楓湖城の探検033
くんかくんか、こっちの方、ですねぇ。
どうやら下に向かったよう、です。
ご主人は楓を置いて行くとは寂しい、ですねぇ。 ん? なんだか変な扉がある、ですぅ。
うふふぅ、なんかいいい物があるといい、ですよぉ……
鎌を振りかぶりながら、俺は目前の大きな黒い塊に向かう。
渾身の力を込めて振るう鎌は遠心力を伴い、空気を切り裂き黒獣の胴体部分に迫る。
まともに当たれば突き刺ささる……はずだ。
そして、そのまま回り込んで弱点の光り輝く塊を視認できる。
そう踏んでの行動だった。だが……
「なっ!?」
鎌の攻撃範囲は、長い柄と鋭い刃で広いように感じた。
だけど、どうしても持つ位置を肩幅より広く持たないと刃の方向を安定できなかった。
そして弓なりの形状は、その半円の先端から内側を最大の攻撃範囲とする。
要は引っ掛けるように突き刺す、内側に巻き込んで引き裂く事に特化していた。
これは想像以上に範囲が狭い。
その攻撃範囲は身体から約一メートル以内。鎌の長さは二メートル近いのに……くそっ使いこなせねぇ。
この武器は少し相手に下がられるだけで無力と化す。
「よけやがって、このやろう……」
回廊側に逃げる黒獣を追いかける。
大まかに胴体を狙って飛びあがり、回転力を加えて斬り付けた。
黒獣は頭部を床ぎりぎりまで下げて避ける。
四つ足の獣を攻撃する難しさを痛感した。これはすごくやり難い相手だ。
「千丈!!!?」
小尾蘆岐の叫び声に反応して体を捻る。
脇腹のすぐ横を鋭い牙が通過、紙一重の差で避けて、鎌の柄を使い黒獣の頭部を殴りつけた。ひるんだ隙に距離を取る。
二匹に前後を挟まれる位置関係。
この状態になる事はわかっていたが、どうしても避けられなかった。
なぜなら狭い室内でこの長い武器は不利すぎるからだ。
最悪の想定は、黒獣が俺の攻撃を無視して力技で襲いかかってきた場合だ。押し倒されれば体重差に体格の違いで、最悪の結末を迎えるだろう。
湖城編が中途半端に終わってしまうぞ……それが一番まずい。
「ありがとうな小尾蘆岐」
「……いいだにぃ……ふぅぅ」
小尾蘆岐は非常に辛そうだ。息が荒く汗も凄い。
力を使い続けるこの状態は、想像以上の負担をかけ続けている。
できることなら早期の決着をつけたいが、さすがにそれは難しい。
このままだと力を使い果たしてしまうだろう。そうすると今のような動きで戦えなくなってしまう……どうする?
その時、俺は楓を思い出した。こんなときあいつは確か……
「俺の力を吸い上げながら能力を使えないのか?」
「……いいだにぃか?」
遠慮があったのか?
今更ながら、なぜ俺は気が付かなかったのだろうか……
「どうせ俺は力を使える訳じゃないから構わない。ただ、吸い上げ過ぎで意識を失うのは……」
「ふぅぅ、凄いだにぃ!! 疲れが吹っ飛ぶだにぃ!」
俺の話を聞いちゃいない……
だけど、さほど吸われている感じがしない。
「この程度でいいのか? これなら全然平気だなぁぁ……!?」
死角部分から回り込むようにして、一匹が体当たりをしてきた。
それを慌てながらもなんとか避けた。
体勢を整えて反撃を目論むが、黒獣はそのまま加速して逃げていった。
背後ではもう片方が飛びかかるチャンスを伺っている。
振り返る視線でその動きを封じた。
そんな緊迫した雰囲気でも、小尾蘆岐は気にせず話し続ける。
「千丈は力が溢れるようにあるだにぃ……これ以上吸い上げると僕がおかしくなりそうだにぃ」
満足できたなら良かったよ……
これなら、しばらく小尾蘆岐は持ちそうだ。
低く唸り声を上げ始める黒獣を前後に見据え、俺は排除する決意を改めて固めた。
ただ、両方を1度に倒すのは難しい。
せめて、個別に対応する術はないだろうか?
膠着状態を覆す方法が思いつかない。
考えるのも面倒になって、鎌を振りかぶって目前の一匹に斬りかかった。
だけど紙一重で避けられる。
一進一退の攻防が続く。
黒獣の攻撃は鋭い爪での引き裂き、大きな体躯を生かした体当り。それに牙での噛みつき。大きく別けてこの三点だ。
膂力の上がっている今なら鎌の刃側でとらえて相手を引きちぎる事も可能そうだが……
そう簡単にはさせてくれない。
黒獣も斬られないように武器の内側には入ってこなかった。
かつ離れすぎないようにしている。1度に攻めるのでなく、片方づつが交互に攻め立ててくる。
どうしてもこの距離感が崩せない。
「くそっ! ずっとこの状態かよ」
「千丈どうしただにぃ? いつもみたいに突拍子のないアイデアで危機を脱してほしいだにぃ!!」
俺はそんなに破天荒な奴だっけ?
