして国家財政の安定を担うもの……彼に付いた二つ名は『翡翠の悪魔』。
その名はニコル・フォン・ウェスタージュ・レター。王国財務相にして西部貴族を統括するウェスタージュ辺境侯家当主。その彼の表情は怒りに満ちていた。後ろに控えていたヴァイスも、この時は実の父親に対して恐怖を感じていたほどに。
「さて、君たちにはレンベルクに払っていた補助金の使い道を1ルーデル単位できっちり教えてもらうよ? 司祭殿が代官殿から多額の補助金を受け取っていた事実と証拠は持ってるから、余計な取り繕いは無駄だと思え。いいか、この下種共……返事はどうしたぁ!?」
『は、はいいい!!』
その姿を見て、国王と宰相、それに父と親友なのもどこかしら納得できたような気がした。父曰く『アイツを本気で怒らせたら、100パーセント納得できるまで静まることはない。今回を除いてその勘気を受けたのは彼の父と兄だけだろうな』と評するぐらいヤバいということらしい。
加えてあの身なりだが、武術面では4人の中で一番の武芸者。特に騎士剣を振るわせたら右に出る者はあまりいないとのこと。人は見かけによらない……その言葉は間違っていないと思う。
結果、ニコル財務相の取り調べは夜まで続く羽目となり、領主邸の中庭に急遽キャンプ地を設営する羽目となった。ぐうの音も出ないほどに絞られた二人はこの後、王都に移送されて取り調べを受ける手筈となっている。止めと言わんばかりにアリーシャから『失望しました』という言葉で彼らの抵抗の意思は完全に消え去った。
「シュトレオン君、感謝しますよ。この流れなら本来は嫁を宛がうんだけれど、殿下に嫌われたくないので、南東部の開発資金は全面的に財務庁で補助しましょう」
「えっと、一応個人で莫大な資産は持っていますが、国の財政は大丈夫なのですか?」
「ええ、その心配はないですね。二人を軽く取り調べたら補助金で数億ルーデルは浮きそうなので。東部の連中がネコババした代金分は敢えて回収しませんよ……その代わり、周辺の準男爵領や騎士爵領からぶんどった代金や資産は隠し部屋から大量に出てきましたし」
まずは、王国内の闇ギルド関連。
違法な魔導具取引や人身売買などで貯め込んだ資産がこれに該当する。王国全土に隠されていて計算しきれていないが、時価総計にして数百億ルーデルは下らない。
半分以上は国庫に入れられるが、残りを十年単位に分割して国家事業予算の予備費に組み込む。収入の項目は“雑収入”という扱いだ。ギルド構成員は隷属魔法が掛けられ、北部の開拓要員として送られる。一部はチェリに潜入して諜報活動を担ってもらうとのこと。
次に、国の補助金で無駄遣いを省いた分。
冒険者の代わりに衛兵を増やすことになるし、今回の陣借りからレンベルクの街の衛兵になりたいものは優先採用した。直轄地の衛兵は管轄上王都第三騎士団預かりとなるためでもある。代官はヴァイスがそのままレンベルクを治め、各貴族領への使者は既に派遣済みである。それらの人件費や街への補償金を差し引いても数億単位で浮くため、開発資金に回すこととした。
そして、私腹を肥やしていた代官や司祭の隠し部屋から出てきた資産。
ここから周辺の貴族の損失補填を行っても数億ルーデルは残るので、全て国家事業予算扱いとなる。正直現時点で膨大な資産を持っているため、報酬で金銭を貰っても誤差の範囲内のレベルになってしまう。それに、そういう曰く付きの金はあまり持ちたくなかったからだ。元々この地域に落とされるはずだったお金をちゃんと執行するのだから文句は出ないであろう。
冒険者ギルドのレンベルク支部に対しても厳しい対応が取られた。ガルベスターをはじめとした一家関連の依頼を引き受けた責任を受けて、ギルド支部の建物は街道沿いに移設。街中央部にあるギルド支部は移設が完了次第取り壊しとなる。
