第3話 割と世俗に染まっていた方々
ただ祈るはずだったんだけど、気が付いたら俺が飛ばされる前の空間に来ていた。そこにいたのはアリアーテの他に7人の男女がいることに気付いた。流石に展開がついていけてないので、その中で唯一顔を知っているアリアーテに尋ねた。
「えと、アリアーテ様。これは一体どういう……」
「うむ、すまんな。実はわし以外の七神の加護は洗礼の時に渡す予定だったんじゃが、お前さんがステータスを見ないものだからやきもきしたらしくての」
確かに、転生前の世界であった小説とかだとステータスを見て驚愕する描写が結構見られた。傍から想像上のものを見る分には悪くないと思っているのだが、それがいざ自分の身になると怖いと思ってしまう。だってそうだろ? 今日から『人間やめました』とかなったら、確実に心の理解が追い付かないと思う。
「いや、流石に3歳で色々やらかしたら問題ですよ。ステータスに関しては、しっかり知識を得てからでも遅くはないと思ったからです」
「今までの転生者や転移者とは違って大分弁えておるの」
一応、魔法のことについては早めに調べて魔力操作と制御の訓練はしている。身体関連については流石に記憶が戻ってから数日しか経っていないので、まともに運動すらさせてもらえていない。立場上病み上がりなので、こればかりはどうしようもない。
それでもこっそり手軽な筋力トレーニングはしている。その方法は転生前で将来がっちりとした肉体を作りたいという考えからやっていたもので、道具を使わないやり方だ。尤も、生前に妹から『これ以上強くなってどうするの?』とか言われたことがある。俗にいうビルダーみたいな肉体じゃなかったけれどね……
そのことはしっかり見ていたのか、アリアーテがご尤もと頷く。すると、それを聞いた黒髪のゴスロリ服を纏った少女と逆立つ銀髪の青年が声を上げた。
「……なら、体を動かせる空間をつくれるようにしてあげる。私は闇の魔術神のマルタ。私の加護があれば存分に魔法を鍛えられる」
「いつになく大盤振る舞いだな、マルタ。俺は時の遊戯神のクロウってんだ。お前さんの世界にはいろんな遊びがあるんだろ? そいつを流行らせるために加護を出血大サービスだぜ。一応時間操作ができるおまけつきだ。マルタの加護も合わせれば時空魔法も行使できるぜ」
ようは空間系・時間操作系の魔法が使えるということなのだろう。それだけでも十分チートだと思う。だが、それに便乗するように各々の神々も名乗りながら加護を与えていく。
「俺は火の鍛冶神やってるヴァーニクスだ。俺の加護を使いこなせばどんな武器でも作れるし、武術においても超一流の達人になれるぜ。できたら、すっげえ武器や建物を作ってくれよ?」
「わ、私は水の商業神のローゼニアといいます。できたら、異世界にしかない色んなものを世に広めてほしいんです。そのための加護をお渡ししましゅ! あう、噛んじゃいました…」
「風の農耕神のミルよ。私の加護は農作物をあなたの世界でいう『品種改良』もできるから、この世界に異世界の食文化を……おっと、よだれが」
「土の技巧神、ノードだ。俺の加護があればどんなスキルも覚えやすくなる。あと、筋肉を鍛えるがいい。筋肉は世界を救う」
「光の生命神のサイゼリアといいます。俗物ばかりの神々でホントすみません、篤志さん。あ、この世界ではシュトレオンさんですね。私の加護があればどんな敵でも対処できると思います」
物静かな印象のマルタ、遊び人っぽいクロウ、脳筋のヴァーニクス、恥ずかしがり屋のローゼニア、食い意地がある残念美人のミル、筋肉主義のノード、そして苦労人ポジションのサイゼリアという構成だ。
今度、胃薬でもできたらサイゼリアに奉納してあげようかな……とか思ったら、彼女が感極まって泣き出していた。どうやら苦労人というか中間管理職的ポジションだったのは合っていたようだ。なお、ティアット教の対外ポジションも彼女担当らしい。アリアーテ曰く『女神のほうが、人々の信仰集めやすいじゃろ? こんなジジイよりもウケは良いじゃろう』とのこと。
「上司としてフォローしてあげましょうよ」
「これはこれで面白いからの。おぬしがこれからやってくれることも楽しみだぞ」
「サイゼリア様に後ろから刺されても、俺は責任持ちませんからね?」
神が死ぬかどうかは知らないけれど。むしろ目の前にいる創造神なら『不意打ちで倒そうなどと…笑止!!』とか言って武器とか魔法とか取り込んじゃいそうだから困る。ここで、シュトレオンは一つ疑問を投げかけた。
「ていうか、今加護貰ったら『使徒』扱いされかねないんですが」
「その点については心配ないぞ。一応ステータス関連の使い方はお前さんの頭に直流し込むから安心しとくれ」
下手にそんな扱いされて行動の制限受けたくない、というこちらの意思をちゃんと汲み取ってくれるあたり、さすが神様だな。
というか、異世界のものを作ったとして神様が受け取れるの? その点に関しては奉納したいものを適当な箱に詰めて、祈りを捧げれば届くというものだった。これは加護を持っている人限定だが。
「ちなみに嫌なら答えなくてもよろしいのですが、生贄とか奉納されたことは?」
「私はある。人間の死体送ってきたやつは神罰で滅ぼした」
「あの時のマルタは激おこだったからなぁ。その余波で島一つ消しちまったし……頼むから、そういうことはするなよ?」
「さすがにできませんし、する気もないです」
転生前の価値観だと神道や仏教で人間の生贄という概念は抱いていなかった。というか、闇というとどうしてもそんなイメージが付きまとうが、マルタを見る限りにおいて邪悪というイメージは感じられなかった。
それを読み取ったマルタが『異世界の人間から教わったこの衣装を着てよかった』と念話で話しかけてきて、本人はダブルピースしている。
どんだけ異世界に染まってるんだ、この神様たちは……そんなことを思いながらも、シュトレオンの視界はだんだんと遠くなっていくのであった。