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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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閑話11 ギリアスから見た、棚ぼたの苦悩

 私の名はギリアス・フォン・ゴルハーケン。先日まで伯爵、ついこの前辺境伯へと陞爵した。

 他人からは野心を形にしたような容貌だと口々にされることが多い。失敬な、私ほど臆病で小心者な人間はそうそういるものでない。まぁ、確かにようやくチェリとの争いで先祖伝来の地を踏めたことは僥倖であると思うし、領地を離れる前に墓地を訪れて両親に報告と別れを告げた。


 先祖の墓の管理はヴァレンティン騎士爵家が引き継いでくれるとのことで、素直に頭を下げた。護衛の騎士は辺境伯が頭を下げるなどと、とは言ったが諌めた。特に繋がりのない貴族が墓の管理を行ってくれるのだ。それに対して頭を下げられないようではこの先、頭を下げることなどできはしないだろう。


「しかし、旦那様が態々膝を着くなどと……周りは慌てましたよ」


「謁見のついでに墓参りはできるが、以前のように頻繁というわけにもいくまい。墓荒らしだってないわけでもないのでな。それを強く約束してくれたのだ。礼をするのは当然のことだろう……貴族という前に人としての問題だ」


 正直言って、エリクスティア・ヴェラジール・メロックスの三国合同反攻作戦を纏めた功績を評価されたのは嬉しいことだが、メロックスはともかくとしてヴェラジールとは東部貴族の連中絡みで国同士の関係はあまり宜しくない。最初からその線で交渉は進めていたが、あまりいい感触は得られていなかった。


 だが、ネルガイヤー将軍伯の拘束と投降により、合同作戦はすんなりまとまった。その功績を上げたのはシュトレオン・フォン・リクセンベール男爵……後日、子爵へと陞爵した。まだ10にもなっていない人物の功績が大きかった。


 バルトフェルド外務相によると、メロックス王国を動かせたのはグランディア帝国の食糧事情が軍を動かせるだけの備蓄を持ち合わせていないこと。そしてヴェラジール共和国については、その絡みで多大な利益を上げたことが理由となっている。その裏で動いていたのは紛れもなくその人物だと聞き及んだ。流石にこれは国家機密にもなりうると理解したので、そのことはごく一部の人間しか知らない。


「政治と経済に強い人間と聞いたときは身震いした。そしてオームフェルト公爵相手に一歩も引かなかった……到底私には真似もできないし、及びもしない」


「では、如何されます?」


「寄り子の貴族連中に潰すという邪な考えは直ちに捨てろ、と口煩く言っておくべきだろう。彼はノースリッジ公爵家の次女が婚約者となっているからこそ、余計にな。彼のお蔭でゴルハーケン家は父祖の地を踏めるのだということは、息子や娘たちにも恙無く言っておかねばならん」


「……不安が残ると?」


「当たり前だ。特に息子達は東部の騎士団に所属している。変な選民思想を植え付けられて戻ってくることはあってほしくない」


 完全な希望的観測という他ない。先日の遠征では息子達がその中に含まれていなかったが、それはあくまでも現時点での話だ。最悪の事態も考えておかねばならない。私も健康に気を遣う年頃となってしまった。これでも国王よりは一回り弱若いが、カイエル前子爵のようなことがいつ自分に降りかかってくるか解らないからな。


 宛がわれた領地は今までもいた場所よりも雪が深かった。これは早々大変な試練かと思ったが、その領地の民は暖かくゴルハーケン家の皆を出迎えてくれた。その理由をとある村の長が教えてくれたのだ。


「我々はネルガイヤー将軍伯、今は侯爵でしたな。その方々にこう言われたのです。『たとえ誇りを捨てても、心は捨てるな』と。私も父からゴルハーケン家のことを聞いて育ちました……その悲願を見ることができて、嬉しく思います」


 初代ゴルハーケン家当主はとにかく民と同じ視線に立った上で領地運営を執り行っていた。できない分野はその分野のエキスパートに任せ、領民に混じって開墾や農作業を手伝ったりと泥塗れの貴族、などと笑いものにする貴族もいた。だが、当の本人は気にも留めなかった。


