表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
87/115

楓湖城の探検052

くっそぉ、です。

もう来やがったの、です。

でも、なんとかなると信じているの、ですよぉ。

楓をどうぞお使いください、です。

 迫りくる白い化け物。

 生まれた状態よりも、その姿は一回りほど大きくなっている。


 取り込んだ黒騎士が成長に一役かっているのか、時間共に成長するのか、その実態は俺にわからない。

 だが……

 これ以上、あいつらを近づけるのはまずい。

 それだけは確実だった。


 岩壁を補修する黒騎士が装置全体の暴走を防いでいる。

 ……だけど、崩壊は遅かれ早かれ訪れるだろう。


 隙間から溢れだしてる水量は、注ぎ込む量を上回る。

 いずれは中の冷却水が消失……

 いや、どれほどの水量があれば安全圏なのか。そんなのは誰も判断などできない。

 ただ、黒騎士がいなくなれば……一気に状況は悪化する。

 ギリギリで保たれている、この均衡が崩れてしまう。



 今更ながら理解をする……

 小尾蘆岐の父親が、なぜここへ来なくてはならなかったのか……

 そして、なにをしたのか。

 それは、きっと温泉の異変と大きな関係がある。


 きっかけは……きっと地震だ。

 ここを震源とした、十年前に起こった直下形の揺れ。

 それによって、岩壁に亀裂が生まれる……


 おそらくだが、小尾蘆岐旅館の温泉は、ここから流れ出ているお湯を汲み上げて使っていた。そう思った。

 ……なぜなら、湯気にも濃密な力が含まれているからだ。


 温泉に含まれる魔力濃度の上昇は、冷却水(げんせん)の量が減った事による凝縮が原因だと予測できた。

 きっと地下に排水パイプのような物が埋まっている。

 足元に感じる力の流れはそれだと思う。


 それが旅館の下まで続き、やがて湖に注ぐ。

 だから、力を求めて旅館の周りの水中には異形の生物が集まる。


 大きな勘違いをしていた……

 てっきり制御装置を機械的なものだと、勝手に想像していた。


 この魔波動の動力源は大量の熱を発生させる。

 その熱量は本体を融解させるほどで、それを防ぐ。制御するための機構がつまり壁だった。


 内部を水で満たして、発熱融解を制御する”(せいぎょ)(そうち)”が破損したのだ……



 全ての異変に気がついた旅館の主。

 小尾蘆岐の父親が行ったのは、きっと壁の補修だ。

 どのようにしたのか。今は知る(すべ)がない。だが、きっと持てる力を全て使い、たった独りでここまできて、行使した。


 それは、二度と戻れないこと覚悟しての手段。

 ……家族を、もっと広域な皆を護るために。外壁の補修をやり遂げた。そして、崩壊は防がれた……筈だった。


 だが、それでも完全な修復は出来なかった。

 徐々に破損箇所はゆっくりと進行し。


 そして……今に至る。



「楓、あいつを行かせるわけにはいかない。絶対にだ!」


「了解、ですけどぉ。……どうやって止めるの、ですかぁ?」


 それが大問題だ。

 楓と俺の鎌だけで、白い化け物に対処。

 ……うーん無謀だな。


「千丈はきっと何とかしてくれるだにぃ」


 過大な評価は止めて欲しい。

 だけど俺の口は勝手に……


「ああ、任せとけ」


 などと言ってしまう。


「さすがだにぃ。対策をちゃんと考えているにぃ」


「そうなん、ですかぁ? さっすがぁ楓のご主人なの、です」


 ……どうしよう?

 引っ込みがつかなくなってきたぞ。期待などされた経験があまりないから、そう答えてしまった。


 ……あぁ嘘をついたよ、あまりじゃない。

 はい、見栄をはりました。


「よし楓、お前がこれを使え」


 とりあえず鎌を楓に差し出す。

 走りながら上手に受け取り、振り回し始める。

 適材適所という言葉が脳裏に浮かぶ。


「いやぁ嬉しい、ですよぉ。両手が開いたので、これが欲しかったの、です」


 どうやら本気で喜んでいるようだ。

 俺があの白い化け物に、こんなちっさい鎌で立ち向かうのは無謀だ。

 それは自殺行為と俺は認識している。

 楓が使った方が、まだましだと考えての譲渡。


 だけど、楓はハッキリ対処が出来..ないと言っていた。

 それは面倒でも、やりたくないでもない。……そう出来ないだ。

 このまま、正面から立ち向かうのは絶対に無理だろう。


 さてどうするか。

 必須の条件を考える……


 一つ目。

 黒騎士を取り込むのを止めさせる。

 制御装置の側にいる黒騎士には修復を続けさせなければいけない。白い化け物を辿り着かせない方法。


 二つ目。

 何らかの手段で倒す。

 おそらく、あれにも黒騎士と同じコアが必ずどこかにある。

 それを破壊すれば、存在を崩壊させることが可能だと思う。


 ……ふむ、この二つか。


 まず一つ目。

 深い穴にでも落っことして、時間を稼ぐ。その間に助けを呼びに外まで……いったい誰が来てくれるんだ?

 ……ダメだな。くそっ。


 次に、二つ目。

 なんとかして白い体表面を抉れば、身体の内部が見えないだろうか?

 光点さえ見つかれば、まだ倒せる可能性がある。

 そのためには近づいて、ダメージを与える……


 ダメージを与えて……!

 近づかなければ、いけない理由はないぞ。

 遠距離からなら……その方法は、ダム湖畔で楓が行っていた。

 ……よし、あれならなんとかなる。


「楓ぇ。この辺りで一番硬度が高くて、数が多く確保できる岩はどれだ?」


「石ころ、ですかぁ? えっとぉ、ちょっと待って、ですよぉ……」


 楓は必死に付近に視線を走らせて、指示した物を探し始める。

 そして、それを見つけて指差す。


「あれはブラックファイングレイン、ですよぉ。硬度が高く、いっぱいあるの、です」


 それは、少し盛り上がった場所にある一軒の廃屋で、石造りの建物。

 どうやら外壁がその素材で造られているようだ。数もあれならかなり確保できる。


「なんだかよくわからないけど、それが硬いんだな……」


「吸水性・比重・硬度共に、世界一と言われる石材、です。旅館に入る前に湖底に並んでいたやつ、ですよぉ」


 旅館の前?

 ……あぁ、あの落ちた橋の基礎になっていた石か。

 湖底に敷き詰められていたことを思い出した。

 あれなら、最適だろう。


「よし、壁をぶん殴って握れるぐらいの大きさにするんだ。そこで俺の合図を待っていろ……いいな」


「へっ……? わかったの、です。ご主人はどちらに、ですかぁ」


「そうだな、ちょっとあいつらをからかいに行ってくる。悪いけど小尾蘆岐、付き合ってもらうぞ」


「うんだにぃ。よくわからないけど、信じているにぃ」


 頼りにしてるぜ、ちいさな魔女さんよ。

 こいつの力が俺達の命運を握っている。緊張させるだろうから言わないけど……


「楓、いつも通りだ。この(ダム)に来た時のことを思いだせ。お前なら出来る」


「はいぃ、ですよぉ。とりあえず頑張るの、です」


 楓は指示通り壁に向かって()りを放つ。

 殴れといったけど、違う手段を講じるのは実にあいつらしい。

 ……結果は同じだからどうでもいいけど。


 そして、壁は積層部分から崩壊を起こして、大量の残骸の山と化した。

 ……これでいい。


 横目でその確認を行いながら迂回気味に走り、白い化け物の側面に回り込んだ。

 さて、ひと暴れの時間だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