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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検061

 どうやら俺は、せっかく考えた手段を妨害されて、頭にきていたようだ。

 いつもなら怒るけども、八つ当たりなんてしない……と思う。

 下らない言い争いをしている場合じゃない。忘れていた。

 直面する現実に、嫌が応でも気がつく事になった。



「いい加減に諦めて、あいつと遊んでこいぃ」


「ふざけるなにぃ! そんな事ができるかぁ。それに、あんなちっちゃな子に砲撃をする方がおかしいだにぃぃ」


「だから、それには……」


「……えっ、えぐぅ……」


 その音は、すぐ背後から聞こえた。

 まるで幼児が嗚咽しているかのような声が、現実を伝える。

 ……争っている場合じゃなかった。


 全力で駆けながら気配を探ると、それは背後に居る。

 小刻みな足音は、約二メートル程の距離を保ち追走をしていた。だが、それ以上は近づいてこない。

 理解したのはそれだけ。そして、頭上の小尾蘆岐が、状況を伝えてくる。


「……ねぇ千丈。なんだか悲しそうについてくるだにぃ……」


「悲しそう……だと?」

 

 その姿を確認する為、俺はゆっくりと振り返った。

 背後の白楓と目が合う。視線が交差すると表情は一変。感情が爆発する。


「えぐぅ……うわぁぁあぁん!」


 白楓は大きな瞳を更に大きく広げる。全開に見開いた。

 湛えていた涙は溢れだして流れ落ちる。感極まった大声を上げ、泣きじゃくって声を荒げながら飛びかかってきた。


 もはや避ける事など出来ない距離。

 小さな体躯が跳ね上がり、両手を突き出して迫って来る。

 外見に重量感を感じないが、放つ迫力は大きな白い化け物に匹敵する。

 ……あぁ、終わった。間に合わなかったか……


 そう思った時、空気を引き裂く轟音が(とどろ)いた。

 その音が耳に届くが、白楓の視線は俺から動かない。


 そこに至るまでの時間は、まるでスローモーションのように感じた。

 指示などしていなかった砲撃は、俺達をその()()に捉えながら白楓に向かっている。


「小尾蘆岐ぃ。頭を低くするんだ!」


「ひぃぃぃいぃ……」


 砲撃の通過地点に小尾蘆岐の頭部があった。俺は慌てて屈む。高速の弾丸を避けようとした。


「うあぁぁ……ぐうぅぅ……」


 頭上ギリギリを通過する砲撃が、唸る白楓に迫る。

 楓との距離は縮まり、砲弾速度は遥かに跳ね上がっていた。

 いきなり目の前に現れた砲弾に驚いた白楓は、弾くことは出来ないと判断し、腕を交差させて防御体勢を取った。

 そして腕の中心に炸裂。吹き飛ばした。


 目前で起こる衝撃波は凄まじい勢いで迫る。瞬間的な圧力で俺達も吹き飛ばされた。

 舞い上がる粉塵の中。

 頭上の存在を心配した俺は、転がりながら声を上げる。


「……ごほっ。おいっ小尾蘆岐ぃ。平気かぁ?」


「頭はちゃんと付いているにぃ。無事だにぃ!」


 どうやら小尾蘆岐に被害はないようだった。

 そうだ、白楓はどうなった……?


 立ち込める粉塵が視界を覆う。

 徐々に薄まり始めると、そこに立つ人影を浮かび上がらせる。それは……


「お前はなん、ですかぁ? チビすけが増えているの、です」


 耳に届くのは楓の声だった。

 どうやら、砲撃と同時に移動をしてきたようだ。

 そして、塵の幕が晴れて視界に入るのは、白楓を足蹴にして踏みつけている光景。


「……楓、いつの間に……」


「迎えにきたの、ですよぉ。でぇ、こいつはどうしてくれよう、ですかねぇ?」


「どうするって……」


 楓は己に酷似した存在を見下す。

 それは、いつでもお前を殺せると眼で訴える。その圧力を前に、俺はどう答えていいのか逡巡する。

 空白の時間を衝いて、白楓は暴れ始めた。


「……う、むがぁぁあぁぁぁぁっぁあぁぁぁ!」


 楓の脚を殴る。引っ掻く。全身を動かして、楓の拘束を逃れようともがき続ける。

 腕は受けた砲撃により皮膚表面が吹き飛び、細く白い骨が剥き出しになっていた。周りの肉からは真紅の血液が迸り、楓の衣類(ワンピース)に飛び散って赤い斑模様へと変える。


 踏みつけたままの楓は動かない。どんなに暴れても微動だにせず、無表情で足元の存在を見つめ続けた。


「うぐぅ……これはちょっとにぃ……」


 小尾蘆岐は直視に耐えられないと視線を反らす。

 さすがに俺もこの光景を見て辛く感じる。……だが、目を背ける事などできない。


 こうなったのは()()()だが、こうするのが俺の()()だった。



「……なあ、楓。こいつはどうしたいんだと思う?」


 俺の問いかけに楓は答える。現実的な答えを。


「わからないの、です。踏み潰せと指示をもらえれば、すぐにでもそうするの、です」


 ああ、そうだな。

 俺の指示ひとつで、この白楓を殺すことが出来る。

 だけど、もう充分だ。これなら……


「……千丈にぃ?」


 俺はそっと楓の足元にしゃがむ。

 じっと白楓の真紅の眼を見つめた。すると暴れるのを急に止めた。……やはりな。


「う……あぁぁ」


「なあ、わかるか?」


 今度は白楓に俺は問いかけた。それは確認の意味だった。

 少し罪悪感があるけど、これも仕方がなかった。人外の存在が、元気なままで飛びかかってくれば。白楓に()()が無くても、俺は死んでしまう……

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