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嘘つきなお嬢様と花紡ぎの魔法使い  作者: mayme
2、危険な甘いレシピ
15/23

南国のパラダイスタイム

 

 南国フリルフローラに連れてこられたカンナは、すぐにお母さんの実家である、お屋敷に案内された。

 出発する前にカンナの母親から「父親と結婚するため親の反対を押しきってお屋敷を出たという話」を聞いたが、頭の中で想像していた話よりも実際にお屋敷に入ってみると、アイリスのお城と対比がないくらい広い。


 お屋敷というよりもその敷地の広さ、繊細な壁の装飾、豪華なインテリアから「宮殿」と呼ぶに相応しい。


 カンナは長い長い通路を通って、大きな広間に案内された。

 細長い一枚の薄手の布を巻き付けた民族衣装を見にまとい、頭からは大きなストールを被った宮殿のメイドたちがカンナをもてなす。

 「さあ、これに着替えて」と渡されたのはサテン生地の薄手のワンピースだ。

 南国フリルフローラはとても暖かい気候の地域で、ワンピース一枚でも全く寒さを感じない。


 カンナが着替えた後、テーブルに座っているとどんどん美味しそうなお菓子やパンが運ばれてくる。

 ふわふわの柔らかな生地に蜂蜜とバターを練り込んで焼いたパン。こんがりときつね色に焼き上がったパンを二つに割ると中から生クリームがとろっと出てくる。


「右側からメロンパン、チョココロネ、もちもちっとしたミルクパン、チョコレートかけのラスクもありますよ」


 「さぁ、どうぞ」と目の前に出されても、どれもが美味しそうで手をつけられずにいた。辺りをキョロキョロと見渡していても、メイドは沢山いるが、大きなテーブルに座っているのはカンナ一人だけ。

 周りのメイドたちは頭を下げ、カンナのお食事を見守っていた。


「えっ、こんなに……? 私一人で食べていいのですか?」


 テーブルの横で孔雀の羽で出来た色とりどりの扇で扇いてくれているメイドがカンナが何も手が出ないのを見かねて「ある人」を呼び寄せた。


「アスター様、カンナ様はまだどこか具合が悪いのでしょうか?お食事に一つも手をつけられません……!」


 褐色の肌に、赤茶色の髪の毛。

 耳はエルフのように長く尖っている。

 ルビーのような紅い瞳のメイドは他のメイドたちよりも一際目立つ。恐らくメイドの中でも上の立場なのだろう。心配そうにカンナを見ていた。


「うーん、こっちの味があわないのだろうか?」


 まるで赤子の様子を伺うようにやって来た180センチはあろうかという背の高い男性。

 こちらも褐色の肌に天然のパーマがかかった漆黒の黒髪の男性だ。

 綿や絹糸で作られた膝まである長い風通しの良いシャツを着ており、真っ白な木地でも胸元には金色の細やかな花の刺繍が施してある。


「美味しくないかな?」


「……!?」


 目の前に現れた男性にカンナはびっくりする。


「失礼、俺の名はアスター。カンナちゃんのお母さんの兄だよ。この宮殿の持ち主でもある」



 アスターはさりげなくカンナの隣に座り、まだ手のついていないパンを一口大にちぎり、自分で味見をする。もぐもぐ……ごっくん。……おいしい……。こんなにおいしいのに、彼女が手付かずな理由が分からない。まだどこか痛いのだろうか?


「いいえ……! こんな美味しそうなパン……私には勿体なくて……」


 ……遠慮していただけなのか!?


「一口でも食べないと……」


 アスターは一番美味しそうなパンをちぎって、小さなカンナの口元へ運ぶ。

 カンナは美味しそうなパンの香りにつられて少しだけ口を開ける。


「あ……いや……えっと……」


 アスターは手で受け取ってくれると思って差し出したのだが、カンナはそのままパクリとパンをかじったので差し出した北が逆に照れてしまった。


「……へ? 食べてはいけませんでしたか?」


「いや……いいんだけど……その……まあ、なんだな……」


 ほのぼのとした光景をメイドたちは後ろで密かに見守っていた。


「ああ……いつも堂々としていらっしゃるアスター様が可愛らしいお嬢様にたじろいでいらっしゃいます……くすくす」


「微笑ましいというか、面白いといいますか……くすくす」


「いつも私たちに命令する子供伯爵をあんなに責められるお方がいらっしゃるだなんて……くすくす」


 アスターは自分もお腹が空き、パクパクと山盛り一杯のパンを軽く平らげる。食べ終わった食器を回りで暇そうにお喋りしていたメイドたちに片付けるように命令する。


「自分で食べたお皿は流し台に持って行かないのですか?」


 可愛らしい少女の問いかけに今まで注意を受けたことのないアスターは目をギョッとして驚く。

 カンナは食べ終わると、アスターが食べた分の食器も自分で持ち、そそくさとキッチンへと運んでいった。


「カンナちゃんっ……? まだ、具合が良くなってないんだから、無理は……しないでくれ! 変わりに俺が持っていくから……」


 今まで長年メイドとして宮殿に使えていても、見たことがない伯爵の慌てようにメイドたちも驚いていた。


「ああ……! カンナ様……ずっとずっと、宮殿にいてくれればいいのに……!」


 アスターとカンナの母親は兄妹でアスターはカンナにとって叔父にあたる。アスターは長男で未婚だがこの宮殿の跡取りだ。

 しばらく顔を会わすことのなかった姉の娘がこんなに可愛らしく純粋に育って、子供がいないアスターは我が子のように溺愛した。


 そして、滅多に宮殿にはカンナぐらいの年の子を預かることはないので、メイドたちは張り切りあれよこれよと尽くしたのだ。


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