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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第43話 足りない執念など無い

 例大会は、平たく言えば王族主催の晩餐会である。基本的に定例の謁見とセットで行われるため、出席しない貴族もいたりする。欠席することに対する罰則はないが、年4回もある例大会のうち1回は出席するのが習わしとされている。

 7歳のお披露目会とは異なり、多くの貴族が参加することになるので王城ではなく王城の近くに建てられた王都の迎賓館のホールで執り行われる。名を挙げたい貴族はここぞとばかりの売り込みに奔走したりするらしい。

 その参加対象は基本的に男爵以上の貴族当主となる。後は例大会から見て最近功績を挙げた受章者の平民も参加することがあるそうだ。


 夏季例大会の招待状を受け取ったシュトレオンなのだが、手紙の中には招待状の他にも便箋が入っていた。その人物のサインからして国王自身が書いたものだとすぐに解ったのだが、その内容は普段の言葉遣いから見てかなりかけ離れたものであった。そのため、偽物の可能性を思わず疑ってバルトフェルドに確認したが、それは本物だと断言した。


「学院生時代は『次期候補だからといって敬語使ったら、王になった時に嫁を斡旋しまくるからな!』とか言い出すほどだった。その煽りを受けた代表例は陛下の弟君やウェスタージュ辺境侯だ」


「とばっちりもいいところだと思いますけれど」


「弟君はかなり満足しているみたいだったがな」


「身内だからこそ好みは把握していたのでしょう……私もその煽りを受けたようなものですが」


「間違ってはないから困るな……まったく、あのお方は」


 さて、シュトレオンに届けられた手紙に関してだが、内容は実にシンプルであった。アイスクリームをその例大会で振る舞いたいというシンプルなお願い。既にある程度はアルノージュ商会経由で王族に向けて売り出しているのだが、これを機に王国にいる貴族に振る舞ってしまおうという目論見。

 つまるところアルジェント家やリクセンベール家の土台作りの一環を国王自身が後ろ盾になってやろうという宣言に等しい行為だ。加えて、それを卸しているアルノージュ商会や提携先のティルミス商会を正式な王家御用達としてお墨付きを与えるつもりのようだ。その会頭をしているブラッドやカイトも今回の例大会に呼んだとその手紙に記されていた。


「振る舞うのに問題はないのか?」


「備蓄量からして王都の住民全員に一か月振る舞う分はありますので問題はありません。牧畜のあれこれを増やしたついでに設備も改造しました。尤も、その備蓄方法は私以外に触れられませんが」


「なるほどな……」


 王国は平均的に温暖な気候であるが、夏は地方によって暑くなる。セラミーエは南端側に位置しているので、最高気温が30度を超えたりすることがあり、熱帯夜もザラにある。なので、屋敷のつくりは他の地域と比べて特殊であったりする。王都でも平均で20度代後半から30度まで上がるため、この時期の貴族服は暑い。なので、過ごしやすくするための魔道具をシュトレオンは作ってこっそり渡している。

 話を戻すが、この暑い時期に冷たくて甘いものというのは糖分補給の観点からして重宝される。それはいいとして問題もあったりする。それは情報漏洩という部分だろう。


「現状貴族や市井に売り出しはしていませんが、これから先基幹産業として考えたときに情報漏洩の可能性は避けられなくなります。少なくとも、商会との繋がりからアルジェント家の線を疑ってくるでしょう」


「現状リスレットの西側は子爵の許可がなければ出入りできないが、何かしらの探りを入れてくる可能性はありそうだな」


 牧畜にしても品種改良した作物にしても、現状それを独占しているアルジェント辺境侯家。尤も、バルトフェルドとしてはただ土地をシュトレオンひいてはリクセンベール男爵家に貸しているだけであり、その儲けも税として貰っているので不満はない。むしろ自重してくれと悲鳴を上げる始末であった。

