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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第39話 国を束ねる者と知恵を交わす

「まぁ、何にせよ丸く収まったけれど……当の本人は茫然自失だな」


「無理もないと思うけどね。自分の知らないところで叙爵なんて、誰だって驚くよ」


 結論から言うと、ディーターらはライディースとファルティナに謝罪をした。ここで下手に親が出しゃばれば当然国王らの目に入り、手痛いお叱りを受けることとなるからだ。そのまま遠ざかっていくディーターらと入れ替わるようにしてクロードらが追い付いてきた。

 そして、ライディースを何とか立ち直らせようとしているファルティナの様子を生暖かい目で見つめつつ、シュトレオンとクロード、メルセリカとシャルロットは会話を続けていた。


「にしては、レオン君驚いてないよね? もしかして、知ってたの?」


「そんなところかな」


 正確にはシュトレオンとグラハム辺境伯の企みだが、そこはぼかすように答えた。

 しかし、予想の範疇だったとはいえオームフェルト家の人間が絡んできたことに頭を抱えたくなった。更に、先ほどの騒ぎを収めたことで色んな貴族の子が売込みとばかりに挨拶に来て、先ほどまでその対応に追われていたのだ。正直面倒というほかない。


「でも、何か企んでたり?」


「企んではいないよ。お蔭で色々知れたこともあるから」


 セラミーエ領と王都を行き来する生活に慣れてしまうと、やはり繋がりの希薄な貴族の情報には疎くなってしまう。その意味において、今回の神礼祭は十分収穫に値するといえる。どの地方出身の身分で、家の名前からどういった系統の貴族まで割り出せる。これは襲名に際して調べていたことが役にたってくれた。本当に何がどこで役に立つか解らないものだ。


 すると、ようやく挨拶から解放されたと思しきアリーシャが近づいてきたので、労うように声をかけた。


「お疲れ様です、殿下」


「む……」


「誰が聞き耳立てているか解りませんので、その辺はご容赦を」


 対等な言葉遣いをすると約束したのに、シュトレオンが態とそうしたことに拗ねつつも言っていることは正論なので、渋々受け入れていた。これを見たクロード、メルセリカは笑みを零していた。周囲の様子を確認したうえで、シュトレオンは言葉遣いを切り替える。


「コホン……挨拶回りは大体終わったの?」


「はい。見るからに欲が見え見えで、本当に困ってしまいます。レオン様を見習うべきです」


「無理もないんじゃないかな。王族と繋がりを持つって大変なことだから」


「だね。うちの両親もそこは気にしてた」


 王族と知り合う機会はそれこそ貴族の階級が下がれば下がるほど限られてくる。シュトレオンの場合は元々階級が高かったことと父の功績が大きいだろう。助けたことに関しては誤差の範囲内程度の話かもしれないと思っている。

 アリーシャも来たので互いに自己紹介を色々したのだが、クロードから出た言葉にシュトレオンらは絶句するほかなかった。


「え、まじ?」


「本当のことです……あまり大っぴらには言えないんですが」


 クロードが言うには、成人した段階でフューレンベルク家から除籍になるらしい。7人も後継ぎ候補がいると面倒だと判断されたそうだ。一人の貴族男子の何とも世知辛い事情を知りつつも、会話を楽しんでいた。


 神礼祭も無事終わったところで、シュトレオンは兵士の案内で応接室に招かれた。中には既に国王がいて、深々と頭を下げる。まさかの一対一の対談に、流石のシュトレオンも内心緊張が走る。


「すまぬのう。目敏い奴や煩い奴が多い故、こういう形でないとゆっくり話も出来ぬ」


「いえ、貴族というのは繋がりがあればあるほど安心できる生き物だと思います。度が過ぎて暴れるのはよくないと思われますが……それで、話とは何でしょうか?」


「うむ。アイデアを出した本人と戦ってみたくなってのう。喋りながらやるぞ」


「では、僭越ながらお相手を」


 そうして『チェス』をやることになった国王とシュトレオン。普通に考えれば、国のトップたる者がそばに護衛もおかず、一人の貴族と面会している。それだけでも要らぬ波風を立てることになるのだが、むしろそれを望んでいるようにも感じられる。

