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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第23話 婚約者が決まるだけなら救いはあった

 王都の屋敷の居間で寛いでいると、廊下のほうから慌ただしい足音やら声が響く。すると、バルトフェルドが姿を見せ、それに続くようにグラハム伯爵とフィーナが姿をみせた。これにはシュトレオンのみならず、居間にいた面々が驚きを隠せなかった。


 ともあれ、場所は応接室に移る。ソファーにはシュトレオンとバルトフェルドが隣り合って座り、その向かいにグラハム伯爵とフィーナが隣り合って座る。すると、まずはバルトフェルドが話を切り出した。


「グラハム卿、実は先ほど陛下より第二王女の件を打診されまして、三男ライディースへの降嫁を願い出ました。その折に先日手紙での打診の件を妥協案として、勝手ながら提示させていただきました。本当に申し訳ありません」


「いや、むしろ感謝していますよバルトフェルド卿。正直、私も陛下にどう説明したものか悩んでいましたから。ともあれ、そちらの三男を私の後継者として正式に認めることとします」


「ありがとうございます。シュトレオンの後見どころか、ライディースにまで目をかけていただいたこと、感謝に堪えません」


「ただ、これは成人の儀まで内密ということでお願いします。あと、後日セラミーエに家庭教師を送る手筈だから、くれぐれもよろしくお願い致しますね」


「ええ、それは重々承知しております」


 どうやら、ライディースは次期セルディオス伯爵家当主としてのレールを歩くことに決まった。そして、第二王女が彼の婚約者となる。本人は何もしていないのに、知らないところで次々と積み上がっていく将来設計図にシュトレオンは内心苦笑をこぼした。そして、グラハム伯爵はこう続けた。


「で、話は変わるんだけれど……先日、隣りにいる孫娘がシュトレオン君に粗相を働かしてしまってね。本人からは不敬罪に問わない、と言葉は頂いたけど事はそう簡単ではない。何せ、緊急時でもないのに貴族の当主に向かって剣を抜き、あまつさえ振るってしまったからね」


「レオン、本当なのか?」


「ええ、まぁ。でも、僕も迷惑かけたのは事実です。いきなり目の前に現れたら、一流の剣士なら敵襲をまず疑いますよ」


 空間転移という力は本当に驚異的な力と言える。だから、フィーナがとった行動は強ち間違いではない。ふと彼女を見やると、瞼を閉じて項垂れていた。どうやら隣りにいる伯爵からかなりきつめのお叱りを受けたようにも見える。

 俺のその言葉を聞いてグラハム伯爵は軽く頷きつつ、こう続けた。


「うん、その通りだ。だが、何もお咎め無しということにはならない。とはいえ、彼女も騎士団長である以上謹慎というわけにもいかない。そうすれば事態が知れ渡るからね。だから、彼女をシュトレオン君の婚約者として送り出す所存だ」


「えと、よろしいのでしょうか? 本人の事情もあると思いますが……その強さあたりのこととか」


 シュトレオンは驚きを隠せない。隣りにいるバルトフェルドはポカーンとした表情を伯爵らに向けていた。

 フィーナは王国最強の剣士だ。俺もそれなりに強いとは思うが、倒したの魔神とリヴァイアサン、あと魔物多数だよ? まともな対人経験なんてヴェイグ、ジェームズ子爵、ジークフリードの三人だけだ。それを察したのか、グラハム伯爵は笑みを零した。


「はは、君は謙虚だね。フィーナの剣を剣で受け止めるものはいれど、素手で止めたのは君だけだ。だから、君は非公式だが王国最強の騎士と言うべきだね。いや、王国最強の貴族かな? 話を戻すけど、婚約者という罰では罰にならない。これは本人の希望を叶えてしまっているからね。……てなわけで、孫をよろしく頼むよ?」


 そう言った直後にシュトレオンとフィーナの足元に魔法陣が展開し、飛ばされた。

 転移先は王都の屋敷に用意されたシュトレオンの客室。気が付けばベッドの上にいた。そして俺は、一回り成長した姿になっていた。しかも、ブーメランパンツ一丁で。何故に?


