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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第47話 武芸の決闘ではないのに正当防衛

「よくぞ逃げずに来たと誉めてやろう」


「それはどうも。有難く受け取らせていただきます」


 エリクスティア王都、市街地の一角にある巨大な構造物。この中世時代に近いものにしては、完全なドーム型の建築物となっている。コロシアムというよりはスタジアムと言っていいかもしれない。

 何せ、外観を解りやすく言うなら高校野球の舞台となっている球場に屋根を付けたものとなっている。一部は改修されて、強化ガラスと思しき透明な仕切りのある王族や一部貴族用の観客席も備えられている。このまま道具でも作ったら野球の試合がすぐにできそうなぐらいだ。

 もっとも、違うのはその地面に置かれた石造りの円柱状に拵えたリングがあることぐらいであろう。


 普段は各種武芸大会や騎士団などの武闘大会に用いられている。どこかの屋敷でやるのかと思えば、ヘンケンブルク家の力を使ってねじ込んだようだ。


「だが、私の勝ちは揺るがないであろう。聞けば、付与師を雇えなかったそうじゃないか」


 決闘までの期間内、シュトレオンは王都内に住む付与師の元を訪れていた。無論、これはルール内で行っていたことなので、反則ではない。だが、そのどれもが難色を示して断ったのだ。その裏取りはアスカによって判明しているが、ここで言うことでもないので押し黙ることにした。


 どうして態々そのようなことをしたのかといえば、アルノージュ商会へ用事を済ませるついでのポーズみたいな感じだ。これで相手に慢心させることができればいい程度の感じだったのだが、予想以上の効果が出ていることに笑いを禁じ得ない。


「そうですか。公爵殿はさぞ御高名の付与師を見つけられたのでしょう……なら、慎ましく行かせていただく所存です」


 決闘の方法は至って単純。双方が出した物を鑑定し、評価を行う。その審判は双方に不利がないよう、ニコル・フォン・ウェスタージュ・レター辺境侯とディアス・アデレード司教、そして王妃であるアリシア・セルデ・エリクスティアの三人で判定する。


 決闘にはつきものである賭けなのだが、そのオッズは下馬評通りの有様であった。マイクのオッズは1.2倍、シュトレオンのオッズは14.5倍という格差。やはり現実味がないと思われても仕方ないと思い、内心溜息を吐く。

 対するマイクの表情は物凄く自信に満ち溢れている。それに添えるかのように実況の声がスタジアムに響く。その声に呼応するかのごとく観客席から歓声が上がる。何だかんだで娯楽という代物がないのは確かなことだと思う。


「これは注目の一戦だぁ! 噂の魔神殺しの英雄リクセンベール男爵と実力未知数のヘンケンブルク公爵の一戦です!!」


 評価戦は決闘を申し込んだ側が先制側となる。これについては、むしろその方がありがたいと思ったからだ。自慢げにマイクが歩を進め、審判席の前に用意されたテーブルに代物を置いて元の場所に下がった。用意したのはティアラであった。その内容はというと……俺は鑑定を使い、レベルの低さに絶句した。


(え? 相当の付与師雇って、『闇属性耐性』と『毒耐性』の二つって少なくないか? いや、効力としては申し分ないと思うけど、あれだけ貴石がついてるのなら10個以上行けると思うんだが)


 予め言っておくが、シュトレオンの付与魔法のレベルが明らかにおかしいだけであり、『闇属性耐性』と『毒耐性』が付いているだけでもこの世界では王族への献上品として十分なレベルである。ちなみに、以前神礼祭の時に贈った装飾品は魔神クラスの攻撃を無効化する結界魔法を付与している。使用魔力はほんの少しで済むことも十分おかしいことに作った当人は気付いていない。


 それを鑑定する三人の表情は驚いたような素振りを見せているのだが、どこか物足りなさを感じるような印象を受けた。それに気付いていないマイクは勝利を確信したような笑みをこちらに向けていた。そのうえでこう言い放った。


「これで最早勝負は決した。降参するがいい。君の名誉はそれで守られる」


「公爵殿、これは決闘です。この場に上がった時点で覚悟は決めております」


 俺はそう言い返して答えを聞くまでもなく、歩を進めてテーブルの前に着くと、懐から探る振りをしてアイテムボックスから小さな箱を取り出す。そして、その蓋を開けてテーブルの上に乗せると、元の場所に戻った。


