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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第22話 王といえども娘には勝てなかったようです

 さて、バルトフェルドが何故オームフェルト公爵とヘステック軍務相の文書を持っていたのか。それはシュトレオンがミランダで領主の勉強をすることになった時まで遡る。グラハム伯爵が用意した本の山を見て、率直な感想を呟いた。


「結構多いですね」


「まあ、全部が全部領主の仕事というわけじゃないけどね。そのために代官を雇うこともあるし」


 基本的に歴史、地理、政治・経済……社会科(地歴公民科)の勉強でもあった。俺は割とこういう系の教科が得意だったので、すんなり頭の中に入っていった。流石にこれで哲学とか入ってきたらオーバーヒート不可避だが。

 結論として、能力チートの影響もあるのか大体一か月で終わってしまったのだ。なので、シュトレオンは以前父がメリルに買ってきていた本の中に召喚魔法があったのを思い出し、それを試すことにした。流石に何が出てくるのかわからないので、屋敷内の中庭を借りた。


「何を呼び出すつもりだい?」


「そうですね。やっぱり情報収集が得意な斥候で考えてますが」


「そうなると、基本は魔族が多いね」


 大方そうなるんじゃないかな、とシュトレオンもこのとき思っていた。そして、召喚魔法の魔法陣を展開し、起動させる。召喚されるもののレベルは召喚魔法使用者の魔力に依存する。なので、魔法陣はどんどん巨大化し、最終的には約15メートルの魔法陣になっていた。

 そして姿を見せたのは、傷だらけになって死にかけている黒装束の人型の生き物であった。見るからに男性っぽい姿。顔の部分も殆ど覆われた黒装束は、転生前でいう『忍者』の服装そのままであった。


「あの、傷だらけの使い魔が召喚されるってあります?」


「基本ないはずだね、というか私も初めて見たよ。とりあえず回復させようか。このままだと死んでしまうからね」


「ですね」


 グラハム伯爵の言葉に、シュトレオンは回復魔法を掛けて傷を癒した。すると、自分の傷が治ったことを確認した上で俺らを見つめると、これまた綺麗な土下座を披露した。聞こえる声は男性そのものだ。


「なるほど、貴方が拙者の新たな主人ですな。拙者はアスカといい、ミヅマ国の忍びであります」


 ミヅマ国はゼーラシム大陸の東の海に浮かぶ島国で、アスカはそこのとある国主の忍者だったのだが、暗殺に失敗して死ぬ寸前で俺に召喚されたらしい。俺は契約する前に未練はないかと尋ねると、こう答えた。


「拙者はどの道生涯独身だったと思いますし、暗殺に失敗した時点で処刑は免れません」


 なら、契約するかな……と、ここでシュトレオンは一応鑑定を使った。

 結果は女性でした。でも、パッと見男性にしか見えないな……とよく見ると、サラシを巻いていることに気付く。ひとまずは契約を交わし、グラハム伯爵に目配せをすると彼はメイドを呼び出してアスカを連行した。十数分後、アスカは恥ずかしがりながらもメイド服姿で現れた。


「うう……主、恥ずかしいです。拙者のようなお目汚しが、麗しき皆様と同じ格好など……」


 そう言っているアスカだが、一部をツインテールで結んでいて背中のあたりまで伸びている黒い髪、灰色がかった黒い瞳と姿自体は日本人とさほど変わらない。声に関しては女だと侮られないよう変声の魔法を使っていると説明してくれた。


 そしてメイド服を押し上げている胸部装甲は……もはや戦略兵器である。

 何せ、周りにいるグラハム伯爵の屋敷で働いているメイドの視線がアスカに向いていて、羨ましそうな表情を浮かばせるほど釘づけになっている。自身の体型は使える魔法だとどうにもならなかったので、サラシで誤魔化していたそうだ。

