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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第46話 何でも出来るようなら苦労はしない

「このマイク・フォン・ヘンケンブルク公爵の言うことが聞けないとは、不忠者めが! というか避けるな!」


「受けたとしてもこちらに利がありませんので。お帰りはあちらです」


 予想していた通り、父や兄達と王城から帰ったところでセルゲイの息子に遭遇する羽目となった。振り返り際に手袋を投げつけてきたので躱した。二度も躱したものだから、相手は憤慨していた。

 容姿的には俗にいうイケメン。総務庁の幹部職に就いていて、職務や人付き合いの評判はさして悪くはないと聞いた。ただ、一つ欠点を挙げるならば『異常なまでの原理主義者』という点だろう。それを公的な場にまで持ち込んでないあたりは高く評価できるのだが。


「お前のような成り上がりの男爵が王女殿下の許嫁とは、断じて許されぬことである!」


「でしたら、国王陛下を直接説得されたほうがよろしいかと思われますが? ヘンケンブルク公爵殿ならば、それも可能であると考えます」


「ぐっ……」


「それに、アリーシャ王女殿下を強引に奪ったとなれば、陛下からお取り潰しはまだしも降爵は免れないでしょう」


「公爵たる私を脅しているのか!?」


「いいえ。直に陛下とお会いして、そう感じただけの独り言にございます。癪に障ったようでしたら申し訳ありません」


 セルゲイとの会話でこうなる展開を予想していたため、帰る前に国王へ尋ねたのだが……彼はこう断言した。


『あやつが交渉してきても、わしは断るつもりじゃ。ガストニアの皇族が懇意にしておるお主との縁を切れば、それこそバルトフェルドの名誉にも泥を被せるようなものだからな。強引な手を使うようなら、降爵も考えねばならぬ。……そうなったらわしは、お主にどんな詫びをせねばならない? 頼む、ここは何とか耐え忍んでほしい。場合によってはわしの名前を出しても構わぬ』


 エリクスティア初代国王の末裔にして、現ガストニア皇国の皇族であるリクセンベール家。その後ろ盾を得たも同然のリクセンベール男爵家を蔑ろにする選択肢はない、とハッキリ示したのだ。それに、王国に対して多大な功績を上げているアルジェント辺境侯家への侮辱にもなってしまうと。


 その際に父と同じようなことを言ったので『そこは必要なものがありましたらお願いします』と保留にした。今の段階で領地なんてもらっても余すのは目に見えているからだ。リスレット郊外の件は父やジェームズ子爵に任せている部分が多いのでノーカウント。


 結局、隣にいた父が殺気を込めて睨んだため、セルゲイの息子もといマイクは『覚えてろよ!』という捨て台詞まで吐き、逃げ帰るようにその場を後にした。それを見て、シュトレオンはバルトフェルドのほうを向いて頭を下げた。


「申し訳ありません、父上。お手数をお掛けしてしまって」


「いや、気にするな。この程度でお前から受けた恩など帳消しにはならないだろうからな……レオン、いっそのこと決闘を受けるというのはどうだ?」


「それも考えたのですが……実は、2年前父上に見せて以来自分のステータスを見ていないのです。理由は察していただけるとありがたいです」


「理解はした。強くなるというのも、面倒なものだとこの歳になって気付くことになるとはな」


「まだ十分若いと思いますよ、父上は。何せ、帰って早々に狩りへ行こうという元気がおありなのですから」


「はは、一本取られたな」


 この事態がこれで終わるはずもなく、翌日には決闘をするという流れとなっていた。この辺りは公爵家の力を使って流布したのだろう。


 ただ、その方式というのはよくある一対一の決闘方式ではなかった。

 それを知ったのは、アルジェント家の屋敷にマイクの父親であるセルゲイが訪問してきたからだ。応接室には俺が応対することとなったのだが、セルゲイは口を開くと同時に深々と頭を下げた。


