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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第14話 面倒な裏事情と後片付けの有効活用

「ウォルターは屋敷に戻り、今後の差配を。俺は陛下にお会いする」


「かしこまりました」

 

 ウォルターにそう告げたバルトフェルドは執務室を後にした。そして騎士の案内で王城内の別の執務室に通された。すると、国王とこの国の宰相である公爵、財務相を務める侯爵が部屋に入ってきたので、彼は立ち上がって挨拶をする。


「陛下にハリエット宰相閣下、それにニコル財務相。ご無沙汰しております」


「ここは公式の場ではない故、そこまで堅苦しくなくともよい。むしろ、今回の一件はわしが労わねばならん立場じゃろう。座るとよい」


「お疲れ様です、バルトフェルド外務相。にしても、オームフェルト公爵がまた難癖つけてきそうな功績ですね、ニコル財務相」


「そうですね、ハリエット宰相。イスペインの東方遠征が過去13回に渡っていずれも失敗。おそらく、来年予定される遠征がラストチャンスではないかと。それに比べて南は防衛の成功。傍から見れば、グランディア帝国の自爆を誘発させた功績は大きいでしょう。バルトフェルド外務相は本当にお疲れ様です」


「…ありがとうございます」


 四人は国王を皮切りに椅子へと座る。

 北の四聖貴族であり、この国の宰相であるハリエット・フォン・ノースリッジ・コーレック公爵は、笑みを零しつつもバルトフェルドの息子らが打ち立てた功績を自分のことのように喜んでいた。

 西の四聖貴族にして財務相を務めるニコル・フォン・ウェスタージュ・レター侯爵は冷静に事実を並べながら話しているが、その根底にあるのは同じ侯爵であるバルトフェルドの子が成し得た功績への好意的な評価であった。

 これにはバルトフェルドも改めて感謝の礼を述べ、頭を下げた。


「今回はその件も含めてじゃな。まずはガストニア皇帝らのことじゃが、皇女のことからバルトフェルドの長女とハリエットの長女を護衛に宛がうこととした。それと、王都に滞在中はアルジェント家の屋敷に泊まっていただく方針とした。理由はお主も解るであろう」


「……ええ。客室は余っておりますので、問題はありませぬ」


「王都騎士団より人員の派遣は致しますのでご心配なく。先方より『そこまでの過分な応対は結構』とも伺っていますが…」


「そういう訳にもいきませんな。此度は私の治める領での一件でもありますゆえ、難しいところです。皇帝は自ら料理をお作りになるほどの美食家と聞いておりますので。可能ならば、我が領の郷土料理で持て成そうかと思っております」


 皇帝一家の滞在先を王城にしなかった理由は、この場にいない四聖貴族―――東のオームフェルト家の当主絡みだ。ブレックス皇帝らが竜人族という事実を知っているのは、リスレットの二つの騎士団の人間と、リスレット領主であるジェームズ子爵、シュトレオンとヴェイグ、そして国王とバルトフェルドである。


 そしてオームフェルト公爵家は人族至上主義の人間ばかりだ。竜人族という種族の稀少性で利用価値を見出そうとする輩から守るための次善策である、と国王はハッキリと言った。それだけでも国王のオームフェルト公爵家に対する評価を見て取ることができる。


 それに、今回は国際的な事情もあるとはいえ、セラミーエ領での一件でもある。できることならその主であるバルトフェルドに対応させるのが筋だと国王は考えたからだ。

 ブレックス皇帝は自ら腕を振るうほどの美食家という噂を以前から聞き及んでいる。今から高級食材を集めるのだけでも一苦労なことだ。なので、バルトフェルドは無理にこの国の高級料理ではなく、セラミーエの郷土料理で持て成すことを考えている。

 さらに、王都滞在中はアルジェント侯爵家の屋敷に宿泊する。国外の首脳クラスがいち貴族の屋敷に宿泊するだけでも非常に名誉なことなのに、その世話まで一任されるのは恐縮なことだとバルトフェルドは思う。