 小箱に収められたのはひとつの指輪。白銀に輝くリングには蒼い宝石が填め込まれている。指輪自体のデザインも天使の翼を思い起こすかのような装飾が施されているが、指自体の動きを阻害しないような配慮もされている。


 審判を務める三人は驚きを隠せない。大きさで言えばマイクの持ち込んだティアラに軍配が上がる。だが、実利という観点から述べると……指輪に軍配が上がる。何せ、指輪に付与された効果は『防腐』『不懐』『状態異常無効』『消費魔力軽減』『魔力蓄積』『危険察知』の6つ。主に魔法使い用のエンチャントを組み込んだのだ。

 

 ちなみに言っておくが、それらの技能は現行の付与魔法において不可能とされている。複数属性を扱える人間でない限り難しい。だからこそ、シュトレオンはエリザベートにその技術を教えた。コネづくりに長けた自身の姉ならば、力の危険性も理解した上で使ってくれると思ったからだ。

 ニコル辺境侯はディアス司教とアリシア王妃を見やると、二人も同調するように頷く。それを見たニコル辺境侯は立ち上がって勝者の名を宣言する。


「此度の評価戦……勝者、シュトレオン・フォン・リクセンベール男爵!!」


「なっ!? ウェスタージュ辺境侯、どういうことですか!?」


「実に簡単な話です。貴方の持ち込んだティアラも非常に完成度が高い一品と言えるでしょう。ですが、リクセンベール男爵の持ち込んだ指輪はそれよりも優れており、加えて日常生活で使用しても支障がないようになっています。王族という観点から述べれば、普段身に着けられるもので身を守れるのが一番うれしいというのは、貴方ならわかることでしょう?」


 王族という立場から狙われる可能性は高い。つい先日のことから考えても、襲撃阻止は喫緊の課題であった。ティアラ自体公式の場でしか身に着けない物である一方、シュトレオンが提出した指輪は日常生活に用いても問題ない装飾とエンチャントが掛けられているので、これはその要望水準を満たしている。

 しかし、マイクはなおも食い下がろうとする。


「し、しかし、その魔導具は捏造という可能性も」


「それについてはない、と断言いたしましょう。司教殿、その指輪の評価は?」


「間違いなく本物であると断言できます。王妃陛下は先程からずっと手放さないほどですし」


「そうね、私が欲しいぐらいよ。後で交渉しようかしら」


 こうなっては、最早シュトレオンの勝ちは揺るぎない。審判役である三人はもうその方向で固まっていた。だが、マイクは納得がいかなかった。たかが男爵程度に公爵が敗れるなどというプライドもあったのだろう。彼はアイテムボックスから剣をを取り出し、シュトレオンに向かって振りかざした。不意を打たれた形となり、その凶刃を周囲に止められる術はなかった。


 だが、シュトレオンは冷静にその剣を止めた。指一本で。正確には、108つ同時展開した防御魔法を右手に集中させて覆った。これにはマイクが目を見開く。だが、彼がその原因に気付く暇もなく、シュトレオンは徐に右手でその剣を掴むと、マイクをシュトレオンから見て左側の壁に向かって軽く投げつけた。

 剣ごと投げつけられた彼は壁に衝突して煙が発生、衝突の振動がスタジアム全体に響く。煙と振動が収まると、壁には人間の大の字をきれいに切り取ったかのような穴が開いていて、その近くには先程までマイクが握っていたであろう剣が落ちていた。

 手についた汚れを落とすかのように両手を叩くと、一つ溜息を吐いた。


「……すみません、いきなり襲われたので反射的に対応したら、壁壊してしまいました。弁償は致しますので」


 シュトレオンはそう言って、壁の向こうで気絶しているマイクをフィールド内に戻した上、土魔法で壁をきれいに修復した。すると、スタジアムは静寂から一転して歓声が巻き起こった。一体何が起こったのかという疑問にニコル辺境侯が笑みを零しつつ答えた。


「君は名実ともに決闘の勝利者となったんだ。何か望みはあるかな?」


「……ヘンケンブルク家に可能な限りの配慮をお願いします。今回の一件はセルゲイ卿から教えていただいたことで対処できましたので」


 復興したばかりの新興貴族なので、今回の件で目立ってしまったのは言うまでもない。ならば、相手方がかなり不利な状況に陥らないよう配慮はしてほしいとシュトレオンは素直に頭を下げた。敵という存在は、可能ならば少ないに越したことはない。