「意味わかんねえ……」


 そして、その隣にはフィーナがいた。純白の下着姿で。彼女は恥ずかしそうに頬をほんのり赤く染めつつ、こちらを見ていた。

 とても騎士とは思えないほどすらっとした肉付きに、傷一つない白い肌。引っ込むところは引っ込んで、出ているところは出ているスタイルがハッキリと見て取れた。豊かな胸部装甲は正直眼福です。


 こういう格好の男女一組がベッドの上で……つまるところ、そこから導き出される答えはこれしかなかった。しかも、あれは多分契約魔法とかその辺りの類だろう。『やってよし♪』と親指を立てて笑顔を浮かべているであろうグラハム伯爵を想像し、とりあえずシュトレオンはフィーナに問いかけた。


「えと、フィーナ、さん? その、伯爵から何か聞いてますか?」


「……フィーナと呼び捨てで構いません、レオン様。祖父の言っていることも事実です。何もお咎め無しではダメだと。それに、私自身が短慮にリヴァイアサンへ突撃したことも、ひいてはレオン様への謝罪対象になると言っておりました」


 彼女の説明によれば、頭を冷やせと言われたにもかかわらず、単独でSSS級討伐を実行するという行為は自殺行為であると窘められたそうだ。

 確かに『逆ギレして魔物に八つ当たりしたら、返り討ちにあった』とまとめたらそれにしか見えない。これでは王都騎士団の長として示しがつかなくなる。


 万が一、シュトレオンが偶然リヴァイアサンを釣り上げて討伐していなければ、彼女は死んでいた可能性が高い。それは間違いなく言えるだろう。まだ早期での発見だったから対処できたというのもある。欠損ぐらいなら生命神の加護絡みでどうとでもなったし。


 そうでなくとも、栄えある王都騎士団にして王国最強の剣士が、準男爵とはいえ貴族の当主に剣を振るったことが知られたら国中が大騒ぎだ。

 彼女が行方不明あるいは死亡となった場合、その原因が市井に知られる可能性もある。そうなると、アルジェント侯爵家や俺は少なからず非難を受けることに繋がる。

 彼女の死因がリヴァイアサンともなれば、少なからず俺もその討伐に関わる可能性だってあった。最悪の事態は回避できたものの、どのみち迷惑をかけていたことに他ならない、と説明した。


「婚約者はあくまでも私の希望に沿ったもの。なので、私の『初めて』を貴方に捧げる……祖父が使った契約魔法は、私がそれを履行しない限り消えることはありません」


「破ったり反抗しようとした場合は?」


「多分、性的に発情して私が襲い掛かることになるかと……」


 つまり、今ここでシュトレオンとフィーナが抱き合わない限り、この契約魔法は解けないと説明した。この世界において『初めて』は重要であり、それを捧げた相手に一生伴に歩むことを誓う意味合いが強い。貴族もそうだし、エルフ族にとってもその意味合いがかなり濃いらしい。


「でも、私は後悔していません。レオン様のような存在に一生を捧げられることを。他の奥方様候補に抜け駆けするようで、申し訳ない気は致しますが」


「……」

 

 まさか、5歳で覚悟決める羽目になるとはなぁ……婚約者が決まるぐらいだったら、まだギリギリセーフぐらいだったかもしれない。多分契約魔法のせいなのか、心なしか下半身あたりが熱いというかむしろ痛いぐらいだ。


「えと、その……経験ありませんので、痛くするかもしれませんが、よろしくお願いします」


「大丈夫です。痛い程度なら耐える自信がありますから……不束者ですが、末永く宜しくお願いいたします」


 なんで結婚初夜みたいな流れになってるんだろうな……ともあれ、俺らは身に着けていたものを取り払って身体を重ねるように抱き合った。

 転生前の父さん、母さん。そしてミレーヌ母様。5歳なのに婚約者ができて、こうなってしまった俺を許してちょんまげ。……謝ってる気がしないって? 多少ふざけでもしないと、壊れそうなんだよ心が。



 翌日、シュトレオンは目を覚ます。外はまだ日が昇ってない明るさから、夜明け前の早朝であることは把握できた。

 身体のほうは5歳に戻っているようだが、横になった状態のまま視線を左に向けると……フィーナが眠っていた。それも、何も身に着けていない状態で。本当に女性としては理想形のプロポーションだと思う。ただ、彼女が婚約者だといわれてもあまりジロジロ見るのは礼節を欠くと思う。

 すると、彼女の瞼がゆっくりと開いて、こちらを見ていることに気付く。なので、視線を誤魔化しつつ挨拶をした、


「おはよう、フィーナ」


「おはようございます、レオン様。……私ごときの身体が見たいのなら、どうぞ遠慮なく。なんなら触ってもいいですよ」


 流石にばれていた。されど彼女は隠すことなく、むしろ『私程度のでよければ、いつでもどこでもお好きにしてください』みたいなニュアンスが含まれているような発言に、シュトレオンは頬をポリポリ掻きつつ口に出した。


「フィーナが『私如き』なら、世の中の女性はかわいそうすぎる。というか、この状態でそこまでは踏み切れない。正直、フィーナの身内が率先してここまで仕向けてくるとは思ってもみなかったけど」


「まぁ、そういうことを平然とやってのける祖父ですから。にしても……ますますレオン様の魅力に取り憑かれてしまいました」


 そう言って、彼女は自分の胸にシュトレオンの頭を埋めさせるように抱きしめてきた。何も纏っていないので、ダイレクトな感触と女性特有のいい匂いを感じ、精神的に理性がヤバい。


