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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検041

ちくしょう、次から次へと面倒が起きる、ですよぉ。


 苦労して整えた舞台が大きく瓦解する。

 迫りくる脅威からの時間稼ぎを行い、制御装置の安定化をするのが目的だった。

 だが、その仕掛けが完成した直後。一体の黒機動士が唐突に姿を現して、消え去る。

 それからだ……

 黒騎士の進行を制限する壁が一気に砂塵と化し、黒い波のような存在が押し寄せる事態に変わってしまう。


 立ち向かうのは、攻撃を制限させている楓と俺が持つ一本の鎌。

 それだけで、これら全てに対策もなく立ち向かう……

 わかっている。そんなのは不可能だ。

 姿をくらませた黒機動士の動向もわからない。……不確定要素が多すぎる。


 対処方法に悩んでいると、立ち込める黒い砂塵から沸きだすように黒騎士が現れ始めた。

 慌てて駆け始める。


「くっそおぉ、邪魔だぁ。おらぉ、どけやぁ!」


 鎌を振り上げ黒騎士に斬りかかった。

 数騎が纏まった状態では、光輝く光点をピンポイントで狙っている余裕はない。

 牽制しながら黒い石までたどり着いて、石の上部によじ登ればまだなんとか……なると願って……


「だめぇ、ですぅ。ご主人ぃぃぃ……」


 楓の制止を呼びかける叫び声が届く。だが、今更どうしようもない。

 振り下ろした鎌の刃は黒騎士の腕を切り飛ばした。そこで、俺は落ちた上腕を見つめ……


 背後から強烈な衝撃を受ける。

 ……黒騎士の左腕を切り落とし、そのまま右側に走り抜けようとした……


 切り落とした逆の腕で殴られた。

 それは、そんな生易しい表現ではなく、車にねられたようだった。

 ……そんな経験はないけど、たぶん一番近い気がする。


 衝撃の際。身体の内側から折れて砕ける音を感じた。

 耳で聞くのではなく、骨から伝わる響きだ……この嫌な感覚は今日、何度目だろうか?

 こんな味わいたくないことを、なんども体験するとは。……実に最悪だ。


 感覚が曖昧になり意識が遠いて、視界が暗く狭まった。

 ……そこで、柔らかく暖かいものに包まれて衝撃が収まった。


 鼻腔に漂うは、ほんのりとしたよい香り。

 眩しさを感じながらも、見上げる俺の頬に温かい滴が落ちてくる、それと泣き叫ぶ声が鼓膜を震わせたのはほぼ同時。

 そうか……楓が駆けつけてくれたんだな……


「……ごっ……ご主人ぃぃ……うわぁぁぁん」


「……やかま……しい。死んで……ねーぞ。まだ……」


 楓に抱えられて助かった。

 一瞬で石の上部から飛び降りて、転がる俺を捕まえてくれた。

 あのままだと転がり続けながら地面で体中を傷つけて、きっとボロ雑巾のようになっていただろう。


 見上げる楓の表情は、涙や鼻水を滴らせてぐちゃぐちゃだった。

 大声で泣き声をあげている姿を見て思った。まったくみっともないな……

 黒騎士が溢れる危険地帯で、俺を抱えて座りこんだまま声を上げる。


「……嫌ぁ、ですぅ。死んじゃ駄目、ですよぉ。ご主人が居なくなったらぁ、楓はどうすればいいの、ですかぁぁ?」


「……あぁ、新しい持ち主の元に……旅立て……」


「絶対にぃぃぃぃ! 嫌あぁぁあぁ、です」


「……そうか……いぃっ!」


 そこまで言ったとき、身体に感覚が戻る。 

 それは、焼けた棒を体内に植え付けられるような、猛烈な灼熱感が起こり始めた。


「ぐっあぁぁあぁぁ。痛っつぅぅ……」


 時間差で起こった、耐え難い苦痛で身悶える。

 こんな痛みを堪えるなどは絶対に無理だった。 ……まるで体内が焼き尽くされるような幻覚に支配され続ける。


 暴れる俺に対し、楓は落とさないように抱き締め続けている。その短い片腕で必死になって。


「うぐぅぅぅ。……ご主人、しっかりしてください、です」


「うがぁぁ……あぁ、はぁはぁぐっ……」


「怪我は腕が骨折してるのと、肋骨が数本折れてるの、です。……ただ楓にはどうすることも出来ないの、ですよぉぉ。うぅっ…… おいっりん! 今そっちにご主人を連れて行く、ですよぉ。すぐに治すの、です」


 楓の叫びに対して、上方から小尾蘆岐の声が答える。


「……千丈っ! なんとか耐えて欲しいだにぃ。怪我は僕が必ずなんとかするにぃ……ここはあと一本なんだにぃ。後は裏側に回り込めば全部が終わるだにぃ……今は力の余裕がそこまで……」


「そんなことより、ご主人を優先し……むぐぅ」


「……こっ小尾蘆岐。俺は大丈夫だから、そっちを……優先しろ」


 激しい痛みは一瞬だった。

 そのは心臓の鼓動に合わせて鈍く響き続けるが、歯を喰いしばればなんとか耐えられそうだ。 


「……ごっ……ぐぅ……」


 小尾蘆岐に装置の修復を任せたのは俺だ。

 あと少しの作業を、中断させるわけにはいかない。

 楓もわかってくれたようで、それ以上は言わずにいてくれた。


 ただ、楓の口を手で塞いだことで、涙と鼻水がついてしまった。

 なんでロボットにそんな機能があるのだろうか? なんとしても生き延びて設計者を殴りたい。


「ここは任せるだにぃ。それと楓ちゃん、裏側に行くには明かりが必要だにぃ。照らし……うひゃぁあぁ!」


 小尾蘆岐が石の裏側を覗き込んだ瞬間だった。

 悲鳴をあげながら横に素早く移動する。そして、その後に現れたのは黒機動士だ。非常にまずいぞ……


「来るなぁぁだにぃぃ。たっ助けてにぃぃ……」


 悲痛な叫び声を聞いて出来ることはなかった。

 ただ、この事態に対処できるのは、俺を抱え続けているこいつだけだ。見上げて目が合うと、楓は小さく頷く……

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