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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検047

ふんふん、ですぅ。

なんか感じるの、です。

これは、なんだかわからないけど、お伝えせねば、です。

 防衛装置から生まれる白い化け物を見て、一目散に逃げだした。

 あれは人や家電が立ち向かうような存在ではない……


 しかし、危なかった。

 あのとき小尾蘆岐旅館に向かって戻ろうとしていれば、白い化け物と鉢合わせをしただろう。


 選択肢ひとつが明暗を分ける。

 楓のふざけた行動に加え、制御装置について考察。

 それで動かない時間が生まれた。

 ……それがあってこそ、無事でいる結果に繋がった。


 なにが良くて、悪かったかは、後の結果でしか判断できない。

 ただ……制御装置に向かう選択が正しいかは不明だけど……


 そんなことを考えながら、楓に抱えられて、俺達は熱源に進む。

 無事に地上に戻れる事を願いながら。



 崖の上に上がって、気づいたことだが、防衛装置の場所は一段下がった土地だったようだ。

 上部は密集した住居が建っている。

 それは石造りの四角い住居で、日本の家屋と大きな違いを感じる。


 ……いったい、ここはなんだろう?

 そんな疑問が脳裏をかすめた。




 楓は住居の屋根に飛び移りながら移動を続ける。

 地面には何本もの細い道があり、数騎ごとの黒騎士が動いている姿を時折見かけた。


 もはやあの白い化け物を見た後では、こいつらをかわいく感じてしまう。

 ……そんな自分が……かなり嫌になる。

 今なら黒獣もワンちゃんで理解できてしまう。

 ……ああ、毒されていく。


 しかし……


「なんだありゃ? あり得ないだろう……」


「ビックリしただにぃ」


 防衛装置が壊れて、黒騎士の大量生産が続いた。

 そして、小尾蘆岐が修復すると真っ白い化け物が生まれ、そいつらを喰い尽くす……と。

 ……まあ、あれを造り出したのは……


「あの白いのは、小尾蘆岐が頑張った結果で生まれたからな。子供みたいなもんだろ?」


「ちっ、違うぅうぅだぁにぃぃ!」


 おおっ! 鼓膜が震える。

 なんだろう、このしびれる感じ……癖になりそうだ。

 ……いかんいかん。


「耳許で叫ぶなよ。冗談だ」


「僕からは、もっと可愛い子が産まれるだにぃ!」


「そうか……まあいいや。……熱源は近いのか?」


「いいえぇまだ、ですぅ。反応はかなり奥からしてるの、です。……それとは別に手前のおっきなお家から、変な反応がするの、ですよぉ」


 ……変な反応?


「なんだそりゃ? 黒騎士でも集まってるのか?」


「うーん、です。ちょっと違いますけど、魔波動に近いなにかが、溜まってると言いますかぁ……塞き止められてるというかぁ……そんな感じ、です」


 よくわからん。


 危ないなら近づかない方がいい。

 けど、放置すれば後々面倒な気がする。


 ……俺の勘だけど。


「小尾蘆岐はどう思う?」


「別に狭い洞窟じゃなければ、どうでもいいだにぃ」


 参考にならないな。


「じゃあ、あいつらからだいぶ離れたし、ちょっと確認しよう。すぐに行けるか?」


「では、向かう、です」


 屋根に着地して、角度をずらして跳躍。

 住宅街と言っていいのかわからないが、とりあえず密集した場所からは少し離れる。

 降り立った地面を駆けて行くこと暫し、三階以上はありそうな建物の前で楓が立ち止まる。


「ここなのか?」


「はいぃ、ですよぉ。ここの一階部分からぁ、ですぅ」


 建物を目の前にすると違和感を感じた。

 それは、地面の下に太い力の流れがあり、辿ると中に続いている。


「なんか変にぃ。力が流れ込んでいるだにぃ」


 小尾蘆岐も気がついたようだ。


「入ってみるか? ……変なのは、いないだろうな」


「うーんよくわかんない、です。おっきな力が溜まっていて、微細な魔波動が感知できないの、です」


「しゃあねぇ。とりあえず行くか。 案内は……これだけ強ければ、俺でもわかるからいいや。降ろしてくれ」


 楓は素直に手を離す。開放された俺は地に足を下ろした。


 身体の不調は小尾蘆岐が完全に治してくれて、違和感を感じない。

 そのまま少し歩き、正面に配置された木製の扉を押すと軽い軋みを伴いながら内部の空間と繋がった。



「なにかの施設かな?」


「住宅じゃないみたいだにぃ」


 内部は長い石造りの廊下。壁は白い漆喰のようだった。

 そこに焦げ茶色した扉が一定の間隔を開けて配置されている。


 外観から見た通りの奥行があり、楓の照明では見通せない。

 回廊はかなり先まで続いているようだ。


「力の流れは、ずっと奥で集約されているみたいだな」


「さすがご主人、ですよぉ。……手を繋いで欲しいの、です」


「小尾蘆岐もわかるか?」


 俺の横に顔を並べ、乱形石が並ぶ床下に目を向ける。


「うん、この下に沿った流れを感じるにぃ。先がどうなってるか気になるだにぃ。急ぐにぃ!」


「ご主人、手を、ですねぇ……」


「さあ、早く行こう、重要な事が待っている気がする」


 片手を差し出したまま動かない楓を置き去りにする。

 俺は風のように駆けた。


「うわぁぁ……なんでぇ、ですかぁ? 楓を無視するのはやめてぇ、ですよぉぉぉぉぉ」


 背後からは何かの叫び声が聞こえる。

 その声は回廊を震わせながら、反響を残して追い越していった。


 そして、俺の耳が背後から近づく足音を認識するのと同時に、楓が追い抜いて反転。

 俺を見つめながら後ろ向きに駆け始めた……


 小尾蘆岐の能力で運動能力は従来の力を凌駕している、はずだけど……


 こいつを見ていると、全ての自信を喪失させてくれやがる。

 結構本気で走ってるのに……

 ちくしょう……


「なんで、ですかぁ? 楓はずっと頑張ってるの、ですよぉ。……手を繋いでくれるぐらいはいいじゃない、ですかぁ?」


 うぜぇぇ……


「近いぞ、そこの扉だ……あっ!」


「ちゃんと聞いてください、ごしゅ……おぶぅぅ!」


 後ろ向きで奇怪な走りを続けた楓は、扉に後頭部を激突させる。

 なぜかここだけかなり重厚な金属の扉をしていたが、勢いそのままの衝撃で、ドア枠ごとぶち破った。

 もんどりうちながら力が集約していると思われる室内に突っ込んでいった……


「……アホだにぃ」


「だぁれがぁぁ。あほ、ですかぁ。クソガキがぁ、言葉に気を付けるの、です」


 さすが魔家電だな。……破損(はそん)(かしょ)がまったくない。


「ご主人ぃ、楓の(メモリー)は今のでざっくざく、ですぅ。癒しを下さい、です」


「お前の記憶媒体は、大判、小判なのか?」


 ざっくざくって……なんだ?


「それは昔話だにぃ。あははぁ……」


「……うぐぐぅぅぅ。……もういいの、です」


 楓は俺達から背を向けるも、なぜか完全には振り返らず横目でこちらを見ている。


 ……あっ!

 後頭部に大きな膨らみが生まれているのに気がつく。

 どうやら、あれはたんこぶを()しているようだな……


 突っ込んだら負けだと、俺は確信する。

 だが、その禁断のボケに手を出す愚か者がいた。

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