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嘘つきなお嬢様と花紡ぎの魔法使い  作者: mayme
3、愛する人へのレシピ
18/23

花紡ぎの魔法使い1


 ***


カンナの体調が大分落ち着きを取り戻した頃、広い宮殿に一本の電話の音が鳴り響く。


「カンナ様、フリルフールのお姉さまからお電話です」


 電話はメイド長のアルメリアが受け取り、カンナへと受話器を渡した。

 受話器越しに久しぶりに聞く姉の声。

 ……だが、様子がいつもと違う。


 大人しいカンナとは違いいつもたくましい姉のはずなのだが、妙に何かに怯えていて小声で話すのだった。

 そのうちに電話はプツリと切れ、胸騒ぎがしたカンナはいてもたってもいられず、宮殿の主である叔父のアスターと共にすぐにフリルフールに戻ることに決心した。




***



 町にたどり着いたカンナは変わり果てた町の様子を見て驚愕する。長い年月をかけて育った樹木のような太い(つる)蔓が鳥籠のように町全体を覆っていたからだ。


「ここ、フリルフールよね?

 町の人は一体どこにいってしまったんだろう」


 幼い頃絵本で読んだような人半分が隠れるくらいの巨大な葉っぱを掻き分けて「森」と化した町の中を探索した。


 寒さの厳しい都市フリルフールの土地は永久凍土され、普段は植物など育つ環境ではない。

 カンナが鳥籠の森に一歩足を踏み入れると、地面の土が見えないくらい草が生え、雑草が足首まで無造作に延びている。


 長い蔓は一体どこから延びているのだろうと蔓の先を辿って歩いてみることにした。……嫌な予感がする。

 長い蔓を辿って辿りついた場所はかつてカンナが出入りしていた場所。アイリスの住むお城だった。


「カンナ……これ以上進むと、危険だから先に俺が見てこよう……!」


「待って……!」


 お城の門の扉をゆっくりと開ける。

 見知らぬ人の侵入を防ぐべく道は先程まで大きな葉で塞がれていたのだが、カンナが葉に触れると無数に張り巡らされた棘は人が一人通れるくらいのトンネルへと形を変える。

 歓迎されているのか敵の罠なのか、二人は恐る恐るトンネルを潜り抜けた。


 ……すると、張り巡らされた(いばら)の先から真っ直ぐ飛んでくる小さな鳥に気づいた。


「フィル……!」


 鳥の正体は長年大切に飼っていたインコのフィルだ。


「カンナ~!」


「フィル……! これは一体どうしたというの? アイリス様の身に何が……?」


 フィルはカンナに事情を話すと、アイリスが眠る室内庭園に連れていった。


 長く伸びた蔓はガラスを突き破り、外の冷気が中に吹き込める。勿論寒い場所では生きていけない花たちはすっかり枯れてしまい、それどころか土も根っこが見える程痩せ越け、全ての栄養が太い蔓に取られていた。


「なんてこと……」


 フィルが小さな翼を羽ばたかせ、大きく咲いた一輪の薔薇の元へと二人を案内する。


 カンナは何かに気づき、素手で(いばら)を引っこ抜いた。(とげ)が手に刺さり、見かねたアスターが鞘からサーベルを抜いて固い蔓を引き裂く。


「アスター様、慎重にお願いします……もしかしたら……」


 蔓が徐々に刈り取られ、うっすらと人の影が見える。


「ああ……! なんてこと……!」



 そこには瞼を固く閉じたソファーに横たわるアイリスの姿が現れた。


「アイリス様っ……!」


 アイリスの冷たく冷えきった肌に触れ、カンナは涙を流す。

 心臓の音が止まり、薔薇の苗床になってしまったアイリス。


 悲しむカンナにフィルは今まで起きたことを説明した。

 

 フィルは運良く蔓に触れぬよう飛び回り、お城に残っていた穀物を食べたり、葉に溜まった雨水を飲んで生き延びていた。

 カンナがいつか戻ってきてくれると信じて。



「カンナ……後ろ!」


 アスターは手を伸ばし背後からカンナの首をつかもうとしていた男の手を弾く。


「カンナには触れさせぬ……!」


「カンナ……! こいつが……アイリスをフリルフールを眠らせた犯人だよ……!」


 突然現れた全身真っ白い衣装を身に付けた男は、顔にかかるフードの隙間からカンナを睨み付ける。

 右手のひらから伸びた鋭い棘の蔓が鎌鼬のように、アスターの頬を切り裂いた。


「……そこをどけ……!」


 アスターの頬からは鮮明な真っ赤な血が流れる。

 アルメリアから預かったサーベルに祈りを込めて男の顔面目掛けて突き刺した。


「待って、アスター様……!」


 グサッ……!という鈍い音が広がる。


 カンナが瞼を閉じ、再び目を開けた瞬間……

 アスターの大きな背中には幾つもの細い棘が突き刺さっていた。


「ア、アスター様……!?!?」


 アスターの口からはダラリと真っ赤な血が溢れ出る。

 背中を串刺しにした棘が一気に抜かれると、アスターは紐を切られた操り人形のように地面へと崩れ落ちた。


「カンナ……逃げろ……」


 最後の力を振り絞ってアスターは口を動かす。


 男が棘をロープのように扱い、棘はアスターの体に巻き付き身動きがとれなくなった。蔓はアスターの血を吸うとすぐに蕾をつけ、真っ白な薔薇が咲いた。ぐんぐんとスポンジで血を吸収するかのように薔薇が真っ赤に染まり、傷ついた背中の血は止まる。


「……実に美味しそうだ……!」


 カンナは全てを察した。

 こんなことが出来るのはアイリスと同等の血を引く何者かの存在。

 彼の正体もまた……!


 「花紡ぎの魔法使い」ーー……だった。


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