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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検060

「うわぁあぁぁあぁあぁあぁぁぁぁあぁぁん……!」


 白楓(しろかえで)は大号泣をかましながら追いかけてくる。


「ぎゃぁぁぁあっぁぁぁあぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁあ゛……」


「ひゃぁぁぁだぁにぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃ……」


 全力の叫び声を上げながら逃げまどう俺達。

 ……なぜこうなった?



 楓の放った砲撃は、確かに白楓の胸部中央付近に命中した。

 そして吹き飛んだ。そう、まさに大きな弧を描くように飛んでいったのだ。


 そこまでは良かった。

 確認をして、その場を離れる……


 そして、鼻を啜るような音が聞こえる。

 その後だった。軽快な足音を響かせながら、泣き声が迫ってくるのに気がついた。

 うっかり振り返った俺は、赤い瞳に涙をいっぱい溜めて号泣する白楓と目を合わせてしまう。


 次の瞬間、両手を前に伸ばし更なる全力疾走を始めやがった。

 迫りくる恐怖感で、アドレナリンが脳内を駆け巡る。全身の毛穴が全開となった。

 マジでやばすぎるぅぅぅ……っ!


「こっ、コオロギぃぃぃ! 砲撃を指示しろぉぉおぉ。あの白いのを止めるんだぁあぁぁぁぁぁ!」


「ひぃぃぃいいぃぃ。嫌だぁぁにぃ! あんな小さい子にそんなことぉ出来ないだにぃぃ。やるなら千丈がやれぇ!」


 ……こんの偽善者が! くそぉおぉぉ!

 精度は落ちるけど止むを得ない。前を向いたまま目見当(めけんとう)で背後を指差す。多少の誤差修正は楓がしてくれるだろうと踏んでいた。指示に基づく攻撃はすぐに始まる。

 

「ぶち当たれえぇぇぇぇぇぃぃ!」


 狙い通り複数の砲撃が白楓に迫る。

 頭上を通過して後方に向かう攻撃に頼もしさを感じた。だが、それが命中する重い衝撃音は聞こえなかった。

 届くのは弾かれる音。そして、時間差を経て遥か遠くに着弾する衝撃音だった。

 ……何が起きたんだ?


「うぁあ! ……あっちの楓ちゃんは、手で砲撃を弾いてるだにぃぃ……」


「え゛……マジで?」


 手で弾く……?

 そんなに弱い衝撃では断じてない。

 あんな幼児の細い腕だと、触れただけで吹き飛ぶ筈だ。

 ……こうなったら。


「うぅぅ、くそぉぉ。これで、どうだぁ!」


 全力疾走中に腰を落とし飛び跳ねた。

 空中で反転し、真正面から向き合う体勢に変える。

 そして叫びながら攻撃を指示。


「おらぁ! これでも喰らえぇ!」


 砲撃の着弾確認を自身の目で確認。対処の道筋を探る。


 放たれた砲弾は、真っ直ぐに白楓へと突き進む。やがて小柄な身体に衝突……その寸前で、眼光を一際(ひときわ)赤々と輝かせた。次の瞬間に両手が霞んだように見えた。

 ……そこで軽い音と共に攻撃は弾かれる。砲弾は進行方向を変えて遥か彼方へと消えていく。

 その様を見続ける……


「マジかよ! ちきしょう」


「ほぉらぁぁ、僕の言った通りだにぃぃ」


「じゃかあしいわぁぁ。それより早く何とかしないと捕まるぞ!」


「どうしようもないだにぃよ……ひたすら逃げるしかないだにぃ。あんな子に暴力はいけないにぃ……」


 くそぉ。今はまだ不味い!


「今度はこれだぁ!」


 白楓の方向に両手を向ける。

 指差すのはお互いの間で何もない空間。そこに攻撃が交差するように指定する。

 飛来する砲弾同士は中間地点で接触。空中で分裂して無数の破片と化す。数えきれないほどの散弾が、白楓に襲い掛かった。

 ……どうだ、これなら弾くのは不可能だろう。


 白楓は両腕で顔を守る体勢を取る。

 前方に飛び込むようにして、散弾に触れる表面積を最低限に抑えた。


 高速で飛ぶ破片は腕に、肩口へと突き刺さる。無数の穴を開けた。だが、速度は保たれたまま。

 しかし、

 俺の目的は()()()()()()()()()()()()()()()()……


 こいつは、手で石の砲撃を弾くような化け物。

 散弾のように小さくなった石は、あいつにとって小蠅の群れのようなもの。これぐらいで倒せるとは考えてない。

 だから、本命は……


「あぁっ、危ないだにぃぃ!」


「んなっ……なんですとぉ!」


 小尾蘆岐が叫び声を上げる。

 その声に反応した白楓は、空中で前転を行う。対軸を変え、姿勢を強制的に切り替えた。


 時間差で放った砲撃は、背中を掠めて地面に炸裂する。


「お前ぇぇぇ。なっ、何してくれてんだよぉ!」


「だってだにぃ。あんなのが当たったら可哀想だにぃ!」


「だからぁ、当てようとしてんだろうが。くそぉ!」


 散弾の目くらましを行い、その隙に次弾を仕込む。

 最大級の砲撃を命中させるための手段だった。


 白楓が目で視てから、行動の判断しているのは、先ほど弾いた瞬間に確認している。だから、散弾の手段を講じて()()を塞ぐ。次の攻撃で、確実に捉える筈だった。


 そんな目論見も心優しいのか、アホなのかわからん偽善者によって妨害された。

 ……くっそぉ。絶対に捉えて、これで足止するつもりだったのに。


「……くっ。駆けるぞ!」


 長かった滞空時間も終わりを告げる。

 地に足を着けると同時に、全力で駆け始めた。ただ、逃げ切れるとは思えなかった。


 速度は明らかに白楓の方が上。

 これだけ小回りが効く相手との戦闘はしたことはない。それに、どんな攻撃手段を持つのかも不明。


 ただ、あの細腕に捕まれば終わりだ。

 ……体に突き刺さって身体を突き抜けるイメージが、ありありと脳内に浮かぶ。……さて、こうなったら仕方がない。


「小尾蘆岐……小さい子は好きかな?」


「すきだにぃ。それがどうかしたのかにぃ?」


「イヤァ~べつにぃ。ちょっと聞いてみただけだよ」


「……ねぇ。僕を囮にして、どっかに行くなんて言わないだにぃよね?」


「…………ッ!」


 ……なんでわかったんだ。こいつはエスパーか?


「おいぃっ! 答えるだぁにぃぃ」


 うっせえな!

 大事なのは、小尾蘆岐がどれだけ時間を稼いでくれるかだ。

 よし、実行あるのみだ。


「では、答えてやろう。さらばだ小尾蘆岐!」


 きっと、こいつは大丈夫。

 根拠はないけど、気を引く役目ぐらいは果たせる。

 そう考えて脚に手をかけて引きはがそうとし……あれれ?


「絶対にぃぃ。は・な・れ・な・いだにぃ!」


「てんめぇぇぇ。俺の腕に何しやがった!」


 力が入りません。くそぉ……なら。


「こらぁ! 後頭部で腹をどつくなだにぃ。痛いにぃぃ」


 こうして背後に迫る、小さく白い存在を無視し、無益な争いを俺達は続けたのだった…… 

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