第4話 イリアル王国②
初めての視点変更あれでいいのかどうか、それが問題だ。
出雲が戦えないことがわかった日から三日間、俺は剣の振り方を教えたりしている。本当は勇者の育成方法を使って出雲を育てたいけど、未だに出雲は魔物に攻撃すらできないから俺が倒した経験値がパーティーメンバーとして少し行くだけでLvが全然上がらない。そしてイリアル王国滞在五日目の朝を迎える。
「ふぁ~おはよう、出雲」
「おはようございます・・・あのシエルさん」
「ん、何?」
「えっと、今日も行くんですよね・・・」
「まあ、慣れたほうがいいだろうし。いやならやめとこうか?」
「・・・いえ、大丈夫です」
「ん、わかった」
出雲は少し顔をうつむいてしまう。これはだいぶ精神的に参って来てるな、ただでさえここに来てから毎日ゴブリンとかの死体を見てるわけだし、あと俺にばっかり戦わせていることに負い目でも感じてるのかな。俺は別に気にしてないし、完全にゲーム感覚が抜け切れてないしな。
俺たちは朝食を食べた後いつものゴブリン狩り依頼を受けるためにギルドに向かう。ちなみに俺の装備は白猫パーカーに短パン、ボーダーニーソとブーツ、そして愛用の流星群の宝杖。出雲は出会ったときにあげたドレスアーマーと聖剣だ。
「さて、ギルドに来たわけだけど。なんかすごい忙しそうだな」
「そうですね、何かあったのでしょうか」
「ついでに聞いてみるか」
受付で依頼を受けるついでに聞いたところ、なんでもイリアル王国の勇者の一人”新藤 光輝”が魔王を倒したらしく、帰国するからそのための準備らしい。そういえば街もお祭りムードだったな。
そして今、街を出た俺と出雲はコポルの森に入るところだ。
「で、出雲はその勇者と面識あるよね」
「そうです・・・」
「どんなやつ?」
「えっと、新藤さんは18才の男子で、一言で言えばチャラいですね」
「ああ、クラスに一人いるようなチャラ男か」
あったことないけどなんとなく想像できてしまった。てか名前が如何にも勇者っぽい気もしなくはない。
「さてと、ゴブリンの狩場に来たわけだけど。今回俺は何もしません、てか防御も回避もしません」
「えっ!?」
回復はするけどね。
「つまり、出雲が敵を倒せなければ俺は死ぬかもしれないってこと」
「・・・」
我ながらひどいことをしていると思う。まあ人間は慣れてしまう生き物だから、きっかけが必要だ。ちなみに今の俺のステータスはこんな感じになっている。
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名前:シエル 職業:魔導師 性別:女 年齢:18才 種族:吸血姫
Lv:3 HP:273/273 MP:45210/45210
筋力:1 体力:60 知力:423 精神力:20
物理攻撃力:1 物理防御力:1(+40) 速度:41
魔法攻撃力:3010(+1650) 魔法防御力:1830(+40) 幸運:53(+52)
称号:『最強と呼ばれし者』『収集家』『魔法マニア』『職人』『勇者(仮)』
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とまあ装備は見た目重視の紙装甲だから死ぬ可能性があるというわけだ。出雲の装備は結構いいやつだからゴブリンに囲まれても死ぬ方が難しいだろう。とりあえずステータスは表示したままにしよう。
そしてその時近くから草をかき分けるような音が聞こえ、ゴブリンが三匹出て来た。
「それじゃあ丁度ゴブリンも出たことだし始めようか」
「え、あの」
「ほら、頑張らないと俺が死ぬからね~」
「・・・」
俺はそう言ってその場に座る。もちろんゴブリンは知能は低いけど戦闘準備してないやつを優先して襲うくらいはできるらしく、出雲を無視して二匹が俺に向かって来る。
「あっ、シエルさん!」
「っ・・・」
「いや、早く逃げてっ!」
痛い、当たっても一発5ダメ前後だけど何回も受けたら危ないな、まあ回復してるから大丈夫だけど。とりあえず出雲がゴブリンを倒してくれればいいけど、出雲は動けずにいる。それどころかゴブリン一匹の攻撃をまともに喰らう始末。・・・今の俺には攻撃を喰らうなとは言えないけど。