 その間にもいろいろ話が進んでいく。


「私の成人の儀を早める、ですか?」


「うむ。どうやらオームフェルトの奴がわしの娘に自分の息子をねじ込む可能性があるからのう。ならば、おぬしにはとっとと成人してもらったほうがいいだろうという判断だ。……こっちかな」


「そうきましたか……あの、私はまだ7歳なのですが」


「前例なんぞ腐るほどある。エリクスティアは元々周囲から併合して今の形となったからの。その過程で成人扱いせねばならなくなった子供は数多い」


 元は一つの小国であり、風など吹けば一瞬で消え去りそうな蝋燭の火のような存在でしかなかった。それが長い時を経て、今の大国へと上り詰めた。尤も、大陸統一などという野望は持ち合わせていないとはっきり述べた。

 本来成人の儀式は15歳を迎えた者が対象なのだが、過去の戦争でその例外は多く存在する。最も多いのは、併合した地域の長が戦死して身寄りもいないがため、15歳にも満たない未成人の人間が成人した事例。 最も低いのでは5歳という事例が存在する。


「それにの、レオンハルトが5歳で冒険者に本登録、6歳で領邦騎士団入りしたことを考えればむしろ若干遅いぐらいじゃよ……うむぅ……」


「曽祖父は色々規格外の人間だったと聞いておりますし、流石にそこまでの能力は持ち合わせておりません」


「ハハハ、よう言うわ。あの御仁ですら持ち合わせなかった政治力や外交力の資質がある、とカイエル子爵は言っておったぞ」


「……子爵殿がですか?」


 聞くところによると、シュトレオンの兄ジークフリードの結婚式の際、同じテーブルの席に座っていたそうだ。その際、彼からシュトレオンのことについて聞き及んでいたという。恐らくリリエル経由の可能性が高い。


「話を聞くだけでも、正直耳を疑ったわ。通商路を単独で回復させた上に拡張工事まで成すとは」


「その場にあったものを有効活用しただけの応急処置でございます。……陛下、こんな時に申し訳ないのですが、一つ献上したいものと一つ見ていただきたいものがございます」


「ほう……出すがよいぞ」


 チェスのほうもひと段落したので、国王に許可を取ってアイテムボックスから二本の剣をテーブルに置く。国王側に置いた剣は煌びやかな装飾が施された剣。そしてシュトレオンの側に置いたのは神秘的な装飾が施された剣。その二本に国王は目を見開いた。


「陛下の目の前にありますのは先日のグランディア帝国の兵が持っていた宝剣で、調べたところエリクスティアから昔盗まれた宝剣であると判明し、献上する次第です。そして陛下から見て奥側に置かれた剣は……かつてライナー・フォン・オームフェルトが持っていた聖剣です。こちらは王都のアルジェント家の屋敷にあったもので、父からは私が持ってよいと許可もいただきました」


 以前『お前への礼を考えるのが大変』と言っていたので、その一つとして王都の屋敷に眠っていたライナーの聖剣を貰えないかと相談したところ、あっさり要求が通った。

 聖剣は資質がないとその真価をできないのはおろか、強力な能力隠蔽が掛かっているために普通の鑑定ではただの錆びない剣という結果にしかならないのだ。メンテナンス不要というだけでも十分すごいと思う。試しに抜いたところ、その聖剣は光っていた。これは持っている人間を認めたということらしい。


 俺、勇者じゃなくて貴族です。


「……おぬしは、本当に得難き存在よ。今すぐにアリーシャと婚姻させてでも縁を結びたいと思う。宝剣についてはありがたく受取ろう。そちらのほうは……そうじゃな。王家がいったん預かり、成人の儀式の折に下賜することといたそう」


