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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第11話 強くあるために

 お披露目会から一週間後、シュトレオンは侯爵家の紋章が入った馬車に揺られていた。向かい側には兄の一人であるヴェイグも一緒だった。その兄の様子といえば、14歳だというのにすっかり武人としての風格を見せるほどであった。


「にしても、兄様は学院生のはずなのにすっかり一人の騎士扱いですよね。学院で何かあったのですか?」


「あー、実はな。事の発端は入学して半年経ったころの話だ。お前が2歳の頃だな」


 学院では定期的に武術の試験があるのだが、ヴェイグはそこで試験監督として来ていた王都騎士団、第三騎士団副団長に勝ったのだ。


 王都騎士団は王城内を守る第一騎士団、王都内・周辺を守る第二騎士団、騎士への教導や国外への遠征を担う第三騎士団が存在する。で、ヴェイグがその試験監督に勝った所属の関係で、その一週間後に初の長期遠征へ特例で行かされる羽目になった。


 それで終わるのなら良かったのだが、ヴェイグの歳不相応な体躯と頭脳を北のノースリッジ公爵家と西のウェスタージュ侯爵家の当主らに買われる形となり、度々遠征を頼まれることになったらしい。


「でも、普通に考えたら武術ぐらいしか単位対象にならない、と思うのですが」


「…やっぱり、5歳とは思えんな。俺もそう考えたんだが、一応冒険者ギルドに登録してることを利用した依頼もなし崩しで頼まれてたんだ。要人の護衛やら補給物資を積んだ馬車の護衛とかもな。あとは薬草集めなどもこなしてた」


 つまり、本来末端の兵士がやることを『冒険者ギルドの依頼』という書類上の理由付けまでご丁寧にした上で、ヴェイグにやらせていたのだ。年齢を考えると立場的には合ってるのだが……お蔭でギルド本部へ行った時に受け取った報酬がえらいことになったという。


「陛下から頂いた勲章だけで済む話じゃなさそうですね。父があそこまで話したからには大事でしょうし」


「実は、叙爵は確定なんだ。けれど、一応卒業までは待ってくれとダメもとで頼み込んだら了承を貰えた」


「今すぐだと拙かったのは、何かあるんですか?」


「……東のオームフェルト公爵家だ。まぁ、何というか俺だけでなくアルジェント家そのものを目の敵にしていてな。確か、お前やライと同い年の男子もいるから、覚えておくといい」


「はい、わかりました兄様」


 聞いた話によると、曽祖父の功績を妬んだ感情が積もりに積もって今に至るというらしい。面倒な話だと思う。よくそこまで恨み切れるのだと逆に褒めたいような心境を抱く。


 来年の春には、うちの長兄であるジークフリードが王立学院を卒業し、初夏の前あたりで結婚式をするそうだ。お相手は北のノースリッジ公爵家令嬢とのこと。

 その関係もあるので『今事を荒立てたくないのです』と懇願し、陛下も了承されたと説明した。なお、二つの家の対立は国王自身も頭を悩ましている案件だそうだ。


 アルジェント家にその気は無くともオームフェルト家が難癖をつけて事を荒立てる……この際、呪いの線を疑ってラスティ大司教にお祓いでもしてもらったらいいのでは、と思うほどだった。


「にしても、メリルをよく説得できたな。昨日まであんなに『行っちゃいやです!』としがみ付かれていたのに」


「年単位で離れるわけではありませんし、一か月に一度は屋敷に帰ると約束しました。それに、いつかはメリルもどこかの貴族に嫁入りするかもしれませんので、その予行練習です」


「あの親父が気に入る奴となると、条件厳しいぞ……例えば、お前と同レベルとか」


 そんな条件、某月のお姫様も『え、なにその条件』とドン引きするであろうこと間違いなしだ。せめて容姿と内面の性格だけでどうにかなればいいと思うが、厳しいだろうな。


 父であるバルトフェルドはメリルを溺愛している。何せ、メリルが『勉強したいから魔導書が欲しい』とか言ったら書庫に埋まり切らないほどの量を買い込んできた。後でガエリオ男爵とエリスとミレーヌから説教を食らっていたのは言うまでもない。


 そのお蔭でシュトレオンも勉強ができたので、特に文句などを言うことはない。なお、その購入資金は父が昔稼いでいて貯め込んだ分からの自腹で微々たる出費らしい。流石狩りを趣味にしているだけはあるなと思った。



 領都セラミーエから馬車に揺られること3日。シュトレオンの目に飛び込んできたのは、セラミーエに匹敵するほどの高さを持つ外壁と、その奥のほうにうっすらと見える巨大な構造物。それは砦というよりも要塞のような印象を強く受けた。