「うむ、それも一興じゃな。必要ならば食材調達や人員の差配は王家からも行う。此度は大役を担った護衛を労う意味合いもあるしの。ハリエット、そちらの差配は頼むぞ」


「かしこまりました、陛下」


「さて、バルトフェルド。お主の次男ヴェイグの叙爵については、本人の希望を叶える形だが嫡男ジークフリードの襲爵と同時に執り行うこととした。過去の遠征の実績から男爵位への叙爵を認める。そしてお主の四男シュトレオンなのだが……正直困っておる」


「困っている、ですか?」


「うむ。魔神討伐という事実の是非は回収された魔剣を調べることになるであろうが、辺境騎士団部隊長の報告を見るに、十中八九魔神を封印した剣であるのは間違いないとな」


 レオンハルトは過去に魔神を剣に封印したという話が今も残っている。そしてあの場で戦った騎士団の兵士らが、その化け物のような存在がアルジェント家を明確に敵視していたことを目撃している。

 当時の王国もその話を眉唾程度のものとしか考えておらず、現の国王自身も誇張された伝説と思っていた。だが、今回それが事実であったということが判明し、頭を抱えたくなったそうだ。


「ドラゴンのような伝説級の存在すら超える『悪しき神』の討伐。今は何とか箝口令を敷いているが、いずればれるであろう。それと、仮に魔神までいくと過去の事例から八天竜勲章の授与に相当、つまり公爵クラスの働きに匹敵する。しかしな…」


「成程、オームフェルト公爵家ということですか」


「そうなのだ、ニコル。あの者らはあることないこと言ってくるであろう」


 そのような才溢れる者を野放しにした場合の損失は計り知れない。もし帝国に行くようなことがあれば、間違いなくこの国は亡びることになると感じていた。オームフェルト家の横槍はあるだろうが、『お前らに魔神が倒せるのならやって見せろ』と国王は公爵に直接言いたくなったそうだ。


「ひとまずの苦肉の策ではあるが、略式で準男爵とすることにした。略式ならばここにいるわし以外の三人の承諾で一発じゃからな」


 本来叙爵は謁見での儀礼をもって執り行うもの。だがこれにも抜け道があり、準男爵・騎士爵以下のものは大臣クラスの貴族当主の承諾をもって決定すれば、それを謁見を通したものとして認めるものだ。

 こんな例外が存在するのは、たとえば平民が軍功を挙げて爵位を貰う場合だ。普通は国威掲揚ということで謁見を通すのが通例だが、平民如きが国王に謁見できるなど烏滸がましいと思う貴族も少なからずいる。なので、それを回避するための手段として存在するのだ。


「なるほど、うまい逃げ口ですね。ただ、文句ぐらいは言ってきそうなものですが……こないだの東方遠征予算案を出されたときは、本気で怒りましたよ。『お前たちは出すべきところに兵士を出していない。死地に送るつもりか? これでまたアルジェント家が手柄を立てたら、こっちの要求全部呑んでもらいますから』とね」


「温厚で知られる財務相を怒らせるとは……軍務相の表情が青くなっていたのはそのためですか」


「文句ぐらいならばまだいい。結果としてそうなってしまった。だから、段階的陞爵にしたのじゃ」


 一発でまだ社交界デビューもしていない人間を公爵にあげることなどしたら、それこそ色んなところから反発が出る。なので、国王としてはできるだけ波風を立てない方法を考えるに至ってしまった、と疲れ切った表情で述べた。


「よろしいのですか? シュトレオンはまだ5歳ですが」


「構わぬ。聞けばお主が先日献上したワインもその者が関わったとミシェル子爵から直接聞いた。このことは箝口令を敷いておるゆえ、わしとミシェル子爵、それとお主らしか知らない事実だ。それに、グラハム伯爵殿からの推挙もあった」


