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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
7/115

迷惑な転校生

 登校中に置き去りにされてしまった、です。ですがぁ全然平気、でーす。

 楓の初登校日を皆々様に、お贈りいたします、です。

 今からぁはじまるっす、ですぅぅ!

 一人と一台を通学路に置き去りにし、駆け足で教室の後ろ扉から飛び込んだ。

 それと担任教師が前の扉より入ってきたのが同時。


「千丈、さっさと席に座れ」


「すいません」


 担任教師の軽いお叱りを受け、そそくさと席座り、事なきを得た。

 通学路に置き去りにした、花咲はもちろんまだ来ていなかった。


 そりゃそうだろう…


 **

 迷惑な転校生(クラスメイト)

 007


「ん、花咲は休みか?」


 担任教師が誰にともつかない問いかけを発する。

 クラスメイト達は知らないとか、途中で見かけたなど勝手に話し始めて、教室内が少しざわつく。


 もちろん俺は、真相を知っている。

 だが、どうでも良いので黙っていた。

 卑怯、裏切り物だぁ。なにそれ、美味しいのかなぁ? 上等だぁ!

 あいつらの事で担任教師に弁明する必要性は感じない。そもそも言ったところでどうしようもない。


「まあいい、ホームルームを始めるぞ。日直始めろ」


 日直担当の進行で朝の挨拶を済ませる。そして本日の連絡事項を担任教師が始めた。


「急な話だが、本日から転校生がこのクラスに入ることになった。よし入れ」


「はい、です」


 はい、です……だと?

 この声に俺は聞き覚えがあった。独特の言い回しにも身に覚えがある。

 つい、最近の出来事だったはずだ。

 思案していると扉が開き、入ってくる女子生徒がひとり。


 彼女の艶やかな髪は肩甲骨まである黒髪セミロング。

 長い髪が窓からの陽射しの中、鏡のように光りを弾き踊るように動く。


 彼女の大きな瞳は長い睫毛が濡れたように煌めき。光彩を含めた瞳は、黒髪と同じ漆黒。

 それは、宝石オニキスのようであり、教室を映す漆黒の湖面のようだった。


 教室内にいる全員、担任教師以外で男女合わせて32名が、たったひとり教壇に向かい歩く女子生徒、転入生に釘付けとなった。


 もちろん、俺も両目をあらんかぎりに見開いて見つめた。

 彼女の一挙手いちきょうしゅ一投足いっとうそくに対し注目をした。だが、クラスメイトと見ている意味は違う。

 彼、彼女らは、その姿に見蕩みとれているのだろう。だが俺は驚愕して見ている。


 その訳は……どこから、どう見ても、それは(かえで)だったからだ。


 通学路に置き去りにしたはずなのに、なぜだ!? なんでいる?

 しかも、よりによって俺のクラスに入る。もっと人数の少ないクラスがあるのに。


 世間一般では、少子化と騒がれる昨今、うちのクラスの在籍人数は学年で1番多いのだ。

 我がクラスは、在籍人数が32名と1台に今日からなった。


 動揺をしていると、担任教師が転入生の説明を始める。


「彼女はご家族の都合で、最近この街に引っ越してきたそうだ。皆で色々面倒を見てやってくれ。自己紹介をしろ」


 ご家族? 嘘をつけぃ。


「ハイ、です。今日からクラスメイトとして、新しく入りました楓と申します、ですぅ。この学校の事はわからないことだらけですので優しくしてくれると嬉しい、です。どうぞ、よろしくお願いいたします、です」


