第5話 未来のために兄妹を逞しくプロジェクト
祝言の日の翌日、早速魔術神の加護で空間が作れるとのことだったので、部屋にある姿見の鏡を魔法で改造した。結果からいうと、実験は成功した。
「うん、悪くはないけど……広すぎね?」
草原やら山脈やら森やら湖……どんだけの広さになってるの?
ひとまず、転移の門を守るための拠点づくりとなった。特にこっちでの生活を考えていないので、頑丈な砦にした。強度は可能な限り最大強度にしたら、魔力がほぼ尽きかけた。
この空間、元の世界と時間の経過を変えられるようになっていて、その辺は時属性の魔法でできるのだがそれだと面倒だ。何かその辺を解消できないかなと悩んでいたら、創造魔法ができると脳裏に浮かんできた。
「よし、これで楽になるだろ」
シュトレオンが考えたのは『状態調整』という魔法。異空間において天候・時間経過・土壌などの条件を事細かく調整できるようにした。一応、人間を含めた動物全般の感情もコントロールできる優れものである。
記憶を取り戻す前のシュトレオンは色んな植物の種を集めていたようで、中には果物や野菜の種まであった。ここに自分が暮らしている領地の気候を疑似的に再現した上で最適な作物に改良していく目的がある。やれることからやっていくのが一番良い。
さて、いい加減自分のステータスを見てみるか。
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【名 前】シュトレオン・フォン・アルジェント
【種 族】人間
【称 号】転生者
アルジェント侯爵家四男
神々に愛された使徒
【レベル】1
【体 力】37/37
【魔 力】297079/297079
【能 力】
攻撃:AAA
防御:AAA
俊敏:S
知力:SS
抵抗:S
【スキル】
武芸の極み
(武術+威圧+闘気
+気配感知・遮断・隠蔽)
身体強化 Lv10
魔術の極み
(無・火・水・風・土・光・闇・時属性
+魔法消費軽減+魔力感知・制御・収束
+魔力隠蔽+複合術式)
生活魔法 Lv10
創造魔法 Lv10
固有魔法 Lv1
【加 護】
八神の加護 Lv10
創造神の加護
・無属性・創造魔法使用可
・ステータス隠蔽ができる
・他にもいろいろあるよ
鍛冶神の加護
・火属性魔法使用可
・???
・武芸・鍛冶系スキル強化
スキル取得の簡易化
商業神の加護
・水属性魔法使用可
・アイテムボックスが使用可
・商業系スキル強化
スキル取得の簡易化
農耕神の加護
・風属性魔法使用可
・動植物の性質を自在に変化可能
・農耕系スキル強化
スキル取得の簡易化
技巧神の加護
・土属性魔法使用可
・???
・技能系スキル強化
スキル取得の簡易化
生命神の加護
・光属性魔法使用可
・???
・回復・再生系スキル強化
スキル取得の簡易化
魔術神の加護
・闇属性魔法使用可
・魔道具作製・異空間生成ができる
・魔術系スキル強化
スキル取得の簡易化
遊戯神の加護
・時属性魔法使用可
・錬金術ができる
・敏捷系スキル強化
スキル取得の簡易化
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……ナニコレ? バグ? 故障? そんな感想しか出てこなかった。ともあれ、いろいろと実験していくこととなった。
さっそく異空間で戦闘経験を積むことにした。とはいえ、剣術に関しては殆ど素人だし、魔法に関しても素人という他ない。不幸中の幸いは、ヴァーニクスとマルタから加護をもらった時にそこら辺の使い方も知識として頭に流し込んでいたようで、とりあえず魔法からやってみることにした。
「こういうときって大体血液のイメージだけれど……お、感じるようになった」
魔力循環を全身の血管を使って巡らせるようにすると、うっすらと力を感じる。これが魔力なのだろうと思う。そして思いつく限りで八属性の魔法の実験をしたのだが、気が付くと目の前は草原の面影が完全になく、荒野と化していた。
『状態調整』で時間経過を戻せば元通りなのだが、これも魔力を使うので程々にすべきだろう。転生前に抱いていたイメージがすんなり使えたのはありがたいが、今後色々実験することは多いだろう。あと、無詠唱のことは色々気を付けておくべきだと思っている。
次に剣術。ということで、ここはオーソドックスに鉄製の剣を使うことにした。作成は土魔法と錬金術でいけるかなとやってみたら一発成功した。
更に魔力を適度に纏わせる。最初は注ぎ込みすぎて、一回振っただけで消滅した。力を持ちすぎるというのも考え物である。さっそくエンカウントしたのはファンタジー序盤でお馴染みのスライム。それに向かって剣を振り下ろすと、スライムは斬れるというより魔力の余波で消し飛んだ。ついでに地面も深さ3メートルほど抉れた。ショックを受けつつも地面を元に戻しながら呟く。
「……自然破壊しないようにしないと」
それだけならまだ許容範囲だったのだが、手加減の練習をするためにスライムやらゴブリンで練習し、転移魔法の実戦練習もかねて森に潜った。死角あたりに狙いをつけてオークやドラゴンを調子に乗って狩りまくっていたので、魔力残量に気づいて慌てて砦に戻ったところでステータスを見て絶句した。体感的に数時間しか経ってないはずなのに、レベルが100を超えていたのだ。