 グラハム伯爵は本来後継を選ぶべき年齢を過ぎているが、その土地の特殊性上次の領主選びが難航しており、かれこれ百年以上ミランダを統治している。英雄レオンハルトの知己ともなればその肩書き欲しさに近寄ってくるのが多いが、彼はそれをすべて断っている。その彼が推挙した意味は大きい。


 グラハム伯爵が偶々王都にいたときに国王がその旨を相談したところ、シュトレオンの後ろ盾として立候補すると断言した。伯爵ではあるが、西方の海上貿易を担う都市の領主。その影響力は四聖貴族クラスに匹敵するのだ。これにはバルトフェルドも驚きを隠せない。


「あの方がシュトレオンの後ろ盾とは……ますます、足を向けて寝られなくなります」


「わしですら敬意を払わねばならんお方が推挙した。これを無碍にすることは英雄レオンハルトへの侮辱でもある。略式叙爵の件、受けてくれるな? バルトフェルド外務相」


「はい。依存はありませぬ」


 国王の提案を承諾し、バルトフェルドは深々と頭を下げた。これで、自分の息子四人のうち三人が貴族の当主となる。しかも、四男シュトレオンは後々公爵にまで引き上げる目論見らしく、その意図を察したバルトフェルドは内心申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「うむ。正式な叙爵の発表はお披露目会の後とする。社交界への顔見せもせずにというのは酷じゃからの。あの輩はとやかく煩く言ってきそうだが、シュトレオン準男爵はガストニアとの道を開いてくれた功績もある。先達からの書状では両陛下ともに感謝しており、彼がいいのならば自身の娘である第一皇女を嫁がせたいと申し出てきた」


「ほほう、そこまで言わせるとは……私も一目会いたくなってきました。これは、娘を送り出せるようにしっかり長生きせねばなりませんね」


「よう言うわ。お主はしれっとあと100年は生きそうな顔をしておるではないか。お主が20歳と自称しても違和感ないぞ」


「ふふ、陛下。それはニコル財務相にも言うべきかと思われますよ」


「ははは、これはバルトフェルド外務相に一本取られましたね」


 執務室には四人の笑う声が響き渡ったのであった。


 

 エリクスティア王国とガストニア皇国は東にいるグランディア帝国が報復と称して大規模な軍の派遣を行う可能性も示唆し、会談開始からわずか三時間での終戦条約締結となった。


 国交と通商路の迅速な回復を実行すると文書を交わし、ガストニアの特産物の数々を優先的に供給してもらえるようにするため、ガストニアを本店とする商会の支店をセラミーエ領と王都に出店を促す目的で必ずしも返還する必要のない出資もしくは無期限無利子の貸付を行うと発表した。


 エリクスティアからは通商路の回復のための人員派遣を行うと同時に、国防のノウハウをガストニアに提供する。そのための共同訓練場を、今回の戦場となった場所である窪地に造営する流れとなった。さらには北部や西部の特産物などガストニアでは手に入りにくいものの輸出も行う。



 まあ、通商路の復興に関しては既に完了していた。なぜなら、それをできる人間……シュトレオン・フォン・アルジェントがリスレットにいたからだ。

 シュトレオンは先日戦場になった場所に立っていた。傍らにはリリエルとライドウもいた。その二人は目の前に見える光景に茫然としていた。目の前には広い道幅を有する石畳の街道が麓の方まで続いていたからだ。


「こんなんでいいかな? 土だとぬかるんで大変だろうし」


「十分すぎるかと。ここまでしっかりした道なんて王都の街路以上ですぞ」


 グランディア帝国兵の25万人という死体をどうしようかと思ったが、鎧とかの貴重品はともかく骨になってもアンデッドで蘇る可能性もあることを知識で得ていた。

 なので、シュトレオンはそれらをすべて錬金術で御影石に変換した。一応祟られても困るので生命神の加護を使って浄化した。彼らの装備品は一応浄化をして全てアイテムボックスに放り込んである。そして石をある程度の大きさを持つ四角柱に整えていくと、次に道の土台整備にとりかかる。

