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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第6話 スローライフは一日にしてならず

 母であるミレーヌの視線に耐えられず、シュトレオンは二人に譲った水晶のことを話した。それを自分が作ったことも。一応その証明として目の前で簡単なネックレスを作ったのだ。これを見たミレーヌはシュトレオンをやさしく抱きしめた。


「あなたはいつも考えもつかないようなことをやってるのね。でも、無理はしないで頂戴」


「…はい。ごめんなさい、母上」


「謝らなくていいの。あなたがどんな存在であっても、私の子よ」


 母親という存在が偉大ということを改めて感じました。そして、水晶玉の件に関しては『流離の商人から買ったら掘り出し物だった』ということで口裏を合わせてくれました。本当に感謝です。そのお礼でこっそりネックレスをプレゼントしました。

 まぁ、さすがに直接渡すのは気が引けたので、母の誕生日プレゼントに悩んでいた父に渡した。そしたら、涙ぐまれて『お前の誕生日に欲しい魔導書があれば何でも買ってやるぞ』と言われた。


 その時は頷いたが、ほどほどでいいですよと思わなくもなかった。


 それからおおよそ二年経った。一か月後にはシュトレオンとライディースの洗礼が控えている。その間にあった大きなことといえば、メリルの祝言だ。

 彼女は何と、火・水・風・光・闇の五属性の資質を示したのだ。これには思わずバルトフェルドが気絶しかけるというハプニングまで起きた。この時もラスティ大司教が直々に来たのだが、これには苦笑を浮かべていたほどだった。


 言葉がある程度分かったこともばれてしまい、家庭教師をつけて勉強することになったのだが……学ぶ知識の大半は転生前の世界で習ったことの復習みたいなものだったので、すんなり飲み込めた。そのおかげというべきか、一年で勉強を終えてしまったのだ。

 しかも、学院の試験問題も解いてしまっていたことがショックで、腹いせ紛れに異世界で実験に没頭した。俺は何も悪くないと思う。


 当のメリル本人も着実に実力をつけていた。俺が勉強を一年で終わらせたことも彼女の頑張りに拍車をかけたのだろう。

 それに触発されてか、ライディースも勉強に一層励むようになった。勿論、解らないところはちゃんと教えているのだが…弟に勉強を教わる兄というのもなかなかシュールな光景だと思う。剣術もこっそり練習しているようで、切磋琢磨できるというのはいいことだろう。


 その間も、俺は創造魔法で色々考えたものをどんどん作り上げた。転移魔法については時空魔法のひとつなので、使えないときは何らかの対策を考えることにしようと思う。レベル上げについてはいったん保留として、やるべきことをしっかりまとめることにした。中途半端は個人的に嫌だったので、仕方ない。


世界地勢(プラネットマップ)

 ○現在位置、敵味方の判別、平面・立体図切り替えなど地図全般の能力を有する。また、検索機能によって店などの所在や人口の構成なども把握可能。

世界書庫(ワールドメモリー)

 ○スキル保持者がいた世界の知識を事細かに引き出せる能力。俺の場合だと俺の転生前の世界の知識を引き出せる。

創造具現(イメージスキャン)

 ○自身の思い描いたイメージのものを作り出す能力。必要素材が足りない場合は魔力の消費によって補う。

同時並列加速(アクセラレーション)

 ○思考・行動を加速させる。倍率によって消費魔力が上がる。

世界の扉(ワールドゲート)

 ○自身が作成した異空間への扉を出現させる。任意で維持・解除可能。


 そんなある日、ミレーヌが気分転換に出かけようということで領都の南部にあるレキスタという街に足を運んでいた。馬車に揺られること3時間ほどの場所にある。流石に4歳の俺はメイドであるカナンがついていく、という条件ではあるが。


 護衛としては侯爵家お抱えの領邦騎士団の兵士数人が目を光らせている。彼らはこの国でも屈指の実力を誇っているほどだと教えてくれた。

 シュトレオンはライディースとメリルが家に残って勉強に四苦八苦していたのを思い出し、申し訳なさそうな表情でつぶやいた。


「何か、二人には申し訳ないことをしたかなと思っちゃいます」


「正直教えられることはほとんどないのに、レオンは勉強熱心ね」


「たった一年で文字の読み書きはおろか、学園に行くための勉強を終えちゃいましたからね。旦那様が頭を抱えておいででしたが」


「臆病なぐらいがあの人らしいのですよ」


 実はミレーヌだけでなくカナンにも水晶のことがばれてしまっている。でも、母の機転のお蔭でこの二年特に困ることなく過ごせていたのだ。なお、貴族として必要な礼儀作法は下手に敵を作りたくないので、必死になって詰め込んだのだ。その余った分を異空間でやることに費やした。


 レキスタは農耕の街で、主だった農作物は葡萄。しかし、それはワインなどの飲料目的ではない。ここの葡萄は酸味がかなり強いので主に調味料として加工・出荷されていた。まずはこの街を治めている領主の館である領主邸に入ると、この館の主が三人の到着を待っていたようで、胸に手を当てて挨拶をした。