 いっそのこと、この格好で斥候やってもらってもいいかなと思ったぐらいだ。奉仕関連はパスで。


 なお、服装に関しては魔力で切り替えられるので、やっぱ隠密での情報収集時は動きやすさを重視する意味合いで黒装束姿のほうがよさそうだ。その上でシュトレオンはアスカにいろいろ聞いてみることとした。特に情報収集能力が欲しいと思って召喚したので、そこは一番重要だ。


「それでしたら、拙者は<影の道>が使えます」


 それは魔法ではなくユニークスキルで、日光の当たっていない場所ならどこにでも行けるという。地面の中も簡単に潜れるらしい。触れてさえいれば生き物も影の中に取り込めるらしく、しかも魔力消費型ではないので魔力検知に引っかからないのだ。

 というわけで、さっそく命令してみることにした。


「じゃあ、オームフェルト公爵家の弱点になりそうな書類を探してきて。とりあえず一か月ぐらいはあげるから」


「えっと、そんなにいらないかと。多分3日あればいけます」


「そう? 大陸が違うから分かんないこともあるだろうし、一応1週間以内でいいよ。無理そうなら素直に引き上げることも許す」


「承知しました」


 流石に大陸も違うし勝手も違うと思うので、期限は1週間にした。それに、ミヅマ国とエリクスティアのセキュリティレベルの違いが分からないからな。ダメで元々なところだと考えていたし、無理はしない程度でいいと思っていた。


 アスカは宣言通り3日後に帰還した。それも、いくつかの弱点になりそうな文書を持ち帰ってきたうえで。これにはシュトレオンもグラハム伯爵も驚きだった。

 エリクスティアの情報機密について尋ねると、彼女はこう評した。


「情報の守りが緩いですね。国家機密や財務、外交文書はかなり難しいと思いましたが、それ以外が杜撰すぎました」


 思いのほかバッサリであった。しかし同時にアスカの凄さを知れたので、オームフェルト公爵家の連中には、ほんの少しだけ感謝してやろうと思う。アスカが忍者だということはシュトレオンとグラハム伯爵の秘密とし、彼女は表向き『準男爵付政務補佐役』という形にした。基本、情報収集以外はメイド姿で仕事をさせることにした。無論、奉仕活動は契約により完全除外している。


 ちなみに彼女の年齢は18歳なのだが、召喚魔法の契約でそこから完全に止まってしまうそうだ。事例自体はかなり少ないが、所謂英霊召喚の類らしい。その証拠として彼女のステータスには『守護者』というスキルが付与されており、これによってシュトレオンが生きている限り従者として生きることになる。

 むしろ、俺何年生きるんだって思うよ。この前アリアーテ様に聞いたら『まぁ、お主なら大丈夫じゃろ』としか言わなかったし。ま、無病息災であることが一番だよね。


 なお、あの文書についてはバルトフェルドが馬車に乗り込んだタイミングを見計らって置いてくるように命令した。契約していれば声に出さなくても念話で会話できるってホント便利だと思う。とはいえ、あの父親は絶対に気づいてるんだろうね。仕方ないけれど。


──────────


 所変わって、エリクスティア王城の食堂。先程の会議が無駄に長引いたことと、助け舟を出してくれた礼として国王が『お主らも一緒にどうじゃ? 偶には煩いやつらがいないところでの食事もしたいであろう?』と提案したので、バルトフェルドとフィーナはご相伴に与ることとした。


 とはいえ、この国の王族は普段の食事をあまり贅沢にしていない。

 これはエリクスティア初代国王が『高級食材は確かに良いが、市井の物を食すことも国を知ること』という言葉を代々守り、国王自ら実践したバランスのとれた食事を心がけてきた結果、出産に関わる妊婦の死亡率も劇的に減り、王家は子宝に恵まれて国を長らえている。

 なので、今日のメニューは西方で獲れた魚介類のパスタだ。とはいえ、生の魚介類は輸送の関係で腐ってしまうので、天日干ししたものを水で戻したものになってしまうが。


「うむ、これは美味しいな」


「輸送面が解消されれば生の魚介類も王都に届けられるのですが…」


「その辺は、魔術師ギルドと商業ギルドの頑張りに期待するしかありませんね」


 現状冷蔵・冷凍状態を保持したまま輸送する技術が確立していない。その為、内陸にある王都での生鮮食品といえば、近郊で採れた野菜・果物と冒険者ギルドから卸される魔物の肉ぐらいしかないのだ。