 まずは道を重力魔法で整えていく。道の幅は馬車の往来を考慮して8メートルぐらいとした。そこらへんの岩山から岩を適当に切り出してきて、重力魔法で粉々に粉砕して土の道に敷き詰め、転圧する。

 その上に数センチ砂を敷き、切った石を敷き詰めて更に重力魔法で転圧。仕上げに摩擦軽減防止・破壊防止・崩落防止用のエンチャントを施す。雨とかの気候でも馬車が滑って道から落ちないようにするためだ。

 後日、雨などが降った時を考えて水属性吸収のエンチャントも付与しておいた。その吸収分を魔力に変換して道のメンテナンスなどを軽くするための措置である。


 そうして完成したのは、砦から東西数キロ、全長十数キロにも及ぶ石畳の街路。エリクスティアはおろかガストニアにまで軽々踏み込んでしまったが、後悔はしていない。転移などの魔法は使ったが、それでも材料はすべてこの世界にあるものしか使っていない。一切無駄にならないって魔法の力はすごいものだと思う。

 

「でも、どうしてレオン様が?」


「いや、結局は帝国の自業自得だけれど、大本はうちのご先祖様が原因でしょ? それにあの25万の兵を浄化して片付けるのが無理っぽいなら、このほうがいいと思って」


 帝国の連中から『レオンハルトを生み出したから、お前らが悪い』とか言われても困る。魔剣を持ち出して唆した側が厚かましい態度など取れるはずもない。取るようなら魔法ぶっ放しても許されるよね? 『一発だけなら誤射かもしれない』って言うし。

 それに、25万なんて数の死体を放置してアンデッドが跋扈するぐらいなら、有効活用するほうがいいと思った。石に変換しているので意味のない死にはなっていない。ある意味帝国への意趣返しでもある。


「エリクスティアとガストニアの『踏み石』ってわけですかい。事実を知った連中からしたら憤死ものですぜ」


 あっちの勝手な都合で攻め込んで、25万匹のアンデッドを押し付けられる身にもなれって言いたいね。何せ、死体を浄化せずに放置したら一週間でアンデッドの出来上がり。何も手間を掛けないあたり某三分クッキングより楽な手頃さだ。


 装備品類などの遺品は一応グランディア帝国に返還する予定だ。この世界で言えば遺品すら返して貰えないのが普通なのだから、一々目くじら立ててほしくないと思う。現状は保留だが、このあたりのお願いも父への書状に含めてある。


 これは後日聞いたのだが、25万人なんて人数を浄化しきるのはラスティ大司教でも無理だと言ったぐらいだ。それこそ神に降臨でもしてもらわないとダメなレベルらしい。


「まあ、リックさんもといブレックス皇帝陛下には個人的にお世話になったから」


「両陛下はレオン様に感謝しているようですけどね。皇女殿下もレオン様に惚れているようですし」


「うーん、どうなんだろ。確かに一緒に街を歩いたりはしたけどね。向こうは皇女だし、同い年の子と話す機会がなかったから、興味があっただけだと思うし」


 正直、女の子の扱いは分からない。うちだと、年が近い部類ならカナンかメリルぐらいしかいないからなぁ。

 ブレックスの娘はシュトレオンと同い年で、一緒に屋台を食べ歩いたり、お話をしたりアクセサリをプレゼントしたぐらいだ。王都へ出発の時は一緒にいたいと泣かれてしまったのには流石にオロオロしたが。


「それに、貴族でも当主じゃないからね。流石に厳しいと思うよ」


「……リリエル。今回のことが王城に行ったらどうなる?」


「間違いなく国王への謁見になりますね。ただでさえ、最近冷えていたガストニアとの国交…それを発展できるチャンスをレオン様が作られましたから」


 ライドウとリリエルの言葉に、シュトレオンは流石に大仰すぎるであろうとこの時はそう思っていた。その裏で既に叙爵されているなど知るわけもなかった。予想できた奴は新世界の神だな、と思う。


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