「これはミレーヌ様、遥々ご苦労様です。そちらはひょっとして」


「はい、私の自慢の息子です。レオン、この方はミシェル子爵で、この街を治めてくれている領主様よ」


「はじめましてミシェル子爵。私はバルトフェルド・フォン・アルジェント・セラミーエが四男、シュトレオン・フォン・アルジェントと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「4歳なのにこれほどしっかりした子とは、流石才女と謳われたミレーヌ様の子であらせられますね。私はこの街を任されているミシェル・フォン・イルーツク子爵です」


 そうして簡単な自己紹介を済ませた後、シュトレオンはカナンに連れられる形で街を歩くことにした。領都と比べると、農作物が並んでいることが多い。ここでシュトレオンはふと視線を違う方向に向けると、建物の壁に寄りかかって苦しそうな男性の姿を見つけた。


「ねえ、あの人苦しそうだけど…」


「あの方は、酒造の所長さん!? いったい何が…レオン様!?」


 何かの病気なのかは解らないが、放っておくわけにもいかない。シュトレオンはカナンの静止よりも先に飛び出し、その男性に『状態調整』をかけた。この魔法、感情だけでなく状態異常関連にも有効な代物なのだ。

 すると、苦しそうだった男性は突然痛みが消えたことに目を丸くしていた。


「え、あれ……苦しいのが収まった。坊主、お前のおかげか?」


「はい。何か苦しそうだったので……」


「レオン様、急に行かないでください!」


「ごめん、カナン」


「おお、カナンちゃんじゃないか。ってことはそこの坊主は…」


「はじめまして。バルトフェルド・フォン・アルジェント・セラミーエが四男、シュトレオン・フォン・アルジェントと申します」

 

 ともあれ、ここで長話するわけにもいかず、二人はその男性の案内で酒造に案内された。漂ってくるアルコールの匂いにシュトレオンは思わず顔をしかめてしまい、これにはその男性も笑みをこぼしていた。男性はガタイがよく、いかにも職人と思わせるような作業用の服装であった。


「俺はここの酒造を任されているゴルドという。よろしく頼むぜ、レオン坊」


「ちょっと、ゴルド様! すみません、レオン様。この人はこういう言葉遣いなので」


「いいんですよ。こういう人だからこそミシェル子爵も信頼してるのだと思いますし」


「ははは、物分かりがいい子は長生きできるぜ? さて、さっきは助けられちまったな。本当に礼を言う」


 さて、簡単な自己紹介も終わったところで先ほど苦しんでいた様子についての原因を尋ねると、ゴルドは渋い表情でこう言った。


「実は、この酒造の売り上げが落ちてきてな。南からの安い調味料の輸入が増えたせいもあるのだが、葡萄の品質が落ちてるんだ。てなわけで、ワインの開発を打診されたんだが…」


「その試飲の繰り返しで苦しんでいた、ということですか?」


「そういうことになるな。いやはやお恥ずかしい限りだ」


「まったく、無茶はしないでくださいね。旦那様も心配なさりますので」


 ここの葡萄の品種は酸味がかなり強く、若干の苦味もある。なのでワインには向かず酢系統の調味料として活用されているそうだ。そこに最近似たような調味料が増えたため、売り上げが落ちてきているらしい。今は何とか今までの儲けの貯蓄を切り崩してやっていけてるが、数年のうちに底をついてしまうという状況らしい。


 そこで、シュトレオンはアイテムボックスから一房の葡萄を取り出した。アイテムボックスを使えることにも驚いたようだが、テーブルの上に置かれた葡萄の存在にゴルドとカナンが首を傾げる。


「坊主、この葡萄は?」


「ゴルドさん、試しに食べてみてください。何でしたら、僕が最初に食べて見せますが……うん、いける」


「ふむ……っ!?」


 シュトレオンが一粒食べて何もないことを証明したことに毒はないと判断したゴルドも一粒だけ取って口に運んだ。すると、ゴルドの表情が驚きに包まれている。身の中の種を静かに手に取ると、信じられないような表情でシュトレオンとカナンを見ていた。


「ぼ、坊主。この葡萄はいったい何なんだ。こんな甘い葡萄なんて初めて食べたぞ!?」


「そ、そんなに甘いんですか!? ……すごい、本当に甘いです!!」


「これはここの葡萄を改良したものです。育て方は同じですが、既存の品種と混じらないような場所で育てるといいかもしれないです」


 シュトレオンはそう言って、大量の種が入った袋をゴルドに手渡す。これには二人も驚きを隠せない様子だった。そのついでにワインの施設を見せてもらえないかとお願いすると、快く案内してくれた。

 さあ、領内の改革第一歩と行きましょうか。民がこれからも幸せに過ごすためには必要なことだからね……4歳でやることじゃないとは思うけれど。

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