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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検030

とんでもない物を見つけたかも、です。

これがあれば……うふふぅ、です。

でも、ご主人は苦労しそう、ですねぇ。楓は活躍できるので嬉しい、ですけどぉ

 楓に抱えられて入った古城の室内は質素な空間だった。

 机と本棚、他に家具らしい物は無い。

 床は石材で、埃が積もり楓が灯す明かりで足跡が残る。


「楓の照明はこの広さでちょうどいいな」


 宴会場の照明なので少しだけ強いけど、室内を探索するのに適していた。


「はい、ですよぉ。電圧を高くすれば、もうちょっと明るくすることも可能、ですぅ」


「いや、このぐらいでいいよ。さて、どうするかな? ここの見取り図はないかな……」


 俺は本棚に目を向けた。

 そこには詰まるように本が並んでいる。背表紙には日本語で無い文字が並んでいた。


「うーん、読めん。……楓ぇ」


「はい、ですよぉ。古いドイツ語のよう、ですねぇ。農耕とか医療や魔術(・ ・)と書いてある、です」


「魔術だと? どんな事が書かれているんだ」


「見てみる、ですよぉ」


 楓は魔術の記述が書かれている本を引き出そうとしたが、湿度が高いせいか劣化し背表紙だけが破れてしまった。


「だめ、ですねぇ。みんなくっついちゃって取り出せない、ですよぉ」


「無理か……他に取り出せる本はないか?」


「じゃあ、机はどうかにぃ。なんか残っているにぃ?」


 小尾こ お蘆岐ろ ぎは俺の背中を降りて机に向かった。

 ふう、やっと離れたか……


 机を調べて引き出しの中から一冊の本を持って戻ってきた。

 そして、再び俺にしがみついて登り始め、肩の上に座る。


「なあ、そろそろ普通に歩けよ?」


 俺は乗り物じゃない。


「僕の能力を継続的に掛け続けるには、千丈に触れている必要があるだにぃ」


 なるほど……納得。


「じゃあ、これを見つけただにぃ」


 小尾蘆岐は本を目の前にぶら下げてきた。

 だが、書かれている文字を俺が読めるわけがないだろう。

 表紙に書かれている文字も日本語じゃない。


「楓、何が書いてある?」


 さっさと読める楓に渡した。


「うーん、です。意味のわからない単語が並んでいる、です」


 そうか、……得るものが無かったな。

 仕方がない移動するか。そう考えている間、楓は小尾蘆岐の持ってきた書物を捲っていた。


「じゃあ、ここから移動するぞ。階下から黒騎士が発生しているんだろう。そこに向かう」


「ご主人ちょっと待つ、ですよぉ。ここになんか挟まっている、です」


 楓が差し出す本に、丸く切り取られていた部分があった。

 その窪みにはメダルが収まっているのが見える。


 ちょうど厚みに合わせてくりぬいてあったようだ。

 本を閉じると外見で判断が出来なく、そのせいで存在に気が付かなかった。


「なんだそれ?」


「さぁ、です。記念コイン、ですかねぇ……?」


 楓は俺にメダルを渡してきた。

 黒い金属のようだが、どんな材質で出来ているのかよくわからない。

 大きさの割には結構な重量があり、金属の冷たさを感じない。

 プラスチックのようでもあるが、それとも違う気がした。


「変なコインだな? なんだか柔らかいぞ……」


 ゴムのように少しだけ歪むぞ?


「ねえ、千丈見せてだにぃ」


「ああ、ほれ」


 頭上にいる小尾蘆岐にメダルを手渡した。


「なんだか不思議な感触だにぃ。それと、なんだか……いや、なんでもないにぃ。はい、千丈返すにぃ」


 コインを手にして裏表を眺めただけで返してくる。

 何か気になる事でもあるのだろうか? 一瞬だが逡巡しゅんじゅんしていたような気がした。


「小尾蘆岐、なにか気が付いた事でもあったのか?」


「大したことじゃないにぃ。なんだか懐かしい気がしただけだにぃ。もちろん見たことがないものだにぃ」


「ふーん、まあ、ここはお前の実家地下だし、なんかあるのかもな」


 しかし、なんだこのメダルは? 色々な模様があるぞ。

 そこには本棚の本と同じ文字、それに髪の長い女性の図柄が刻印されているが、それがどのような意味を持つのか不明だ。

 年号などの数字はなかった。


 この文字を読めるのは、こいつだけだな。


「楓、なんて刻印されているんだ」


「わかんない、です。いえ、読めないわけではないん、ですよぉ。ヴェーダーベーレーブング、レーンスヘルとなっているの、です。意味は蘇生そせいとか領主、ですかねぇ? 他の文字はわからない、です。使われなくなって伝わってない単語かもしれない、です」


 何だそりゃ?

