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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検042

ご主人のお身体が心配、です。

全てを無視して、ご主人を連れてここから立ち去りたい……ですがぁ……

きっと許してくれない、ですよねぇ。ふう……

 現れた黒機動士は、小尾蘆岐に向かってゆっくりと動き始めた。

 下には数騎の黒騎士がいるせいで、逃げる場所は少ない。

 このままだと接触してしまうのは、時間の問題だ。


 回復の能力を持つ魔女。そんな非常識な存在でも、腕力は普通の高校生……いや、あいつはそれ以下だろう。


「……か、楓……行けるか?」


「……お身体は……大丈夫なん、ですか?」


 激痛は先程に比べて、だいぶ落ち着いた。

 ある一定値を超えると、神経が痛覚を軽減すると聞いたことがある。……どうやら、それに近いのかも知れない。

 ただ、少しの振動でも刺すような痛みを感じ続けている……けど……


「それより……このままじゃ小尾蘆岐が詰む。黒機動士を追い払い。石の処理を終わらせて、ここから逃げるぞ。そのためにお前の力が必要だ」


「はぃぃ、お任せ、ですよぉ。……では、しっかり掴まってください、です」


 片手で俺を抱えて立ち上がる。

 腰に回された腕は、まるで鋼鉄パイプのような安定感を与えてくれる。

 身長の低い楓に持ち上げられ、俺の腹部には楓の頭部がある。

 掴まる場所に悩み、両手で顔を挟むように持った。

 ……頭が予想以上に小さっ!


 ……そんなことより、楓に抱えられて視点が少し高くなって、周りの様子がよく見えた。


 殴られた際に吹き飛んで、黒騎士からだいぶ離れた位置になっていた。

 だが、徐々に黒騎士の包囲網が狭まりつつある。壁は跡形もなくなくなった現実を目の当たりにした。


「ご主人、少し揺れる、です。我慢してください、ですよぉ。それと、ほいっ……あむぐぅ、でずぅ」


 足下に転がる鎌をつま先で器用に蹴りあげて、柄を口で咥えた。

 もう片方の手に持つ照明措置は、空間を煌々と照らしているので、これで口と両腕が完全に塞がった事になる。


 果たして、この状態で満足に動けるのだろうか?

 不安を感じた俺は思わず問いかける。


「……激しい揺れは控えめに頼む、と言いたいが……おぃぃっ!」


 楓はそのまま膝を軽く曲げて飛び上がった。

 正確には斜めに跳ねるだろうが、次の瞬間には黒い石を見下ろしている。……正直に言おう。めちゃくちゃ怖い。


 一瞬で石の上部に辿り着く。

 足下には黒機動士が張り付いて、その横には小尾蘆岐がいる。

 焦ることなかった……余裕を持って間に合った。


 両方を見下ろしながら、楓は鎌をくわえたまま口角を上げて、くぐもった笑い声をあげる。


「うぐぅぅ、ぷっ、です。ちょいと鎌を下に置きますねぇ、ですぅ」


 口から離した鎌は足で受け止め、そっと置く。

 その間も視線は黒機動士から一切外さない……


「ちょこまかとしやがって、です。お陰でご主人が痛い思いをしたの、です……」


「ちょっと楓ちゃん? 僕の方も見ながらそんな……うぁぁ、怖いだにぃ」


 小尾蘆岐が慌てて逃げだした。

 黒機動士は、その場で硬直したままで固まっている。

 ……いや動けないのか?


「あははぁ。あぁ完全に見つけたぁ、ですよぉ。もうどこにも逃がさないの、です…… ご主人ちょっとあいつをしばいてくる、です」


「……しかし、なんであいつは逃げないんだ?」


「さあぁ? わかんない、です。……でもぉ、都合がいいじゃない、ですかぁ。うふふぅ……」


 迫力が段違いだ。

 黒機動士を見つめる大きな瞳からは、相手を縛り付ける恐ろしいなにかが出ているように感じる。

 その視線には、逃げる気力を喪失させる確かな力があった。


 腕の力が緩んで、俺は石の頂上に両足を着けて立つ。

 足裏から響く痛みが全身を突き抜けるが、歯を喰いしばって耐えた。


「……うっ。あまり無茶だけは……」


「おらぁああぁあぁ、ですぅ」


 俺の話が終わらない内に、脚を黒機動士に向けて踏みつけるように降り下ろした。急加速をしながら一気に距離を詰める。


 頭部に触れると、一瞬で黒い石から引き剥がす。

 そして、踏んだままの状態で落ちていった。


 ……楓の腕は伸縮が可能だ。

 ただ、足を伸ばしたのを初めて見た気がする。

 ……どんだけこいつは多機能……いや、化け物なんだろうか?


「いひひぃ。ご主人……あいつの弱点はどこぉ、ですかぁ?」


 言動がおかしくなった楓から、視線をそらし、遥か下に目を凝らす。

 そこには黒機動士が踏まれたままの態勢でもがいていた。

 手足が届く範囲の地面は抉れて、穴があいている。だが、(のが)れられない。

 こんな細い脚で、どれだけ拘束力があるのだろうか?

 恐ろしいけど、今がチャンスだ。


 姿勢はうつ伏せで、全身がよく見える。

 これで光る箇所がわかった。


「……左胸の下だな……」


「じゃあ、ちょっと行ってくる、です」


 十メートル近くも脚を伸ばしたままの状態から、軽く一歩を踏み出して縮小させながら下部に降りていく。


 奇行を眺めていても仕方がない。後は楓に任せよう。

 俺は出来ることをするだけだ……

 足下まで這い登ってきた小尾蘆岐に向けて声をかける。


「……懐中電灯を持ってるか?」


「持ってるだにぃ。……それと、すぐに千丈の怪我を治してあげたいけど、ちょっと待ってほしいだにぃ」


 小尾蘆岐は横に並ぶと、ズボンに差し込んでいた懐中電灯を差し出してくる。俺はそれを受けとった。


「……大丈夫だ。痛いけど、なんとか耐えられる」


 やっぱり先に怪我を治すのは厳しいみたいだな。

 ちょっと期待したけど、楓の前でかっこつけた手前、優先してくれとはとても言えなかった……


「そんな悲しそうな顔しないで欲しいにぃ。骨折は後で必ず何とかするにぃ。すぐ終わらせるから、ちょっと裏側の真ん中ぐらいを照らして欲しいだにぃ」


 ……どうやら顔に出ていたようだ。ちょっと恥ずかしい。

 俺は視線を外して石の裏側を覗き込んだ。

 そこにあるのは漆黒の闇。覗き込むと吸い込まれるように感じて、恐怖感を覚える。

 これでは明かりがないと絶対に無理だな。……怖すぎる。


「お、落ちるなよ……」


「平気だにぃ」


 懐中電灯を(とも)すと、明かりに照らされた黒い岩肌が見える。

 これで、裏側の状態がどうなっているのかがわかった。

 そこは表側と同じように文様が彫り込まれており、足場には困らなそうだ。

 小尾蘆岐は躊躇することなく、手足をかけて素早く降り始める。

 防衛装置の最後の修復を行うために……

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