さてこのままだと進展がないからそろそろ本格的に危ないと思わせますか。とりあえず大げさに後ろに跳べばいいか。
「・・・うぁっ!」
「シエルさん!」
『グギャギャギャ』
「い、いやっ、いやあああああ!」
俺に再度ゴブリンが襲い掛かってくるが、途中でゴブリンは出雲の剣によって切り裂かれ、俺はゴブリンの血を浴びることになった。そして出雲はその場に崩れ落ち、血のにおいや死体の所為で吐き始めてしまう。たぶん自分が殺したという感触もあるのだろうか顔色が少し悪くなっている。
「うぐ、おえっ」
「・・・よしよし、よく頑張ったね」
「ごほっ、ごほっ」
「落ち着くまでここにいてもいいけど、さすがにここだと落ち着けないから移動しようか」
「は、はい」
その後いつもよりゆっくりとした足取りでギルドへと向かう。ただ時折出雲が何か話したそうにこっちをみたり俯いたりするのが印象的だった。
ギルドに入るとどうやら勇者の新藤光輝とその仲間である男二人が騒いでいるようでギルド全体が宴会ムードだ。それを無視して受付に向かい、依頼の報告をする。報告するときに受付の人に俺の服装が血で染まっているのを驚かれたが、些細なことだろう。
その後は宿に戻り着替えをする、ついでに出雲の聖剣の手入れをしていると出雲が話始めた。
「あの、シエルさん」
「ん、何?」
「私は役に立ちますか?」
「えっと、その質問の意図がよくわからないんだけども」
「あ、いや、その・・・」
うーん、あれかな、出雲が勇者としてパーティーを組んでいた時は戦うこともできない役立たずだったからみたいな話の所為か。
「正直に言っていいのかい?」
「・・・はい」
「役には立ってない、さすがにあそこまでしてやっと敵を倒せるのは大変なことになる。さらに毎日具合悪くなるのもダメとまでは言わないけど、多少は慣れたほうがいいかもしれない」
「・・・やっぱり私はいらないんですね」
「いや、何言ってんの?」
「・・・お願いします、捨てないでください」
「は?」
なぜか出雲が泣き出してしまった。いやまあ、何故ってほどわかってないことはないけども。とりあえず説明してあげないと。
「えっと、何か勘違いしてない?」
「お願いします、見捨てないで。お願いします、お願いします」
「いや、だからね」
「いやだ、いやだ、いやだ。もう一人になるのはいや・・・」
ああ、完全にパニックになってますわ。とりあえず落ち着かせるために俺は出雲を強く抱きしめ、なだめるように話を続ける。
「えっ!」
「役に立たないから捨てるとは一言も言ってない。あといらないとも言ってない」
「でも、私は役立たずで」
「出雲は俺にとって必要な人だ」
「っ!」
「必要かどうかなんて俺自身が決めることだし、それを出雲が決めつけることは許さない。俺から逃げようとするのなんて以ての外だ」
「でも、でも」
「役立たずはいらないとか誰が決めたんだ?そんなのその人その人によることだろう。だからはっきり言ってやる、俺は出雲を必要としてるし、手放す気なんてない!」
「~っ!」
出雲は俺を抱きしめ返して泣き始めてしまった。我ながら少し変なことを言ってる気がするが、まあ俺の気持ちが伝わったならいいか。そう思い俺は出雲が寝るまで抱きしめていることにした。
日が沈むころ、出雲が寝息を立てているのを確認してそっと部屋を出る。さてと、勇者とやらを拝んできますか、あとレベル上げついでにギルドで依頼を受けるか。さすがにLV3は低すぎるしな。
俺は宿屋の店主に出雲への言付けし、ギルドへ向かう。ギルドではまだ宴会が続いているらしく、今は勇者の取り巻きの男二人が話しているようだ。俺はゴブリン狩りの依頼を受けるための受付をしながらそちらに耳を傾ける。
「いや~魔王を一撃で殺せた光輝はすげぇよな」
「さすが新藤さんって感じだよな」
「そんなに褒めるなよ。まああれくらいはできて当然だけどな」
「さすが光輝だ、それでこそ真の勇者だ!」
「それに比べて新藤さんと一緒に呼ばれた他の勇者なんて目じゃねえぜ。特にあのメスガキなんて敵を目の前にしただけで震え上がって碌に剣も振るえなかったんだからよ。ほんと笑っちゃうぜ」
「「「ワーハッハッハッ」」」
うん、普通にイライラする。ついうっかり魔導を撃ってしまいそうだ。それも一番良いやつを。
