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嘘つきなお嬢様と花紡ぎの魔法使い  作者: mayme
2、危険な甘いレシピ
14/23

苦いお薬と謎の訪問者

 ***


 私は長年アイリス様に遣えた「お菓子売り」。……こう言えば聞こえは良いかもしれないけれど、実際は家族の為に褒美としていただいた花を町で売ってお金にしていた。

 せっかくいただいたものを売ってしまうだなんて酷い話だけれども、またこれで大切な家族と一緒に暮らせる。

 そして、アイリス様を「騙していた」ことも許していただき、それどころかアイリス様の「恋人」としてお城に出向くことを許された。


 私は夢のような甘く幸せな時間がこれからもずっと続くのだと信じていた。


 ……けれど、物語はお菓子のように全て甘いものではないー……。


***



(♦フリルフールの町の病院)


「ああ……だいぶ呼吸が出来なくて辛そうだね。気休めだけれども薬を出しておくから、それを胸に塗るといいよ。」


「お医者様……カンナの病気はいつになったら良くなるのですか……?」


「……」


 自分の体だからこそ春よりもだいぶ症状が悪くなっているのが良くわかる。いつもだと梅雨の時期を過ぎ、気温が高くなると元の体に戻るのだが、今年はなかなか体調が戻らずにいた。

 いくら薬を使えども、暖かい布団で寝ていようども、平熱が低すぎるのと外の空気が冷たいので体温がすぐに奪われてしまう。



「……どこか暖かい場所でゆっくり体を休ませれば良くなるのだが……」


 医者の「暖かい場所」という言葉にカンナの母親は心の中で決心をした。


「わかりました。カンナを()()()()の南国の国フリルフローラへ預けます……」


「お母さんの実家……?」


 今まで一緒に暮らしてきて母親の実家の話は一度も聞いたことはない。遠い南国の国から来たなど初耳だった。


「カンナと離れるのは寂しいけれど……病気が良くなるまでよ……」


 先生が病室から出て行くとカンナの母親は病院に置いてある電話を借りてすぐに実家に連絡をした。

 しばらくして母親が病室に戻ると寝ているカンナの枕元に行き、そっと話しかける。


「カンナ……少しの辛抱よ。大丈夫、あなたのことは母さんのお兄さんに話しておいたから、すぐに迎えが来るわ。母さんは足が悪くて一緒に行けないけれども、お兄さんのおうちはとても優しい人たちばかりだから……すぐに病気は良くなって、また一緒に暮らせるようになるわ……」


「でも、それじゃあ……お仕事は……」


 母親はカンナを手をぎゅっと抱き締める。

 母親の後ろから、姉のカリンが声をかけた。


「カンナは少し無理しすぎだよ。後は私たちが何とかするから、カンナはゆっくり休むといい……」


 カンナは「いつ戻れるの?」と言おうと何度も思ったが、体がぐったりとして思うように動かず何も言えなかった。


 母親と姉が病室から席を離すと、そばで黙って話を聞いていたインコのフィルが枕元に降りてくる。


「フィル……お願い……」


「カンナ、無理しないで……」


「私がここから離れることをアイリス様に伝えて欲しいの……でも……病気のことは……言わないで?」


 フィルは悲しそうな目で苦しむカンナを見つめる。


「……分かった……」


 鍵のかかっていない窓を少し開けると、フィルはそこから抜け出し、アイリスがいるお城へと旅立つ。


「お願いよ……フィル……」


 フィルがいなくなるのを見ると、カンナはゆっくりと目を閉じた。


***


 一方、フリルフールの町では不穏な噂が広まっていた。梅雨が開けたと言うのに、連日の雨。以前として高くならない気温。


 そしてーー……。


 どこからともなくやって来た怪しい「男」が、町に住む全部の家のドア一件一件叩き「ある方」を探しているというのだ。


 雨を避け為なのか身を隠す為なのか、頭から足の爪先まである灰色の長い皮のローブを被り、口元は表情が見られないようにと同色の皮のマスクで隠す。いかにも怪しい男は、この街のどこかにいるという「()()」を探していた。


 フリルフールは小さな町だが、一件一件訪ねては、家の者を鋭い目で観察し、かくまっていないかなど必要以上に問いかけた。

 そしてその「男」はカンナのうちにもやって来た。


「そんな奴いるわけないよ!」


 玄関でカンナの姉がすぐに男を追い払ったのだが、姉が手に持っていた加工済みの「花のブローチ」を見つけると目の色を変える。


「……これ? いただいた花だけど……名も知らぬ怪しい奴になんか教えないよ! 早く帰りな!」


 姉は勢い良くドアを閉め、自分よりも背の高く厳つい体つきの男を追い出す。


「……そいつは……」


 男は深く被ったフードから顔を出す。怪しい男だと思っていたので予想以上に綺麗な男性が現れ驚いた。


「俺の名はシオン。そいつは俺と同じような瞳の男ではないか?」


 フードを被っていたときは分からなかったが、シオンの瞳は水晶のようにきらきらと七色に輝いている。人並外れた整った顔に金色の髪。今まで男と言うものを意識したことのない姉だったが、吸い込まれるような瞳にしばらく硬直してしまった。


「顔なんて……知らないわ……見たことがないもの」


「見たことがない? それでは、この花はどうやって?」


 姉は思わずシオンの問いかけに全てを話してしまいそうになった。途中で不味いと我に返り彼を家から追い出す。


「……そいつは、向こうの城にいるんだな……」


 姉は城にいるなど一言も口にはしていなかった。心を読まれて真っ青になった姉は家の鍵を閉めると弟たちを抱き締め、部屋の奥に身を見初める。家から追い出された男は、雨に打たれながら遠くのお城を眺め目を細めた。



「……アイリス……ようやっと逢えそうだ」


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