加えてギルドの規則違反により王宮から査察官が送られ、5年ほど王宮とギルド王都本部の管理下に置かれることとなる。支部の予算権限にも大幅な制限がかかり、停滞していた依頼はすべて高ランク冒険者への指名依頼に回される手筈となる……シュトレオンもその頭数に入っていることは否定できないが。
冒険者ギルドマスターのライアンは続投となった。本来なら解任事由となる領主殺しだが、よくよく調べると就任予定だったその領主の評判は最悪で、金と女には目がなかった。しかも東部の出身貴族だったため、ある意味厄介払いの側面が強かったのだろう。殺したというか、酒で酔わせたところで森の中に置き去りにしたそうだ。その後魔物に襲われて死亡したとのこと。
強気な性格だが、悪い人ではなかったのだ。どうしても発言のせいで誤解が起きやすいのは改善してほしいと思う。
「レンベルク南の陣地跡なのですが、あそこを王国軍の演習地として買い取ります。直轄地なのに買い取るというのは可笑しな話ですが」
「何から何まで申し訳ありません、ニコル財務相。許可を取ったとはいえ直轄地を勝手に開拓してしまって」
「いえ、ここらを簡単に領地にできる人がほぼ皆無ですから。加えてシュトレオン君はS級冒険者。逆らうほうが命を無くします。君からほぼタダで譲ってもらった開拓領域の素材代で彼らへの恩賞も出せましたし……君が6000万ルーデル出して王国軍を3000人招集したいと聞いたときは吃驚しましたけど」
王国軍への今回の招集費用は全額負担した。これでも雀の涙程度の出費でしかないし、結果的に保有資産は増える一方。開拓自体は魔法の練習にもなるので、決して無駄になるどころか全部プラスに働くというわけだ。要らぬところから貴族の恨みを買いそうな気もするが。
更地にした際に出た素材はニコル財務相に全て渡した。流石に全てタダというのは体裁にも関わるため、西部で飼育している家畜などの購入で便宜を図ってもらうこととした。
そのついでに南東部の街道を整備した。王都からミューゼルを経由し、各貴族領およびレンベルクに接続する形だ。更にレンベルクから南西に山脈を横断してセラミーエまで繋げた。この辺は予め父バルトフェルドに了解を取り付けた。申し送り事項と言ったのはこれが一つの理由でもある。
「あ、そうでした。陛下から君に渡してほしいと頼まれていたものがありまして……これです」
ニコル財務相が渡したのは一通の手紙。これを受け取って中身の便箋を読み始めると、思わず頭を抱えたくなった。
「……渡す領地が増えるってあるんですね」
「今回君には迷惑をかけたから、そのお詫びでしょうね。南東部の最奥の森林地帯と東部の山脈地帯……山脈を越えると、確か騎士爵家があったはずです」
「オイゲンブルク家ということですか」
南東部の大森林地帯。ここはフューレンベルク辺境伯家が領有権を保持しているが、開発が一向に進まない未開発地。その面積は当初貰う予定の直轄地と比較してほぼ同じ。しかも地図上では山脈も領地範囲に入っているので、オイゲンブルク騎士爵領とフューレンベルク辺境伯領に接する形となる。
ニコル財務相は東部へ流れた金に目を瞑り、代官の件では辺境伯家の任命責任を問い質すことは敢えてしなかった。ある程度の食糧援助と引き換えにその一帯を接収した。今回の一件で王宮やリクセンベール家、ひいてはアルジェント家にも多大な迷惑をかけた責任を物納として変換させた。俗にいう『迷惑料』ということなのだろう。
その際、フューレンベルク辺境伯家に対して『南東部の開発利権が欲しいのなら、まずは自領内の立て直しを速やかに実行すること。誤魔化しなんてしたら……解りますよね?』とハッキリ述べたそうだ。未開発地や未耕作地という土地を余しているのなら、それをしっかり活用して自領の経済状況を改善してからでないと話にならないということだ。
後日、リクセンベール家の屋敷にフューレンベルク辺境伯自身が来て『うちから出向した代官を排斥するとは何事だ!』と怒鳴り込みに来たが、彼の依頼のせいでこちらが命を落としかねなかった事実を突きつけると完全に黙り込んだ。