 お辞儀をして、きちんとした自己紹介を行う。楓のちゃんとした姿を初めて目撃した。


「そういうことだ、では、席はどうするかな? 急に決まったので用意がないからな……あぁそうだ。花咲が居ないからそこにするか。あの空いている席につけ」


「はい、です。みなさまよろしく、です」


 哀れ花咲、お前の居場所(せき)は、もうこの教室にはないぞ。アンドロイドに乗っ取られたな。


「遅れました、すんません」


 タイミング悪く花咲が教室に入ってくる。

 下を向きながらなので、クラスの内部現状況を把握していないようだ。

 残念だが、お前の席はすで別の(かえで)に渡った。楓を見ると次の教科書を準備している。


「あれぇぇ? 楓さんじゃん、さっきは話し中に行いきなり消えるからビックリしたよ、それとなんで俺の席にいるのかな?」


「どちらさま、です?」


 首を傾げ、覗きこむ姿はとっても自然体だった。

 その姿に花咲は完全に凍りついて動かない。

 クラスメイトも状況がわからずまたざわつき始めた。


 (かえで)と花咲が行った先程の熱い対話は席取り合戦のために、楓の中で無かったことにされたようだ。

 なぜなら、両手はしっかりと机の角を掴んでいる。

 その姿は、まるでペンギンの親鳥が雛を抱えて外敵から護っているようだった。


「えっと、そこ俺の席なんだけど?」


「そこはもう転校生の席になった」


 先生発言がドライだな。


「なんですと!? じゃあこれから、俺はどこで授業を受ければ、そして俺は誰なんだ?」


 花咲は、その場で振り返り、俺をじっと見つめてくる。

 俺を見るなよぉ!?


「千丈ぉ……助けてくれよぉ。友達なんだから助けるのが当然だろう!!」


「……!?」


 くっ! どうすればいいんだ…ん?

 助けるのが、当然なのか?

 なんとなくだが、こんな言い方をするやつに手を貸すのは嫌だ。

 

 悩むのもめんどくさい。

 だから俺は笑顔を返すだけにした。それが、俺の誠意だ。


「あー花咲、旧校舎の予備備品室から机と椅子を持ってきて奥のスペースを使え、場所はわかるだろ」


「え――今からですか?」


 まあ、そうだよな。

 しかし、あそこにある机や椅子は年代物の凄く古い物ばかりだ。しかも埃まみれのだから苦労しそうだな。


「空気椅子とエアデスクでいいなら、そのままで俺は構わんぞ」


 それは絶対に嫌だ。辛すぎる…

 逆らうとこの担任教師は、本当にさせるだろう。昨今、教師などの職業で、暴行や暴言が大きな問題とされている。だが、本当の力とは、規制をされないものだと思った。


 とてもじゃないがこの担任に逆らって、教育委員会に密告するような勇気は持ち合わていない。


「はいぃぃっ! 今すぐに出立するであります」


「ヨシッ! 行ってこい。他のクラスは朝礼中だから静かにな」


「先生! 一つお伺いしても、よろしいでしょうか?」


「なんだ? もう授業開始時間まで間もないから、お前に構っている暇はないぞ。おっと、それと遅刻の件については放課後に職員室まで来るように」


「げっ…ううっ…ご指令受領しました。それとですが、たった一人であそこから機材の持ち出しミッションは厳しいと思います。補助隊員の提案を具申(ぐしん)致します」


 なんだ具申って、お前は戦前の生まれなのか?


