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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第63話 テンプレにテンプレを重ねてテンプレとする

 季節は初夏。雪もすっかり融け、青々とした小麦が生長する姿を見るのは季節を感じられる。そんなことを思いつつ、シュトレオンはセラミーエの屋敷へ赴いていた。別の貴族家とはいえ、血縁という関係を切るのは嫌なので月に一回は出向いていた。ここまでは転移魔法もあるのでさほど苦にはならないが。

 屋敷に着くと、そこでライディースとメリルの家庭教師を務める人物とばったり出くわした。


「おや、シュトレオン君じゃないか。久しぶりだね」


「お久しぶりです、アザゼルさん」


 彼はアザゼルと言い、エントワープ大陸から北東にあるスタルジック大陸、通称『魔大陸』と呼ばれる場所の最大勢力の国を治めていた先代魔王。俺の曽祖父であるレオンハルトとは酒飲み友達の関係だった。

 魔大陸とは言っても木が一本も生えていない荒廃した土地というわけではない。ただ、年中雪が積もっている気候の関係で作物が育たないため地上には城を作り、地下に都市を作って耕作などを行っているとのこと。種族の扱いはその国によるが、彼の治めていた国は種族関係なく能力と人格に問題がなければ積極的に登用していた。その証左として、彼の直近の部下の一人は人間であり、その曾孫が現魔王の近衛として務めていると聞いた。


「二人の様子はどうですか?」


「いやはや、あそこまでの才能は珍しいと言うべきか。流石はレオンハルトの曾孫たちだ。無論、シュトレオン君もその一人だね」


「恐縮です」


 話を聞くと、これから二人に魔法の訓練を行うとのことで、その二人を待っているらしい。できればそちらも見ておきたいが、こちらは貴族としての仕事で訪れていることを述べてその場を後にした。興味がないというわけではないが、物事には優先順位があるのでそれに従うだけの話だ。個人的には兄と妹の成長を見てみたいのが本音。


「シュトレオンです。入ってもよろしいでしょうか?」


『ああ、入ってくれ』


 執務室には父であるバルトフェルド。そして顔見知りである一人の少年―――ルイスがいた。それを見て礼をしつつ二人の近くに歩み寄った。二人の表情はというと、ひどく疲れ切っていた。近々ルイスは俺の姉であるエリザベートと結婚する。その準備の真っ最中にルイスがアルジェント家を訪れた理由……当人の代わりにバルトフェルドが口を開いた。


「近々エリザベートが彼と結婚するのは無論知っているな? 私も認めた話だし、彼の母親も是非と好意的に受け取ってくれた。そこまでは良かったのだがな……」


「カイエル子爵家に問題がないとすると、外部から何か圧力が? それもアルジェント家絡みで」


「正解だ。ロゼッタス国土相が割り込んできた……どうやら、その後ろ盾はリッツェルト公爵家らしい」


 ロゼッタス国土相は自身の息子を婿候補として無理やり押し込むような動きを見せると同時に、先日の前子爵長男の一件を持ち出して『かの浪費家の息子など、どうせ同じことにしかならない』と主張し始めた。それを含めた様々な妨害をして、アルジェント辺境侯家とカイエル子爵家を仲違いさせる腹積もりとバルトフェルドは推測を述べた。

 ここで強権を使っても良かったのだが、下手なことをすると『アルジェント家は王国転覆を狙っている』などと根も葉もない噂を流すのは明白。リッツェルト公爵家はそれだけの影響力を有してしまっている。本当に腐っても公爵家というのは厄介極まりない。


「今更結婚式を取り止めるつもりはない。我らだけでなく、寄り子の貴族たちにも悪影響が出かねない」


「そもそも、何故リッツェルト公爵家は目の敵にしているのですか? レナリア母様の一件にしたって、結局は自分達の身から出た錆でしょうし、自業自得かと思われます」


 絶縁したとはいえ、本来の筋からいえば公爵家に連なる血筋を残せたことに喜ぶのが筋なのだが、自分の兄達は既に将来を決定づけられている。なので、まだチャンスのあるエリザベートに強権を使って影響力を残そうと目論んだのだろう。


「レナリアの件は言ってしまえば止めだな。発端は現国王の妻である王妃絡みだ」


 エリクスティア王国においては、歴代の国王は十家ある公爵家から妻を迎え入れる慣習が存在した。だが、ライナーの反乱による一件からその方針を廃止。それを指し示す証左として、先代国王は現国王の妻に関して『貴族の上下には拘らず、器量の良い者と息子が認めた者を妃として迎え入れる』と公言した。当時リッツェルト公爵家には王国でも一、二を争うほどの美貌を持つ女性がいて、選ばれるのは確定と口々に噂された。

 しかし、選ばれたのは軍務系の下級貴族の少女。元々辺境防衛という要職のため社交界にはあまり姿を見せていなかった貴族からなど、と不満を漏らす声も多かったが先代国王が鶴の一声で完全に黙らせた。さらに、現国王は彼女以外の妻を娶る気はないと公言。貴族たちの不安を解消するように7人の子宝に恵まれた。