 ある程度の処罰は必要だが、それで下手な恨みを買いたくない。それに、決闘の相手が優秀な能力を有していることは周知の事実。なら、それを無用と簡単に切り捨てるのは得策でないと考えた。


 結果、マイクは許可なく剣を振るった殺人未遂罪として公爵の貴族位と総務庁の幹部職を剥奪。しかし、能力は優秀なため総務庁の特務部署へと送られる。ここは未開発地の開拓を取り扱う多忙な部署であり、俗に言う『城の孤島』と呼ばれる部署での勤務を命じられたのだ。


「本当に感謝する、シュトレオン殿」


「下手に恨まれるのは嫌でしたから。これでまた殺意を向けるようなら、次はもうありませんと言わせていただきますが」


「それは解っておる。あ奴はリクセンベールという名を軽んじておったゆえ、今回は良い薬となることを期待したい。わしからもキツイ仕置きをする予定だ。今度の週末、付き合ってくれぬか?」


「例の件ですね。是非伺わせていただきます」


 飛竜やワイバーンの狩りと称したセルゲイのマイクへの説教が行われ、それを傍から見ることとなった俺はこうならないよう改めて気を引き締めたのであった。初心忘れるべからず、という言葉はリクセンベール家の家訓として取り入れていくことにしようと思いつつ、久々の冒険者の仕事に精を出した。

 マイクはそれ以降シュトレオンへ恨みなどを抱くことは一切なく、優秀な平民の役人として大成していくことになるのだが、それはまた別のお話。


 だいぶ落ち着いたので、そろそろセラミーエに戻る頃合いとなった。だが、シュトレオンは屋敷の引っ越しの関係でセラミーエではなく王都に住むことが決まっている。それを聞いたメリルがシュトレオンに抱き付いて、涙目で駄々をこねたのだ。


「いやです! レオン兄様がセラミーエに帰らないのなら、のこります!」


「……メリル。父上やエリス母様を困らせるようなことはいけないよ。我侭を通したいのなら、ちゃんと認められるよう貴族の子女として磨きをかけなきゃいけない。それは理解しているよね?」


「わかってます。でも……兄様に変な虫が付かないか不安なのです」


「あのね、僕とメリルは結婚できないからね。仮にそうなったら、風聞は宜しくない……というか、こういう説得は父上とエリス母様の領分ですよね? そこのお二人、露骨に目線を逸らさないでください」


 何で妹の説得を母違いの兄がやらなければならないのだとバルトフェルドとエリスに対して不満を漏らしつつ、メリルをしっかりと説得した。

 ひとまず、リスレットの時と同じように月一でセラミーエに帰ることを条件とした。どの道リスレット絡みの報告で丸一日潰れることもあったりするので、そのついでみたいなものだが。


 バルトフェルド、エリス、ライディース、メリルはセラミーエに戻ることとなった。その後、俺がセラミーエに飛んでバルトフェルドを連れてくる手筈となっている。屋敷の人選の件について連絡があったので、バルトフェルドも同席させてほしいと王城からの手紙に書いてあったからだ。


 その内容を聞いたジークフリードはこう呟いた。


「明らかにレオン前提の話だよね」


「迷惑を掛けてすみません、ジーク兄様」


「はは、唯でさえ恩返ししてないのに、謝られたら長男として立つ瀬がないよ。秘密は守るさ。それが兄としての義務だと思うからね」


 そして、分家であるアルジェント男爵家も領地に戻っていったのだが、娘であるアリエッタとシャルロットは残っていた。というか、アリエッタはヴェイグのいるアルジェント伯爵家に預けられ、シャルロットは一時的にアルジェント本家預かりとなった。シャルロットはリクセンベール家の屋敷が正式に落成したら、そちらに住むこととなる。表向きはシュトレオンの護衛扱い。


「この前、エルフの騎士さんと戦った。何か認められた」


「まじか……」


 フィーナのお墨付きも貰った為、暫定措置で親衛騎士とした。親衛騎士は領邦騎士団の兵士に準ずる形であり、一応役職給ということで月収4000ルーデル(日本円換算約40万円)の給料が相場とされている。勲章などの給金収入を含めても、支出自体誤差の範囲内になっているのが悲しい性である。


 ちなみに、最初は護衛の危険性も考慮して月収7000ルーデルまで引き上げようかと考えたのだが、『下手金を持ちたくない』ということを四人から言われて最低相場に落ち着いた。解せぬ。


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