表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
66/114

第54話 女性たちの鋭さと強かさ

「……レオン」


「いえ、こうなることは解ってました」


 溜息を吐くバルトフェルドとシュトレオン。そして、その周囲を取り囲むように王妃やバルトフェルドの妻たちを中心とした女性陣に取り囲まれていた。ほかの男性陣は早々に寝室へと切り上げ、親子でいろいろ話し込んでいたのが拙かった。

 こうなった原因は一つであった。屋敷の大浴場に置いたシャンプーや石鹸といった代物……これは、実験の過程でできたものであった。辺境騎士団の一件からどのみちばれるのは時間の問題と割り切って置いていたが、美に対する女性の欲というものは末恐ろしいと思う。


「レオン君、王城にも卸してくれないかしら? そっちの言い値で買うから!」


「それなのですが、折角ですし相談したいと思いまして」


「どういうこと?」


「流石にこういう系統には疎いものですから。ならば、それをよく使っている女性の方々に判断してもらうのが良いかと思いまして」


「成程、確かに道理ね。……エリス、いくらが適正かしら?」


 シュトレオンの言葉を聞いて王妃はエリスに尋ねた。王妃の出自の一件から兄嫁であるレナリア、エリス、ミレーヌと仲良くなり、度々お茶会という形で王城に招かれるようになっていた。元々同じ学院に通っていたころから知り合いであったので、それが親友関係になったというだけの話だ。


 正直、材料原価だけで言うと2ルーデル前後で済む。高級石鹸はグラハルトブルの数に直結するので、それでも10ルーデルはする。なお、高級石鹸は匂いを抑える効果があり、試しにバルトフェルドが使ったところ普段なら香水を使うところが気にしなくてもいいレベルになったらしい。加齢臭にも効果覿面であるのが判明したので、いくつか個人的に渡していた。

 なのでシュトレオンが想定している売価は、シャンプーやトリートメントは仲介料込で各1本当たり11ルーデル、高級石鹸は薬用でもあるので20ルーデルが最低値と考えていた。


 だが、エリスの弾き出した売価は驚くべきものであった。その値段を聞いて思わず噴いてしまった。


「あの洗髪料は各500ルーデル、石鹸は1000ルーデル以上の値段が付くわね」


「ぶっ!! エ、エリス母様、本気で仰っているのですか!?」


「勿論よ、レオン。一般的に出回っている石鹸だと此処まで綺麗にならないもの。それに……あなたが香水をあまりつけなくてもよくなった理由は、おそらくこの石鹸であると推測しました」


 女性の直感は本当に侮れない。いや、この場合は美に対する執念というべきか。エリスにそう言われたバルトフェルドはあからさまに視線を逸らしていた。

 というか、完全なぼろ儲け商売である。原価に人件費や仲介料を加えても利益しか出ない。シュトレオンは一息吐き、アイテムボックスから大浴場に置いたものに加えて色々テーブルに出した。通常のシャンプー、リンスインシャンプー、トリートメント、普通の石鹸、高級石鹸といった代物だ。


「これらはリスレットで作っているものです。卸自体はアルノージュ商会とティルミス商会に任せるつもりなのですが、販売については別のところにお願いしたいと考えてます。目立つと色々大変なので」


 現に、二つの商会は食品・家具・遊戯品でかなり儲けている。これ以上多忙にさせて首を回らなくしてしまうのは心苦しいと思う。なので、これらの品は二つの商会で卸してもらい、別の店で販売することにした。ガストニアについては別の皇室御用達の店で取り扱うと既に決めている。


「それなら、私が引き受けましょう。懇意にしている商店をいくつかあたってみますから。それと、レオン君にいかないよう情報統制はしっかりやらせてもらうから」


 結果として、エリクスティア王家御用達の宝石店で取り扱うこととなった。宝石店に入る以上は自然と身だしなみに気を遣う事となるので、そこで洗髪などのものを取り扱うなら問題はないと判断したそうだ。現に香水も宝石店で取り扱っているらしい。試しに買ったが、匂いがきつすぎて使うのを止めた。これには父と母たちも同意見だった。


 この日以降、王妃の綺麗さに磨きがかかったことを疑問に思った使用人や近衛騎士らから口コミで広まることとなる。売り上げとしては初月で4万ルーデルの利益……こうなることを想定して設備を組んでいたのが幸いした。


「ホント、すごいわよね」


「ご機嫌ですね、エリザ姉様」


「それもう、ね。ほら、レオン。アリーシャ様が褒めてほしいと強請っているわよ」


「べ、別にそんなことはありませんわ! ……その、どうでしょうか?」


「より一層美しさに磨きがかかりましたね。眩しすぎて手が届かなくなりそうです」


 後日、王城に呼ばれてお茶会に参加することとなった。テーブルにはシュトレオンの他にエリザベートと王妃、アリーシャがいて、その傍には警護としてメイドが数名控えている。そのメイドなのだが、アスカ曰く彼女の一族に似通った動きが垣間見えたと聞いた。そういえば、初代国王の手記にはヤマシロの一族という忍びの集団を召し抱えていたと記載があった……機会があれば聞いてみよう。

 それは置いといて、シュトレオンがそう褒めるとアリーシャは顔を真っ赤にして俯いていた。すみません、お世辞なんですけれど反応が初々しすぎるような気がするのです。そう思って王妃に視線を向けると、言いたいことを察してくれたのか、ため息混じりに説明した。


「夫が親馬鹿だということは先日お話ししましたが、それこそこの子の兄であるレクトールやカエサルですら遠ざける有様で……遠出する際も、お付きは女性の騎士だけにするほどの徹底ぶりでしたから」