この世界はレベル500が最大値であり、達人クラスと呼ばれる人は一般的にレベル250とされている。で、俺の現在のレベルはベテランクラスに入る。わずか3歳でベテランとか意味わからない。3歳でも大人みたいな体持っているのならまだ納得できるとは思うが、歳相応の身体でしかない。
転生前の俺は、人から良く『達観しすぎている』と言われたことがある。だが、俺自身そんな風には思っていない……と、以前祖父に言ったら『お前は何を言っておるんじゃ』と笑いながら答えた。別に特別な能力があるわけではないし、学業も運動も人並み程度のどこにでもいそうな普通の人間だ、とか友人に言い放ったら周囲からジト目で睨まれた。解せぬ。
それが、転生したら3歳でベテランレベル? はっきり言って、まだまだ未熟というほかない。力はあっても技術なんて素人もいいところだ。
普通ならここで『俺、天才じゃね?』となるのかもしれないが、最終目標はいい嫁さんと結婚して一緒にスローライフである以上油断はしたくない。油断や慢心は自分の命を危険に晒してしまうからね。一度前触れもなくポックリ死んで転生しているので死亡フラグは御免である。
この空間での目的は大まかに三つ。
・領内で採れる作物の改良。
・自己鍛錬
・魔道具の作製
将来スローライフを送るにあたって、一つ目はかなり大事だ。この世界の農作物は病気などになることはなく、雑草などを抜くことと水気の管理と魔物などの外敵の対処ぐらいだ。
なので、作物本来のおいしさを引き出せるようにしていくのと、それを可能な限り市井の常識でできるような農耕をしていく方針だ。根幹となる第一次産業は大事だし、生きていく上で食べ物は重要なファクターだ。この辺りは父に相談案件かな。
二つ目もかなり大事。生き残らなければ話にならない。それが三つめに係ってくる。とはいえ、元の世界でやると目立つので、この世界で全てやっていくことになるだろう。幸い、魔物はこの異空間でも存在するので、それを狩って経験値を稼いでいく方向で固まった。
でも、あまりこの空間に居続けるとばれるのは時間の問題だし、とりわけメリルは俺に構ってくることが多い。なので、まずは彼女の気を引けるものを作ろうと思う。
そうして創造魔法で魔法を生み出し、加護を使って作り出したのは水晶玉。中には透明の液体が満たされており、これには理由があったりする。
元の世界に帰ってくると、少ししてメリルが入ってきた。彼女はシュトレオンの持っている水晶玉に興味津々だ。
「おにいさま、それは?」
「ああ、これかい? よかったらメリルにあげるよ」
「いいんですか?」
「うん。でも、ほかの人には内緒だよ。隠すのが難しいなら、この部屋に置いても構わないし」
「そしたら、あずかってくれますか?」
「いいよ」
そう、これはメリルパワーアップ計画の一環だ。無論、ライディースもパワーアップ計画も目論んでいる。貴族とはいえ、危険が付きまとうのは当然のことだ。ましてや、魔物という存在は避けて通れない。俺が四六時中守れるわけでもないからね。
それに、メリルは曲がりなりにも侯爵家の娘なので、嫁に迎えて縁を結びたいと考えている貴族は多いそうだ。
父は言葉に出さないものの、まだ二歳だというのに早くも未来の婚約者として声がかかっているとエリスが零した。メリルにとって仲の良いシュトレオンに話すことでストレスを和らげたいということかもしれない。
ライディースは三男だが、うちの長男は剣に関していうと王国で五本の指に入っているらしく、次男は学生の身分で遠征軍に従事し、生還しているだけの実力を持っているそうだ。
その二人が暗殺でもされない限り、ライディースに継承ということにはならないだろう。俺なんてもってのほかだ。それに、彼がしっかりとした実力を持ってくれさえすれば、俺は安心して家を離れることができるという算段である。
ならば、ある程度の実力を今から育てていくのが一番いいと判断した。だが、危険なことはさせられないので、できるだけ安全なトレーニング器具を考案したという塩梅だ。
この水晶玉は魔力制御・収束・操作の訓練だけでなく、各属性の魔法を室内でも安全に行使できる魔法訓練用の魔道具なのだ。水晶の中に入っているのは魔素を大量に含んだ水になっている。身体強化の訓練にも応用できるので、別に魔法主体でなくとも使い道はあるのだ。
一応俺の考え付く限りの最強威力魔法でも破れない自動修復結界能力持ちで、しかもメリルとライディースにしか使えないようにしてある。
訓練をしすぎないようにある程度の現在魔力値になると自動的にストップする機能も織り込み済みだ。子供って興味があることだと歯止めが利かなくなるので、安全ストッパーは必要だ。俺も身体は子供だけどね。
現状のシュトレオンは加護のせいで既に超級まで使えているが、それ以上のものもあるみたいなので、覚えたら水晶を改良する予定である。
俺は感覚で魔法行使できるが、他の人には難しいし、そもそも教えるのが大変。ならば、ここの特性に合わせつつ遊び感覚で勉強ができるようにするのも、モチベーションを高める一つの方法である。
後日、ライディースがメリルのものを見て欲しがったので、同じ水晶玉をプレゼントしているのだが、それをミレーヌに見つかって色々と聞かれる羽目になったのは言うまでもない。