桜餅と柏餅 魔法使いとお花見1
たんぽぽ、白詰草、ネモフィラ、ナズナ……そして桜の花びら。春に咲く花は多い。
アイリスはそれらを集めて花のブーケを作ってくれた。どれも控えめであるが可憐で綺麗な花だったのでカンナの姉のカリンはどれも大切に扱った。
氷漬けの花びらの部分を器用に加工し紐を通してネックレスにする。気の遠くなるような細かな作業だが、綺麗に削られた氷は水晶のようにキラキラと輝いている。
「カンナ、どれが欲しい?」
カリンはカンナの目の前に出来たばかりの氷漬けの花のネックレスを並べた。
「カンナ、花びら一枚欲しいって言ってたでしょ?だから、好きなのあげる」
カンナはとても悩んでいた。
1つ手に取ると、電球の光にあてて、中の花を確認する。
「まるで雪が溶けた雫に花が閉じ込められているみたいだわ」
カリンはパジャマ姿のカンナに彼女が選んだネックレスを首に結んであげる。
「ごめんね、ごめんね、カンナ……」
カリンは後ろからカンナの背中を抱き締めるように包み込み、聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量で粒やいた。
「お姉ちゃん? どうかした……?」
いつも堂々としている姉の姿にカンナは戸惑う。
するとカリンはパッと離れて元の元気な姉に戻った。
「さぁ、これを町に売りに行こうじゃないか!
最新作で最高品だよ……!」
***
極寒の地、フリルフールにも長い冬を越え「春」はやって来る。季節は春。冬の時期は獣の毛皮が裏地についたコートで身を包んでいたのだが、気温が高くなると赤や緑、黄色など細やかな刺繍がほどかされた足首まで隠れる長いワンピースを着る。
フリルフールは他の国とも大分離れており、交流がほとんどない。お洋服も貴重品で着れなくなるまで一枚一枚大切に着ているのだ。そして、今回の「花の雫の結晶」はこの民族衣装にピッタリで合うように作られ、町の若い女性には大人気商品になった。
それもたまたま旅をしていた貿易商人が珍しい商品に目を付け、大量に購入して、他の国に持ち帰った所、他の国にまでフリルフールの町の名が広まることになった。
お陰でカンナのうちには夏まで過ごしておける大量の蓄えが出来た。余ったお金でカンナは次回のための調味料や嗜好品を買い揃える。
市場にいるいつもの貿易商人が珍しい物を売っていた。
「もち粉」と「餡」それに「葉っぱ」だ。
その甘い匂いに誘われカンナは小豆を手に取る。
新たな食材を手に入れたカンナは早速台所で調理を始めた。大きな鍋でグツグツと煮る小豆の香り。鍋の熱で部屋が蒸し風呂のように熱くなったので窓を開け、蒸気を逃がす。なんとも葉の香りが春らしく爽やかだった。
「カンナ、お花見をしよう」
テーブルにのせられた手紙にはアイリスからの誘いが届いていた。
カンナは出来上がった「桜餅」と「柏餅」を木目調の箱に入れ、風呂敷で包む。ベッドですやすやと眠っているインコのフィルを起こしに行った。
「さあ、出発のお時間ですよ」