「成程」


 王族がここまで懇意にしてくれるようになった理由はいくつかある。

 先日献上した宝剣だが、あれはかつてグランディアがチェリ大公国やメロックス王国まで支配下に置いていた頃、当時のエリクスティア国王がそれを振るい強大な帝国軍を一掃した逸話がある代物。だが、その側近が宝剣を盗み出し、かれこれ300年ほど行方知らずだったそうだ。そんな代物だなんてその事情を知らない人でないと誰も分からないと思う。

 

 あと、典礼となる王太子の儀の件。実はそれを執り行うための資料や口伝がほぼ消失していたため、第十代国王以降行われていなかったのだ。偶々ガストニアで初代国王の手記だけでなく、エリクスティアで定めた儀式について継承されていたことが功を奏した。その特需でガストニアとイスペインはかなりの儲けを得ることとなる。

 ちなみにだが、イスペイン王国は深刻な後継者不足に陥っているためにガストニア皇国への併合へと話が進んでいる。第14次作戦によって唯一の王位継承権を持つ王子が亡くなったためだ。この原因を作ったのは他ならぬオームフェルト公爵家お抱えの領邦騎士団なのだが、その事実はイスペイン国内外の事情を鑑みて未だ伏せられている。そもそも、攻めた側であるエリクスティアもその事実を知らない。


 外国の事情はさておき、王太子の儀は国事となるので費用が掛かる。総額を合わせれば億単位の金額になるのは明白。なので、その一部を出すことにした……ざっと1億ルーデルほど。それを聞いたニコル財務相が思わず目を見開くほどの驚きようは今でも思い出せるほどだ。


「レクトールの王太子の儀とカエサルの公族の儀、それにティファーヌの降嫁。恙無く執り行えるのは本当にありがたいと思えることよ。だけど、大丈夫なの?」


「大丈夫です。個人的な商売でだいぶ稼がせて頂いておりますので、そこから出しただけですから」


 流通関連の手数料、王城に卸している代物の代金、そして偶に冒険者稼業と剣術や魔法の訓練と称して魔物討伐をしたりしているので、月収換算で行くと1億ルーデルは超えている。これに役職や貴族の給与が加わると……ほぼぼろ儲けである。セラミーエの税収だと約2000万ルーデルになるので、アルジェント家だけでなくその関係者も恩恵を受けている。

 アルジェント家をはじめとした南部の貴族の儲けぶりを快く思わない人間がいるのは当たり前の話だが、いちいち語るのも億劫なので割愛する。


「そこまで稼げるなんて、ホント凄いわね」


「王宮筆頭魔導師も十分すごいと思いますけれど、姉上」


「わかっちゃいるけど、言わないとやってられないのよ。気が付けば、私も貴族の仲間入りなんだから……母上の気持ちが今の立場になって解るわ」


 王宮や離宮に入れる貴族は非常に限られている。王国を存続させるうえで必要な処置なので、別段おかしくはない。王宮筆頭魔導師となったエリザベートは従三位導師伯(どうしはく)の位を授かり、当代限りではあるが貴族の当主となった。そして、来年には結婚を控えている。お相手は次期カイエル子爵であるルイス・フォン・カイエル。南部はお祝い続きなので、出費のことを考えて6月あたりを目処にしているとのこと。


 なお、エリザベートの前任者はリッツェルト公爵。何と、彼女の実母であるレナリアの実家。しかも、エリザベートの出自や結婚のことを知った公爵がここぞとばかりに自身の息子を使って、エリザベートの婚姻を押し込もうとしてきたのだ。これを聞いたレナリアは何と実の父であるリッツェルト公爵に直接直談判することとなり、その際にこう言い放ったそうだ。


『こちらから絶縁したのにまだ縋る気なのですか? 母上には既にお知らせしましたので、キツイお灸を据えてもらってくださいね。恥を知れ、クソ親父』


 とても貴族らしからぬ言葉を聞いた気がする。というか、娘が父にこのような暴言を許されるのかという疑問はあるだろう。何せ、この会談は王族が主体となって取り持った経緯がある。その際、どのような結果になってもお互いの発言の揚げ足取りを禁ずると誓約を取り交わしたので、そのような発言が容赦なく出たのだろう。

 公爵本人はレナリア曰く『金と権力にがめつい下衆』と実の娘に酷評される始末。公爵夫人のほうはまだ理知的であり、夫人曰く自分の息子ではとても釣り合いが取れないだろうし、泣いて帰ってくるのが関の山だと冷静であったそうだ。

 ただ、それを納得できなかった公爵が控えの騎士に命じたのだが、機先を制するようにレナリアはその騎士をあっさり押さえつけた。騎士よりも動きにくいドレス姿だったのにだ。さらに素手で。もはや意味が分からない。


 元々そういう親が嫌で家を飛び出し、一人の女性として見てくれたバルトフェルドに恋焦がれて結婚した。ならばこそ、娘が幸せとなるような結婚相手を探すのは至極当然の感情。それに、夫の血を引く息子たちが格式の高い令嬢を娶るので、そこまで考えなくてもよいのは溜飲が下がったことだろう。


 それはさておいて、顔を真っ赤にしたまま俯いているアリーシャを見て、溜息が出てきそうな感じで口に出した。


「にしても、そろそろ戻りませんかね?」


「……これは、少々荒療治が必要そうね。レオン君、こういう時は王子様のキスで」


「婚前交渉に含まれますから、ダメですって」


 キスについては、こちらからしたことはない。唇同士でのファーストキスは未だ大事にとってある。ほら、親愛の挨拶で異性の手の甲にキスをする行為はした、というかやらされた。相手はアリーシャとメルセリカだったのだが、やられたほうの二人は顔を真っ赤にしつつも口惜しそうにしていた。

 7歳相手にどないしろと言うのか。せめてちゃんと成長してからでしょう……精神年齢24歳の悲しい性である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