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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検038

ああ、やっぱりこっちに集まるってくる、です。

おそらく数百メートルの範囲が、あいつらの認知エリア、ですぅ。


さすがに全部は相手にしてられない、ですねぇ。

どうしましょう、です?

 盛大なお出迎えだな。

 いつの間に集まってきやがった……


「かっ、囲まれているだにぃ」


「楓こいつらは一体……」


「あたり一面に溢れている黒騎士の一部、です。壁を登っている存在はまだ未完成のよう、ですがぁ。徐々に体の形成を終え完成すると、そこら中を自由気ままに動き回るの、ですぅ」


 形が仕上がるまでは、一定の方向に集団行動を行い。

 完成体になると異分子の排除のために動き始める。こいつは厄介だな。


「階段を外に向かっているのも、こっちに集まりつつあるのか?」


「いえ、そっちは外部に向かってる、です。近いやつだけがここに集まっているの、ですぅ」


 近いやつだけか。それでも、かなりの数になる。


 そして、修復と防衛を司るこの石はどうする。

 破壊すればあいつらを止められるのだろうか?


「ちなみに楓。発生源の黒い石はぶっ壊せそうか?」


「うーん、です。可能でしょうがぁ、体積と表面硬度を計算するとギリギリ、ですぅ」


「ギリギリとは?」


「壊せば楓は完全に魔波動の蓄積分を失う、です。それと、おそらくこれを壊しても、すでに生まれた黒いのは止められない、ですよぉ」


 そいつは困ったな。

 流石に動けなくなった楓抜きで、この大軍と渡り合えるだろうか……

 うん、無理。



 悩んでいる間にも徐々に包囲網が狭まっている。

 先頭に立つ黒騎士は、すでに灯りの範囲内に入っていた。

 飛びかかってこないだけましだが、無言で近づく存在は不気味の一言だ。


「なんとかならないかな」


「うぅ、怖いだにぃ……」


「小尾蘆岐もいい加減に慣れたらどうだ。ここは実家の床下だし、どうせ助けなんて来ないぞ」


「わっ、わかっているにぃ。怖いのは仕方がないだにぃ。千丈が異常なんだにぃ」


 よく平気だと、頭上で小尾蘆岐が騒ぐ。


 人間諦めと、順応性が大事だろうが。

 でも、そう言われると何気に傷つくな……


「俺って異常かね……」


「いいえぇ。ご主人はかっこいい、ですよぉ。きゃあ、言っちゃった、ですぅ」


「かっこいいは関係ないだろう……誰もそんなこと聞いてない」


 楓は相変わらずだな。

 話しつつも、徐々に追い詰められて後退する。

 下がる方向は、黒騎士見習いが生まれる黒い石だった。


 石の高さは十メートルほど。

 この表面には黒騎士見習いが取り付いていなかった。


 周囲の崖は、全面に取りついた存在で真っ黒だ。

 もはやこの黒い石を登るしか凌ぐ手段は……


「さわっても平気かな?」


「別に危険な感覚はない、ですぅ。表面の温度は三十.五度で内部の熱源が影響していると考えられるの、です。硬さはモース硬度で九もあるの、です。これはコランダムと同じ、ですよぉ」


