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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第7話 設備投資と先行投資は必要なもの

 酒造は調味料用の醸造小屋とは別にワイン用の醸造小屋が作られていた。規模的には同じぐらいの規模だが、試験中なのでまだ本格稼働とは程遠いという。


 ゴルドに案内される形で中に入ると、原始的な巨大な桶と圧搾機が目に入る。まだ本格稼働には程遠いので桶は一つだけ、しかもゴルド一人で作業していると言った。


 まずは、ここらの仕組みを魔法の力で簡素化するべく、まだ何も置いていないスペースに移動する。シュトレオンはアイテムボックスからペンと紙を取り出し、『世界書庫』からワインに関する知識を引っ張り出しつつ書き留めていく。第三者に読まれないように日本語でだ。


 そしてそれらをイメージにして『創造具現』で作り出したのは、円柱形の巨大な木の樽だ。これにはカナンもゴルドも驚きだった。そんな驚きもつゆ知らず、円柱の周囲に金属製の足場を組み上げていく。そして投入部の蓋を開けるとアイテムボックスから大量の葡萄を投入した。


 あとは下に降りて円柱に取り付けられた石に触れると、コンソールのようなものが表示されて手早く入力し、完了したのでコンソールを閉じて羊皮紙をアイテムボックスに放りこみ、二人のほうを向いた。その表情は放心に近かった。


「ぼ、坊主。一体これは……」


「あ、すみません。許可を取るべきでしたね。これはワイン用の醸造装置です。さっき食べてもらった葡萄を上にある投入口から放り込んで、あそこの石に触れたら出てくる設定を入力すれば、自動でワインを作ってくれます。説明書は後で渡しますね」


「いや、許可とかはいいんだが……ちなみに、これでどれぐらいのワインが?」


「たぶん、一個で40万リットルはいけるかと」


「よ、40万……!?」


 シュトレオンは、今使える魔法の知識すべてをフル動員して設備を作製した。ワイン醸造に最適な温度・湿度を自動管理し、空間魔法でピンポイントに種や皮、沈殿物を除去することで濾過の手間を省略。さらには時間操作魔法で容器内にあるワインの醸造時間を早送りできる機能も付いている。取り出し用の部分もついでに作った。容器となる瓶は調味料で用意されているものを流用すれば行けるようにしている。


 さらには、万が一魔法術式が破損したときのためにバックアップ機能もついている。後日知ったことだが、魔法術式や魔法陣の耐久度は刻んだ本人の加護レベルに依存するらしい。なので、それを変更したり壊すことができるのは現状シュトレオンだけという事実を知った。


 将来的には赤ワインだけでなく、白ワインやシャンパンも見据えた構造になっている。設備のメンテは生活魔法の「クリーン」で新品同然に保つことができる。

 これを見たゴルドは、涙が溢れんばかりの様相でシュトレオンの手を握りしめていた。おっさんが泣く姿には引き気味になるほどだった。

 

「ありがとう、レオン坊。これで、ここにいる連中を路頭に迷わせずに済む…ううっ」


「い、いえ、まだ先行投資の段階ですから。ちなみに、畑とかはどうするんです?」


「この裏に準備はしてあるが、見てみるか?」


「是非」


 ついでなので、その畑を見させてもらうことにした。ただ、広すぎる。赤ワインのための畑としても予定の土地が広すぎる。なので、赤ワインのための畑と白ワインの品種の畑を作ろうと提案したところ、ゴルドはそれに頷いてくれた。このあたりは既にミシェル子爵の許可をもらっているそうだ。


 というわけで、シュトレオンは二つの畑を作り、魔法で一気に葡萄の畑を完成させた。畑には強力な結界を張り、魔物の侵入を完全にシャットアウトするだけでなく、畑を荒らそうとしたものは強制麻痺状態にする効果付だ。


 あと、小屋に戻ってきて醸造装置をもう一個作った。二個目は白ワイン用である。なお、この装置は現状俺とゴルドしか動かせないようにしているし、無理に壊そうものなら時空魔法が発動して『遥か彼方』に強制転移される仕組みだ。そのこともゴルドに説明はしておいた。


 ただ、ここまで一気にやりきったせいか魔力をかなり消費したので、大分疲れてしまった。気が付いた時には俺はカナンにおんぶされていた。


「ごめん、カナン」


「まったく、ほんと驚きですよ。領主邸に着いたら、ちゃんとミレーヌ様に説明してくださいね」


「……うん」


 領主邸に帰って一連の流れを説明したところ、ミレーヌは驚きつつもシュトレオンをやさしく抱きしめた。そのことはミシェル子爵にも伝えられ、シュトレオンは勝手なことをしたので謝罪すると、子爵に咎められるどころか逆に感謝された。


「いや、寧ろありがとうと感謝せねばならない。君は恩人というべきだ」


「いえ、そんなことはないです。お礼は父への献上品で返していただければ何も言うことはありません」


「…これで4歳とは恐れ入る。私に娘がいたら、嫁がせたいと思うほどだ」


 正直、4歳で婚約者とかは勘弁願いたいんですけどね。それに、俺はあくまでもスローライフのために実家を安定させておきたいだけなので。


 その日は領主邸に泊まり、次の日に領都への帰路に着いたのだった。その前に、ライディースとメリルへのお土産も買った上で。その駄賃は朝方姿を見せたゴルドから貰った金貨から出した。感謝してると言っても金貨はやりすぎだよと思ったが、やむなく受け取ることにした。


 二週間後、シュトレオンとライディースは5歳となり、洗礼のために領都にある教会へと出向くことになったのだった。

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