キャラメルとお嬢様の嘘
春の季節があっという間に過ぎ、フリルフールには大降りの雨が降る。雨雲は町全体を包み、連日雨の日が続いた。
「カンナ? 具合はどう?」
カンナの部屋のドアをノックして、入ってきたのはカンナの姉カリンだ。
「うん、調子いいよ!」
カンナはベッドに座り、本を読んでいた。
「なんの本読んでるの?」
本の表紙には「世界のレシピ」と書かれ、図鑑かと思うくらいに分厚い。本の内容を覗き混むと、驚いたことにレシピという割には写真一つなく、全てが文字で説明されていた。
「これ、おもしろい?」
「うん!」
読書好きのカンナはその文章を理解して、フリルフールで取れる食材、商人から買う珍しい調味料で「お菓子」を作っていた。
カンナは次は何を作ろうかと胸を弾ませ、本に載っている美味しそうなお菓子を頭の中で創造しては、本のページをめくった。カンナはよほど料理が好きなのか楽しそうに姉に話す。
「ポストに王子様からまた手紙が届いていたから、持ってきたけど……」
カリンはカンナに手紙を渡す。
カンナは手渡された手紙を見て、自身の机を遠目で眺めた。机には封を開けていない手紙が二、三通溜まっていたからだ。
手紙を握りしめ、パジャマ姿の自分を確認する。姉の前では多少我慢していたものの、少し体の向きを変えるだけで頭の中がクラクラとする。
「ごめん……やっぱり横になってるね」
カンナは深く毛布を被りベッドに横になった。
自由が効かない彼女を見かねて、姉は自分のポケットから銀紙に包まれた四角い粒を取りだす。
「カンナ、お腹空いてない?」
姉はカンナの側に寄り、枕元に銀色の包み紙を二、三粒置いた。
「これなら食べれるでしょう?」
カンナは枕元に置かれた銀色の包み紙を一粒手に取ると、包み紙から中身を取り出す。中には一口大のキャメル色の粒が出てきた。
「キャラメルよ」
キャラメルを口の中に含むと、それはみるみるうちに溶けてしまう。じっくりと砂糖、ミルク、蜂蜜で煮詰められたまろやかなコクがある味だった。
「……美味しい?」
「うん!」
カリンは枕に頭をつけ優しく微笑むカンナをぎゅっと抱き締める。
「カンナ……カンナはいつも家族のために一生懸命仕事をしてきてくれるもの」
「お姉……ちゃん……?」
「カンナには、辛い思いはして欲しくないの。
体が辛いなら……もう無理には……」
「……全然平気だよ?」
カンナはカリンのおでこに自分のおでこをあわせ、泣きそうな姉の顔を見つめる。
「カンナ、約束して。
私たちの為にも、絶対無理はしないでね?」
カンナは目を閉じてうなずいた。
口の中に広がる、キャラメルの甘い味。
あまい蜂蜜は「嘘」をつく彼女の心を
ゆっくりゆっくりと溶かしていった。