 楓の説明はマニアックすぎる。

 必要な情報は、少し暖かい石だということだろう。


「とりあえず触れても平気そうだな。電流が流れてたり。爆発しないなら構わないだろう」


「そんな石は聞いた事がないだにぃ」


 俺もないけど、なんせ魔女もいるんだ。

 なにがあっても不思議ではない。


「近くなったら小尾蘆岐が先に登れ。楓が食い止める」


「せっ、千丈はどうするだにぃ?」


「いや俺も普通に登るけど?」


 さすがに肩車のままでは登りにくいだろう。


「やっぱり楓は捨て駒、ですかぁぁ」


「そんなわけないだろう。あとで拾いにいってやるよ。部品が残っていればな」


「嫌ぁ、ですよぉ……ご主人と一緒がいいの、ですぅ」


「おいっ、リュックを掴むなよ。歩きにくいだろうが。……ちっ、小尾蘆岐、先に登れ」


「すぐに来るだにぃよ」


 俺の肩に両足で立って小尾蘆岐が飛び上がった。

 そして、数メートル上部にしがみつく。

 出っ張りをしっかりと握って、体勢を安定させる。


 石の表面は磨かれたように滑沢(かったく)だが、妙な装飾が施されているので足場に困ることはなさそうだ。



「千丈も早くこっちに……えっ。なんだこれにぃ?……」


「どうした小尾蘆岐なにがあったん……うげぇ、重いぞ……」


 忘れていた。

 小尾蘆岐の能力で、俺は筋力を底上げされていたんだった。

 離れたことで援助が切れて、背負ったリュックと鎌の重さを普通に感じる。


「リュックの紐が肩に食い込む……って。おい楓ぇ、引っ張るなよ」


「ううぅ。置いてかないで欲しいの、ですよぉ」


 ぶん殴りたい。

 重さが倍増している原因はこいつか……

 だが、これならなんとかなる。


「リュックを失くすなよ」


「んなぁぁ、です。ご主人ちょっと待つの、ですよぉぉ……」


 肩紐を外せば良いだけだな。

 ふう、鎌だけならなんとか持てる。


 楓はリュックを抱えたまま後向きに転ぶ。

 そこには多くの黒騎士が待ち構えていた。白いワンピースの楓は群がる黒い群れに飲み込まれる。


「中には大事な物があるからな。壊したらお仕置きだぞ」


「ごっ、ご主人ぃぃ。ぶっ……引っ張るな、ですよぉ。こんのぉ、です」


 スカートが捲れてパンツ丸出しになっているのは、計画的な気がする? まあいいか。さて、これで少し時間が稼げる。


 壁に取りついて登ろうと足を引っ掛かりに乗せると、小尾蘆岐が話しかけてきた。


「千丈、この石は生きてるだにぃ。僕にはわかるにぃ」


「お前もか……ついに壊れたか」


 過度な緊張が続いたせいだな。


「なんで優しい目で見上げてるだにぃ。それになんで壊れる?」


「わかったから。お前はよく頑張ったよ」


「なんだにぃ。だからぁ、この黒い石の内部が僕にはわかるにぃ。人の体にすごく似ているだにぃ」


 人の体に……だと?


「ずいぶんとでかい人だな」


「ちっっがうだにぃぃぃ。構造がにて……」


「悪い、冗談だよ。わかった。で、どうにかできるんだな……」


 なるほど。

 人に近いなら、回復の魔女の能力で(いじ)れるということかな?


「おーい楓。そうなのか?」


「……はにゃ、です。……ああ、そう言うこと、ですかぁ。可能なんじゃない、ですかぁ……うがぁー。しつこい、ですよぉ」


 どうも、しっくりこない答えだ。

 そもそも、人の体に干渉ができると教えてくれたのはお前だろう。

 頑張れ楓。お前の犠牲は忘れない。


 それより、小尾蘆岐の父親が残した手記には、たしか防衛装置が壊れていたと書かれていた気がする。

 この修理ができれば、新たな驚異が生まれるのは防げるだろう。


「よし、じゃあちゃっちゃとやってくれ」


「軽く言うだにぃ。すごく複雑なんだにぃ」


 そんなの見りゃわかる。

 俺にもうっすらとだが内部に光るモノが見えた。

 ただ、手出しはできない。そのような力は持ち得ていない。


 だから俺にできるのは……これだけだ。


 制御装置の石にかけた手足を離す。

 そして、目の前の黒い群れに対峙した。


「おい楓、起きろよ」


「うぐぅ……邪魔なの、です。……はい、ご主人。では殺りましょう、です」

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