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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第34話 いざ、王都へ

「というわけで、許可も出たので改造しようかと」


「そんなこと、思っても実行できるのはシュトレオン様だけですよ」


 ウォルターのツッコミを聞きつつ、シュトレオンはセラミーエの屋敷で所有している幌馬車の改造をしていた。許可はバルトフェルドから取り付けた……その当人は頭を抱えていたが。とはいっても、外見的には他の馬車と変わり映えしないようにする。


 まずは、馬をつなぐ部分や馬車本体の基本フレームをミスリルで作り、その外側に木材を肉付けするように取り付ける。キャビンの土台は若干厚めにしたうえでスプリングや緩衝材のシートなどを仕込み、馬車の土台に重力軽減・振動軽減・破壊防止といったエンチャントを施していく。これで領外のデコボコ道でもさほど揺れることはない。


 幌は金珠糸を全体に編み込み、火・水属性無効のエンチャントを掛ける。さらにはキャビンに仕切りを作って、空間魔法で拡張。非常時の執務ができる部屋や会議室、居間やキッチンといった空間を作り出す。自分たちや使用人のための寝室も作った。空間生成魔法だけなら闇属性の範疇で済むので、大丈夫だと思う。

 これを見たウォルターの感想はこうであった。


「白金貨30枚以上要求されて、欲しいと強請られるかも知れませんね」


「その時は王族専用に作ってあげたほうがいいかな?」


「それがよろしいかと。さて、私は準備をいたしますので、レオン様も……っと、準備は終わっているのでしたね」


「後はライディースとメリル待ちだね」


 あの裁定から2日経っていた。とはいっても、シュトレオンにしてみれば転移があるので距離など問題ではない。一応転移魔法が使えることを隠すため、転移魔法の術式がセットされたブレスレットを作った。とはいっても、俺以外が使おうとすると強制睡眠と低周波電撃が発動する仕様にしているが。


 これからお披露目会に行くための準備ということで、屋敷は慌ただしかった。何せ、今年は第四王女であるアリーシャ王女の神礼祭なので、貴族の家としては失礼のないようにする必要があった。第一印象の大半は見た目で決まるというから、その準備もひとしおだ。

 この国の王族は基本7歳のお披露目があるまで殆どの人間に姿を見せることはない。それこそお世話をするメイドや執事、近衛騎士や王宮魔導師ぐらいだと以前エリザベートから聞いていた。貴族が5歳の時のお披露目をするまでの扱いもそれに準じているらしい。そう考えると、4歳の時点でミシェル子爵に会っていた俺は例外中の例外ということになる。


 一昨年に辺境侯家となったアルジェント家の馬車は二台。一台は荷物や使用人が乗る幌馬車で、もう一台はアルジェント家の人間が身一つで乗る用の馬車。実はこちらにも衝撃軽減や重量軽減のための改造を施してあるので、車酔いの心配はないと思う。

 俺自身の準備はというと、既に必要なものはアイテムボックスに入っているし、足りないものは作れる。現状困っていることがない。強いて言うなら余り過ぎている所持金ぐらいだ。これでも一応ライディースの準備は少しばかり手伝ってあげた。なので、今は一足先に馬車に乗って、出発を待っている状況だ。

 すると、いつの間にか貴族の私服を纏ったメリルが隣にいて、服の裾を掴んでいた。


「どうしたの、メリル」


「母様が、兄様の傍にいなさいって」


「そっか」


 簡単に返しつつ頭を撫でてやると、メリルは笑顔になってご機嫌な表情となる。今はいいが、果たしてメリル(+うちの親バカな父親)のお眼鏡に適うような男性は現れるのであろうか……ふざけたちゃらんぽらんな貴族野郎が相手なら、俺もグーで殴ると思う。一発だけなら手が滑りましたレベルでしょ? 違う? そうですか。


 今回は俺とライディースが神礼祭の対象となるのだが、ライディースとメリルの母親であるエリスも出席するため、屋敷に置いていくのは可哀想ということでメリルも一緒に王都へ行くこととなる。無論、俺の母であるミレーヌも一緒についていく。

 すると、貴族の服を着たライディースが乗り込み、メリルの隣に座る。


「兄上、準備は終わりました?」


「うん、レオンのお蔭だよ。ホント、どっちが兄か解らなくなる」


「背丈で言えば超えてますからね……でも、これぐらいで緊張してたら、神礼祭はもっと大変だと思いますよ?」


「ホント、お前はライディースと同い年と思えないな」


 そこにミレーヌ、エリス、バルトフェルドが乗り込んできた。俺は父の言葉に対して苦笑を浮かばせる。そして、二台の馬車は周囲をセラミーエ領邦騎士団の兵士に守られながら、一路王都を目指す。


