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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検055

 無人廃屋が集まる集落、その屋根を俺は駆け続ける。

 背後に暴力を具現化した白い存在を引き連れて……


 ここは、かなりの年数が経過している廃屋(はいおく)

 だが、元の造りがしっかりして、かつ風雨に晒されない地下空間という環境が、このような保存状態を保てた理由だろう。

 おかげで足場に不安要素はない。


「……おらぁ、こっちだぜ!」


 適当に転がる石を拾い投げつける。

 それは白い体躯に触れると吸い付き沈んでいく。

 ……まったく。あいつらの身体はどうなってやがる?


 高い位置から動きを見ていてわかったことがある。

 ある程度の距離を取れば襲い掛かってくる事はない。しかし、この付近から離れようともしない。

 まるで、忘れ物を探しているかのような感覚を与える。


 お互いに連携を取って攻撃をしてきたら非常に厄介だったが、てんでバラバラの動きは、連携といった計画的な襲撃のそぶりも見て取れない。


 あいつらの存在理由はなんだろう?

 本能的に動くものを捕食する性質だとしたら、それに違和感を覚える。

 防衛装置から生まれてきて、なぜか修復をつかさどっている黒騎士を襲っている。

 それが無差別感を強く感じさせた。


 ……仲間を襲うような防衛手段などあるのだろうか?


 それとも俺と小尾蘆岐が異物として判断されているのか?

 はたまた単なる美味しそうな餌として見られているのか全く不明だ。

 まあ、考えても意思の疎通が図れそうもないので、これ以上わからない……

 わかっているのは、あいつらは制御装置を修復する黒騎士を喰い尽くす。それだけは確実だろう。

 ……ここで食い止めるしかない。


「その先で鉢合わせになるだにぃ! 少し左に進行方向をずらすにぃ」


「あぁ、何匹だ?」


「一匹だにぃ……たぶん」


 その声に合わせて、避けるように進行方向を左手の建物に変える。

 ちょうど屋根の端から二メートル級の一匹が飛び出してきた。そいつの全身を注視し、ある部位に目星をつける……


「……よし、小尾蘆岐。指を二本立てて、手を上げるんだ。もう片方の手を使って、あいつの左肩を指差せ!」


「へっ、こうだにぃか?」


 小尾蘆岐は言われたとおりの体勢を取る。

 すぐに風切り音を伴い、砲弾のような音が遠くから近づく。


 それは寸分たがわずに指示した場所へ、二発が立て続けに命中した。くぐもった鈍い音が届く。


 ……衝撃音は重い一撃に感じたけど、ちゃんと二個あったことを俺の耳は捉えている。


「なっなにが起きただにぃ!」


 小尾蘆岐が慌てて声をあげる。

 それに答えるため、俺は口を開く……


「あぁ、それはな……」


 楓の放った石は一撃目で白い体表面を限界まで内側に押し込む。やがて、遅れたもう一個が接触する。

 硬度の高い石同士が衝撃により粉砕、飛散を起こす。

 高い運動エネルギーを保持したままの石礫いしつぶては胎内で弾けて、光点を引き裂いた。


「楓の投石による攻撃だよ。小さめの化け物に光点じゃくてんは視えないけど、集まっている怪しい場所だけは、なんとなくわかった……」


 大まかな場所の特定が出来れば、まとめて吹き飛ばせばいい。


 それが、もう一つの近づく理由。

 見極めるために、危険を冒してでもここまで来る必要があった。


「なるほどだにぃ! でも、あんなに遠くから楓ちゃんに見える訳が……」


「あぁ、見えてんだろ? 楓ならたぶん出来ると思ってな。……ほら実際に指示した回数で、石が狙った場所に飛んで来ただろう。……それに、どうやら当たりみたいだ」


 弱点を破壊された白い化け物は、その場にへたり込んで動かなくなった。

 俺に見届けられるのはそこまで。一か所に留まる事はできない。

 足下の廃屋にぶつかる化け物によって、強烈な揺れを伴う崩壊が始まる。

 崩れる前に、隣の建物に飛び移った。


 これで残りは九匹。

 順次に個別の撃破をすれば、ここで食い止める目的は果たせる。

 それは巨大な化け物以外に有効な手段。だけど、それだけでいい。

 今は、少しでも数を減らしたかった……


「俺は移動するのに両手が塞がるのはまずいからな。小さいのを見つけ次第指示するから楓に伝えてくれ」


「わかったにぃ。それならまかせるにぃ……えっと、その先で二匹がいたはずだにぃ」


 その指示に従いながら、視える位置まで向かう。

 もちろん楓がいる場所から、狙撃が出来る位置の必要がある。

 これには立体的な空間把握が必要だ。


「どのくらい近づけば、あいつらは反応するんだ?」


「僕が気付くのと同じぐらいで向かってくるにぃ。……たぶんあのくらいの位置だにぃ」


 小尾蘆岐の指さす先。二軒ほど先の屋根の縁から、今まさに這い上がろうとしている化け物が見える。

 距離にして約20メートルか……

 それは始めに叫び声を上げた距離と同じぐらいだった。

 理解した俺は、その距離を保ちつつ迂回するように回り込む。


「わかった、その距離に入りそうな奴から順次教えてくれ。で、あいつには……首の付け根に、二発だ!」


「了解だにぃ。楓ちゃんお願いだにぃぃ!」


 指示に従う小尾蘆岐は先程と同じ態勢を取る。

 すぐに遠方より砲撃が行われて、空気を切り裂く甲高い音が響いてくる。

 俺は着弾を確認することなく、次の廃屋に飛び移った。


 こうして立ち並ぶ廃屋を舞台にした巨大な化け物との追いかけっこと、少し小柄な化け物を殲滅する戦いは続く……

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