 それで完全に割を食ったのはリッツェルト公爵家。結局その女性は別の公爵家に嫁いでいったため、現リッツェルト公爵は現王妃の家系の縁戚に連なるアルジェント家を憎むようになったと説明した。それを聞いた感想として、思わず言葉に出てしまった。


「最早言いがかりのレベルですよ……」


「ええ、まったくもってその通りです。とはいえ、相手は公爵家である以上面倒なうえ、決闘を申し出てきました」


 ルイスが言うには、王都近郊の森で第三騎士団立会いの下で魔物討伐の勝負を受けることになってしまった。なお、ルール上では助っ人を頼んでもいい、ということとなっている。それを聞いたシュトレオンは一つの提案をした。


「ルイスさん、その助っ人に制約は?」


「強いて言うなら冒険者の資格ぐらいかな……もしかして、シュトレオン子爵」


「僕が助っ人に入ります。あとは、親衛騎士にも声をかけておきます」


「いいのか?」


「まぁ、色々思うところはありますが……カイエル子爵家のことがあったから、僕も陞爵できたようなものですので。その恩返しみたいなものですよ」


 積極的に関わりたくもないが、リクセンベール家当主として公爵家絡みの一件に首を突っ込むのは将来の禍根を断つ意味合いにおいても重要であると結論付けた。にしても、十家ある公爵家のうち既に四家と何かしらかかわりを持った貴族は珍しいと思う。別にこちらから望んだわけではないと断言する。

 それに、シュトレオンはカイエル子爵家の裁定の当事者であり、二人の婚姻の提案者だ。それに、裁定のことがあったからこそアリーシャとメルセリカの婚約にも繋がった。結果論に過ぎないが、これも一つの恩としてしっかり返すのが筋だと言った俺に、父は苦笑を浮かべてこう呟いた。


「お前が加われば、相手に勝ち目などない気もするが……何かしら小言を言われそうだ」


「どっちにせよ言うかと思います。向こうからすれば、美味く扱える領地持ちの貴族は貴重ですから」


「何にせよ今更だな……すまない、シュトレオン。本来なら寄り親であるアルジェント家で解決しなければならないというのに」


「何を言っているのですか、父上。僕も父の血を引いたアルジェント家の人間であり、『獅子(レオン)』の名を継いだ人間ですから」


 家としての袂は別っていても、血の繋がりまで断つことはできない。リッツェルト公爵家がそれと公爵家としての権威を利用するのなら、こちらも利用できるものはすべて利用する。向こうがそれで騒ぎ立てたとしたら、一連の騒動の根幹を揺るがしかねない。実の娘から既に絶縁であると突き放されたのに、それを盾にしてやってきた側に咎められる謂れなどない。

 とりあえず、一度王都の屋敷に転移して親衛騎士を集めた。従士らには屋敷の警護をしっかりするよう言い含め、アスカにもある程度の差配をお願いすることとした。ルイスの婚姻のことを聞いて、複雑な表情を見せたのは他でもないリリエルだった。


「あの子は、本当に優しいんです。私を姉として慕ってくれていましたし。なので、今回は賭け値なしに全力を出します」


「間違っても敵を殺めるんじゃねえぞ?」


「どういう意味ですか、ラルフ!」


 決闘のルールは5人一組で規定の時間内にどれだけ魔物の素材を集められるか。対決フィールドとして指定されている王都近郊の森はシュトレオンだけでなくリリエルやラルフ達も結構な頻度で狩りをしている。お互い妨害行為に出ないようエリア指定は当日発表となり、素材を入れる魔法の袋は当日貸し出したもののみとする徹底ぶり。

 その森の最深部ではS級以上の魔物も出たりするが、そこまで興味はなかったので行ったことはない。というか、大体素材はアトランティスで事足りるから、他の冒険者の領分を犯す必要などないと結論付けたからなのだが。


「今回ばかりは(本気は出さないけど)自重はしない。それで、僕は提案者だから出るし、リリエルは身内だから確定だけれど……残り3人をどうしようかなと」


 親衛騎士はリリエル、ラルフ、ハイネ、シャーリィ、そしてシャルロットの5人。今回は森の最深部へ行くことも想定するため、万全は期す。アスカは情報収集に専念してもらい、ノブユキとイブキは屋敷の護衛に就く。そして従士達の指揮をする意味でもちゃんとした人間を残すと考えた結果


「ラルフ、屋敷の留守を頼んでもいいかな? 決闘を考えるなら痛手だけれど、しっかりとした実力者が留守をしてくれるのがいいと思うし」


「レオン様、そこは命令じゃないんすか? というか、シャルロットを連れていくんすか?」


「逆に連れて行ったほうがいいと判断した。ハイネとシャーリィの意見はどうかな?」


「最近は結構手合わせしてますけど、瞬間的な膂力はかなりのものかと」


「下手に手を出そうものなら、命が無くなりそうです」


「先輩たち、ひどい言いぐさです」


 誰か一人を残すなら、実力があって理知的に行動できるラルフが最適解だと判断した。シャルロットの練度なら周りに後れを取らないという判断もあったりする。とはいえ、指定された日は一週間後に現地集合。そこで何かしらの襲撃も考えられる。単純な力押しだけでなく、状態異常を目的としたことだって考えうる。なので、『世界地勢』についてはフル活用となるだろう。