 セラミーエから王都まで魔物などの襲撃も計算に入れると約1週間はかかるのだが、今回は約10日の日程で組まれていて、王都への道中にある領の街に宿泊する日程となっている。6つの領を通ることになり、俺が先日行ったカイエル子爵家もこの中に含まれている。


 これは貴族による領地の経済効果貢献のためである。また、寄り親であるアルジェント家が寄り子の貴族に対してその恩恵を与える意味合いもあったりする。ただ金を渡すと賄賂のイメージが付きまといかねないので、こういった形でお金を落としていくことで、領民への影響を少しでも与えるのだ。


 それと『辺境侯家を持て成した』という箔を付けてもらい、それでいて高評価を貰えるのは貴族にとって将来の出世にも繋がるからだ。とりわけそれが四聖貴族の一角となれば、上手くいけば国王の耳にも入ることに繋がりやすい。そういった意味で貴族は見栄えを重視するのだ。実が伴わなければ、ただのハリボテに等しいのは事実だが。


 うちは特に第三位の辺境侯家なので、当主であるバルトフェルドやその家族、使用人や護衛の兵士も含めると、規模としては20人を超える団体になる。

 単純に馬車の停泊費や食事代・宿泊代となれば、貴族の規模によって落とす金は大きくなる。一人あたり100ルーデル(=銀貨1枚=1万円)だと仮定しても、最低でも一晩で銀貨20枚から30枚は十二分に大きい。そこにうちの貴族としての箔をつけると、一晩で最低3万ルーデル(金貨3枚)は飛んでいくと父は述べた。

 一晩で日本円換算300万円となると、腹苦しくなるまで食べるのに不自由はしなさそうだ。転生前だと、とにかくちゃんと寝られれば文句とかはなかったからね。


 道中は『世界地勢』で確認しつつ、メリルやライディースの話し相手になっていた。馬車に乗っている兄弟で一番行動しているのはシュトレオンになるからだ。この辺は仕方ないなと思いつつ、久々ののんびりとした日常を満喫していた。

 特に大きなトラブルもなく、9日目となった。一行は王都の南にあるカイエル子爵領に入り、街を守る兵士らによって領主館の隣にある迎賓館に案内される。そこには先日会った人たちが一行を出迎えた。


「バルトフェルド辺境侯、この度はこの街へ寄っていただき、ありがとうございます」


「ルイス殿、子爵訃報のことは既に聞いた。本当に良きお方であり、少しばかり早すぎると思ったほどだ。シュトレオンは既に面識はあるから置いておくが、三男のライディースに次女のメリルだ。神礼祭ではシュトレオンとライディースが出席する」


「はじめまして。ライディース・フォン・アルジェントといいます」


「メリル・フォン・アルジェントです」


「お久しぶりです、ルイスさん。とはいっても10日少しぐらいですが……子爵閣下とお呼びしたほうがよろしかったでしょうか?」


「まだ僕は名誉職みたいなものですし、お構いなく。ルイス・フォン・カイエルと申します。よろしくお願いいたしますね。こちらは執事のベアードです」


「ベアードと申します。何か御用名がありましたら、遠慮なくお申し付けください」


 自己紹介もほどほどにしつつ、宿泊する部屋に案内された。以前泊まった部屋よりも若干グレードアップしていることに苦笑して、隣にいたベアードに尋ねた。


「あの、何かグレードアップしてるんですが」


「先日の件でルイス様より『シュトレオン様はきっと王族に並ぶような扱いのほうがいいでしょう』と仰っておりましたので、個室をご用意させていただきました」


「まあ、ありがとうございます。うまく反応できないんですよね」


「中々に庶民的なのですな。亡きお館様も似たようなものでしたよ」


 どことなく通じるものがあったから、ということから遺言状も託したのだと考えると、あの人の先見性というのは本当に末恐ろしいと思った。ともあれ、特に魔力の訓練ぐらいしかやることもないので、俺はおとなしく寝ることにした。


 次の日、予定を若干早めて出発した馬車は、墓地に寄ってカイエル子爵家の墓標に花を添えて祈りを捧げた。あのどうしようもない長男キンバリーは今頃王都で取り調べを受け、後日犯罪奴隷として売られるらしい。あんな体型でできる仕事があるのか不明だが。


