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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第1話 転生先は……

 俺が瞼を開けると、真っ白の風景ではなく建物の天井らしきものが見える。流石に視界がぼやけるが、目線をあちらこちらに向けると一人のメイドさんらしき人物が声をかけてくる。その表情は心配という印象を何となく感じることができた。


「レオン様!? 大丈夫ですか!?」


 視界はまだぼやけているが、大丈夫という意思を示すために首を縦に振る。すると、その女性は慌てるように部屋を飛び出していく。


 誰かを呼びに行ったと思われるので、ようやくはっきりしてきた視界を捉えつつ、上半身だけベッドから起こした。そして、目を瞑って記憶が戻る前のことを思い出せるか試みると、すんなり情報の整理がつけたことに一安心した。そこまで情報量がなかったというのもあったのだが。

 こういう場合って大体意識が目覚める前のことを思い出せることなどないはずなのだが、その辺は神様が配慮してくれたのだろう。流石に生まれてから2年ぐらいの記憶は思い出せないが、それはそれでよかったと思う。本来物心付かない時の記憶って殆ど無いのが当たり前だからな。


「レオン、やっと起きたのね! 大丈夫?」


 すると、姿を見せたのは美しい女性。肩にかかるぐらいの濃紺の髪とサファイアを彷彿とさせる瞳、そして誰から見ても主張が激しい双丘に俺は顔を埋める形となっている。

 男からすれば役得なのだろうが、逆に息苦しいともがく羽目になった。女性のほうはそれにはっと気が付いて、申し訳なさそうな表情をしつつ距離を少しとってくれた。


「ホント、心配したのよ。一週間も寝込んでいたのだから」


 原因不明の高熱で一週間も寝込んでいたとの説明からして、女性の喜びようは納得できる。

 元の世界基準で考えればよくて後遺症が残るレベルの話だ。その原因は俺の記憶と意識の両方が覚醒する関係で起きたのだろう。それが原因で支障をきたさなかったのは、たぶん神様のお蔭なんだろうと思う。


「起きたとはいえ、しばらくは安静にね。カナン、レオンに何か食べれるものをお願いするわね」

「かしこまりました、奥様」


 俺としての意識が覚醒する前の記憶には、この世界のことに関する知識がちらほらあった。それだけでも整理しよう。


 転生後の名前はシュトレオン・フォン・アルジェント。名前自体長いので、家族からは「レオン」と呼ばれている。そして、エリクスティア王国セラミーエ領を治めるアルジェント侯爵家の四男にあたる。


 俺がいるこの国はエリクスティア王国で、エントワープ大陸と呼ばれる大陸西側にある大国。かつては一つの小国だったのだが、戦争などによって併合を繰り返した結果、大陸で指折りの大国となっている。下手にどこぞの小国出身とかで転生していたら苦労まっしぐらだったろうと思う。もしくはある程度見切りをつけた上で亡命を図っていたかもしれない。


 この国の爵位階級は王・王族・公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士爵となっており、普通の貴族では公爵が最高階級で、上流貴族は伯爵以上である。普通の貴族で二番目に高い家に生まれたのは正直運が良かった、というべきだろう。


 アルジェント侯爵家の治めるセラミーエ領は王国南部に位置しており、領自体隣国と国境を接していて、現在は交易の通り道としてある程度栄えているが、過去には隣国であるガストニア皇国との戦争の際、大規模な戦場になった場所の一つでもある。


 本来は辺境伯が治めるべき領地を侯爵家が統治しているのは、俺の曾祖父にあたる人が当時起きた戦争で多大な功績を上げ、更には領地復興まで成し遂げた敏腕さから大臣職に相当する職に就くこととなり、結果として辺境伯から侯爵へ陞爵された過去があるとのことらしい。そして、侯爵家ながらもその特殊性から独自の軍事力である騎士団を持っているとのこと。


 領主邸のある領都セラミーエを中心に街や村が点在し、南部の国境沿いには大規模な砦が聳え立ち、外敵の侵入を阻む。南東方面には魔物が住む大規模の森があり、さらに奥へ進むと3000メートルをゆうに超える山脈が連なっている。西側へ行くと海に面しており、港町からは交易船や他大陸への定期船などが行き交っているそうだ。


 俺の父親の名はバルトフェルド・フォン・アルジェント・セラミーエ。貴族の名は名前、貴族を示す『フォン』、家名が基本であり、そこから必要に応じて名前が増える。セラミーエ領を治めていることから家名の後にセラミーエの名が付く。

 妻はなんと三人いて、シュトレオンは第三夫人であるミレーヌ・フォン・アルジェントの初子とのことだ。初めて授かった子なのだから、あれほど心配そうな表情も納得できた。


 第一夫人であるレナリア・フォン・アルジェントで、男の子二人と女の子一人がいるのだが、現在は王立学院に兄たちが通っている都合で王都にある屋敷で暮らしており、直接会ったことがない。


 第二夫人はエリス・フォン・アルジェントで、男の子と女の子が一人ずついる。


「レオン、元気になったら手合せして!」


 男の子はライディース・フォン・アルジェントで俺と生まれた日が一日違いと近く、その縁で仲が良い。名前が長いので『ライ』と呼ばれることが多い。今は金髪の美少年だが将来はイケメンになるのだろう。イケメンなど爆ぜてしまえと思いたいが、同い年の兄なので対象外とすることにした。


「レオン兄様、これあげる」


 女の子はメリル・フォン・アルジェントといい、母親が違うのに俺を非常に慕ってくれている。たまには実の兄であるライディースにも構ってあげなよというと『レオン兄様がいいの』と甘えてくる。その反面ライディースがいじけるので、なだめるだけでも一苦労だ。


 これじゃ俺が二人の兄みたいだと言った感じで呟くと、それを聞いたエリスは悪戯っぽい笑みを浮かべて自らの胸に俺を抱いてくる。これにはカナンやミレーヌも笑みを零すほどだった。


 実はレナリア、エリス、ミレーヌの三人は王立学院へ通っていた時に父と知り合い、熾烈な争いを勝ち抜いて父のハートを射止めたそうだ。母曰く『あの人を射止めるために三人で闇に葬った数は百を超えたわ…』とか言っていたが、揶揄だと思いたい。切実に。


 さて、ここまで整理できたところで、俺の目標を決めておこうと思う。

 それは『かわいい嫁をもらい、スローライフを送る』この一点だろう。とはいえ、神様から復興のお願いもされているので、そちらが当分最優先になるだろう。そうなるとスローライフとはかけ離れた有様なのは言うまでもないが……そこは割り切ろうと思う。


 それに、転生の特典を単独で隠しきれたりはできないだろうし、そもそも復興するにしても他人の信用を得ることから始めなければならない。ようは『シュトレオンだから仕方ないよね』という理解者を作ることである。でも人外扱いは簡便な。


 それなら貴族のすねを齧るということも選択肢なのかもしれないが、それはそれで何か違う気がするので却下とした。

 今頃転生前の親や家族は消沈しているかもしれないので、せめてこの世界の家族たちにはそれも含めた悲しい思いをさせたくない。場合によっては自重を捨てることも覚悟しなければならない。


 部屋にある書物には魔法のことに関するものもあったので、まずは基礎知識のお勉強である。言語も日本語とは別物なので、しっかり覚えていこう、というかこの辺は意識が目覚める前に勉強していたようで、記憶の中に残っていた。

 元からハイスペックの疑惑を感じているが、気にしないことにした。細かいところを気にしていたらキリがないからね。仕方ない。

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