「成程、オームフェルト公爵家をはじめとした一派への牽制でしょうか」


「お主の様な若者を矢面に立たせることは心苦しいと思うがのう。グラハム伯は本当に恐ろしい少年を見出してしまったようじゃ。いや、この場合はバルトフェルドの奴が末恐ろしいというべきか」


「父は『とっとと引退して狩り三昧したい』などと仰っておりました」


「まだ還暦もいっていないのに何を言っておるのか……あやつらしいがな」


「そういえば、もう一つご報告したきことがございます」


 昨年のアリスフィール王女の神礼祭の折、その出席回避のためにシュトレオンはガストニア皇国に滞在していた。その際、グランディア帝国から13万の兵力が『先日の25万の英霊たちを殺した復讐』という大義名分を以て攻めてきていた。しかし、その報告を国王は聞いていない。


 理由は簡単だ。その13万の兵士を相手にしたのは他でもないシュトレオン一人だったからだ。単独で13万の兵士を相手にするのはもはや無謀という他ないのだが、それを知識で補った。グランディアからガストニアへ入るには険しい山脈を越えなければならない。大軍ともなればその補給点の数はかなり多くなる。なので、そこへピンポイントに潜入して補給物資だけ強奪したのだ。


「偶々山へ薬草取りに行っていたら、偶然見つけたのでそうしました。兵士は一人も殺してません」


「あの盗賊らを無傷で捕えるのじゃから、それぐらいはできて当たり前か。連中は撤退したのか?」


「いえ、強引にガストニアへ入ってきました。そのため、ガストニア軍にも協力を仰ぐということになってしまいました。とはいえ士気ガタ落ちでしたから、ガストニア側に怪我人は出ましたが幸い死者は出ておりません。グランディア側の死者は8万に上りましたが」


「そうであったか。にしても、また面倒な置き土産じゃのう」


 その兵士の死体は全部御影石になったことは伏せつつ、『伝手はありましたので、アンデッドにはなりません』と述べた。生き残った兵士は全員捕縛し、イスペイン王国・ヴェラジール共和国経由でグランディアに送還された。そのついでに先日の分も合わせて33万の兵士の装備のほとんどを返却した。一応その手付金の要求はしておいたが、『金額でグランディア帝国の器を見せていただきます』と一言書いただけに留めるようお願いをした。これには国王も笑みをこぼした。


「なるほどのう。平民の葬式相場から見積もれば、最低でも約10億ルーデルに膨れ上がる。そこが基準点ということじゃな」


「はい。この点は先程の宝剣の件もありますので、おおよそ9億ルーデルあたりが判断ラインになるかと。ケチるようなら所詮その程度の器だったということになりますし、かの大国に支払えない金額でもありません、と判断いたしました」


 ゼーラシム大陸との貿易がしやすい地理的要因や、オークションで高値がついたワインの一件を考えればそれぐらいの金額ぐらい出せるだろう。帝国の兵士らに関しては一応慰霊碑ぐらいは建てており、ラスティ大司教やガストニア皇国にいる司教に追悼の儀式まで執り行ってもらっている。そこまでされているのにケチれば『グランディア帝国は鎖国的な国で死者に厳しい国』と揶揄されることになる。


「しかし、かの国は肥沃な農耕地帯をもっておる。これが一過性で済むとは思えぬが」


「それにつきましてですが……実は」


 その点についても既に手を打った。アルノージュ商会から帝国向けワインを卸している業者なのだが、麦などの取引も担っている。そこで、1億ルーデルを預けた上で『帝国の農民が飢えない程度に買い漁ってください。ついでに珍しい魔道具や作物もあれば、そこから出してかまいません』とお願いをしたのだ。物の送り先はティルミス商会扱いとした。