 しかし、まさか5歳で相手が15歳の婚約者とは思ってもみなかった。フィーナはエルフなので、一定の年齢が過ぎれば容姿に変化がなくなるらしい。

 俺としても、美人の女性を嫁に迎えることは嬉しいことに変わりない。だが、相手に触れる以上の出来事になるだなんてだれが予想できるか、と言いたい。しかも5歳で。


 正直、今回のようなことは成人するまで控えることを決心した。

 身体の変化は現状時空魔法でしかできない。創造魔法でも可能と思うが、それは自分の手の内と危険を晒すことに繋がる。

 よって、婚姻までは精々デートやお茶をする程度に留める必要があるだろう。その辺りはフィーナ本人と話し、彼女もその危険性を理解してくれたようで納得してくれた。


 そういえば、俺の身体の変化に違和感を覚えなかったのか聞いてみると、リヴァイアサンの討伐の記憶がうっすらと残っていたらしく、そういった魔法の存在は知っていたらしい。それに、成長しても感じられる魔力の感覚は同じなので、すぐに気付いたそうだ。優秀すぎませんかねえ……


 ともあれようやく解放されて、お互いに起きてシュトレオンは貴族服に、フィーナは騎士服に着替えた。着替え自体は背中を向けた状態で。着替えの服はいつの間にか用意されていたところを見ると、おそらくこの屋敷のメイドとグラハム伯爵だろう。

 そして、話をするのだが……シュトレオンは何故か、フィーナの膝の上に座らされていた。彼女に後ろから抱きしめられているので、服越しとはいえ背中に柔らかい感触が当たる。昨夜のことを思い出しそうになるが振り払った。

 年齢差はあるのだが、フィーナは気にしないということで俺はタメ語を使う。何か、久々に使ってる気がするね。同い年以下だとリシアンサス皇女かメリルしか会ったことないし。


「というか、以前会ったときは人族に対しての感情も含んでいたような気がするんだよね」


「あれですか……私も、理解はしていたのですが、納得できていなかったんです。祖父の言うことも間違いではないと」


 人族すべてがあの商人のような人間ではない、とフィーナ自身も理解はしていた。とはいえ、それで『はい、そうですね』と納得するのは難しい。信頼を得るのは難く、崩れるのは簡単であるとよく言ったものだと思う。


「今更だけど、5歳でしていい話じゃないな。今後は気を付けないと」


「ふふっ、この様子なら10年後には、奥方様が両手で数えるぐらいになるかもしれませんね」


「やめて、(精力的に)俺が死んじゃう」


 なお、シュトレオンが複数妻を持つことはオッケーであるとフィーナは言った。『昨晩のご様子を鑑みると、その、私一人では身体がもたないと思いますので』との言葉に、俺はいつからそういう類の人間になったのだと思った。


 それと、一番懸念される事項は避妊魔法という魔法で解決させた。これは掛けた相手の妊娠率を0%にするという効果がある。効力の持続時間は大体丸一日程度。

 実は、父バルトフェルドが妹のメリルに買ってきた魔導書の中にそれがあった。おそらく、彼女の初めてを守れるように考えたものだと思う。転生前の世界と違って治安がお世辞にも良いとは言えない。街の外に出れば盗賊や魔物が平気でいる世界だしね。


 それから数時間後……伯爵らの出迎えの馬車が来たので、家族らと見送りに来たシュトレオンの前に、フィーナが屈んで俺の耳元で囁いた。


「それでは……今度は、伯爵家のお屋敷に遊びに来てください。お待ちしていますね、レオン様」


 そして、頬に口付けされた。彼女は年相応の悪戯っぽい笑みを零しながら、馬車に乗り込んでいった。それを見ていたシュトレオン以外の面々はその光景に茫然としていた。

 解らなくはない。俺も最初フィーナのことを聞いたときはいろいろ一致しないなぁ、と思ったぐらいだ。すると、ヴェイグがそばに近づいて俺の頭に歳不相応ともいえる手を優しく置きつつ、声に出した。


「お前、凄い奴だな。王国最強の氷を溶かすとはな」


「それを言うなら、第一王女を射止めたヴェイグ兄様のほうが十分凄いですよ」


「……頼むから、それには触れないでくれ」


 この一件以降、王都に月二回程度伯爵家の屋敷に顔を出すこととなり、流石に内密なので屋敷内でのデートや、中庭での手合せ稽古に付き合うようになった。

 これによってフィーナの実力もかなり上がっていき、その余波で第一騎士団の訓練メニューもより一層スパルタになっていったのであった。なので、将来の夫である俺が騎士を労うフォローに努めることへ繋がったのは言うまでもない。


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