 さらに二つの商会によって活性化した通商による儲けも大きく、現在国主導で新たな街道を作るという構想も浮上しているのだが、これには敷設予定の貴族らが権益を争っている状況。セラミーエ領を預かる身としては通商の発展に繋がれば領内の経済活性化にもつながるので喜ばしいことだ、とバルトフェルドは考えている。


「構想はセルディオス辺境伯の治めるミランダ領の北東側を通って王都につながる案と東側を通ってミューゼル経由に繋がる案だな。ただ、国土相の管轄ゆえに揉めている」


「大体察しがつきました」


「解りやすいのも困りものだ」


 とはいえ、結界魔法を張っているので部外者の侵入はできない。それがたとえ地下からであっても。加えて、認識阻害を付与しているので外から中の様子を窺うことはできない。現状実験段階を抜けきらないのは飼育している生き物が大きく影響している。なので、普通に飼われている家畜のレベルとすり合わせていく方策も現在考えている。


 それと、実験段階から抜け出す第一弾として陶磁器の産業を独立させた。奴隷として買った獣人の中に実家が陶芸業を生業としていた子がいて、現在は陶芸が得意な騎士達の下で修業を積んでいる。余談だが、前に話したフューレンベルク家の六男は陶芸に関して最初は全くの素人であったことを付け加えておく。

 その噂を聞きつけてか王都に住む陶器職人も興味を示し、彼らの子どもらを見習いとして働かせている。特殊なのはリスレットの土と焼くための窯と初期メンバーの技量なので、それを盗むにしても余程の天才でない限り難しいだろう。王族に卸したりする食器類は、初期メンバーの領分なのは言うまでもない。

 ほかの地域で真似しようとすると、現行の魔法技術ではかなり大がかりな窯が必要になるし、それでも安定供給できるのかという問題もあったりする。それだけその窯を作ったシュトレオン自身のオーバースペックさが窺い知れる。


「陶磁器関連はリスレットで確定になるかと。現状リスレットの土が王国内で最も良質だと聞きました。それと、ガストニア皇家から別口で打診がありまして、いくつか商会経由で卸しています」


「そこまでとなれば、このままリスレットに産業として根付かせるのも吝かではないな」


「ちなみに、今父上がお使いになっているカップもリスレット産です。商人鑑定で4000ルーデルと聞きました」


「……一つ聞くが、付与などは一切していないな?」


「今のところは」


 リスレットで採れる土は、特殊条件下で焼くと温度保持のエンチャントがかかるという不思議な代物だ。その特殊条件には昼夜の寒暖差が割と大きいリスレット周辺の気候も関わってくるため、そこ以外で作れるとしてもガストニア側の麓ぐらいしかない。

 作られたカップに飲み物を注いでも温度が変化しづらくなるし、皿に載せた料理もそのおかげで温度変化がしにくくなっている。その反面、冷まし難いという難点もあったりするので一長一短といったところだろう。


「父上。一つ質問なのですが、セラミーエ領内でどうにかして根付かせたい産業はありますか?」


「そうだな……葡萄以外の果物を育てることはこの領でも可能か?」


「可能ではあります。実を言うと、ガストニアの方面から打診もされております」


 セラミーエ領と隣接するガストニア皇国の気候は、山脈を挟んでいるのにもかかわらずほぼ同じ亜熱帯の気候に属する。これには風向きや地形なども大きく関わってくるのだが、細かい話をすると長くなってしまうので割愛する。

 ガストニア自体も中規模の国土を誇っているが、耕地はほぼ手狭な状態になっている。その一方、エリクスティア自体未開発地というキャパシティを抱えており、南部についても全体でみれば半分ほど未開発地だったり荒地だったりしている部分もある。セラミーエ領においてもリスレット西側という未開発地を持っている。


 そこに、ガストニアでの増産が難しい果物の栽培をリスレットでできないか、という打診があった。なので、バルトフェルドの目論見からして基幹産業として根付かせるのはありだと思っている。とはいえ、その分ガストニアからの輸入が減ってしまうので、どうにかして彼らの損を避けるべく考えた案を提示した。


