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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検037

ここにもいっぱいいるの、です。

周りにもたくさんで面倒、ですねぇ。


それと、黒いのはここから出てくるの、です。

中は……うーん、かなり複雑で色々断線しているの、ですよぉ。


 黒獣の群れに追いかけられながら、ついにたどり着いた湖城の最奥部。

 そこに待つのは、崖一面に溢れる多くの黒騎士。


 ただ、この黒騎士は少し違った。

 旅館で襲いかかってきたモノと同じようだが、その姿は……


「なんだか、ちょっと違うだにぃ」


「ああ、ちょいとスリムだな。動きの早かった黒機動士(くろきどうし)より、さらに細身な感じだ」


「捕まえる、ですかぁ?」


「襲ってくるわけでもないのに、なんで仕掛ける? こんなの相手に戦うのはごめんだぜ」


「そんなことより、あいつらはどこに向かっているだにぃ……」


 小尾蘆岐は懐中電灯の灯りを、先頭付近の黒騎士に向けながら呟く……

 そんなのわかるわけがない。


 ただ、こいつらもこれだけ騒げば、俺達の存在に気づいているはず。

 だが、襲いかかってくる素振りや、振り向きもしない。無関心といった感じだった。


「千丈、こっちを見るだにぃ……」


 目前の存在にばかり意識を向けている俺に、小尾蘆岐が新たな発見を伝えてくる。


 懐中電灯に照らされる先には、真っ黒の大きな石があった。

 下部には穴があり、そこから黒騎士が這い出している。


「ひょっとして、ここが発生源なのか?」


「そうみたいだにぃ……」


 出てくる黒騎士は、崖の存在よりさらに細身。

 人型(ひとがた)をした線と呼んだ方が良い気がする。それが一歩踏み出すと、少しずつ形状が太くなっていった。


「徐々に変わるみたいだな」


「どんどん上に向かってるにぃ」


 その時、群れを外れた数騎がこちらに向かってきた。


「殺る、ですかぁ……」


「ちょっと待て楓。攻撃してくる訳じゃなさそうだ」


 殴りかかろうとする楓を止めた。

 近づく三騎はゆっくりとした足取りで進み、やがて先頭を歩く黒騎士が目の前で消える……


 あれっ?