「そうだな、確かにあそこは整理がほとんど出来ていないから少し苦労しそうだな、どうするか?」


進言(しんげん)致します。千丈にお申し付けくだされば、きっと奮迅の働きを行うと愚考(ぐこう)いたします」


「おお、そうだな、お前もホームルームにギリギリ来たんだったな。今回はそれで許してやろう。千丈、一緒に持ってこい」


 ぐあぁ…ちきしょう!? 花咲のやつが俺を道づれにしやがった。


「はい、わかりました」


 逆らったり、不服そうな発言は、余計な負担が降りかかることがわかっているので、素直に従う旨の返事を行ったのだった。


 **


 こうして予備備品室に、二人して向かうことになった。


 教室を出る際、騒動の原因となった楓を見ると満面の笑顔で小さく手を振っている。口パクで『後でシバクぞ!!』と言うと、青ざめた顔をして固まった。


 これで、少し溜飲が下がった。


 花咲は下を向いて、『放課後は嫌だぁ』と呟いている。こいつは自業自得だろう。


 **


 災難が起きないことを、切に願う。だが、そんな願いは虚しく更なる騒動にすでに片足ならぬ両足と腰まで漬かっていることに、まだ俺は気がつかずにいた。


 **


「まあ、起きたことは仕方ない、なるべく程度の良いやつ探そうぜ。なんせ俺の新しい相棒だからな」


 開き直りが早いなぁ。


「好きにしろよ…巻き込みやがって」


「仕方ないだろ、あの魔窟に俺ひとりで入る勇気はないからな」


「なんだ魔窟って?」


「なになに!? 聞きたいのかな?」


「話したいんだろう、どうせ」


「さっすが千丈だ! 付き合いが長いだけのことがある。実はあそこは昼夜関係なく出るんだよ」


 何が出るんだ、まさかお化けとか? そんな話しを聞いたことはない。


「幽霊だよ! 学生カップルが予備備品室で休み時間に会っていた…そして、交通事故で彼氏が亡くなった」


「交通事故?」


「そうだ、彼氏が自転車通学だった。学校前の交差点で大型ダンプに巻き込まれて後輪の下敷きになって、そのまま亡くなった。ほぼ即死状態だったそうだ。そして、不思議なことにあれだけの事故にも関わらず自転車は全くの無傷だった。その後、事故現場に置きっぱなしには出来ないと、誰かが正門横の自転車置き場に運び込んだようだ。それ以降、誰も引き取りに来ないでずっとそのままになっていた」


 初めて聞く話だな。花咲の話は具体的でまるで見てきたようだ。


「それが予備備品室のお化けにどう繋がるんだ 」


 幽霊が自転車で、旧校舎を走り回るとか言うのか? それって予備備品室は関係ないんじゃ?


「違うぞ! 最後までちゃんと聞けよ。事故の自転車は自転車置き場から、予備備品室内に移動している」


「処分されたんじゃ無いんだ?」


「いや、実は予備備品室にあった」


「本当か? 何度もあそこに入ったことがあるけど見たことないぞ」


 それほど広い部屋ではない。色々なものが置かれてごちゃごちゃとしてはいるが、自転車ほどの大きなものを見落とす事はないはずだ。


「だろうな、だが俺は確かに見たんだ。自転車があったぞ」


「見たってなぁ、それって昔の事だろう」


「いや、見かけたのは、今年だ…」


「似たような自転車なら世の中にたくさんあるだろう、たまたま誰かの自転車が置かれていたんじゃないのか?」


「似たようなか……確かにその可能性があると思って、ちゃんと確認したんだよ、そしたら自転車のフレームにしっかりと先輩の名前があった、だから自転車違いの可能性はないぞ」


「ふーん、それでどうしたんだ?」


「実は、それを持ち込んだのは彼女だと思う」


「なんでまた、そんなところに自転車を運んだんだ?」


「自転車置き場なんて、屋根があるだけの吹きっさらしだろ。雨が吹き込めば濡れるし、錆びて劣化が進んで行くのが忍びなかったんだろう」


「そんなもんかねぇ?」


 そんなに気になるなら家に持ち帰れば良いのに。放置自転車なら、別にいいだろう。


「自転車の名前を確認したあとで、誰かが入ってきて隠れたんだ。その時に気がついた、たった一人で入ってきた人物の横に、もう一人居た事に」


「幽霊が二人?」


 幽霊も一人、二人と数えて良いのかな?

 よくわからないが。まあいいか。


「彼女は幽霊に話しかけてたんだよ、ちなみに彼女は生きてるぞ。俺らの先輩だ」


「その彼女は、どこの誰なんだ?」


「歴史部の部長さ」


「花咲の所属する部活の?!」


「そ、霧先(きりさき)かより先輩」


 霧先先輩は歴史部の部長で、かなりの成績優秀者で有名だ。前髪でいつも顔半分位が隠れているのが特徴で、『影のある美人先輩ランキング』で常に上位のランキングホルダーらしい。


 マニアックなランキングもあるものだ。もちろん情報源は花咲だった。


 優麗な女子だが、口数が極端に少ないそうだ。直接話したことはないが、校内で何度か見かけたことはあった。


「霧先先輩が幽霊と話をしていたっていうのか? いまいち理解が出来ないぞ」


「こちらに気がついてなかったからな、俺も怖くなって、そのまま壁の下にある小窓から出て、走り去っちゃったよ。後日部活で霧先部長に会ったけど、特になにも変わりなかったよ。それ以降だ俺が予備備品室に立ち入りしてないのは……」


「そんな体験したら、もう入りたくないだろうな」


 俺もごめんだな!