「中継貿易?」


「はい。先日ガストニアへ赴いた際、ヴェラジール共和国に本店を持つ商会と正式に繋ぎができまして。ガストニアにはヴェラジールとの中継貿易拠点としての実利を稼いでもらおうかと考えております。それと、東方貿易もしているのでミランダからの貿易船の拠点作りや東方商人との仲介役も担ってもらおうか、という目論見ですが」


 陸路でいえば、態々ガストニアを経由するよりイスペイン王国経由でエリクスティア王国に輸入のほうが一番良いのだが、現状道が整備されていてなおかつ年中安定して通行できるのがガストニア-セラミーエの通商ラインになってしまう。先のグランディアから大量買い付けを行った際、そのルート検証も同時に行っていた。トンネルという線も考えたが、エリクスティアの東の大貴族であるオームフェルト公爵家はそれを軍事的に利用することなど明白である。


 バルトフェルドには話さなかったが、実は国王から外交官としての活動許可も非公式に受けている。現状ガストニア皇国の首脳級と顔パスで交渉できる外交官がバルトフェルドとシュトレオンの二人しかいないためだ。加えて先日の相続裁定を解決した功績を鑑み、任期未定という実質上常任職扱いを受けたことに内心溜息を吐いた。


「話を戻しますが、実は2年前に9種類ほど実験するため1000ヘクタールほど開墾しました。子爵には事前に話を通してあります」


「まぁ、許可を得ているならいいが、どのような感じだ?」


「糖度としては申し分ありません。その一部は今度の例大会で出すアイスクリームの味にもなっております」


「ほう。……こっそり、食べさせてもらえるか?」


「一つぐらいなら」


 アイテムボックスから取り出したのは、オレンジ色のアイスクリーム。味は当然蜜柑味の代物。それを食べたバルトフェルドの感想はかなり好感触であった。


「これは美味しいな。シュトレオン、俺からも頼みたい」


「今のは貴族ではなく一個人としての発言ですか……解りました。一応30種類ぐらいあればいいでしょうか? そのあたりの打ち合わせを商会側としたいところですし」


「それが妥当だろうな。ところでシュトレオン。辺境騎士団……それも女性騎士から聞いた噂だが、何やら美容の試験もしているらしいな?」


「これは内密にお願いします……市井に出したら、間違いなくえらいことになりますので」


 それは石鹸やシャンプー、トリートメントなどといった美容の類だ。正直に言うと、それらは作ったといえば作ったのだが、それらはすべてポーションなどの回復薬といった薬品系の実験からの副産物でもある。


 一応レシピもあり、基本は初級のポーションなどで使う安価で手に入りやすい薬草にフルーツ草の搾り汁を少量加えたものとなる。普通なら砂糖を生み出すものを入れるだなんて思わないし、そもそもそれを入れようと思った理由は栄養ドリンクっぽくなるかなという発想からであった。


 結局別口から栄養ドリンクはできたのだが、偶然出来たレシピを用いてそれらの商品を作ることに正直抵抗があった。それは、転生前に感じていた女性の美の執念だ。あらゆる健康食品やらサプリメントを試していた母親。それを目の当たりにしていた俺は、その恐ろしさを知ってしまった。下手に知られると魔神なんて赤子同然に感じるぐらいやばいと思うぐらいに。


「一応生産体制はできてはいますが……出すのが怖いんです」


「……女性の執念というのは、本当に怖いからな。仮に出すとしたら、どうする?」


「例大会で王妃様にお渡ししてみようと思います。国王様から何かしら言われることになるかもしれませんが」


「間違いなくだろうな。下手すると、妻たちからも何か言われるかもしれない」


「そういえば、そうでしたね……」


 王宮魔導師としてエリザベートがいる以上、何かしらの伝手でバルトフェルドの妻らもといシュトレオンの母達に伝わる可能性は非常に高い。なので、何かしら言われたら正直に答えるしかないのだと二人は揃って盛大な溜息を吐いたのだった。

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