他人からのイメージは恐ろしい……
「それより、なにかいいアイテムでも持ってないか?」
例えばバズーカ砲とか?
「遠距離用の武器なら持ってないだにぃ。期待しても無駄だにぃ」
心を読むのかよ?
魔女の不思議な能力かな? 霧先先輩じゃあるまいし。
「そっか、ないのか……」
「期待させて悪いだにぃ。でも、それどころじゃないと思うだにぃぃぃ千丈ぉ!?」
おっと、あぶねぇ!?
飛びかかってくる黒獣を横跳びで避けた。
鎌を構えると再度距離を開けられる。
何かきっかけがあれば、一気に形勢が変わるのだが……
「小尾蘆岐は後ろの黒獣を牽制してくれ。向かってきそうになったら教えてくれ」
「わかっただにぃ。さっ……早速来ただにぃ!!」
早っ!? くそぉ!!
俺は全力で迫ってくる黒獣方向に床を蹴って飛んだ。
お互いの進行速度が加算され距離が急激に狭まる。
小尾蘆岐は声にならない悲鳴をあげていた。
この接近は予想していなかったのか、慌てて俺を避けようと黒獣は頭部を下げて脚に力を込めて止まる。
そして俺を避けようと横に逃げようと……くそぉ逃がすかぁ。
黒獣の胴体めがけて片手で伸ばした鎌を振り下ろした。
すると、身体の中心からは外れて、黒獣の首の付け根付近に鎌の先端が突き刺さった。
さすがに鋭利な刃物だな。抵抗なく突き刺さったぞ。
「千丈ぉぉ! 来てるにぃぃ!! すぐ後ろ、もう一匹だにぃぃ!!!」
わかってるよ!
鎌を掴んだまま片方の足で地面を全力で蹴る。
すると黒獣に突き刺さった部分を軸に45度の回転。
鎌で床に縫い付けた黒獣の首には、抉れたような深い傷を与えた。
向かって来るもう一匹には、柄を前に両腕を伸ばして牽制。
直前で止まった黒獣が姿勢を低く唸る。
それを睨みながら、突き刺さったままの黒獣に俺は足をかけて踏みつけた。
そして……
全力で鎌を引っ張った。
蹴りを入れて残る黒獣の方に転がす。
首を半ばから絶ち切られた黒獣が床をのたまって暴れる。
筋の大半を無くした頭部はあらぬ方向を向いて、口からは黒い液体や、気体のような物質を撒き散らしている。
そこで俺はある一計を講じた。
狙った通り、残る一匹の黒獣はその光景を前に硬直した。
その隙をついて俺は漆黒の闇に紛れるよう背後に回り込んだ。
事前に小尾蘆岐が持つ懐中電灯は床に置いた……
暴れる黒獣を照らす位置にして。
暴れる黒獣の騒音に紛れて、近づく俺にもう一匹は気がついていない。
完全に背後を取った俺は、そっと後ろ脚に鎌の湾曲した刃を差し込んだ。そして、体を捻って斬り飛ばす。
後ろ脚を完全に失った黒獣は今までの機動力を喪失。
首の大半を損傷した方は立つことができるが、もはや体当り以外のまとも戦闘手段がない。
これで、2体の黒獣は、その持つ機動力と攻撃力の大半を封じた。
「さて、手こずらせてくれたな……」
「千丈、どうするだにぃか?」
どうするかって? それは勿論。
決着をつけるに決まってるだろうがぁ!
よくも散々人のことを追いかけまわしてくれたなぁ!!
千丈怒りの雄たけびが回廊に響いた。
久しぶりの後書きを書きたいと思います。
白物魔家電楓もおかげさまでブックマークも143件になりました。すごーく嬉しいです。
感想も23件、レビューは4件。
pvも44000を突破。もうすぐ45000に到達します。
これ一重に支えてくださった皆々様のおかげと感謝しております。
不定期の投稿で申し訳ありませんが、どうぞこれからも変わらぬお付き合いを頂けますと幸いです。
告知
現在、もう一つ投稿作品を準備中です。
作品名は「黒い娘と白の苦悩」といいます。
これは、同じなろう作家様のEITO様の悪魔小説に感化されて思わず書き始めた作品です。
こんな感じのイメージです。6月中には投稿できるように頑張ります。
仕上がった際には、ぜひお越しください。