 不思議そうにしていると楓は続けて話し始める。


「単語が並んでいるだけ、です。本も文章として成立しないのでわからない、です。それと、ご主人なんかしましたか、です?」


 楓は無言でコインを手に眺めている。

 そして、俺に差し出してきた。


「なんもしてねえよ。ちょっと持っただけだ。ん? さっきとなんか違いがあるのか?」


「気のせいかもしれない、です。なんだかこの素材は普通の金属とは違うの、です……ひょっとして、です……」


 金属組成がどうとか呟いているが、その意味を理解できなかった。

 とりあえず、俺はコインをズボンのポケットにしまい込んで声をかける。


「まあ、よくわからないけど持っていて損はなさそうだな。そろそろ行こうか」


 長い時間、同じ場所に留まると、ろくな結果にならないだろう。

 今は階段を上って外に向かっている黒騎士が、ここに集中し始める可能性を否定できない。


「じゃあ、いく、です。ただ気配が濃すぎて何がどこにいるのかは判断できないの、です」


「だろうな。俺は目に見えないとわからないから、近くに危険があるようなら教えてくれ」


 無言でうなずく楓を見て、俺は廊下に繋がるドアノブをつかんでゆっくりと開いた。

 首だけ出して、外を覗くと真っ暗で何も見えない。

 そこは物音ひとつない静寂に包まれた空間だった。


「いなそうだな……」


「静かだにぃ……」


「そう、ですねぇ!!」


 弾んだ声が回廊に響いた。

 しかし、なんで楓は楽しそうなんだろう?


 楓はそのままドアの外に飛び出して、スキップをしながら進んでいった。

 見通しが効くようになってはじめて、石造りの回廊が遥か先まで続いているのがわかる。

 見える範囲では動くものはなく、俺も扉を出て足を踏み出した。


 さて、どっちに向かえば階下に行けるのだろうか?


「ご主人、こっちに階段がある、ですよぉ」


 楓は少し先で回廊がへこんだ場所を指差している。

 追い付くと、そこには階下に向かうと思われる階段があった。


「どうやら、これで下に行けそうだな」


「じゃあいく、ですよぉ」


 楓は躊躇することなく階段を下り始めた。慌てて後に続く。


「ここは何階なんだろうな?」


「うーん、です。おそらく5階付近と思われます、です。ただ、普通の建物のように階層がわかれてないの、です。あっちは4階までで、こっちはかなり上まである、です」


「そうか、わかった。……お前はこの建物の内部構造がわかるのか?」


「全部ではないの、です。多少探査が出来る範囲だけ、です」


 探査たんさってなんだ? ……まあいいか。


 ただここは四角い建造物とは違う、建て増しを続けた旅館のようにきっと複雑な構造をしているのだろう。

 外から見た感じもそんな風だったし。


 考えながら階段を下りて出た場所は、少し広いホールのような所だった。

 石の柱が並んでいるので、全体を見通すことはできなかったが、嫌な気配が満ちている。それだけはわかる……見えないけど。


「なんだか不気味な部屋と言うか……広いな、ここ」


「なんか出そうだにぃ……」


 同感です。


「あそこの角に数体がいる、です。これだけ近ければ楓にわかる、ですよぉ。うふふぅ」


 数体か、それならなんとかなるかな?


「それ以外はいないんだな。それと下に行くのは当然あっちでいいんだな」


「はい、ですよぉ。数体いるあいつらの先に階段がある、ですぅ」


 俺は無言でうなずいて楓が指さす方向に向かって歩き始めた。

 少し大回りに回り込む……楓は後ろをついてきている。


 柱を回り込むと、明かりに照らされる黒い塊が見え始めた。それは、今まで見てきた黒騎士とは違う存在だった……

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