 セラミーエ領最南端にしてエリクスティア最南端の町リスレット。馬車は幌についた紋章でパスされ、町の中へと入っていく。そして、そのままこの町で一番大きな建物である領主邸に到着した。その建物の大きさはセラミーエの実家よりも大きかった。


「大きすぎません? 実家よりもでかいですよ」


「建築指示したのはレオンハルト様だからな。その当時は王都もうちの領も情勢が安定していなかったから、ガストニア方面との外交窓口も兼ねるために王城の出張所まで設けたらこうなったらしい。尤も、今は倉庫代わりになっているがな」


 領主邸としての機能と国家の外交を担う拠点の二つを担い、なおかつ警備の効率化を図った結果規模が大きくなった。後者の機能は現在失われているが、取り壊して立て直すのも費用がかかるのでそのまま残っていると説明してくれた。


 領主邸の執務室に案内されると、そこで待っていたのはジェームズ子爵その人であった。お披露目会で一度会っているとはいえ、今の彼は騎士服を着ているので武人らしさが一層滲み出ていた。


「きたか、ヴェイグ。それと、ようこそリスレットへ、シュトレオン君。ジェームズ・フォン・アルジェント子爵です。会うのはお披露目会以来だね」


「はい、お久しぶりですジェームズ子爵閣下。今回は我儘を聞いていただいてありがとうございます」


「いや、気にすることはない。隣にいるヴェイグから手紙を貰ったが、剣術の素質は高いと伺っている」


「高いどころじゃないですよ。昨日の模擬戦ではとうとう一本を取られました」


「ほう……」


 ヴェイグの言葉にジェームズ子爵は興味深そうな表情で俺を見ていた。これには流石のシュトレオンも『え、戦うの?』とか内心身構えたが、彼はフフ、と笑みを漏らしたうえでこう言った。


「それならば、問題はなさそうだな。ヴィッセル砦には力自慢たちがいっぱいいてね。君らならうまくやっていけるはずだ」


「あの、心なしか『問題児もいるけど、一発どつけばどうにかなる』という言葉にしか聞こえなかったんですが」


「まぁ、そうとも言うな。だが、性根はいい奴らだ。多少の諍いぐらい大目に見てやってくれ」


「子爵閣下……」


 ジェームズ子爵のその言葉にヴェイグは頭を抱え、シュトレオンは苦笑しか出てこなかったのであった。こういうときぐらい色目をつけるような発言が来るのかと思えば、容赦ない一言が出たことに苦笑以外何も出てこない。


 翌日、シュトレオンは霧の森に来ていた。無論、単独だと何かしら言われるのでヴェイグが同伴している。道中魔物は出るが、それを鉄の剣に魔力を纏わせて倒していく。

 その光景を見たヴェイグの感想は『俺よりも経験慣れしてる。このまますぐに冒険者登録しても行けると思う』との言葉だった。


「とはいっても、12歳までは登録できないんですが」


「いや、実は抜け道がいくつか存在している。本登録してる冒険者随伴なら、7歳で仮登録できるからな」


「初めて聞きましたよ。ということは、ヴェイグ兄様もそれを利用して?」


「ああ。父たちが随伴してくれていた。ガエリオ男爵や母様たちの随伴もあったな。時間があれば俺が随伴するし、知り合いの騎士は多いから必要なら紹介する」


「はい。もしもの時はお願いします」


 そして、アリアーテ様の言っていた場所。見るからにただの壁のようにも見えるが、シュトレオンが触れたその瞬間に岩肌の一部が歪んで入口のようなものが姿を見せた。洞窟を進んだ先の最奥には、一時的な拠点で使っていた痕跡がしっかりと残っていた。


「しかし、これは凄いな。これほどの精度の武器を作った職人など聞いたこともない」


「おそらく、これらを作ったのはレオンハルト様でしょう。奥にしっかりとした鍛冶場まで拵えてありました」


「武に長け、知にも詳しく、さらには自ら武器を作り上げる……だが、なんで隠したんだ?」


 多分、武器を悪用されないために隠したと思うのだが、それがなぜここなのか……と思わなくもなかった。


 ともあれ、何かしら使えそうなものはすべて持ち出すことにした。そして自分の使っている武器も鉄の剣からミスリルの剣に変更した。ヴェイグはミスリル製の大剣を持ちつつも俺に尋ねた。


「俺が使っていいのか?」


「僕を信用してついてきてくれたので、その報酬代わりということで」


「そっか。ただ、お前が仕舞った分は無論だが、こいつでも表沙汰にできないよな」


 ミスリル製の武器ってこの世界では上位クラスの武器なので、俺らが街に戻ってきて領主邸に着くとジェームズ子爵がそれに気づいて質問攻めにされてしまったのであった。


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