楓湖城の探検039
くっそぉ、です。
こいつは絶対に守るの、ですぅ。
背中に蹴りを入れるなぁ、でずぅ~
さて、時間との勝負だ。
小尾蘆岐が防衛装置を修復する間に、俺と楓で足止めできるか?
……ちょいと分が悪いな。
「いい加減にぃどけぇ、ですよぉぉ……」
楓はのしかかる黒騎士を跳ね飛ばす。
黒い集団に覆われ、薄暗くなった空間に明るさが戻る。
「小尾蘆岐、頑張ってもらうぞ。周りを気にしないで全力を尽くしてくれ。いいな?」
「ああ、まかせるだにぃ」
上部からは頼もしい返事が聞こえる。
しかし、黒い石に両手、両足を伸ばしてしがみついている姿はなんだか虫のようだな。
……本人は真面目そうにしているから言わないけど……
楓は黒騎士を押し退けながら、俺に向かっている。
両手で掴んだ鎌に意識を集中させる。
別にそれで光輝くわけでも、変形する事もない。だが、なんとなく意志が通じた気がした。……頼むぜ。
「ご主人お待たせした、ですよぉ」
「よし、リュックを石の横に……もう置いたのか?」
対応が早い。
さすがにあれを抱えての戦闘は難しいようだな。両手が塞がるし。
それにちゃんとリュックを守ったようで、裂けたり、潰れている様子はなかった。
「はい、ですよぉ。それと、ちびすけ。死ぬ気できばるがいいの、です。ご主人が守ってくれるのを感謝してキリキリ働け、です」
「よし、楓。さっさと蹴散らしてこい」
「もう、ですかぁ? 共に戦いましょう、ですよぉ」
冗談が好きなロボだ。
笑えるな。
「なあ、鎌が背中に突き刺さるか試していいか?」
「覚悟せいや、です。特攻はお任せ、ですぅ」
いいロボだ。頼りにしてるぜ。
おっと、ドヤ顔は止めるように。先に壊したくなる。
「それより……いいな」
「本当にそれで……いえ、もちろんご主人のお考えに、楓は従うのみなの、です」
楓は小さく頷いてから黒騎士に体を向けた。
拳を握り締め、魔波動を集約し始める。俺は横に少し動いて、鎌を斜めに構えた。
「頼んだぞ。あと、くれぐれも無茶をするなよ」
「はい、です……」
楓は黒い群れに向かって駆け出した。
接触する寸前で止まり、先頭の存在に正拳を打ち込んだ。
触れた黒騎士の上半身は消し飛ぶ。
俺から見てこいつは腰の下に弱点がある。これでは消滅に繋がらない。だが、楓は気にすることなく下半身に蹴りを入れて背後に吹き飛ばした。
勢いよく回転しながら突き進む下半身の巻き添えになって、黒騎士の数騎が転倒した。
俺は楓に続いて駆け寄り、転がった奴等に向けて鎌を突き刺して回る。
……狙うは塊からの光る線だ。
湾曲した刃は、通り抜けながら引き裂くのに適していた。
塊は心臓のような感覚を俺に与える。
太い光の線がそこから全身に伸びて、それの何処かを断ち切れば、動きを阻害できると予想した。
完全な破壊ではなく、足止めするのが目的。
動きは鈍く、倒れてしまえば標的の位置も低いので、行動不能に陥らせるのは容易い。
光を断ち切った黒騎士は、その場で痙攣して震えていた。
「おりゃぁぁぁ、です」
楓は横たわる黒騎士に蹴りを放って後方に飛ばす。
そして、ふたたび俺の前方に、次の目標を倒していった。
「そのまま、左側だ」
再び楓に追い付いて、鎌を打ち込みながら叫ぶ。
「はい、ですよぉ。いくらでもかかってくるがいいの、です」
「あのなあ、俺はそんなに長時間動けないからな……」
化け物同士ならいざ知らず。俺は普通の高校男子だ。
数キロとはいえ、重たい金属製の鎌を振い続けられるはずがない。
だが、肩で息をしながらも、今は動き続けるしかなかった……辛いな。
そのまま円を描くようにして、黒い石まで戻る。
「楓ぇ、近づけるな」
「了解、です」
少し離れている間で、黒い石には数騎が取りついて登ろうとしていた。
背後から光る塊を直接狙い突き刺して回った。
体重をかけて引き裂くと、鎌の刃が通り抜けて弾ける。
塊を失った黒騎士は、一瞬で黒い霧と砂塵と化す。
そして、軽く痺れる感覚が残る。素手よりは断然ましだが、あまり衝撃が続くと握力に影響がありそうだ。
消滅させるのは、最低限に留めておきたい。
残るモノにも同様の処理を行った。
「次だ、このまま逆にいくぞ」
楓に向けて声を掛ける。
追いかけてくる存在を攻撃し、牽制しながら戻ってきた。
石の上部を見ると、小尾蘆岐が必死に力を尽くしているのが見える。
「どうだ小尾蘆岐。いけそうか?」
「……頑張っているだにぃ。ううぅ……やっかいだにぃ!」
「おう頑張れよ」
愚痴を言う余裕をがあるなら大丈夫だと確信し、反対の方向から向かってくる黒騎士を見つめる。
近づく存在からは、感情が全く感じられない。
黒獣からは、敵意のようなものがあった気がする。だが、これが後々大きく役立つはずだ。
そんな事を考えながらも、楓と共に行動不能を増やす。
「あははぁ、です。上に比べてこいつらは弱っちい、ですよぉ」
「俺にはその違いとやらがわからん」
「こいつら硬さが全然ない、ですよぉ」
そう考えると、まだここに集まる存在は完成度が低いのか……
時間経過で強度が増して最終的にどうなるのだろう。
旅館で対峙したのが最終形態なのだろうか? わからないけど、それなら……
「じゃあ、お前独りで殲滅できないか?」
「……オコトバヲニンシキデキナイノ、デス」
独りは本当に嫌なようだった。
まあ、いいけど。
楓が派手に破壊するが一番楽だ。
だが尽きることなく現れてくる黒騎士を全て倒しきれないだろう。……たとえ弱いとしても。
かなり制限させながら戦っているので、これなら力を使い果たす心配はなさそうだ。
しかし、いつまでこんな戦いが続くのだろうか?
……正直考えたくない。
こうして、時間稼ぎの戦いは続いた。
**
「だいたいこんな感じ、ですかぁ」
「あと少しだな、だいぶ積みあがった……」
もうすでに、数十騎以上を行動不能にしてきた。
俺の計画に従う楓が、考え通りに動いてくれたおかげで、あと少しで出来上がりそうだった。
よし、これでなんとかなりそうだ。