プロローグ
生まれ変わり、とか転生とかいう言葉は空想上の代物、と思っていた。だって、経験したとしてもそれを証明できる術なんてない。たまに『私は何処ぞの生まれ変わりです』と主張する者もいたりするが、ある種のネタなのだろうと思っている。
いや、そう思っていた。
目を開けたら、真っ白な空間にいた。とてもじゃないが現実とは思えないところに、老人の声が聞こえてくる。後ろを向くと、長い顎鬚と全身を覆った白いローブが特徴的な老いた男性が立っていた。
「ここは……」
「死後の世界、ってところじゃ。初めまして、杉山篤志君」
あれ、俺普通に寝てたんだが……もしかして突発的な発作でポックリ逝ったとかなのかな? 見た感じ普段着を纏っている少年はそう考えていると、その老人は少年に向かって頭を下げた。
「わしは創造神アリアーテという。この度は本当に申し訳ない!」
「え? 事情がさっぱり呑み込めないんですが?」
「そうじゃの、お茶でもすすりながら話すとしよう」
突然謝罪されても、事情を知らない少年もとい篤志にしてみれば『すみません、何を言っているのかわかりません』としか返せないのだ。少なくとも面識ない人だということは確かだろう。
篤志の言葉を聞いた老人もといアリアーテはパチンと指を鳴らすと、ちゃぶ台とその上にお茶の入った湯呑が出てきた。
中身は緑茶だった。普通に美味しい。その様子を見てアリアーテの悲しそうな表情が少し緩んだ気がした。そして、改めて俺はその神様から死んだ経緯を聞かされることとなった。
「実は本来死ぬ予定の人間がいたのじゃが、地球担当の神がながら進行してしまっての」
「ながら進行って……じゃあ、俺はその余波を食らったということですか?」
同時作業なんて神様からしたらお茶の子さいさいなのだろう? ってどこかしら思っていたのだが、それで死んだという感覚はまだ抱けない。とはいえ、つい昨日まで普通に生活していた身なので、その次の日に死ぬという予兆なんてなかった。まぁ、急に体調が崩れたり何らかの事故で死ぬということもあるので、それに巻き込まれたということと理解はした。
「その解釈で間違いはない。とはいえ、既にお主の肉体は焼かれてお墓に埋められておるから、その世界での再生や転生は厳しいのじゃ」
聞けば、俺が死んでから既に一週間は経過しているらしい。下手に転生して骸骨人間というのも面白くない。というか、そんなのホラーである。念仏とか唱えられて即昇天あたりが妥当で、B級ホラー映画並みのオチしか待っていない。そして、再生するにしても同じ世界でやってしまうと魂の情報が書き換わってしまい、世界崩壊の引き金になりかねないことから禁止されていることらしい。
「そうなると、俺は大人しく天国か地獄行きですか?」
「本来は死んでしまうとそうなのじゃが、此度はこちら側の不手際でもあるからのう。よって、お主は異世界での転生の輪に乗せる。そのための加護や特典も付けておこうかの」
ちなみに、死なせた原因である地球の神はお仕置き部屋に行ったらしい。『青いツナギをきた男性』とアリアーテが言った時点で嫌な予感しかしなかったので、強引に話を打ち切った。それが正常だと目の前にいる神様も述べた。
「なんでそんな人、もとい神様がいるんですか」
「わしにも解らぬ」
そこは解っておきましょうよ、あなた創造神なんですから……ふと、篤志は一つ疑問に思ったことを尋ねてみた。
「異世界の転生ということは、俺に何かしてほしいんでしょうか?」
神様が俺に加護や特典を付けるということは、『なにかしらの恩恵を転生先で与えてほしい』のではと考えたからだ。そのことを察してくれたのが嬉しかったのか、アリアーテは顎鬚を触りつつ笑みを浮かべてこう言った。
「簡単なことじゃ。お主がこれから飛ぶことになる世界は争いで疲弊しておっての。無論、産業なども例外ではない。できれば、お主のその知識を生かしてほしいのじゃ」
これはある意味最高神のお墨付きをもらったと解釈してもいいのだろう。そう思うとアリアーテは満足そうな笑みを浮かべていた。あ、そういや神様だから心読めるもんね。
あと、篤志は転生する前に引っかかっていたことを聞いてみた。
「そういえば、一つ聞きたかったんですが……ながら進行って、もしかして生死の管理を同時にやってて誤った、ということでしょうか?」
