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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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第93話 また祖父の仕業か

 エリクスティア王立高等学院は、王国内の高等教育機関でもトップクラスの難関を誇る。流石にカンニングとかはできないし、そもそもする必要などない(国の重鎮が揃ってシュトレオンなら受かると太鼓判を押している)訳だが、一応話だけでも聞きに行こうとグラハムを尋ねることにした。

 その彼だが、丁度ライディースの剣術の面倒を見ているというので尋ねたところ、ライディースと見慣れない少女が戦っていることに気付く。少女の方は見た目の年齢がライディースと同じぐらいで、頭に角が生えていたので直に魔族だと分かった。二人を監督しているのはアザゼルのようで、グラハムはというとのんびり観戦していた。

 グラハムはこちらの気配に気づいたようで、視線を向けつつ右手を挙げて挨拶をしてきた。


「おや、レオン君じゃないか。大方バルトフェルド殿に受験手続のお願いをしに来たのかな?」

「御見それしました。それで、ライは今誰と戦っているのですか?」

「アザゼル殿の孫娘だよ。僕が鍛えたという話を聞いて、模擬戦を申し込んできてね」


 なんでも、アザゼルが自分の子である現魔王の妻より「娘の見聞を広げさせてやりたい。ついてはエリクスティアの学院に通わせたい」と申し出たことが切っ掛けだそうだ。


「サリアライト嬢は彼女の母譲りで剣の筋が良くてね。無論魔法も卓越している。そこで僕とアザゼル殿が教えているライディース君と切磋琢磨させようと決めたんだ。勿論、バルトフェルド殿や奥方らに許可は取っている」

「なら、私に申せる部分はございません。存分に鍛えてやってください。強くなって困るデメリットよりも誰かを守れるメリットは大きいのですから」


 血縁があろうとも、今のライディースは次代のセルディオス辺境伯家を担うための大事な存在だ。甘えることなくビシバシ鍛えてやって欲しいと願うのは、弟として兄には長生きしてほしいと思っているからこそだった。


「それで、私に聞きたいことがあるのかな?」

「ええ。今の学院長はグラハム伯の妹君とお聞きしましたので」

「あの子はね、何というか変なところで頑固なんだよね。誰かを教える喜びは分かるんだけど、一度のめり込むと相手の都合も考えずに突っ走るから」


 今の言葉を聞いて、剣術のことになると周りの言葉が耳に入らなくなるグラハムと“同類”というのがすぐに分かったことは喜ぶべきか悲しむべきか……でも、聞きたいのはそういうことではないだろう、とグラハムが切り替えた上で言葉を発した。


「試験の内容は基本的に私が教えた内容よりも簡単だよ。何せ、あの東の家が受かっているぐらいなんだから」

「それで代々分かってしまうのが悲しい所です」

「レオン君はその被害者側だからね」


 セルディオス家でグラハムに勉学を教わった際、基本的には貴族当主としての勉強だったので、それよりも簡単ということは……いや、そもそも10歳という年齢で受験することを考えれば、前世で言うところの中学受験みたいなものだろう。その時点であまりに高度な問題を出せば、ついて来るのが難しくなる。

 寧ろ、それぐらいの問題が解けて初めて合格できるからこその難関校なのかもしれないが。

 すると、手合わせが終わったのか、ライディースと先程グラハムが“サリアライト”と呼んだ少女、そしてアザゼルが声を掛けてきた。


「あれ、レオン? 何をしに来たの?」

「お疲れ、ライ。父さんに学院の受験手続をお願いしに来たんだよ」

「……レオンが学院に入っても学べるものがあるとは思えないんだけど」

「兄に言われるとめっちゃ傷つくわ」


 確かにライディースの言い分も正論なのだが、まだ学んでいない部分で発見がありそうなのは事実だ。何せ、エリクスティア王国の中でも随一の王立教育機関なのだ。実家や王都の図書館でも発見できなかったことがあるかもしれない。

 それを抜きにしたとしても、真正面から言われたことに凹んでいると、少女が興味深そうにシュトレオンを見ていた。


「―――あなた、あのレオンハルトと同じ“獅子”の名を持ってるみたいだけど、ライディースのお兄さんなのですか?」

「この身なりですが、そちらにいるライディースの弟のシュトレオン・フォン・リクセンベールです」

「リクセンベール……あの、アリアをご存知ですか?」

「ええ、知っています」

「やっぱり! あの子が『王子様みたいで本当にカッコよかった』と手紙で絶賛していたので」


 アリアというのは現リクセンベール領で働いているガルベスターの娘で、どうやら彼女はアリアと頻りに文通しているらしい。彼女の言葉でさらにフラグが増えているということには全力で聞かなかったことにしたい気分であった。