「申し訳ない! あのバカ息子がとんだお騒がせをしてしまった。この詫びは必ずしよう」


「頭を上げてください、セルゲイ殿。仮に受けるとしてその方法はどうなりますか?」


「それなのだが、王女殿下への献上品で勝負をするということとなった。ようは魔導具での評価対決だな」


 シュトレオンが魔神討伐と盗賊団捕縛という功績から、マイクは武芸による決着ではなくそれぞれ持ち寄った魔導具による対決を提案してきた。期間は一週間で、その間相手へのいかなる妨害は禁止とされている。

 そんなルールは建前上のものだろうと考える。どうせ妨害しないという根拠なんてないに等しいのだから。


「誰かに制作を依頼するのはルールに含まれていませんが、これは可能なのですか?」


「可能だな。ただ、既に出回っている高ランクの魔導具は評価の対象外となる。そのための評価をするアイテムは王宮から貸し出す流れとなっている……本当に、悩ましい限りだ」


「つまり、陛下が決闘をお認めになったということですか」


 認めたというか、多分これ以上面倒事になるのを避けたかったのだろう。どんな形であれ向こうから言い出した決闘で負けて反論するようなら、それを降爵の理由にもするつもりのようだ。そうなった場合、爵位だけでなく総務庁内の地位も降格になる。

 セルゲイは既に隠居しているので名誉公爵なのは変わりないが、父親として責任を取って返上するつもりらしい。名誉公爵とはいえ王位継承権は実質第三位なため、変なお家騒動は御免こうむるというのが彼なりの尤もらしい理由だ。


「陛下のことですから、返上しても適当なポストを宛がうであろうと思いますが」


「で、あろうな」


 幸いなのは万が一長男を排した場合セルゲイに次男がいることなのだが、彼はまだ13歳で未成年。なので後見人としてセルゲイを貴族の地位に残すのは既定路線だろう。そのことを理解しているためか、セルゲイは溜息を吐く。


「だが、勝算はあるのか? おそらく息子は腕利きの付与師を雇い入れて、かなり気合の入れたものを作ると思うが」


「今は問題ありません、とだけ。何を作るのかは当日まで秘密ということでお願いいたします」


「それぐらいはお安い御用だ。元々こちらの不手際だからな。とはいえ、勝負事は対等にしてもらう故に息子の情報は流せないが」


「構いません。こちらばかり有利になってしまっては公平な勝負になりませんので」


 伊達に王都の散策をしていたわけではない。あらゆる情報を細かく調べ上げ、その辺りの技術レベルも確認したのだが……何もかもが発展途上のレベル。ダンジョンや遺跡などから発掘される古代魔法文明時代の出土品の性能に頼り切っている部分が多い。その品もほとんどが『あれば割と便利な代物』でしかない。

 もはや世界が疲弊というレベルではなくなっていると思う。魔法の才能が重宝されるのもこのあたりが起因しているのだろう。


 一応作るものは決めている。その材料はアイテムボックス内に死蔵しているものを使えば問題ない。その大半がレベル上げや魔法の訓練などによって生じたものなのはここだけの話だ。


 例えば、服飾関連を勉強したいがために糸欲しさで異空間内のカイゼルタランチュラを瞬殺し、繭と巣を回収して時空魔法で時間を巻き戻して再び出現させるというループを実践した。時間巻き戻しは本人を巻き込んでもアイテムボックス内は別空間扱いとなっていて増減なしという代物なので、存分に使っていた。年齢相応の維持は異空間でしか使っていない。どこかの事件を呼び込む体質を持つ高校生?探偵ではないので。

 他にも魔物の倒し方を学ぶために時空魔法で時間を停止させて観察したりした。できるだけ頼らない戦い方をするには敵を知ることが最良と考えたからだ。


 そんなこんなで異空間であれこれ好き勝手やったものだから、今のステータスを見るのが余計怖くなった。何せ、この前風属性魔法では初級のライトニングを、偶々出てきていたアクアサーペントという魔物に本来必要な魔力の感覚で打ち込んだら一発で炭化した。解せぬ。


 力はあっても、技術を磨くことは怠っていない。レオンハルトから継承した剣術を再現するための鍛錬も欠かさずに行っている。魔力操作や魔力量の研鑽も同様である。目標はのんびりスローライフなので、そのために手の届く範囲だけでも守り切りたいと思う。それ以上は贅沢というか我侭になってしまうから、この辺が妥協点だと思っている。