『そんなことに無駄な労力を費やすのなら、民の食糧を稼ぐために農地を耕すほうが遥かに有意義なことよ』


 覇権や領地争いにも耳を貸さず、我が道を進む……その心を民が皆受け継いでいた。いつかまた、ゴルハーケン家が戻ってきてくれることを切望して。そして、ネルガイヤー家はそれを守り抜いていた。どんな形であれ、それが豊かな生活を送るために必要なのだと。チェリの連中は軽んじていたからこそ、その心を変えることができなかった。


「私の力など、大したものではないな。だが、ここからが本番よ。先祖の遺してくれた民と心に泥を塗るような真似は許されない。春には領邦騎士団も結成となるが、しばらくは研鑽の日々よ……ノースリッジ家に指南役を頼み込まねばな」


 すると、ノックの後に扉が開く。姿を見せたのは一人の女性。私からすればよく知る人間だ。何せ、彼女は私の妻の一人なのだから。


「あなた、あまり根を詰めすぎるとまた義姉上に怒られますよ」


「解っている。正直なところ、ここに連れてきたかったが無理もない」


 彼女が義理の姉と呼んだのは私の第一夫人。彼女は妊娠中のため、大事を取って王都の屋敷にいる。正直離れるのは心苦しかったが、貴族の務めを果たせと言われてしまったため第二夫人の彼女と一緒に新天地へと移り住んだ。正直言って、チェリの連中が体面を気にして立派な屋敷を建てていたことは嬉しくもあったが、これを建てるためにその負荷を受けた民に申し訳なく思ってしまう。


「そういえば、何か用事でも?」


「そうでした。先程実家から手紙が届きまして」


 彼女は準男爵家の令嬢で、出会いとしては偶然王都ですれ違ったこと。俗に言う『一目惚れ』というものだ。その時既に正室は決まっていたのだが、側室も決めろという周囲の声にうんざりして外出していた……そんな時に出会ったものだから、私の行動としてはその場で声を掛けた。

 当然、相手は不審に思ったことだろう。その時の私は貴族だと解らないよう王都の一般大衆が身に着けるような服装をしていたのだから。近くの喫茶店に誘い、その時は軽くお茶をして連絡先を交換する程度で終わった。


『えっ!?』


 次に出会ったのは、王立学院の記念式典であった。私は外務職を務める傍ら、学院の常任理事も兼任していた。彼女はドレス姿を纏ってその場にいた。当時学生だったということは、声を掛けた時に考えもしなかった。それは彼女も同様で、学院の関係者でしかも上流貴族などとは思いもしなかったのだろう。


 加えて、私の第一夫人は学院の教官をしていて、彼女はその教え子であった。結局トントン拍子で話が纏まり、第二夫人として嫁いできた。その時彼女の父である準男爵は頭を深く下げていた……幸せにしないと、私が殺されてしまいそうだと思ってしまったが。


「そろそろ、孫娘の相手を探されるべきと心配しておりました」


「そうか、確かに来年で15歳。いい加減婿探しをしてやらねばいけないか……だがな、難題でもある」


「ええ」


 私にとっては彼女との初子である長女のことだ。第一夫人とは男子2人、第二夫人とは女子4人と見事なまでの綺麗な線引き。今度生まれてくる第一夫人の子もどうやら男の子らしい。女系家族という貴族も王国内に存在しているが、これはこれで不可思議だと内心苦笑した。


 ゴルハーケン家は第四位辺境伯の家柄へと成り上がった。先日の功績を鑑みれば、ここで無理に公爵や王族に連なる縁戚といった高い位を求めるのは他の貴族から反感を買いかねない。現に次期当主となる長男は財務職を務める伯爵家から嫁を迎えている。次男は分家の当主として男爵家令嬢を娶った。

 ここまで次代への枠組みが組まれている以上、公爵家・侯爵家に嫁を送るのはそれを下手に壊しかねない行為だ。下手をすればいいとこ取りをしようと目論見、乗っ取りを危惧してしまう。先日知り合った新興貴族に嫁を宛がう手段もなくはないが、そうするとそれらの乗っ取りを一層警戒されることだろう。


「アルジェント外務相とリクセンベール外務卿にお伺いを立ててみるか……っと、それで思い出した。以前私に相談していた一件がらみだが、例の娘達の一人をそなたの兄の嫁として送り出そうと思う」