「そういえばバルダ、お前そのガキ見捨てるときどうしたんだ?」
「んあ?ああ、アルネイドで身ぐるみ全部取って宿に放置したんだよ。いや~あの時俺以外にもメンバーがいたんだけどよ。もしいなかったら犯してから逃げただろうぜ、あれはもったいないことしたな」
「マジか、優しいな。俺なら他のヤツがいても犯してたぜ。なあ光輝」
「当り前だろう。もし俺がその場にいたならメンバー全員で犯してやっただろうさ。その後でどっかの娼館にでも売りつけてただろうさ」
「すっげぇな光輝。さすが俺たちの勇者だ!勇者光輝に乾杯!」
よし、とりあえず出雲を裏切ったクズの名前がバルダってのは覚えた。てか勇者ってなんだっけ?って思うは、か弱い少女をいたぶるのが勇者なのだろうか。
そんなことを思っていると受付のお姉さんが怯えた声で話しかけてきた。
「あ、あの、シエルさん。い、依頼受諾しましたよ」
「ん、ああ。ありがとうございます」
「は、はい。お気をつけて」
お姉さんは何か涙目だったな、もしかして怖い顔でもしてたのだろうか。さてと、ゴブリンでストレス発散しますか。たぶん減らんけど。
朝になりギルドで依頼報告を済ませ宿へ戻ると。
「・・・おかえりなさい」
「た、ただいま」
少しムッとした顔の出雲が出迎えてくれた。よく見ると目のあたりが少し赤くなってるな。
「どこ行ってたんですか、いなくなったと思いましたよ」
「いや、レベル上げとストレス解消にゴブリン殲滅を少々」
「・・・やっぱり私の所為で」
「いやいや、レベルは必要だからで、ストレスに関しては出雲は全く関係ない。むしろ抱きしめ合うとかありがとうございます」
「・・・それならいいです」
あ、照れた。少し吹っ切れたのかな?昨日よりも表情が豊かになった気がする。なんか俺のキャラがおかしくなりつつあったけど。
「それで今日も行くんですよね」
「いや、明日出発するから。今日は観光でもしようか」
「わかりました」
朝食をとり身支度を済ませ、俺と出雲は街を探索する。国全体がお祭りムードになっているから出店が多くならんでいて、丁度観光するにはいいタイミングだろう。あの勇者たちは許さんが。
「さて、何から見ていこうか」
「楽しみですね」
それからしばらくの間、色んな物を見て回った。ほとんど食べ歩きしてただけだから、おかげで昼食が食べれなくなってしまったけどまあいいか。
昼過ぎごろになり、出歩く人が多くなってきた。特に仕事から戻って来た冒険者が増えている。さすがに人混みの中観光はしたくないな。
「そろそろ宿に戻ろうか出雲。人混みに酔いそうだし・・・出雲?」
少し大きな声で出雲を呼ぶが返事がない。いつの間にか人混みの所為ではぐれてしまったらしい。
さて、どうしようか。たぶん時間が経てば宿に戻って来るかもしれないけども、さすがに気が引けるな。こういう時何か使える魔法はあったかな・・・一応それっぽいやつはあったから使ってみるか。
「<星詠:探求者の導き><戦術:戦力分析>」
最初のは出雲のアーマードレスを対象に発動した占い師の魔法で、効果は対象のアイテムの場所がわかるもの。後のは周りの生物を色分けする軍師の魔法で、味方は青、敵は赤、その他は灰色に分けられ、強さに応じて色の明度が変わるやつだ。どちらもゲーム時代はマップ画面に結果が表示されたはずだが、そういえばマップが開けるか試してなかったな。
「マップオープン」
よし、開けたな。ちゃんと魔法も反映されているな。マップには俺を中心として灰色の点が多くあり、少し離れたところに青い点があった。だがそれよりも目につくものがある、それは街を囲むように配置された数多くの暗い赤い点と街中にある三つの明るい赤い点だ。しかも三つの中で一番明るい点が俺の近くにあり、残り二つは出雲だと思う青い点の進行方向にあった。
俺がそのことに気付いた時、外壁の外から雄叫びが聞こえたのと、少し先の空中に大鎌を持った如何にも悪魔って感じのするデーモンが出現し、辺りに叫び声が響くと人混みがパニックになりながら逃げ惑う人々に変わる。
「う、うわあああああ!」
「なんでこんなところに悪魔がいるんだよ!」
「助けてくれー!」