 近年の帝国ではまれにみる豊作続きで小麦をはじめとした麦類の値段が低かった。なので、それに色目を付けた上で農家や組合などに取り次いで次々と買い叩いてもらった。ついでに中々売り物にならないという野菜や作物も大量にだ。


「金はあっても食糧がなければ戦う事すらきつくなります。無論それだけでなく、帝国西側に住んでいる人たちならこう考えるはずです。『帝国の連中は安い値段でしか買わないが、共和国に売ればちゃんと向うの相場で買ってくれる』と」


 下手に締め出せば、それはそれで反発を生む。需要がないと思われがちな作物も実は需要がある。それが解れば人はどうするか、など考えるまでもない。人間をコントロールするにはまず胃袋に収める食の分野を手中に収めるのが一番手っ取り早い。

 それと、今回は無差別ではなく帝国の人が飢えない程度の買い漁りだ。農民や組合などからすれば想定外の収入であり、万が一冬に備えての急な出費にも対応できる。これを帝国が徴収しようものなら、帝国の器の小ささに絶望して帝国外へ亡命する者が増えるだろう。


 後日、手付金としてグランディア帝国から15億ルーデル(白金貨1500枚)がガストニア皇国に支払われた。このうち3億ルーデルがガストニア皇国・イスペイン王国・ヴェラジール共和国に分配され、残り12億ルーデルはシュトレオン行きとなり、当の本人は肩をガックリと落とした。一応迷惑料という名目で2億ルーデルを王家とアルジェント本家に支払っている。


「結果として、小麦をはじめとした麦類はおおよそ90万トンの買い付けに成功。帝国でしか作られていない作物も入手することができました。気候条件的に北部や西部での作付は可能ですので、アルノージュ商会を通して流通させたいと考えております」


 東部への流通を考えていないということを咎められるのかと思ったが、元々オームフェルト家と実家であるアルジェント家の中の悪さは折り紙付きなので、彼らがそれを自分達の手柄として流布する可能性もなくはなかったため、国王はそのことを理解した上で頷いた。


「うむ、かなりの大収穫じゃのう。お主にはかなりの大金があるから、犯罪でない限りその使い道にわしは口を挟まぬよ。……リクセンベール家のお披露目には、ぜひ呼んでほしいところじゃ」


「それは勿論にてございます」


 そうして面会も終わり、帰りは歩きでもいいかなと考えていると、正門の前には近衛騎士団の馬車が停まっていた。その前には見覚えのある男性が一人。それは紛れもなく王都第一騎士団の副団長であるグレイズであった。尤も、今の彼は騎士服や鎧ではなく貴族服であるが。


「どうも、シュトレオン男爵。王都の屋敷までお送りいたします」


「はい。よろしくお願いいたします、グレイズ卿」


 今のグレイズは領主代理なので子爵相当の扱いをせねばならない。そこに気を付けつつ、頭を下げる。二人が馬車に乗り込むと、グレイズは溜息を吐いた。


「しかし、いざこういう事態になってみると貴族というものは面倒だな」


「負の感情を込めた世界みたいなものですから。その苦労の一端は若干味わっていますが」


「……男爵からすれば、私の苦労など些事なのだろうな」


 若干7歳にして非常勤職ではあるが外務相補任、お家復興としてリクセンベール家を襲名、それが2年前に魔神討伐まで成した。さらにはSSS級の魔物まで討伐したということまで自分の上司から聞き及んでいた。


「何にせよ、グレイズ卿は私からすれば縁戚の人間ですので、今後も仲良くしていきたいです」


「それはこちらの台詞だよ、シュトレオン男爵。……あの妹が粗相をやらかすようなら、遠慮なく躾けてくれ」


 シュトレオンが屋敷に帰ったところで陛下との面談のことについて聞かれ、それでドタバタする羽目になってしまったのは言うまでもなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり過去の因縁も含めて任命してる王家の過失だよね。
2022/01/25 09:57 退会済み
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