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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検031

なんですかぁ、です。

色々な種類がいる、ですよぉ。


研究すれば何かの役に立つかも、です。

うふふぅ。持ち帰れないかなぁ、ですよぉ。

 楓の灯す明かりが柱の影を明確化する。

 そこには見慣れた黒騎士さんが集まっているはず……

 その思い込みは、一目(ひとめ)で脆く崩れさった。


「なんだこりゃ?」


 俺は目前の光景を前に、小声でつぶやいた。

 ……黒い小山が複数あるぞ。


 それは……

 黒々とした毛は艶やかで、照明の光を反射する。

 ゆっくりと上下に背中が動く。

 まるで呼吸をしているかのようだった。……これは生き物なのか?


「なんだにぃぃ!?」


 小尾(こ お)蘆岐(ろ ぎ)の叫びが、静寂の空間に反響した。

 ……なんで叫ぶかな!?


 黒い塊は小尾蘆岐の叫び声で巨躯(きょく)を起こす。

 四つ足で立ち、太いくびを持ち上げる。

 遠雷のような唸り声が付近の空気を震えさせ、それが身体に伝わってくる。


「……おい、楓。こいつはまずくないか?」


「ワンちゃんタイプ、ですねぇ。いろんなのがいる、です」


「こんなのはワンちゃんと呼ばねーよ。猛獣だろうが!?」


 そう、そこにいたのは巨大な犬型の黒騎士だった。騎士ではないけど……

 大きさは動物園で見たサイを彷彿(ほうふつ)とさせた。

 起き上がる背中の高さは2m、全長は4mを超えるだろう。


 胴体に比べて小さな頭部。裂けた口は大きく頭の半分以上を占めていた。目は全部で4つ。

 それが楓の灯す照明の明かりを反射し、緑色に光り輝く。

 めちゃくちゃ怖いです。


「だめだこりゃ、弱点も見えねえ……」


 黒騎士と同じく内部に光る線が見える。

 だが、四つ足になると表面積が小さく奥まで見通せなかった。


「千丈、逃げるだにぃ!!」


「逃げるって……」


 明らかに視認されている今、目前の存在に対して背を向ける勇気はない。

 膠着状態となっているが、きっかけがあれば飛びかかって来るだろう。そんな一触即発の緊張感を感じている。


 けど、感じないのが横にいた。


「ご主人何してるん、ですぅ? ぶん殴ればいいじゃない、ですかぁ」


「……じゃあ、行ってこいよ」


「止めるだにぃ」


 攻撃1、任せる1、反対1で意見が拮抗。

 だが独自(おれの)判断で賛成多数となった。

 よし、楓の特攻を認めよう。


 無言で楓の顔を見て黒い獣を指差す。

 行くんだ楓一号!! 二号はいらないけど。


「ご主人ならこんなの全然余裕じゃない、ですかぁ?」


「どこにそんな余裕が!? 黒騎士の方が全然可愛く感じるよ!!」


 (こいつ)の目にはいったい何が映っているのだろうか?

 危険度の判断基準について、ディスカッションする必要がありそうだな。

 相も変わらずの楓は、首を傾げながら無防備に近づいていった。


 俺と小尾蘆岐は、その場で成り行きを見守る。結末は見えるけど。


 そして大事なことがある。あれを黒獣(こくじゅう)と呼ぶことにした。名前は大事です。


「小尾蘆岐、懐中電灯の準備を頼む」


「バッチリだにぃ!!」


 小尾蘆岐は懐中電灯を正面に構え、スイッチを入れるだけの状態で準備をしていた。

 だいぶ楓の行動に慣れてきたようだ。


 すでに楓は黒獣の前に立ち、手を上げれば(さわ)れる距離に立つ。

 警戒した黒獣の身体は下がって、低い唸り声に変わった。


「ほらぁ邪魔、ですぅ。しっし、あっちに行くの、です」


 楓の挑発に黒獣は身体を更に小さくし、重心を後ろ足にかける……

 俺はじっと、その瞬間(とき)を待ち続けた。すると、耳元で小尾蘆岐の怯えた声が……


「……千丈、他が……」


「……うげっ!?」


 複数、そう3匹の黒獣がいたのを見ていた。

 だが途中からは目前の一匹にだけ集中して、周りへの注意を(おこた)っていた。


 俺より視点が高く周囲を見回せる小尾蘆岐は、その異変にいち早く気がついた。と、いうか俺がアホだった。


 いつのまにか背後と側面に黒獣がいた……

 他2匹が移動したのに気がつかなかったせいで、完全に囲まれてしまった。


 手前は俺たちの注意を引くため、意図的に唸り声をあげていたのか? そうするとこいつら意外と賢いぞ。


「どうしよっか? 小尾蘆岐さん」


「短い付き合いだったにぃ。共に戦えて……なんて、やっぱり嫌だにぃぃ!? 何とかするだにぃ! 死にたくないだにぃぃ!!」


「どうしたんだよ急に?」


 うるさいな、気が散るだろ。


「うっさい、ですねぇ……もがっっ!!!?」


 俺と小尾蘆岐が騒いでいると、それに楓が気をとられて振り向く。

 その瞬間、飛びかかってきた黒獣に押し倒されてしまった。

 楓の灯していた照明も消え、辺りは漆黒の闇に包まれる。


 よし、今だ!!


