表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
81/115

楓湖城の探検046

こいつはヤバイ、ですよぉ!

予想外の事態、です。

 小尾蘆岐の父親が遺した手記に、制御装置の恐るべき事象が書かれていた事を俺は思い出した。


「なあ、小尾蘆岐。親父さんは、たしか制御装置について手帳に書いていたよな?」


「書いてたにぃ。ちょっと待つにぃ…… ここだにぃ! 暴走が起きるとダムの破壊に繋がるとあるにぃ」


 ああ、確かそう書かれていたな。


「他に制御装置の機能とか、形状みたいな記載はなかったかな?」


 記憶に無いが、一応確認する。

 見落としがある可能性も捨てきれない。


「……なかっただにぃ。最後に制御装置に向かうと、それが最期だったにぃ。……その後は、一文字も……」


 俺の頭部に小尾蘆岐の額が触れる。心なしか声は細く弱くなっていた。

 ……辛い事を思い出させてしまった。


「悪かったな」


「……気にしないでにぃ」


 俺の謝罪に、そのままの姿勢で小尾蘆岐は返事をする。

 父親は最期に何を行ったのだろうか?

 そもそもダムの破壊を起こせるのか疑問が残るけど……


 一応考察してみるか……


 ダムまでの距離は、ここから一キロ以上離れている。

 遠距離で被害を与える可能性は、自然災害級の事象だろう。


 まず岩盤の崩壊や崖崩れだが、この付近はそれほど急峻な岩山ではなかった。

 直接ダムにまで被害を及ぼす可能性は、あまり考えられない。

 ……周りが崩れた所で、起きるのは湖水面の上昇ぐらいだ。


 地盤の崩落は、この地下空間がダム下まで続いている場合は別だけど、さすがにダム着工前に地下と、両側壁面の調査をしているはず。

 空洞の真上にダムの建設など、さすがにしないだろう……


 他には火山の噴火などが考えられるが、ここは活火山帯ではない。

 その可能性は低いと思う。


 ただ、温泉はあるみたいだけど。

 ……そうだ、温泉があったな。


 しかし駄目だな。ダムを破壊させる程の要因は考えつかない。


 そもそも強大なコンクリートの建造物だ。

 核シェルターより丈夫で、そう簡単には崩壊しないだろう。

 小尾蘆岐の父親が誇張して書いたと思いたい。

 ……そう願う。


 さて、そろそろ決断しないと。

 奥に出口があるかもしれないし、来た道に戻れない以上は進むしかない。


 制御装置はどこにあるのか不明だったけど、色々と考えている内に大体の場所は予想することが出来た。


 そう、温泉の異常に対処するために、父親は制御装置に向かった。

 それが、最悪の状況を回避する為に必要だったからだ。


 そして、湖底の洞窟で気温が異常に高いのは、熱源の存在が必ずある。

 熱源とはなんだ?

 それは、温泉の発生源だと考える。


 旅館近くの源泉に繋がるなにかがきっとある。

 制御装置はきっとそこだろう。


 俺達が向かうべき方向は……


「楓、熱の発生源はわかるか?」


「はあ、です。温度が高い場所はあっちの方、ですねぇ」


 楓は崖の上を指差す。

 そこは、生まれた黒騎士が登っていた場所だった。


 防衛装置から発生した黒騎士は、移動するにつれて体形が変わり続ける。そして崖を登っている頃には、成人男性ぐらいになっていた。

 びっしりと取りついた、そんな存在が、きれいさっぱりと……


「いなくなってるな……」


「ほんとだにぃ。あんなにいたのに……登ってどっかに行ったのかにぃ?」


 そうかもしれないな。

 崖の上は、ここから判断ができない。だから……


「そっちに向かえば、なんかわかるだろう。楓、今度こそ……ん?」


 石の縁から黒騎士の頭部が覗く。

 だが、足を踏み外したようで、視界から消え去る。


「あははっ、ドジだにぃ! 自分で落っこちて……にぃぃ?」


 小尾蘆岐の笑いが止まる。

 足の裏に揺れを感じつつ、辺り一面を多い尽くす不穏な気配に、消えた黒騎士の方向を見続けた。


 すると、太い白い指のようなものが飛び出して、力強く石の角を掴んだ……


「なあ、楓さんよ。見間違いかな? えっと……指っぽい物が見えるけど……」


「ご主人、失礼するの、です」


 そっと横に寄り添う楓は、腰付近に腕を回してきた。

 明らかな警戒感が伝わってくる。


 足元の揺れは、白い指先に力を込めるのと連動していた。

 更なる違和感を感じ、俺はおもわず呟く……


「……なんか変な音が聞こえないか?」


「お煎餅(せんべい)でも食べてる感じかにぃ?」


 そんな音を立てるなにかが、ここにいた記憶はない……


 それは、固い物を口腔内で噛み砕くような、くぐもった響き。空気の微細な振動が皮膚に伝わってくる。


 やがて揺れはいちだんと激しくなり、指に力が込められた瞬間。その元凶が顔を覗かせた。


「……んなぁぁ! なんだこいつは?」


「跳ぶ、です。しっかり掴まって欲しいの、です」


 白い半円状の塊が視界に入るのと、楓が崖を目指し跳躍したのは、ほぼ同時だった。


 空中で振り返る俺が見たのは、太い管のような手をした白い化け物。


 それは……


 首のくびれががほとんどなく、大きな瓢箪(ひょうたん)ような胴体。周りに溢れる黒騎士と比較しても数倍の大きさだった。


 体毛は全くなく、真っ白でつるりとした体表面。

 身体に比べると小さな頭部に真っ赤な唇が、熟した石榴(ザクロ)のようになって裂けている。


 生理的な嫌悪感が沸き上がり、全身の産毛が逆立つ感覚に包まれる。


 なにより驚いたのは、身長の倍はある長い手に掴まれて、もがき続ける黒騎士だ。緩慢な動作で胴体に近づけると、背中の中心に押し付ける。

 黒騎士は半分ほど沈み込んだ。

 その状態で手を離し、次の獲物に向かって腕を伸ばす。


 口は伸縮性があり、捕まえた黒騎士を飲み込むために、引き裂きながら開いていく。

 手にする黒騎士を放り込んで、咀嚼(そしゃく)を始める。


 噛み砕いている間にも、次の黒騎士を掴んで身体に押し付けている。徐々に白い体表面に沈みながら、やがて全身が埋没して消えた。


 ……溢れる黒い存在は、続々と白い化け物の餌食になっていく。



「防衛装置……これが、本来の姿なのか?」


 先ほどまで立っていた黒い石の根元。

 真っ黒な穴からは、続々と白い化け物が這い出し続けている。


「あれはダメ、ですよぉ。胴体も全部口のようなモノ、です。取り込まれたら、楓でも脱出はできない、です」


 そんなことは見ているだけで理解した。

 こんな鎌で立ち向かえる存在ではない。それに楓の攻撃は打撃系なので相性も最悪だろう。


 改めて、白い化け物の内部を注視する。

 その身体は光点が僅かに散在している。だが、それは取り込んだ黒騎士のなれの果て。分解されて消えゆく破片の輝きだった。


 化け物が持つはずの光点は、肉厚の身体に隠されて見つけることができない。

 ……やはり、倒せそうにない。けど……


「あいつらは幸いに、こっちに関心がないみたいだ。さっさとここから離れるぞ」 


「もちのろん、ですぅ」


 崖の上に飛び乗った楓は、振り返らずに走り始める。

 背後から不気味な饗宴(きょうえん)(うたげ)が、追いかけてくるように、俺の鼓膜を震わせ続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