 転生前、俺は高校に入って剣道部に入ったのだが、その時の目標は『漫画で見たような凄腕の剣士になりたい』という目標を密かに立てていた。入学式の日に祖父が急逝して、その遺品整理の時に出てきた数本の刀を見たときに閃いた。この時は、『祖父は刀を密かに集める趣味があったのだろう』ぐらいにしか認識していなかった。

 当然、先輩らは懐疑的な目で見るだろう。『一か月もたないのでは』と。だが、その程度の視線など既に通った道なので今更、といった感じだ。俺も一年生は雑用ぐらいだろうな、と思っていた。


 だが、先輩の一人が無理矢理勝負を挑んできたため、仕方なく返り討ちにした。そうなった理由は、どうやら俺の祖父のことを人伝に聞いていたようで、何も知らない俺からすれば『どういうことなんだ?』という疑問しか浮かばなかった。俺の知っている祖父は剣のことなど微塵も感じさせない生活を悠々と送っていたから。


 で、その先輩が昨年個人戦でインターハイ出場していたことから、急遽エントリーを組まれた。結果は……インターハイ個人戦優勝。学校中は大騒ぎだが、俺としては怪我の功名みたいなものと割り切った。妹からはジト目で『お兄ちゃん、生まれる世界間違ったんじゃないの?』と言われてしまった。

 失敬な、俺は普通です。神様でも悪魔でも天使でも魔神でもない、フツーの人間です。実際ポックリ逝ってしまったからね。どこかのしょうもない神様のせいだけれど。


 閑話休題。


 とはいえ、付与魔法のことを下手に知られるわけにはいかない。助っ人を使ってもよいということから、シュトレオンが真っ先に助っ人を頼んだのは……赤い髪を持つ自身の姉、エリザベートであった。


「へぇ~、魔導具の出来栄えを競う決闘ね。それで、私に何をしてほしいのかしら?」


「簡単な話です。僕自身で組んだ付与魔法を教えますので、姉上にはこの石に付与してほしいのです。内容はお任せしますが」


「ちなみにだけれど、レオンの付与魔法ってどこまでできるの?」


「ある程度のことは可能です。少なくとも王都の図書館にあったスキル一覧はほぼ網羅できます」


「……私の知ってる限りだと、よくて中級レベルまでしかできないって聞いたんだけれど」


 この世界において、付与魔法を使うためには汎用術式に加え、付与したい技能に合わせる形で各属性の魔法を同時行使する必要がある。


 だが、その方法では効果が薄れてしまう。

 原因は現行の汎用術式にある。殆どの人が知らないことだが、現行の汎用術式の行使では何と全属性の資質を持っていないと起動しないという事実がある。たとえば、祝言で宝玉を光らせるのに10の資質が必要ならば、汎用術式に関しては全属性1以上の魔力資質があれば起動できる。

 もっとも、宝玉が光らないというだけで切り捨てられているのが現実であり、実に勿体無いことをしている。アリーシャとメルセリカに渡した水晶はその鍛錬プログラムを無意識的にできるよう組んであることは俺だけしか知らない。


 話が逸れてしまった。

 なので、俺の付与魔法は汎用術式を大幅に改良した付与魔法専用の基本術式を用いている。これならば必要な属性のみを取り出して付与できるため、効力は高い水準となる。これをエリザベートに教えるのは王族を守るという意味合いも含まれており、彼女はそれを察したのか苦笑を浮かべていた。


「これなら、王族を守るための装飾品も作れそうね。姉としては弟の才能に妬いちゃうけれど」


「ただ、デザイン系統は門外漢なもので。なので姉上にお願いをしたのです」


「了解したわ。……なら、アレにしましょう。婚約したのだから、その証は必要でしょ?」


 姉の伝手でデザイン方面に長けた学生を紹介してもらい、その人のデザインを基に魔導具を作った。その人とは後に出会うことになるのだが、今は割愛させてもらう。

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