その上で『オームフェルト家の権力を盾にされて恐喝されるようなら、それは国家に対する反逆の意図ありと見做されますので、ご自愛を』と南東部の開発そのものが国家事業になったことを伝えると、ガックリと肩を落とした。
どうせクロードかアッシュ、ナスタニア準男爵家の縁故あたりを頼るつもりだったのだろうが、その時点で南東部にある5つの準男爵家・騎士爵家がリクセンベール子爵家の寄り子となった。例え血の繋がりでも嫁とその実家の仲が悪いというのはそれなりにあったりする。今回はその例の一つともいえた。
一応ファリスにも実家への優遇について確認したが、答えはこうであった。
『上の姉たちは既に東部貴族の縁故ですし、妹たちをシュトレオン卿に押し込もうとしたら間違いなくアルジェント辺境侯の怒りを買います。それに、優遇したらあの父や馬鹿兄たちは増長するどころかオームフェルト家まで出てくるのは目に見えてますので、私としてはクロードやアッシュを雇ってくれるだけで満足してます。ここでの生活も気に入っておりますので』
あの様子だと、夫婦としてお互いに相性は良いのだろう……見なかったことにしておきたいと思ったのは蛇足だろうか。とはいえ、耕作地も広がったので将来的に陞爵されるかもしれないが。
「陛下は僕に辺境侯家クラスを6つ作れと仰るので?」
「そこまでは要求しないかと思いますよ。聞けば、魔物の領域をある程度残して各貴族領の耕作可能地を増やしてくれたそうですね」
「魔物からの安全確保の一環です。主にケルサロートからの防衛策ですし」
とはいえ、直轄地と接収地を合わせるとセラミーエ領の約6倍。とても一つの貴族家で管理できるとは到底思えなかった。
現状考えているのはラルフのナスタニア準男爵家の分家、クロードに貴族の爵位を与えて貴族家の新設、ハイネとシャーリィを婚姻させてレインリリース伯爵家の分家創設あたりが落としどころだろう。ある程度分与すればリクセンベール子爵家で管理できるだけの規模に収まる。
「それでもですよ。これから大変ですね、シュトレオン『伯爵』」
「ええ……」
手紙にはシュトレオンの爵位のことについても触れられていた。今回の一件を王宮は強く受け止め、子爵から伯爵へ陞爵を認めるという文面。9歳で上級貴族の仲間入りとなるわけだ。王都に帰り次第陞爵すると文面で書かれていて、これでアリーシャの降嫁が可能となる。食指はまだ働かないが。
加えて外務相補任から外務相特務補佐官という役職に肩書が変わる。これは事務的な仕事を担当する補佐官から書類仕事を除いた形の役職。仕事内容は補任の時と変わらないが、正式な常任職としてポストを作るということだ。
ここ数十年役職の新設はなかったが、今回の一件で南東部の開発が進むことを期待してのことらしい。加えて各庁の閑職扱いとされてきた南東部方面の役職も本格始動となり、それに合わせて役職を新設する動きも加速している。無役の在都貴族たちは早速自分たちを売り込もうとノースリッジ公爵家の屋敷に押しかけているそうだ。『押しかけるぐらいなら上級官吏の試験に合格するほうが早い』とぼやいていたらしい。
そして、直轄地および接収地の下賜は前倒しして今年6月―――レクトール王太子が即位直後の謁見にて執り行うこととなる。現国王から次期国王への引き継ぎとして、そして王としての箔付けということとなる。諍いは面倒なので、開発利権に関わることとなる面々のみでの謁見という形をとるそうだ。
「ヴァイスさんのこともありますので、ある程度優遇は致しますが」
「程ほどにね。でないと僕が倒れてしまいそうです。王城の金庫が金で底抜けになってしまうのが早いような気もしますから」
部下の実家へのご挨拶のつもりが大々的な捕り物になってしまって、そして前倒しで領地をもつことになるのは本当に頭を抱えそうになる。まあ、これでリスレット郊外の様に曰く付きではなくなるのでありがたいとは思うが……父の苦労も少しばかり解るような気がした。