「と言うことで千丈お前の出番だ。俺の新しい相棒を見繕ってきてくれよ」


「ああ、絶対に嫌だ!!」


「なんでだよ?! 本当に怖い体験したんだって」


 俺だって怖いじゃないか! そんな話を聞いて俺が行きたがるわけないだろ?


「頼むよ、俺はもう怖い思いしたんだから。次はお前の番だって」


 なんだこいつ、なんで連番制で恐怖体験を引き継ぎがなくちゃならないんだ。


「なあ、入り口で待っててやるから、お前が独りで死んでくれよ。選択肢は2つに1つだ、担任に殺されるか、エアデスクと空気イスで過ごすか」


「どっちも嫌だ―!? わかったご免なさい、俺も入るから二人で入ろうよ」


「だから嫌だって、呪われたりしたら嫌だし! そもそも俺は無関係だ」


「いや、無関係ではないぞ。もうすでに横暴担任より、千丈お前も命令を受領している。このミッションを達成出来ない場合は、お前も道連れだぞ」


 げっ!? そうだった。


 仕方がない真っ昼間と言うか、まだ10時過ぎだ。そんな時間でお化けなど出ないだろう。


「わかったよ、だが絶対にお前が先な。この条件が飲めなければ、共に怒られよう」


「やむを得ない。では、共に死地に向かおう」


 死地かよ、たかが予備備品室に行くだけだがなんか面倒なことになった。


 旧校舎側に繋がる薄暗い連絡通路を通り旧校舎に入る。古い建物は窓も小さく、北側にあるせいで気温が低く夏なのに肌寒く感じた。


 コの字形状をした旧校舎。建物のさらに北側奥に予備備品室は位置している。廊下の奥は蛍光灯がついているにも関わらず、目を細めないと見通せないほど薄暗い。


 長い廊下の先は漆黒の闇に繋がり、その先からは物音ひとつない。


 中高含めて全学年、教職員を含め3000人近い人間が居るはずなのに、ここは隔離された世界であると認識をする。北側に窓があるが、旧校舎裏の鬱蒼とした樹木が見えるだけだ。


 南側には教室が等間隔で並んでいて、今はほとんどの教室が施錠されて使われてはいない。


 2階以上の教室は、部活動の部室として使われているようだが、俺は部活動に参加していないので、詳しく知らない。だが、運動場からかなり離れていて、もっぱら文化系の部活が多いらしい。


 特にここ1階は陽当たりが悪く、夏に肌寒くて冬は極寒の辛い環境だ。教室の奥に水槽を置くと冬は完全凍結をしてしまうという。

 

 3階建旧校舎の1階は、ほとんどの教室が封鎖されているか、倉庫として使われる以外の活用方法は無いようだ。

 予備備品室は、その最奥に教室2つ分を使い、机や文化祭などで使われる備品がしまわれている。中には謎のマネキンもあり、薄気味の悪さは抜群だ!


 去年の文化祭で、クラス委員に任命されて。何度もここに来るはめになったが10人前後で来ていたので、こんな場所だったかと改めて驚いた。



 そんな予備備品室に花咲という、友人(クラスメイト)と二人で来ることになった。さっさと机と椅子を持って教室に戻ろう。1時限目は、もう始まっている時間だ。たしか、現国の授業だったかな?


 **


 俺と花咲は、現国の授業はおろか次の物理の授業にも出席出来ず。教室に戻ったのは3時限目の体育授業も終わる頃で、教室には誰も居なかったのだった。

なお、投稿は不定期投稿となります、です。

Twitterで投稿時期をお知らせして行きます、です。http://twitter.com/yasusuga9

ご意見、ご感想は"楓"が責任を持ってご主人に良いことだけお伝えするっす、ですぅぅ。

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