「申し遅れました。現魔王ファーレンハイトの長女、サリアライト・メルティライズと申します。シュトレオン様のことは祖父よりお伺いしております」

「あー、様付けは勘弁してください。こういう時ぐらいは変に気負うのも嫌なので」

「なら、レオン様で」

「……」

「レオン、諦めて」


 兄からそう言われてしまったのでは、流石に弟として兄の顔を立てる意味で引き下がらざるを得なかった。サリアライトがアザゼルから聞いた話について聞いてみると、アザゼルが試しに放った闇属性の最強魔法『ダーク・インディグネイション』を無効化したことまで聞いたらしい。


「その話を聞いて興奮しました! だって、お父様ですら防ぎ切れなかったお祖父様の魔法を消したということは、私のお眼鏡にかなうお方だと!!」

「……あの、アザゼルさん?」

「ゴメン、シュトレオン君。サリアは魔法の腕前で言えば10歳にして息子の現魔王すら超えている。次期魔王の最有力候補とも言われているほどなんだ」


 自分が言えた義理など無いが、ここにもリアルチートが存在したか……と、今なら血反吐が吐ける様な気がしてきた。妻が無尽蔵に増えるのは自分の安寧が少なくなるも同義なので、どうにかライディースに押し付けたい。だが、サリアライトのこの様子を見る限り、ライディースへの脈は無いのだろう。

 すると、ライディースが自分の肩に手を置いた。


「ゴメン、レオン。僕にはどうにも出来ない」

「……いいよ。ライの責任じゃないのだから」


 というか、魔法の観点で現魔王すら超えている次期魔王候補を嫁にするのは非常にマズいのではないか……とアザゼルを見ると、寧ろその方が安堵しているような節が見られた。彼に尋ねると、次期魔王を狙っている勢力がサリアライトを嫁にと欲しがる連中が多く、魔王自身もアザゼルに相談を持ち掛けたそうだ。

 彼女のお眼鏡に適う相手となるとそう多くない……そんな中で自分とサリアが出会い、彼女がこちらに興味を持った。これでどうなるかなど最早火を見るより明らかであった。


「サリア。彼は既に複数の婚約者がいる身だ。それでもいいというのかい?」

「構いません。寧ろ、それぐらいの甲斐性あってこそだと思います。何でしたら、私が妾として扱われても構いませんので」

「それをやったら問題にしかならないんですが」


 この世界の魔王というのは、人間で言うところの王や皇帝みたいなもので、魔族の長的な存在といってもいい。サリアライトの台詞に思わずツッコミを入れるが、これにはアザゼルが腹を抱えて笑っていた。実はアザゼルの妹―――現クライナッハ騎士爵家へ嫁いだ女性も、反対する父親に対して「縁を切って妾として嫁いでもいいんですか?」と言い放ったことにその父親は泡を吹いて倒れた。

 血は争えないな、と思い起こしてしまったらしく、爆笑するアザゼルの姿に全員の関心が向いてしまった。


「ははは……はぁ、久しぶりにここまで笑ったよ。けど、多分息子は反対するかもしれないね」

「構いません。その時は親子の縁を切ってでも嫁ぎますので」

「……もう、どうにもなりませんか?」

「ならないみたいだね」


 この後、その話を持ち込まれたバルトフェルドは盛大な溜息を吐いた。何せ、人族と魔族の婚姻など何時以来のことになるのか見当もつかないぐらい古いそうだ。本来リクセンベール家の婚姻はアルジェント辺境侯家の領分でないが、血の繋がった両親への挨拶ということでバルトフェルドとミレーヌが応対することになった。

 すると、突如空間の一部が歪んで立派な角と豪華な服装、見るからに凄そうなマントを身に付けた男性が姿を見せた。がっしりとした体形はレクトール国王以上で、魔王というのは漂わせている魔力ですぐに分かった。


「サリア! 一体どういうことだ! 軟弱な人族とごはあっ!?」


 その直後、彼の脳天に巨大な剣が刺さって床に倒れ込む魔王。何事かと思ったその直後、その歪みから綺麗なドレスに身を包んだ魔族の女性が姿を見せた。その面影からしてサリアの母親―――魔王妃という存在なのがすぐに理解できた。


「もう、先走り過ぎですとあれほど……あら、申し訳ありません皆様方。お義父様もお元気そうで何よりです」

「久しぶりだね、プリシラ。いきなり息子の脳天に剣を刺すだなんて、息子でなければ死んでるよ」

「暢気に話さないで……ち、父上!? なぜサリアと一緒に!?」


 先程まで尊大な態度を取っていた現魔王はアザゼルの姿を見るなり片膝をついて頭を下げていた。いくら現魔王といえども歴代の魔王―――それも無視できない功績を挙げている父親のアザゼルには勝てないと分かっている為だった。