「それはの………」
その質問にアリアーテは気まずそうな表情を浮かべていた。え? これ聞いたらまずいことだったのかな? 神様の禁則事項に触れたのかな? とか思っていると、諦めたようにアリアーテはこう述べた。
「……あやつな、地球の担当なのじゃがあの世界の『ゲーム』と呼ばれるものにはまっているらしく、『イベント大変だから適当に管理してたら殺しちゃいました、テヘペロ』とか言っておった」
「………」
ちょっと遊ぶ程度にやっていたから解るし、生前の友人の中には『あー、あのアイテム手に入らねえ!!』と悲鳴を上げていたのですぐに分かったのだが……その余波で殺されたって。篤志は、アリアーテにこう言い放った。
「そのクソッタレな神様のガチャ、狙いが絶対当たらない呪いでもかけてくれませんか?」
「それぐらいならお安い御用じゃ。おぬしはあやつに殺された側だから、もっと厳しいものでも許容してたぞ。さて、そろそろ時間のようじゃの」
すると、ちゃぶ台はいつの間にか消え、篤志の足元には魔法陣らしきものが光っていた。次第に遠くなっていく意識の中で、アリアーテはこう言い放った。
――― 心置きなく、楽しんできたまえ。
かろうじて聞き取れた言葉の意味を掴む間もなく、俺は意識を手放したのであった。
──────────
「奥様、よく頑張られました! 元気な男の子ですよ!」
「ふふ、よかった」
とある国の、見るからに立派な屋敷の一室で一人の男の子が産声を上げた。
今しがたその子を産んだ母親はやりきったといわんばかりの表情であったが、自分の子に対する視線には慈愛の心が満ち溢れているような印象を強く感じた。出産を手伝ったメイドに抱きかかえられている子の頭をやさしくなでていると、扉が荒々しく開いた。
「生まれたのか!?」
「はい旦那様、元気な男の子でございます。奥様も疲弊はしておりますが、至って健康でございますよ」
「そうか、よかった」
「もう、貴方は心配性にもほどがありますよ」
入ってきたのはピシッと整った貴族の服を身に纏った男性だが、急いできた割に息が上がっていないのはその人の身体能力所以なのだろう。その彼の問いかけにメイドは笑みを浮かべて答え、ベッドに横たわっている母親は苦笑を零した。
「それよりも、この子に名前を」
「そうだったな。この子の名は……シュトレオンと名付けよう」
男性が生まれた子に対する名前を述べると、母親は口に手を当てて笑みを零していた。
「ふふ、その名前ですか」
「ああ。駄目だったか?」
「いえ。寧ろ天国の御祖父様が喜ばれるかと」
「きっと、この子は祖父上に負けないぐらいの大物になるだろう。そんな気がするんだ」
その名のモチーフとなった人物はかつてこの国を護り、身命を賭して国を護る剣であろうとした人物。そんな彼に負けない人物に大成するであろうという意味を込めて、男性もといその子の父親は名付けた。
シュトレオンと名付けられた子は、そんな彼の期待以上の働きをすることになるのだが、それは機会があれば話そうと思う。
どうも、作者です。再び一からのスタート投稿です。
削除してしまった理由としては、リアル仕事との影響から腱鞘炎を再発してしまったためと気持ち的に情緒不安定になってしまっていて、衝動的な行動を取った結果です。本当に申し訳ありません。
落ち着いてからよくよく考えると「ある程度ストーリーは考えているのにここで中途半端に終わらせていいのか?」という結論に至り、もう一度スタートを切ることにしました。幸い直前までのバックアップは残っていたのでそこから復旧させていきますが、もう一つ凍結扱いになっていた作品は六にバックアップを取っておりません。これについては申し訳ないです。
これに合わせて今までのものを加筆していき、順次戻していく予定です。流石に本数が50本を超えているので、いつ終わるかまでは分かりません。あと、今後はリアルの現状を大幅に加味したうえで投稿ペースを組みます。最低でも月8~12本のペースを予定しておりますが、体調やリアルの休みによっては増えるかもしれませんので、ご了承ください。
今後はタイトルの通りに気の向くままやっていきたいと思いますので、改めてよろしくお願いいたします。