 俺は全力で電気が消える前の状況を思い出し駆け出した。

 楓と黒獣のいた方向に向かって。

 暗闇の中、覚えている柱の位置、対峙していた黒獣の場所を想像して……避けて、裏側にまわりこんだ。


 脚は小尾蘆岐の能力で想像した通りに動く。

 五感は鋭敏で、自分が起こす気流の流れ、背後に残った黒獣の動きまで完全に把握できた。


 そろそろだな……


「小尾蘆岐っ! 照明を頼む!!」


「ううぅ……いきなり走り出さないで欲しいだにぃ」


 小尾蘆岐は文句を言いながらも、懐中電灯のスイッチを入れる。

 LEDの明かりが照らす目前には大きな開口部があった。


 そこに向かって俺と小尾蘆岐の二人は、ためらうことなく飛び込んだ。

 小尾蘆岐は肩車してるから自動的に道連れだけど。拒否権はない。


「よし! 下に向かうぞ」


「ねえ、千丈、楓ちゃんは?」


「ああ、すぐに来るさ、平気だよ……きっとな」


 階段の横幅は広く、数人が同時に降りられるほどだった。

 小尾蘆岐は俺の頭部にしがみついて、足元を必死に照らす。

 そして、楓を心配する小尾蘆岐が呟く。


「でも……あんなに大きいのがいる所に、楓ちゃん一人を置いてきて心配だにぃ……」


「楓が全部相手にしている訳じゃないさ、なんせ……ほら耳を澄ませて背後の音を聞いてみろよ」


「背後の音かにぃ?」


 小尾蘆岐は背後を振り返った。

 そして、その音と振動を感じ取ると、俺の頭部により強くしがみついてくる。

 くそっ!? 髪の毛を引っ張るな。髪の毛は大事な戦友だ、戦線離脱するだろうが。


「せっ千丈っ! ……も、もっと速く走るだにっぃぃ!!」


「これ以上は難しいって、転んだら目も当てられなくなるだろう。大丈夫だよ、距離はちゃんと把握してるって」


 たぶんね。


「うっぅぅぅ、怖いだにぃ!!」


「わかったから泣くな。たった2匹だよ、逃げきれるって」


 背後の階段上部から、重量のある物が起こす振動と、音が響いてくる。

 それは、ほぼ一定の割合で聞こえ続けていた。


 実は初めから気がついていた。ずっと追いかけきている。


 これは、振りきれないが、逆に追い付いてないことを示している。そうだ……と、願いたいな。


「なあ小尾蘆岐、後ろばっか見てないで、ちゃんと進行方向を(てら)してくれ」


 足元が見えないと危ないだろ。


「うぅぅだにぃ。ほんとに平気だにぃね?」


 わかるわけねーじゃん。


「……なんか言ったかにぃ?」


「気にするな。しかし長い階段だな?」


 ずいぶん降りた気がする。

 ひょっとしてこのまま地下まで続いているのだろうか?


「あっ、千丈終わりだにぃ!!」


 小尾蘆岐の言う通り、石で出来た階段から、赤黒いカーペット地に変わっている。やっと終わったか。


 そのまま、階段を駆け降りカーペットの回廊に立つ。

 なんとなくだが、左の方角に俺を惹き付ける()がある気がした。

 背後から聞こえてくる激しい音に追いたてられるように駆ける。


「えーっと、こっちだな」


「ちょっと千丈、こっちに何があるだにぃ!?」


 知らん。


「何で黙って……うぎゃぁあぁ来てる!? ついにきたぁだにぃぃぃ!!」


 やかましい。んー、こっちだな。

 回廊の角を曲がり、更なる闇の深みに向かう。もう近いぞ。


「おいおい、しっかり前を向いてくれよ」


「千丈ぉぉ、すぐ後ろだにぃ……!?」


「わかってるよ、あと少しだからな。っと、ここだっ!! おらぁ!」


 木製の扉を蹴り開けて、内部に飛び込んだ。

 振り返って開いた扉を閉めようとするのと、黒獣が扉に体当たりをしてくるのはほぼ同時。

 衝撃で弾かれた俺は空中に浮き上がり、そのまま一回転して着地。

 再び扉に飛び付いて閉める。

 そして(かんぬき)を掛けることに成功した。


「危なかった。追い付かれたら、お前喰われちゃったな。あはは」


「笑い事じゃないだにぃぃ!?」


 背後の扉には尋常じゃない衝撃が続いている。

 だが、丈夫そうな扉だし簡単には破れそうもない。と、思いたい。

 ……ふう、やばかった。


「まあ、なんとかなっただろ。それより……」


「さっきから、どうしただにぃ? この部屋に何かあるにぃか? 出口もこの扉しかないだにぃ。他には……なんにもないだにぃ。閉じ込められたみたいなもんだにぃ……」


 まあ、疑問に思うだろうな。

 俺も理由がわからないから説明ができない。


 だけど、俺は微かな気配を色濃く感じる。それは、たぶんこの壁かな?

 目星をつけて壁を軽く叩くと、音が違う箇所を見つける。

 どうやら内部が空洞のようだ。ここだけ反響する音がした。


「おらぁ!!」


 壁に蹴りを入れると表面が崩れ、隠されていた空間が(あらわ)になった。


「なんで、こんなところに空間が……千丈、これはいったいなんだにぃ?」


「さあな? なんだかよくわからないけど、ここが気になった」


「気になっただけで、ここまできただにぃか?」


 そうだよっと。奥に何かがあるぞ?

 手を入れると金属質の何かに触れる。掴んで手前に引きだした。

 それは1本の金属の長い棒だった。ん?……なんだこりゃ!?

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