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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検034

ぞろぞろ、です。

うざったいの、ですよぉ……

 俺は行動を大きく封じた黒獣こくじゅうを見る。

 さて、どっちから片付けるかなぁ……よし決めた。


 まずは首筋を抉った一匹に目を向けた。

 こいつは視界の阻害をしただけで、体当たりと鋭い爪はいまだに有効。しかし、小尾(こ お)蘆岐(ろ ぎ)から支援を受けている俺の状況からすれば、それは無力に等しい。


 闇に紛れるように大きく迂回して、背後に回り込む。


 これだけで黒獣は、俺を完全に見失った。

 巨躯を動かして探ろうとするも、ぎりぎり繋がっているだけの首は、身体の動きについてこれない。


 そっと背後からの跳躍を行う。

 手にした鎌を背中の中央に向かって、全力で振り降ろす。

 長い刃は背に突き刺さり、腹部を貫通した。


 そのまま柄を掴んで背に立つと、空間を震わせる咆哮が響きわたった。


 小尾蘆岐と俺、それに荷物の総重量はおそらく百キロを超える。

 黒獣の四肢は重量に耐えきれず腹が床につき、刃の尖端が床に刺さった。

 脚や身体を暴れさせているが、深く刺さっていて抜けることはない。それに振り落とす力は出せないようだ。


 柄を掴んだままで視線を巡らせると、腰の下で目的のモノを見つける。

 ここなら内部に走る光の線がよくわかった。

 黒いモノが持つ弱点。……そう光の塊だ。


 なるほどぉ……見ぃつけたぁ。


(たの)しそうにして、けっこう酷いことができるだにぃ」


「そうか、代わるぜ?」


「結構だにぃ!!」


 柄を掴んでいた手を逆手に持ち替える。

 この持ち方なら引き裂きやすい。そのまま両脚に力を込めて鎌を引く。

 ……光の塊中心に向かって、黒獣の胎内を刃が通過する。

 手には筋繊維や、骨を切り裂く感触が伝わり……やがて、光る塊に到達。両断した。

 そして、尻尾の横からは鎌の刃が飛び出し、勢いそのままで空中に飛び上がる。

 天井に両足を着けて、太い柱の中央に鎌を突き立てぶら下がった。


「さて、どうなるのかな?」


 懐中電灯の明かりの中にいる黒獣は、斬られたままの状態で身動きをしない。そう感じたのも一瞬。

 切り裂いた部位から崩壊が始まり、背中から順にまるで溶けるように形が変わる。時間経過と共に、黒い小山に変貌した。


「なるほど、こいつもこれを破壊するとこうなるんだな」


「ずいぶんと余裕だにぃ……」


 そうか? そんなことないと思うけど。


「さて、もう一匹は……ちょっと光源から離れちゃったな。しかし、この鎌は凄い。軽く木材に突き刺さるし、黒獣もスッパリといったぜ」


「だから言ったにぃ。伝説の武器だにぃ!!」


「本当にそうかもな。重さもさほど感じないし、なんとなく不思議な感覚が伝わるような気がするんだよ」


 よくわからないけど。


「不思議な感覚?」


 疑問の声をあげる小尾蘆岐。

 こいつには伝えようがない感覚だ。

 それは、なんというか……そう、香りとでもいうのだろうか? 漂う何かに惹きつけられる。そういった感じだ。


「香り……」


「千丈がなにをいってるか、僕にはわかんないだにぃ」


 だろうな……俺もわからん。


「それより、もう一匹をさっさと片付けて、楓と合流するか。どうせあいつもこっちに向かっているだろうしな」


「楓ちゃんを迎えに行くだにぃ」


 意外に近くにいるかもしれないけど。それも、根拠のない感覚だけど。


「じゃあ、降りるぞ。しっかり掴かまっとけよ」


 梁に突き刺さった鎌を引くと、抵抗なく抜け始める。

 完全に抜け切ると、身体は重力に引かれ床に降り立つ。足元の懐中電灯を拾い上げ、小尾蘆岐に手渡した。


「……動かないだにぃね?」


 懐中電灯の明かりに照らされる残る一匹の黒獣は、じっとこちらを見続けている。

 いや、動かないだけで、低い唸り声を上げていた。


「なんだか、これに斬りかかるのは、ちょっとな……」


 さすがに、半死状態の黒獣相手に躊躇する。


「ねえ千丈……何でずっと低い唸りをあげてるんだにぃ?」


「さあな? 威嚇じゃあ、なさそうだぜ……」


 唸り声は回廊全体に響く。

 ずっと、遥か遠くまで伝わり、反響を残している……


「ほっといて先に進むだにぃか?」


「そうだな、もう追っかけて来れなさそう……ん?」


 その時、床に触れている足からの微かな振動を感じた。

 耳を澄ませると、遠くからも目の前で唸る黒獣と同じようで、もっと高い、遠吠えの音が聞こえる。


「……ねえ、千丈さん? 僕は今、凄く嫌な予感を感じてるんだにぃ」


「おお、奇遇だな。俺もだよ、あはは……」


 その音と振動はずっと奥……先ほど通ってきた漆黒の闇から、徐々に近づいていた。

 もはや気のせいではないだろう。

 揺れも激しくなり、天井からは舞い散る埃が落ちてくる。それが懐中電灯の明かりに輝く。


「小尾蘆岐さんよ、奥を照らしてみろよ」


「……嫌な予感しかしないだにぃ」


 小尾蘆岐が照明を廊下の先に向けようとした、その時だった。

 数十メートル先、曲がり角の境目が、仄かに明るくなり始めている。

 しばらくすると、境界がはっきりと視認できるようになった。

 それは急速に照度を増して、限界を超えて本体が飛び出してくる。


 ……というか、ここでの光源は確実に二つしかない。

 その残りひとつが、やっと追い付いた瞬間だった。

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