「それは宜しいのですか?」


「ケストレル男爵殿が賛同してくれた。男爵の養女として縁を結び、嫁がせる。ゴルハーケンの血筋はこれで保たれるだろう。里長にも了承は取り付けている」


 領地調査の折、村長から極少数しか知らない隠れ里へ案内された。そこで暮らしていた里の長は何と生き別れたゴルハーケン家の生き残りだという。実に数百年ぶりの邂逅……彼らが独自で伝えていた家系図は本家で戦死したと思われていた人物その人だというから驚きだ。彼らの隠し持っていた持ち物から、紛れもなくゴルハーケンの一族だと判断するに至った。

 里の長の子は男子1人に女子3人。このうち女子を外の貴族に嫁がせてほしいと打診された。その代わり、男子の嫁としてケストレル男爵家令嬢を送り出すこととした。その伝手でケストレル家次期当主となる男子に女子の1人を、残る2人は男爵家の養女として他の貴族に送り出す流れだ。


 ただ、長年秘匿されてきたことを鑑みれば下手に一つの貴族として扱うのは困難。よって、新たな領地の代官として彼らを迎えることとした。

 我が家としての格を保つならそのまま送り出すのが最良。しかし、目立ちすぎれば要らぬ妬みを買うのもまた事実。幸いにして隠れ里の娘達は貴族としての素養はあれども爵位を持たなかったので、この話はすんなり通すことができた。ケストレル男爵家を通すのは家の乗っ取りを限りなく薄れさせる狙いがあり、彼らにとってみれば他の貴族との繋がりを得ることができる。


 正直言って、気は進まないがこれも家を守るためのことだと割り切った。彼女達からすれば、私は良からぬ企みを実行する意地汚い貴族に見えるのだろうな。それを察したのか、第二夫人は私を優しく抱きしめた。


「貴方は優しすぎます。少しぐらいは我侭を言っても許されるかと」


「我侭なら言っているさ。我が道を通しているのだからな……お前達には感謝しているよ」


「あら、うふふ」


 父は鬱憤が溜まると冒険者稼業と称して魔物狩りに勤しんでいた。そんな父を見て育った私も他の貴族との付き合いで鬱憤が溜まると、王都近郊の森で狩りをすることが多い。外務職に就いている人間は基本外交官を兼任しているので、腕を錆びつかせないための意味合いも含んでいる。

 先日、偶然にもリクセンベール子爵と同行することになったのだが、その腕前には驚嘆させられた。聞けばあの歳でSランクと聞いたときは開いた口が塞がらなかった。魔神討伐の事実は嘘や誇張ではないと改めて知ったのだ。


 国王陛下も信頼なされている貴族だからこそ、刃を向ける事は下策。落としどころを作って少しでも利を得る……過分な欲は己の身を亡ぼすからな。先日のへステック前軍務相がその代表的な例だろう。


「兄に手紙を書いても握り潰しそうなので、リクセンベール外務卿に送ります。旦那様からアルジェント外務相にその件をお伝えしていただけますか?」


「ふむ、そなたが言うならそうしておこう」


 彼女には言わなかったが、残る女子1人の伝手をアルジェント外務相に打診した。元々ノースリッジ宰相にその件は相談したのだが、功績配分を考えた上で『今回関わりのない貴族がいいだろう』という答えが返ってきた。

 アルジェント外務相には4人の息子がおり、三男を除けば皆貴族の当主として独立している。なので、その三男に宛がおうと打診したのだ。変に拘るよりも何かしら良い感触を得られれば、という軽い気持ちだったのだが、後日王都でヘンケンブルク公爵主催の晩餐会に出席した際、セルディオス辺境伯と対面することとなった。


「ゴルハーケン卿、此度は真に感謝する」


「これはセルディオス卿。して、感謝とは一体?」


「ふふ、アルジェント辺境侯家の件ですよ」


 何と、三男はセルディオス辺境伯家の後継ぎとして勉学に励んでいるとのこと。そのために、辺境伯家は現当主の姪を養女に迎えて彼と婚姻を結ぶことまで伝えられた。これでゴルハーケン辺境伯家は南部の有力貴族であるアルジェント辺境侯家、セルディオス辺境伯家、そしてリクセンベール子爵家とつながりを持つこととなる。

 そこまで考えた上で打診したわけではないのだが、予想以上の成果に思わず頭を抱えてしまった。例えて言うなら、ゴブリン退治のはずがドラゴンを退治してしまったぐらいのレベル。今後は慎ましく、鍬などを手にして農地開墾でも勤しみたいと心なしか思ってしまったのだった。

どんどん本人の知らないところで増えていくライディースの嫁

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