 1週間後とはいっても、万全を期すためにルイスにちょっとした装飾品と装備を渡した。あのぐらいのものなら、王国でも腕利きの付与師ができる程度に留めた。そして、貴族の護衛ということで冒険者の身分として同行することにした。親衛騎士の面々には騎士の装備ではなく冒険者の装備を渡している。

 さらに決闘を抜かりなく進めるため、森の近くにある街に前日宿泊する方向で出発したのだが、シュトレオンは目の前に映る光景を見て溜息を吐いた。


「で、彼らは誰の依頼で?」


「口を割る気はないですね。ただ、彼らはギルド総本部所属の冒険者なのは間違いないです」


「尋問でもしますか?」


「時間の無駄だからパスで」


 案の定、襲撃をかけてきたのだ。それも冒険者が数パーティという事実にまた溜息が出そうになる。そのパーティのいくつかは冒険者家業をしていた時にすれ違った程度。知りたい情報をある程度引き出したうえで、彼らに魔法をかけて解放した。


「レオン……いえ、シオン様。彼らに一体何を?」


「彼らには『僕らを退治するまではいかなかったが、怪我を負わせることができた』という情報を与えて解放した。そして、その情報を急いで依頼主に届けるよう仕向けた」


「暗示系統の魔法って、確か上級以上と聞いたことが……」


「……まぁ、秘密にしといて」


 冒険者家業をしている時は『シオン』と登録している。本名や『レオン』だとこの国ではすぐにばれることが多いのでその為の措置だ。元々本名を縮めただけだから関係のない偽名を名乗るより安全性は担保されるだろう。知り合いに会ってしまったらその限りではないが。

 それは置いといて、襲った連中にそういう暗示を与えれば慢心してこれ以上の襲撃を緩める狙いと彼らを泳がせて黒幕をきっちりと洗い出す狙いがある。アスカにも指示を出した。後者は上手くいけばという前提なので、絶対成功させろなどとは言わない。


 そして、その後は特に襲撃もなく街に到着して、決闘当日を迎えることとなった。決闘を有耶無耶にするためスタンピードを引き起こすことも想定したが、それはなかった。その理由はというと、街の宿で夕食を取っていた時、周りの客が噂話をしていたことに起因する。


『おいおい、聞いたか? あの『クリムゾンゲイツ』がこの街に来てるらしい』


『マジかよ!? でも、何でこの街に来てるんだ?』


『噂によると、大貴族様の依頼らしいぞ。ロゼッタス公爵の御曹司の姿があったらしいって、武器屋のオッサンが零していた』


 そのパーティ名は聞き覚えがある。王都でも指折りの冒険者パーティで、とりわけ汚い仕事でない限り報酬金で請け負う凄腕の連中らしい。実際に会ったことはないのでその腕前は知るべくもないのだが。そして、ロゼッタス侯爵の御曹司はというと……聞いたイメージをまとめると『典型的なキザで上から目線を欠かさないお坊ちゃま』ということのようだ。

 夕食後、宿の部屋で一応最終確認をすることとした。そのパーティの情報を持っていないか尋ねると、手を挙げたのはハイネであった。


「実は王国軍の採用試験で彼らが担当教官をしていたんですが……確かに、実力はかなりのものです」


「含みがあるように聞こえるんだけれど、何か問題が?」


「元々東部出身で、辺境騎士団や領邦騎士団のペイルアウトで構成されてます」


「うーん……そうなると、割と良識があったりするのかな? リリエルは東部方面のことって何か知ってたりする?」


「領邦騎士団は地方で特色が出ますけど、東部の場合は領邦騎士団が出張るパターンが多くて、行きたがらない兵士が多いです」


 辺境騎士団はその性質上、王都第三騎士団と同等の扱いとなる。外敵から国を守る最前線の兵士として位置づけられているのだが、貴族家お抱えの騎士団と揉め事を起こすこともあったりするため、人格的に問題ないと判断された人が選ばれる。更に、衣食住などの環境は各々の地域に依存するため、東部の場合は国内でも一番過酷とされており、騎士を辞める人が絶えない。南部の場合はここ数十年間病気や事故などの止むを得ない場合を除いて辞めた人間はいない。

 話が若干ずれたが、その東部の騎士団を辞めて冒険者稼業で有名となっている。そのパーティの存在自体が東部の状況の酷さを物語っているのだろう。それを雇った彼らは思うところなどないと高を括っていそうだが。


「毎年騎士団の選抜には頭を悩ませてました。そうしたくなくても『お前は使い捨てだ』と言ってしまうようなものですから」


 腕利きの冒険者パーティを雇い入れている以上、向こうは既に勝った気でいるのだろう。とはいっても、こちらとてまだ勝ったとはいえない。勝負は終わって初めて判明するのだから。念のために襲撃を警戒しつつ眠りについた……その際、夜間の襲撃はあったが怪我などもなく決闘当日の朝を迎えることができたのであった。



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