 それはさておいて、昼食を終えて五人は国王の応接室に通された。国王を皮切りに四人がソファーに座ると、国王が声を発しつつ頭を下げた。


「さて、バルトフェルド。此度は本当に助かった。あのまま続いておったら、わし自ら拳を振り下ろしておったわ」

 

「流血沙汰にするつもりだったのですか……片付けは一人でやってくださいよ?」


「この後殴る前提で話すでない! コホン、してバルトフェルドよ。お主がセラミーエにおったのは間違いないのだな? それがどうして王都におる?」


 真剣な表情を浮かべつつ視線を向ける国王に対して、これは正直に話すべきだ、とバルトフェルドは思った。

 何せ、国王は自身の息子を将来的に公爵まで仕立てあげるつもりだ。ならば、その最大の協力者にこの事実を伝えて、思いっきり巻き込むのが良いと判断した。下手に隠し事をして不信感を持たれるよりは遥かに良いと…後で謝罪することも含めて、バルトフェルドは口を開いた。


「……解りました、正直にお話しします。ただし、このことは絶対に内密でお願い致します」


「それでしたら、私は席を外したほうがよろしいでしょうか?」


「いえ、フィーナ団長もいたほうがよろしいでしょう。グラハム伯はこれから話すことをご存知ですので」


「あいわかった。この秘密はここにおる五人の秘密とする。外部に漏らした場合は死罪……無論、わし自身もだ。話してくれるか?」


「はい。二枚の文書は私の息子であるシュトレオンから齎されたものです。ただ、私も心労を鑑みるとその入手方法は聞かないほうがよいと判断しております」


 バルトフェルドは持ってきた二枚の文書について、息子であるシュトレオンから持たされたものだと説明。二枚目の文書は馬車に乗った際に置いてあったが、十中八九シュトレオン絡みだとバルトフェルドは判断した。尤も、その方法は聞かないほうが自分のためだろうと思ったのは言うまでもないので、国王らにもそのことを話した。


「そして、私がここにいる理由も息子のお蔭です。彼は転移魔法……時空魔法を使えると魔神の一件以前に説明を受けました。ですが、それを知った輩が悪用する可能性もあり、私と妻ミレーヌ、次男ヴェイグ、ジェームズ子爵、そしてグラハム伯爵殿しか知りません。陛下らにお話ししなかったのは、ガストニアとの一件でごたごたしていたためでもありました。本当に申し訳ありません」


 バルトフェルドはそう言って深々と頭を下げた。しばらく静寂に包まれるが、国王がゆっくりと口を開いた。


「…頭を上げよ、バルトフェルド外務相。実はの、二年前にわしと宰相はおぬしの息子に時属性の資質があることをラスティ大司教から相談されておった。彼は『職務に背くが、彼を家族から引き離すような真似はアルジェント家に弓を引くようなものだ』とな」


「ラスティ大司教が……」


「彼は幼い頃、レオンハルトからの言葉を律儀に守ってきたからこそ、今ここにおるともな。しかし魔神討伐の一件といい、兄二人といい、お主の息子らは英雄レオンハルトが守護霊として顕在しておるような働きぶりじゃ。これは、わしの娘を降嫁せねばなるまいて……確か、お主の四男は5歳だったな」 


 ラスティ大司教からの相談事を隠していた時点で、自身も詫びねばならん立場であると含みつつ国王が自身の娘の一人を嫁として宛がう発言に、ハリエット宰相が笑みを浮かべつつ尋ねた。何せ、国王は超がつくほどの親馬鹿なのだ。