 言うまでもないが、先程刺された箇所は既に治っている為、魔族にとって頭部は弱点ではないようだ。


「……シュトレオン、私は今何を見ているのだろうな」

「この世界の非常識の一端かと思われます」

「はぁぁ……」


 そんな一幕の後、アルジェント家とメルティライズ家の親子面談が始まった。


「魔王、ファーレンハイト・メルティライズと申す。先程は大変失礼な姿をお見せした。かの英雄たるレオンハルトの一家と知らず、粗暴な口調を使ったことをお許し頂きたい」

「エリクスティア王国、バルトフェルド・フォン・アルジェントといいます。息子のシュトレオンは既に別の家の当主として独立しており、私はただの隠居の身でございます」


 この挨拶の後、妻のプリシラとミレーヌがそれぞれ挨拶をし、サリアライトとシュトレオンも改めて挨拶を交わした。その上で婚約の話となったのだが、プリシラが主導して話を進めることになってファーレンハイトはアザゼルに引っ張られて部屋の外に出ていった。


「元々、この子は資質ゆえに他の魔王候補から執拗に迫られておりました。中には誘拐紛いも引き起こすほどでした。それに、息子のこともあります」


 ファーレンハイトの長男も魔王に足るだけの将来性を秘めているのだが、サリアライトの陰に霞んで自身を持てずにいるらしい。なので、プリシラはサリアライトを大陸の外に出してあわよくば娶ってくれる存在を探していた。

 それと、プリシラはレオンハルトのことについても触れていた。


「私の剣はレオンハルト殿が手解きしていただきました。シュトレオン君、貴方の祖父―――師匠の恩義に報いるためにも、サリアを娶ってくれませんか?」

「……」


 レオンハルト(あのじいさん)……何処を切り取っても付き纏ってくる時点で疫病神に成り掛けてるんじゃねえか!? とは言いたいが、今のレオンハルトはアリアーテ様の下で修行を積んでいるらしい。その内「一番いい装備を頼む」とか言って悪しきものを討伐する神官にでもなりそうな気がするが……そんなことを思ったらアリアーテ様が『それ採用』とか言っていた。マジかよ。


「既に私には複数の婚約者がおりますが、それでもよろしいと?」

「ええ、序列は一切気に致しません。バルトフェルド様、ミレーヌ様。改めてこの不束者な娘を宜しくお願い致します」


 こうして、サリアライトは八人目の婚約者となった。今なら血反吐が吐けてもおかしくない気がする。とか思ってたら、アリアーテ様から『お前さんが血反吐を吐いたら、レオンハルトなんて全身が血が出るぞい』とか言っていた。彼は子どもこそ作らなかったが、惚れさせた女性は三桁を下らないらしい。リア充幽霊爆発しろ。

 空間転移で王都にあるリクセンベール家の屋敷に飛んで、婚約者たちと対面させた。アリーシャとメルセリカからはやっぱりヤキモチを焼かれる羽目になったが、序列は変わらないと改めて伝えた。


 人族、竜人族、エルフ、過去の勇者パーティーの魔法使い、そこに魔族まで追加された。もうこれ以上は勘弁してほしい。冗談でなくマジで。何とか話し合いを終えた身に待っていたのは、アリーシャの膝枕だった。


「……重くない?」

「寧ろ、レオン様の暖かさを感じられて嬉しいです」


 ここ最近は婚約者と二人きりになるというのが少なかった。訓練とかで自分を含めて三人以上の場合が結構多かったからだ。このついでにアリーシャへ高等学院への受験について話すと、彼女は納得したというよりも誰の差し金か分かったかのように溜息を吐いた。


「恐らく、最近筋トレとハッスルが増えたお兄様ですね?」

「前者はともかくハッスルって?」

「お兄様の奥方の皆さんとは仲良くさせて頂いておりまして。『毎日ハッスルされて大変だとメイドたちが嘆かれていた』と」

「……まあ、いい事だと思うよ」


 王族に世継ぎが出来るということはいいことだし、レクトール国王ならば子供らの序列をきちんと定めてくれるだろう。その意味で自分の兄であるヴェイグも次の伯爵家当主である世継ぎ作りということでせがまれているらしい。


「学院には行ってみたかったからね。ただひとつ懸念があるとすれば……」

「その先は仰らずとも理解いたします」

「悲しいことだね」

「全くです」


 オームフェルト家とフューレンベルク家の人間が在籍しているという時点で何かしら問題が起きそうなのは言うまでもない。尤も、既に卒業した長兄のジークフリード曰く「余り剣が得意でないエリザですら勝ててしまうから、彼女も最初は『影武者でも用意したのかしら?』と訝しんだらしい」とのこと。

 ちなみにだが、自分は言わずもがなだし、ライディースも王国随一の実力を有するグラハムから厳しい手解きを受けている。もうじき10歳になる人間相手に負けたら恥も外聞もあったものではないかもしれない。

 寧ろ、初代オームフェルト公爵が草葉の陰で血涙を流していそうだと思うのは自分だけであろうか。


 余談だが、王立高等学院の入学式の夜、王城に飾られた初代オームフェルト公爵の絵の額縁から血がしたたり落ちるという“怪談”があると知ったのは、学院に入ってからだった。


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