「おおっ、消えたぞ」


「違うにぃ。穴に落ちただにぃ」


 黒騎士の先には丸い穴が開いている。


 消失したわけでなく開口部に落ちたようだ。

 続いて後続の黒騎士も落ちていった。


「アホ、ですねぇ。うふふぅ」


「否定はできないな……」


 三騎の黒騎士は、完全に穴の中に消えた。


 他の存在は崖を登り続けている。

 イレギュラーな動きは、先ほどのモノだけだった。


「落ちたやつは、なんで外れてきたたんだ?」


「さあ、ですよぉ……」


「わかんないだにぃ。でも、なんだか変な音がしないかにぃ?」


「音だと?」


 耳を澄ませる。

 聞こえてくるそれは、枯れ枝を踏んだような乾いた小さな破砕音。

 音源は先ほど三騎の黒騎士(くろきし)見習(みなら)いが落ちた穴だ。


 あいつらは成りかけなので、見習いを付けて呼ぶことにしました。呼び名は大事ですよ。


「またなんか考えてるにぃ……」


「気にするなよ。……禿げるぞ」


「千丈が禿げればいいだにぃぃ」


 やめろー。

 髪の毛を引っ張るなー。



「ご主人に危害は許さん、です」


「うぐっぅぅ。ごめんなさいにぃ」


 楓が跳ねて軽くチョップを行うだけで、小尾蘆岐の頭部からはおびただしい量の出血がほとばしった。……あぁぁ、恐ろしい。


「……おいっ、平気か?」


「かっ、かすり傷だにぃ。ほらぁ、もう塞がったにぃ。……でも、痛かったにぃ」


「なめるなちびっこ、です。次は粉々にしてやる、です」


「楓、怪我をさせるのは禁止だ」


「悪いのはちびガキ、ですぅ。ぷいっ、です」


 まったく、しょうがないな。

 だけど、かなり力の制御ができている。

 小尾蘆岐の頭がスイカ割りのように弾けなかったのが、なによりの証拠だ。


「軽口が生命の危機に直結する状況は、さすが地下だぜ」


「地下は関係ないだにぃ」


 そうだね。

 さて、穴に向かいますか……


「しかし、なんでここだけ丸く穴が開いてるんだろう? それに、周りは若干湿っていて出来たばかりのような……」


「さっき楓が石を引っこ抜いて、できた穴、ですよぉ」


「石だと? ああ、黒獣の時に出口をふさいだ岩か……」


 二メートル近い岩は、ここから持ってきたんだな。

 落とし穴かと思った。


「じゃあそんなに深くなさそう……えっ?」


 内部を覗きこんで俺は驚いた。

 そこに落ちた存在の姿はなく、あるのは蜘蛛の巣のような細い線が詰まっていた。


「あいつらはどこに行ったんだ?」


 俺の疑問に答えたのは楓だった。


「ご主人、この中に詰まっている線が黒いやつ、ですよぉ」


 なに、だいぶ形が変わってませんか?

 見ていると、線に周囲の土や小石が集まる。徐々に奥から盛り上がっていった。


「穴を塞いでいるのか?」


「そうみたいだにぃ。なんだか僕がやってるのと同じような感じがするにぃ」


 そういえばこいつは、突っ込みのお笑い芸人じゃなかったな。

 小尾蘆岐の能力は回復の魔女だったっけ?


「変な考えは、やめた方がいいだにぃよ」


「なぜわかる!?」


 小尾蘆岐の感覚が鋭くなってきている。


「それよりどういうことなんだ。楓、解説だ」


「はい、ですぅ。どうやらこいつらは修復も行う存在みたい、ですねぇ。線はまるで線維せんい細胞さいぼうのよう、です。人体の場合で考えれば、これにコラーゲンや肉芽細胞が形成されて増殖、組織の再生をしていくの、ですよぉ」


 うんわからん。


「怪我したら瘡蓋(かさぶた)が出来て。内側から傷を治すだにぃ」


「なるほど、わかった」


「なぜ、ですかぁ!?」


 楓は相手に合わせた解説をするようにしてもらいたいな。

 あんな専門的な説明が理解できるはずないだろう。

 ただ、解説を求めたのは俺だけど……


「とりあえず、楓が壊した部分の補修をしてるというのはわかった」


「理解してもらえて嬉しいだにぃ。誉めるにぃよ」


 小尾蘆岐もだんだん楓と似てきたな。

 悪影響が広がっていく。


「あー偉いな」


「頭を撫でてもいいだにぃ。というか髪の跳ねを直すにぃ」


「あーはいはい。楓」


「頭皮を切り落とせばいいの、ですかぁ?」


「やぁ、止めるだにぃ!」


 手刀の構えを取る楓と、俺の頭部にしがみつく小尾蘆岐。

 さて、お遊びはこのぐらいにしとくか……


「防衛装置と言うより、なんだか修復装置だな。ここと違って、上の黒騎士はなんで襲いかかってきたんだろう?」


「たぶん、ですよぉ。修復も仕事の内なんでしょう、です。本来は異分子を排除するのが目的みたい、ですぅ」


「異分子?」


「……せっ千丈さん。ヤバイだにぃよ」


「なんだよ、髪の跳ねなんて自分で直せ。甘えるな」


「違うだにぃぃ。周りをよく見るだにぃ」


 周りだと?

 さっきからずっと見てるじゃ……えっ、なんだこりゃ……


 楓が持つ照明の灯りが届く範囲の先。そこには黒い壁のような物が見える。

 目を凝らすとそれは人形のシルエット。

 完成体黒騎士の姿だった。お久しぶりです。


 どうやら完全に囲まれてしまったようだ。

 楓がした発言の意味を理解しました。


 我々こそが異分子ですね。

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