人が逃げる波に逆らいデーモンの方に向かい、周りに被害が行かないように<結界術:四方陣>を発動し一辺約20mの立方体の結界を展開する。これで結界の外には影響はないだろう。まあ範囲から出られたらダメなんだけど。
「ほう、結界術師か。それも一瞬でこの大きさを張れるとは」
「てか、なんでデーモンなんだよ。普通はワイバーンとかじゃないのか?デーモンはやけに魔法耐性が高い所為かめんどいんだよ」
そんな文句を言いながら周りを確認する。よし、一般人は全員結界の外に逃げたな。
「さて、本来なら結界の範囲に出るとこだが。我に刃向うというのなら遊んでやろう」
「あっそ」
「ふはははっ、行くぞ!」
デーモンは俺に向かって大鎌を振って来る。が、俺の放った<フレアボム>を当て、目の前で爆発を起こしデーモンを吹き飛ばす。煙が晴れると、そこには大鎌ごと腕が消し飛び、全身傷だらけで満身創痍になっているデーモンがいた。
「あーやっぱり一撃じゃ無理か」
「ぐっ、がはっ。こ、この我が、魔王ベルゼブブ様の側近である我がここまでダメージを受けるとは」
「ん?あれ、魔王って勇者に倒されたんじゃないの?」
「ふははっ、あれは単なる影武者よ。魔王ベルゼブブ様は今もご健勝で在られるわ!」
「へー」
影武者を魔王と勘違いしたのかよ、あの勇者(笑)は。
「だからこそ!影武者を倒した勇者はこの先脅威になると思い我らが来たのだが。貴様のようなものがいるとは予想外だ」
「・・・つまり勇者を殺すのが目的だと」
「その通りだ!すでに我とともに侵入したものが勇者を殺していることだろうさ。それにすでに街中には我の配下が」
「<フレアボム!>」
「ぐはっ!」
デーモンを今度こそ跡形もなく消し飛ばし、マップを確認する。・・・よかったまだ出雲は生きているみたいだがすでに二つの赤い点と戦っているのだろう。急がないといけないな。
周りの野次馬が騒いでいるのを無視し、俺は<忍術>や<仙術>を駆使し建物の上へあがり出雲の元へと向かった。
* * *
時間はシエルがデーモンと戦闘を始める前。
気づいたら私はシエルさんとはぐれ、一人人混みをさまよっていた。
「ううっ、シエルさーん、どこですかー」
しかし返事はない。やっぱり近くにはいないのだろうか。
(どうしよう、宿に戻った方がいいのかな。それともここで待っていれば)
そんなことを考えながら大声でシエルさんを呼びながら探していると。
「きゃぁー!」「うわぁぁー」
と悲鳴が聞こえ、聞こえたほうを見ると30m先ぐらいに大きな羽を生やした悪魔と真っ黒で大きなドラゴンがいた。
「えっ?なんでこんな街中に?」
「みんな落ち着け!ここには勇者である俺がいる!おれにまかせておけ!」
「「「うおぉおお!頑張れ勇者様ー!」」」
私が困惑して見ていると勇者である新藤君の声と応援する声が聞こえてきた。・・・なんで私はあそこにいないのだろう、なんで私は勇者として認められなかったのだろう、なんで私は震えているのだろう、なんで私は。
「なんで私は前に進めないの・・・」
そんな醜い嫉妬が生まれ、手足が震え、勇気が出ない。血を見るのが怖い、剣を振りたくない、あの生き物を殺す感覚がフラッシュバックしさらに私を怖気づかせる。
そんな風に戸惑っていると、戦闘が起きている場所で変化があった。
「ぐっ!」
「ふははっ、あっけないな勇者よ。さすが影武者を魔王様と勘違いしただけはある。弱すぎる」
「なっ!俺が倒したのは確かに魔王だったはず!」
「ああ、何と馬鹿な勇者だ。痛めつけてやれグレートドラゴン」
『GUGAAAAA』
「がはっ!」
新藤君が一方的にやられてしまっているのだろう、さっきまで応援してた声がなくなり、周りの人が怯えた表情になっている。こんな時こそ勇者である私の出番なのだろう。だけど。
「なんでっ、私は戦えないのっ!」
悪魔とドラゴンの二体の所為でここにいる人達は一人残らず絶望し始めてしまっている。それも呆然と見ているしかできないほどに。
(こんな時、シエルさんなら・・・)
二日前、いつまでもゴブリンを倒すことができない私は『どうすれば、倒せるように、生き物を殺せるようになるのか』聞いてみたことがあった。確かシエルさんは。
