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男子は変身ヒロインになれません!  作者: 近藤銀竹
第一章  怪物の襲来なんて東京単局の話だと思っていた
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第四話 『見えなかった』

 その後。


 駅前は何事もなかったように片づけられ、補修工事が急ピッチで進められた。

 新聞やテレビでは『映画のゲリラ撮影か? 謎の巨大ロボット!』だの『空を舞う少女を見た!』だのと書き立てられた。挙げ句、『自動小銃を発砲した少女が巨大構造物の作者とみて行方を捜すと共に、銃刀法違反の容疑で……』と来たもんだ。写真や画像が一枚もなかったのは、本当に『バンパイア効果』だったのかな。


 ひかるがこのまま退学しちゃうんじゃないか、と戦々恐々として予備校に行ったが、彼女は案外ケロッとした顔をして教室にいた。

 帰りも、ひかるは何事もなかったように入口で待っていた。

 ほぼ修理が終わった駅前に向かって、二人並んで歩き出す。


「先週は大変だったな」

「そうね」


 何だ? やけに素っ気ないな。


「例の巨大構造物、そっちのほうに近かったよな。よく無事だったな」

「そうね」


 ああ、これはひかるもニュースを読んでるな。内緒にしようっていう腹か。

 どうしよう。言っちゃおうかな……

 ここで話してしまえば、ひかるの秘密が二人の共有の秘密になって、俺たちはさらに親密に……だがその後、大きな災いに巻きこまれるのもお約束だ。そんな映画のような災いから生還する自信は、正直なところ……


「なあ、あの後どうやって家に帰ったんだ、ピュリメック?」

「ピュリンセスガーブを解除すると、ちゃんともとの服に戻って……って……」


 ……あれ?


 ああああ~言っちまった~! 俺のバカバカバカ!

 だが、もう遅い。

 俺が発した音は秒速約三百四十六メートルの速さでひかるの耳に吸いこまれた。

 ひかるの動きが徐々にスローになり、エンスト寸前の自動車のようにブルブルと震えだした。そのまま油が切れたロボットのように、ぎこちなく俺の方を振り向く。


「な……な……何で、ま……守が、それを……?」

「俺がロータリーに向かってたら、ちょうど赤いキツネと居合わせて、ひかるが目の前で巫装ぶそうを……」

「何でそんなところに来るのよっ!」


 ひかるが街灯の明かりでもわかるほど赤面している。


「俺、あの時ひかるを助けぐげがはぱ……」


 言い終わる前に顔面へ超音速の掌底。そのまま顎関節を掴まれる。


「恥ずかしいからそれ以上言わないで!」

「もがーもがー」


 俺は目を使って必死に頷く。


「よろしい」


 ひかるが力を緩め、俺はようやく解放される。


「ところで……」


 ひかるが、今度は恥ずかしそうな表情を見せる。このコロコロ変わる表情の多彩さも、ひかるの魅力と言える。どんな表情をしても様になるのが、ひかるの得なところだ。


「その……見えた?」


 ははーん。『絶対にめくれないスカート』の話か。

 俺は内心ニヤリとする。ここは顎アイアンクローの仕返しをしてやろう。


「何が?」


 俺はわざとらしく聞き返す。


「その……あれよ。パ……」

「パ?」


 もじもじするひかる。ほんっと、可愛い。


「パ……」

「パ……? ああ、パンツ! 見えなげぶらはむっ!」


 その言葉を口に出したとたん、ひかるの裏拳が俺の頬にめりこんだ。


「大きい声で言わないでっ!」


 ひかるは赤面して顔を逸らした。


 この、予備校から駅までの短い道のり。

 俺の目の前に戻ってきてくれたひかると、ここを歩く時間が、今の俺にとってかけがえのない瞬間なんだ。

 幼稚園であった薄気味悪い事件の続きを、ひかるが祓魔姫ふつまひめになって片づけた、なんて夢みたいな事件も……一度くらいはいいかな。

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