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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検035

あぁ、やっとご主人のところに、です。

寂しかった、ですよぉ。

「ご主人……大変、ですよぉ。いっぱい、ですぅぅぅ」


 やはり飛び出してきたのは、照明を持った(かえで)だった。

 俺達に出会い、その表情には安堵が……

 おっと。それどころじゃない。


「よし、小尾こ お蘆岐ろ ぎ。落っこちるなよ」


「やっぱり、こうなるんだにぃぃ!?」


 楓がくる方向に、背を向け走り始める。

 もはや懐中電灯の出る幕はない。それよりも遥かに明るい照明を抱えた楓が、走ってきているからだった。

 そして、すぐに真横に並ぶ。


「ご主人ぃぃん。……探したの、ですよぉ……ぐすぅ。……どこに行ってたん、ですかぁ?」


「まあ、ほら……ちょっと散歩だよ」


 涙声で聞かれると……置き去りにしてきた罪悪感が芽生えた。

 ついそんな嘘を言ってしまう。


「ふーん、です……楓は、ですねぇ。たった独りでワンちゃん()とじゃれあっていたの、ですよぉ」


「……そうか。未知の生物と交流が楽しめてよかったな。まあ俺達も二匹とじゃれあってだな……そのうち一匹は、黒い小山に変わったけど、残ったのはさっき寝転んでいただろ?」


「……独りで、ですよぉ」


 今回はずいぶん引っ張るな……

 それに俺の話も聞いちゃいない。

 拗ねる姿を見て、なんだか面倒になってきた。

 もう謝って終わらせるか……


「なあ楓、置き去りにしてごめ……」


 一世一代の謝罪に対し、楓が取った行動は……


「ちなみに、ご主人。その手にあるカッコいい得物えものはなん、ですかぁ?」


 楓の興味は、俺が持つ鎌に移っていた。


 大泣きを始めるのではないかと心配したが、無駄な心配だった。謝罪の気持ちを返してほしい。

 まあ、ちゃんと謝ってないけど……


 改めて考える。

 こいつはこういうやつだった。

 更新時期が開きすぎると、細かい設定を忘れてしまう。


「そこの部屋で見つけた。欲しいか?」


「いいん、ですかぁ。ご主人からプレゼントは初めて、ですぅ」


 ああ、プレゼントね……これが、か?


 こんなの俺なら絶対に喜ばない。

 というか、普通は大鎌などいらないだろう。

 そもそも、これに未練などない。


「じゃあやるよ。刃物だからな取り扱いに……」


「今はいいの、ですよぉ。それは、両手で持たないと格好がつかないの、です。照明の必要がなくなるまで我慢の子、ですぅ」


 確かにそうだな。

 楓の片手は照明を灯して塞がっている。それに光源がないと俺が困る。


「じゃあ、後でな。あと、この震動と咆哮はいったい何事だ……」


「ご主人を探して、見つけた扉を片っ端から開けたら、ワンちゃんが、どんどん増えてきたの、ですよぉ」


 またお前が元凶か。そんなことだと思ったけど。


「その、最終的に何匹ぐらいになったんだ」


「二十五匹までは数えていたの、ですよぉ。大きさもバラバラでどんどん増えるから、そのうち面倒で放置したの、です。そしたら急に走り始めたの、です」


 黒獣は二十五匹以上か……

 ……ん。急に走り出した……だと?


 ひょっとして、あの下半身を切り裂いたやつの呻き声か……


「仲間を呼び寄せることができるようだな。それと、お前はどうして黒獣の前にいたんだ?」


 黒獣の群れが走り出してから、追いかけたんだろう?


「追い越したの、です。その先にご主人がいたの、ですよぉ」


 よかったと喜ぶ楓。……そうか、追い越したのか。

 納得できないけど、ここにいる以上嘘は言っていないだろう。


「あと楓。お前上にいたとき、黒獣はどうしてたんだ?」


 そんなに大量の黒獣が溢れると、さすがに無事でいるのがおかしいだろう?

 こっちは、たった二匹であんなに苦労したのに。


「何匹かぶち殺すと大人しくなるの、です。その後は、遠巻きについてきたの、ですよぉ」


 聞くだけ無駄だった……

 何の参考にもならない。


 きっと大声で俺を呼びながら、次からつぎへと目のつく扉を開け放って、黒獣を連れて歩いたんだろう。

 ちっ……余計なことをしやがって。


「後ろから群がって来るあいつらも、まとめて殺っちゃっていいぜ」


「面倒、ですぅ。どんどん湧いて出てくるん、ですよぉ。キリがない、ですぅ」


 湧いてくるんじゃない。お前が引き連れてきたようなもんだろう。

 なんて言っても仕方がない、今更だ。……もういいや。


 しかし、この先はどうなっているのだろう……

 どこまでも続く回廊の先に目を向ける。その時、頭上から小尾蘆岐の叫び声が響く。


「千丈ぉぉ、先頭の黒獣が追いついてきただにぃぃぃ」


「……そうか、何匹ぐらいだ?」


「よっ、よくわかんないだにぃ? でも、見えるのは数匹だにぃ。奥にいっぱいいて、すごい音がするだにぃ」


 背後の黒獣が追いついてきた。

 大きさも倒した黒獣より、ひとまわり小さい気がする。

 響く足音で判断するしかないけど。移動速度が早い。


 そして楓は、本気で走っていないだろう。

 俺の速度に合わせてくれている。


 もっと速く走り、引き離したい。

 だが、背中の荷物と小尾蘆岐を搭載している状態では、これが精いっぱい。

 このままだと、徐々に距離を詰められて、やがて背後の黒獣の群れに巻き込まれるだろう。

 それは避けたい。


「楓、なんか対策方法はないか?」


「この先に降りる階段がある、です。下に向かいながら、天井でもぶち壊す、ですかぁ?」


「よし、それでいこう。……天井ってこの石造りだろ? 壊しても大丈夫か」


 この建物が崩壊しないだろうか? ちょっと心配だ。


「たぶん、ですよぉ。その時は永遠に一緒、ですからねぇ」


「ああ、小尾蘆岐もな……」


「嫌だにぃ!?」


 どのみち、追いつかれれば、あんまり考えたくない事態が待っている。やるしかない。


「あとどのくらいだ?」


「そこの先、ですぅ。角を曲がった所、です」


「あぁ、悪いが先に行って開けてくれるか?」


「了解、ですぅ……」


 楓は瞬間的に速度を増して角を曲がった。

 やはり、俺に合わせてくれていたのか。そう考えていると、先から破砕音が響いてくる。


 ん? なぜドアを開けるだけで、破壊の音がするのだろうか……


 角を曲がると、目に入ったのは壁が丸く粉砕し、内部から顔を出している楓の姿だった。

 壁面を破壊するとは、さすがに予想できなかった。

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