『いや、俺に聞かれても。実際変に意識してないからな~。うーん、その質問に対しての意見を言うなら自分が生きるためかな。
食事とかでも何かしら命を奪って自分の糧にしてるし、警察だと射殺とかが当てはまるのかな。それにそんなことを考えるのはこの世界からすればおかしなことに含まれると思う。まあとりあえず何も考えないでさ、自分が生きるためって思っときな』
だったかな?自分が生きるため、か・・・。たぶん私はそれを理由に生き物は殺せないと思う。でもこのままだと早い段階で新藤君は殺され、周りの人も殺される。もちろん私も・・・。もし私が死んだらシエルさんは私のために悲しんでくれるのかな、泣いてくれるのかな。それとも勝手に死んだことを怒るのかな。ああ、でも死ぬ前にシエルさんに会いたかったな・・・。
「・・・あれ?なんで私泣いて」
つーっと私の頬を涙が伝い、私は気づく。
ああ、なんだ簡単なことだったんだ。私は一緒に生きていたいんだ。ならあの人のために生きよう。必要だと言ってもらいたい、抱きしめてもらいたい、もっと一緒に居たい。二人で笑っていられたらどんなに幸せなことだろう。
そう思うと自然に足が前に進み始め、剣を抜くことができる気がする。大丈夫、もう私は戦える。自分勝手な理由
だと自分でも思う。でもそれでいいと思える。だから私が今できる最善と思えることをしよう。
「ぐっ、ごほっごほっ!」
「さあ、そろそろトドメを刺してやろう」
「クソッ、なんでだ!俺は勇者だぞ、こんな雑魚に負けるなんてありえないんだ!」
「はいはい、寝言は死んでから言いましょうか。やれ、グレートドラゴン」
『GUAAAAAA!』
「くっそぉぉっ!」
私は新藤君に振り下ろされるドラゴンの鉤爪の前に出て剣を振るう。ガキンッと音を立てて鉤爪を弾き返す。
「っ!お前は!」
「新手、それも二人目の勇者ですか」
「・・・」
「なんでお前がここにいるんだ!それにその聖剣はどうした、お前の聖剣はすでにこの国が回収して」
「少し黙っててくれる」
「なんだと!」
「ふははっ、どうやら勇者が二人に増えても仲がお悪いようご様子。まあ、あなたもいたぶってあげましょう。やれグレートドラゴン」
『GUAAAAAA!』
私はドラゴンの鉤爪を躱し、時には剣で弾く。隙を見ては剣を振るって攻撃する。ドラゴンの体が大きいおかげで攻撃は当たるけど、鱗が硬くて全然ダメージを与えれない。なのに向こうの攻撃は掠るだけでダメージが来る。そんな攻防を何度か繰り返しているうちに剣にひびが生え、砕けてしまう。
「・・・っ!」
「おや、とうとう剣が砕けてしまいましたね。まあ何度もあんなことをしてれば自然なことでしょうが。グレートドラゴン」
『GUAAAAA!』
「うぁっ!」
ドラゴンの鉤爪を防ぎきれずに私は吹き飛ばされてしまう、もしシエルさんからもらったドレスアーマーが無かったら今ので死んでただろう。それでも次は耐えれないと思う。
「さて、そろそろ飽きましたね。終わりにしましょうか。グレートドラゴン、トドメを刺しなさい」
『GUAAAAA!』
「っ!」
「う、うぁああああ!」
ドラゴンが大きく息を吸うのを見た新藤君は逃げ出し、それと同時に周りから悲鳴や叫び声が聞こえてくる。理由は私でもわかる、ブレス攻撃だ。どう考えてもこのあたり一帯が焼け焦げるに違いないだろう。やっと生きたいと思えたのに。
『GOAAAAAAAAAA!』
「~っ」
ドラゴンの口から炎が吐き出される瞬間、私は目を瞑り、ジッと焼かれるのを待つ。ああ最後にもう一回だけシエルさんに会いたかったな・・・
「な、なんですか!?あなたは!」
「えっ?」
悪魔が困惑したような声を上げる。私は炎の熱さではなく、凍えるような寒さを感じ目を開ける。すると目の前は辺り一面が凍っていた。それは地面も建物も、ドラゴンも、そして炎でさえもすべて凍らされていた。
そしてそんな光景の中、ただ一人だけまっすぐと悪魔と対峙している人がいた。その人はすべてに恐怖を、絶望を、そして死をもたらす黒い死神に見えた。周りの人達はもちろんのこと、私もその人に恐怖を感じてしまった、だけどすぐにそれは安心に変わる。
だって黒い猫耳パーカーなんてあの人しかいないから。
猫耳パーカーってかわいいよね、ねっ!
(/・ω・)/にゃー!