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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検059<挿絵あり>

 打ち込み続ける楓の砲撃は、止むことがない。

 赤く立ち込める濃い血霧(けつむ)の中へと砲撃が吸い込まれては消えていく。

 そして、続くのは着弾の重い響きだった。


 これは、白い大型化け物の位置がわかるので、指示し続けている俺のせいだった……

 無駄とわかっていても、優勢な状況は止められない。


 ……しかし、楓はどうやってこれを投げているのだろうか?

 投げて、また拾ってを繰り返していたら、連発なんて絶対に無理だろう。

 遠すぎるのでどうやっっているのかわからない。

 けど、まあいいや……


「ねぇ千丈? あの中って、どうなっているのかにぃ?」


 血霧内部の様子は、小尾蘆岐に全くわからないようだった。


「うーん、わからんなぁ。はっきりと見えないし……でも不思議とあいつの場所だけわかるんだなぁ、これが……」


 一切の容赦をすることなく、機先を制するように打ち込み続ける。

 右に、左と狙いながら動きを牽制。命中する度に、濃密な血煙が舞い上がる。


「言われてみると、確かに体躯は小さくなってきているようだな。狙うのも、だんだん難しくなってきた……」


「もう僕には全くわからないだにぃ。それよりこの血に強い腐食性があるだにぃ。ちりちりが凄いにぃ」


 ちりちり? うーん付着した部分がやられていると言う事かな?

 全く厄介な化け物だ。

 触るのもダメだし、遠くから傷を負わせれば舞い散る体液で腐食させられる。


 小尾蘆岐の回復力がなければ、俺はすでにボロボロだろう。

 ……よく見ると服の傷みが酷いな。小さな穴だらけになっている。


 帰りの公共交通機関はどうしよう。乗車拒否をされないだろうか?

 うん、ちょっと離れるか……


 その時、血霧内部の違和感を感じ取る。

 それは白い化け物が、動かなくなった事だった。


 もちろん楓の攻撃はちゃんと命中し、一撃が炸裂する(ごと)に反応はする。

 だが、逃げようとも、向かってこようともしなくなった。


 ……ひょっとして、弱っているのか? だが、何かがおかしい……


 その様子に嫌な予感を感じた。

 背中を伝う汗が、俺にそう伝えてくれる……


「小尾蘆岐……ちゃんと掴まれよ。なんだか怪しい……」


 距離を開けるため、砲撃を中断して斜面を反対に降リ始める。


「ふえぇ、今度はなんだにぃ?……っんなぁあぁ!」


 小尾蘆岐が疑問を呟く……次の瞬間それは悲鳴に変わる。

 

 動かなくなった白い化け物は……突如として()ぜた。

 爆発によって爆風が発生。それは周囲を覆っている血霧を吹き飛ばす。

 一面に撒き散らされるのは、血と肉片の雨。それらが全方位に降り注いだ。


 ……あっ危なぁ! 離れて良かった。

 近くにいたら体液と肉片の直撃を浴びてしまう所だった。

 

 直感はすごく大事だなと改めて認識した。

 だが……ついに白い化け物を倒せた。長い戦いにも終止符が打たれ……


「やっただにぃ……か?」


「わからん。けど、これで制御装置に……ん?」


 辺り一面に焦げた臭いが充満し、降り注ぐ赤い雨は頭部を、皮膚を、衣類を腐蝕させる……

 そんな中。


 ……前方には、俺達の視線を釘付けにさせるなにかがある……


 終わったと思っていた……

 だけど、違った。


 俺は大きな勘違いをしていた。

 何が光る輝点(こうてん)だ。弱点だ……


 明らかに違う存在だったじゃねぇか。

 この白い化け物は、黒騎士を捕食して大きくなったとばかり思っていた。

 ただ、成長の一因はそれもあるだろうけど……そうじゃない。


 これは最初っから()きかったじゃねぇか。

 なんでだろう?

 ……そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()?()


 答えの出なかった疑問が、今ここに具現化する。


 先ほどまで血の霧に覆われていた場所に立つのは……


 白い女が独りだった。


 挿絵(By みてみん)

 いや、女性なのかどうかも正直怪しい。

 その形態がそうだった……そう見える造形をしている。

 白い肢体に、長い白髪。小柄な幼女だ。

 その……

 ささやかな胸の膨らみは、あいず先生のストライクゾーンだろう。ロリコンの好む要素が満点だ。


 じっとこちらを見つめる大きな瞳には、俺達が映り込んでいる。それは十メートル以上の距離があってもわかった。


 真っ白な全身に、瞳の光彩だけが紅く輝やく。

 うつろな瞳が向けられるのは俺達……いや、俺か?


「楓ちゃん?」


「いいや、違う。楓の筈が……ない」


 そう、見た目は楓に瓜二つだった。

 それは色素が完全に抜け落ちた、幼女の楓……そんな姿をしている。

 

「なんでだにぃ? あんな化け物がこんな姿になるなんて、これを攻撃するのかにぃ……うぅ……」


 小尾蘆岐が迷う気持ちは、何となくだが理解は出来る。

 異形の生物群は、攻撃になんの躊躇も起こさせない。そう、知性を感じさせないモノが相手ならだ。


 だが、目の前にいるモノは違った。

 俺を認識すると首をほんの少し傾ける。不思議そうにこちらを伺う仕草に変わった。


 やがて視線の焦点が定まると、その瞳を大きく見開く。その表情に敵意は皆無。

 驚きから喜悦が混じったような不思議な表情に変貌した。

 ……うん、ちょっと生々しすぎる。だが……


「外見に騙されるなよ。元が何だったか思い出せ。あれは化け物だ!」


「そ、そりゃ、そうだにぃ……だけどにぃ……」


「このまま動かないなら放置してもいいんだが、とてもそんな感じでは済まなそうだ……」


 白い楓は足を前に出す。一歩を踏み出した。

 衣類を全く着用していない姿は、大理石の彫像が動いているようだった。

 

 そうだ。生まれたばかりのこいつには、白楓(しろかえで)と名前を付けよう。

 ……楓と区別がつかねぇぇぇ! そう8先生に怒られたくない。

 あの人、(こじ)らせた楓マニアだから……


「向かってくるだにぃ……ううぅ、どう……」


「ああ、どうするもない。こうするのが一番最適だろうな」


 俺は白楓の腹部中央を指差す。

 ……殺れ楓オリジナルよ! さようなら白楓。


「よし、逃げるぞ!」


「へっ? うえぇぇぇぇえっぇっぇぇにぃぃ?」


 遥か彼方から空気を引き裂く轟音が轟く。

 それに向かって駆け始める。顔の横を突き抜ける砲撃は白楓に一直線に向かって突き進む。


 横目で確認すると、白楓は避ける挙動を示すことがなかった。

 やがて狙い通りに命中した……


「おぶぅ!ぅぅぅうぅぅぅぅぅうぅ……」


 ずいぶんと想像した着弾音と違う……なぁ……


 まあ、ちゃんと命中したので良しとしよう。

 ……しかし、あれは、なんだったのだろうか?

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