「おや、あれほど可愛がっているアリーシャ王女を降嫁させるのですか?」


「実はのう、先日お付きの近衛騎士がうっかり魔神討伐の件を話してしまっての。その日以降『その人に会いたいです。会わせないと口を利きません』とか言われてしまって……ううう。何とか7歳のお披露目会までは待ってくれと誤魔化したんじゃ」


「……申し訳ありません、私の任命ミスですね」


「いや、お主は悪くないぞ、フィーナ団長」


 本気で頭を抱えている国王に四人は冷や汗を浮かべた。それでも何とか説得させたことに対してバルトフェルドは内心ホッとしたような感じがした。それでも、自分の息子と王女の一人が婚姻することは既定路線であるのだが。


「そうでなくとも、お主の息子の今後を考えると必要だということはわかっておる。バルトフェルド、今回は何とか誤魔化してくれ! でなければ、エクセリアをお主の第四夫人として降嫁させるぞ!」


「へ、陛下!?」


「どういう脅しの仕方ですか!? しかも、サラッと自分の娘を売らないでください、陛下! 私は既に三人いるだけで過分とも思える身です!!」


「仕方ないじゃろう!? あやつ、先日の八天竜勲章の件を聞いて『アルジェント侯爵家以外には嫁ぎません』とか言い出しおったのじゃぞ!? お主の次男にはティファーヌが惚れ込んでおるし、三男は現状準爵扱い、四男は年を考えればアリスフィールかアリーシャになるんじゃぞ!」


 エリクスティア第二王女エクセリア・セルデ・エリクスティアは実力の強い人間に惚れ込んでいる。

 八天竜勲章は極めて高い武功を収めた者が授章される代物で、エリクスティアにおける最高勲章とされている。

 それを耳にした彼女はその勲章を受けた人物がアルジェント家の人間だというところまで知ったため、自分の父親に対してそう言ったのだ。しかし、流石に一人の貴族へ王族の姉妹が降嫁するのは認められない。それを解っているからこそ、エクセリアは妥協案を出した。


 こうなれば、とバルトフェルドは妥協案を切り出した。後でグラハム伯爵への詫びを考えることも忘れないようにハッキリと述べた。


「実は、グラハム伯爵殿がうちの三男ライディースをミランダ領の後継者として育てたい、と打診がありました。彼が言うには、ライディースと伯爵殿の養女を婚姻させ、伯爵家の次期当主に仕立て上げるとのこと。可能であれば、彼女の降嫁はライディースにお願いしたく存じます」


「ほう、あのグラハム伯がバルトフェルド外務相の三男にですか……ホント、レオンハルトの守護霊がいるかもしれませんね。お祝いは弾みますから。ざっと外交庁の予備費十倍で」


「……九倍でお願いします」


 彼の言葉にニコルが笑みを零し、これで彼の男子全員が貴族として自立できる何とも素晴らしいことに、今までの節約すら超えた超低予算に色目付まくるような発言が飛び出した。それを聞いたバルトフェルドは、一割分だけは受け取れないという判断の発言をすることしかできなかった。

 それに続くようにして、国王が水を得た魚のように言葉を発した。


「ふむ。ならば、第二王女エクセリアの婚約者としてそなたの三男ライディースを認めよう。とはいえ、婚約のことは秘匿になるが。かの御仁は王国最強の剣士を育てた実績がある。のう、フィーナ団長?」


「はい。未だ勝ち越せないのが少々悔しいと思う所存です」


「王国最強の剣士が勝ち越せないとは、剣の腕未だ落ちずですか。流石は【流水の剣匠】と呼ばれたお方だ」


 この国では、極めて強いと認められたものに称号名が贈られる。フィーナもその一人で【黎明の剣姫】という称号持ちだが、本人の性格から【凍て付く乙女】のほうが有名になってしまっていた。ジェームズ子爵は【剛腕の剣聖】という称号を持っている。

 そして、それは当然シュトレオン・フォン・アルジェントにも贈られていた。かつてレオンハルト・フォン・アルジェントに贈られたものの、彼が固辞した称号。


八天竜(やてん)の剣聖】という名の称号を。

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