 そして王都の巨大さにライディースとメリルは興味津々のご様子だ。俺の場合は既に何度も来ているためか、そこまでの新鮮さはないことにバルトフェルドが苦笑をこぼした。


「そうだ、シュトレオン。準男爵とはいえお前も既に叙爵されている身だ。例の件についてはまだ正式な発表となっていないが、神礼祭の前の謁見で正式に発表となる」


「つまり、他の貴族の売り込みってことですね。その辺はヴェイグ兄様やエリザ姉様に注意すべき貴族のことは教えていただきましたし、グラハム辺境伯にもいろいろ教わりました」


「そこまでやっているとは……子爵相続の件といい、お前に対する礼を考える身にもなってくれよ?」 


 そうは言われましても、雪だるま式に厄介事降ってくるんですよ? と言いたくなったが、バルトフェルドの胃にダメージが行きそうなので慎むことにした。一方、その隣にいるエリスとミレーヌは揃って笑みを零していた。この二人もグラハム辺境伯のことを知っているだけに尚更、といった表情だった。


「あの人はかなりスパルタだったから、苦労したんじゃないかしら?」


「いえ、そこまでではなかったですよ。本人曰く『スパルタになるのは剣術限定だから』と仰っていましたし」


「義父上らしいわね。それに応えられる貴方も立派よ」


 剣術は一度だけ手合わせをしたが、二度とやりたくないと思った。何せ、洞察眼がやばいレベルだということをすぐに察した。こんな化け物がいれば、そりゃ王国最強の剣士が生まれても納得がいく。すると、話を聞いていたのかライディースがバルトフェルドに問いかけていた。


「父上、今の話は本当なのですか? シュトレオンが準男爵というのは」


「ああ。先日屋敷を訪れたガストニアの皇帝夫妻とその娘である皇女殿下のことは覚えているな? その三人を救ったのが他でもないシュトレオンだ」


「……レオン。今度、兄様って呼んでいいかな?」


「やめて。せめて対等な言葉遣いで妥協して」


「ふふふ……」


 一日早く生まれた兄から兄扱い受けるってどんな罰ゲームだよ。そら、体格的なことを言ったら俺が兄のように見られる可能性が大だけどさぁ。何だか悲しくなるよ。ともあれ、今後は対等の言葉遣いを使うことで合意となりました。

 そんなことを思っていると、馬車は停車しているほかの馬車を横目に通っていく。今見えている馬車の列は平民用の列だった。そして、貴族用の門に差し掛かったところで門番の兵士らの検問を受けるのだが、ここで兵士がバルトフェルドに書状を渡していた。


「バルトフェルド辺境侯、王城よりの書状にてございます」


「拝見する……解った。手筈通りに拝謁を賜ると伝言を」


「はっ!!」


 それを見たバルトフェルドは一息吐くと、兵士に了承の旨を伝えた。急いで走っていく兵士の姿が気にかかったので、シュトレオンは父に尋ねた。


「父上、何か問題でも?」


「……シュトレオン、陛下とハリエット宰相がお前と会いたいそうだ。エリス、ミレーヌ。ライディース、メリルと一緒に幌馬車のほうへ。俺とシュトレオンはこのまま王城に向かうと」


「わかりました」


「むー、兄様と一緒がいいのに」


「そう膨れないの。ちゃんということ聞かないと、ね?」


「……うん」


 あまり駄々をこねられても困らせるだけだということは、メリルだって理解していることだ。なので、頭をやさしく撫でてあげた。メリルが幌馬車のほうに乗り込んだのを見届けると、馬車に乗って父と対面するように座った。


「ハリエット宰相と言いますと、コレット義姉様の実家のノースリッジ公爵家当主ですよね。どのような方なのです?」


「個人としては愉快な人物だ。公人としては敏腕で……容姿は二十歳ぐらいから変わっていない」


「周りの貴族から若々しさの秘訣とか聞かれてそうですね」


「そのせいで未だ婚姻を勧められている。妻は5人いるからな。確か、お前やライディースと同い年の娘がいたはずだ。そういえば、謁見の仕方は教わったか?」


「ええ。それはもう恙無くグラハム辺境伯から教わりました」


 内心、その謁見に対して『魔神の件だけで終わるとは思えないなぁ』と思いつつ、二人を乗せた馬車はゆっくりと王城に向かうのであった。


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